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第四部 5話 一宿

ー/ー



「ナタリー! 起きろ!」
「……ん?」

 俺が大きな声を出すと、ナタリーがもそもそと起き上がった。
 ベッドに座り込んで目を擦っている。

「あれ? キース? 駄目だよ、勝手に入ったら。
 ……せめてノックくらいはしないと」
「…………」

 ――ノックしたんだよ!
 ――それでも返事がなかったんだよ!

 そう言いたいのをぐっと堪える。
 急にやって来たのは俺だ。

「それからピノ! 勝手に扉を開けたら駄目でしょ!
 ちゃんとあたしを起こして!」
「ぴっ! ぴいい!?」
 
 ――起こしたんだよ!
 ――それでも起きなかったんだよ!

 きっとそう言っているのだろう。
 ピノは地団太を踏みながら『地獄に落ちろ』とジェスチャ―していた。

「それで? どうしたの? いきなり来るなんて珍しいじゃない」
「……ああ、実は紹介したい人がいて」

 怒りを抑えながら、俺はフレアとジークを示した。
 ティアナとはすでに何度も顔を合わせている。

「?」
「この二人はフレアとジーク。ちょっと縁があって知り合った。
 泊まるところもないみたいで、ナタリーを紹介しようかなと」

 俺がそう言うと、ナタリーはすっと目を細めた。
 二人の全体像に軽く目を通した後、フレアの瞳を正面から見据える。

 その真っ直ぐな眼差しを受けて、フレアの体が強張った。
 数秒ほど続けると、ナタリーは頷いた。

「あたしはナタリー。泊まるところがないって?」
「フレアよ。恥ずかしながら……」
 ナタリーの言葉にフレアが苦笑する。

「あはは。それでキースを捕まえたと」
「……仰る通りです」
 ジークがばつが悪そうに応じる。

 まあ、パーティメンバーが利用されたことになる。
 あまり良い気分ではないだろう。

「うん、賢いね! 人を見る目がある」
「あれ!? そういう流れじゃなくね!?」
 俺の言葉にナタリーが大きく笑った。

 その様子に俺は少しだけ安心する。

 ――良かった。思ったよりも元気そうだ。
 ――ソフィアが青鬼に狙われたことを気にしていたから心配だったんだ。

「……分かった。良いよ、泊めてあげる」
「やったー! タダ宿だ!」

 ナタリーの言葉にフレアが手を上げて喜んだ……言い草よ。
 ティアナがジークに「良かったですね」と微笑む。

「ただし、アリスが帰ってくるまでね」
 ナタリーが続ける。そう言えば姿が見えない。

「今はいないのか?」
「そ。あれでも魔術師としては一流だからね。
 魔術師団から呼び出しがあったのよ」

 ナタリーの言葉に頷いた。
『あれでも』というのは他人のことは言えないがな?

「あと二、三日は戻ってこないはず。
 二人部屋だからね。それまでは泊まっていて良いよ」
「ありがとうございます」

 ジークが頭を下げる。
 ナタリーは「いいよいいよ」と笑って見せる。

「ただし、その間にどうにか生活できるようになりなさい。
 ひょっとしたら仕事を紹介するくらいはできるかも知れない」
「……分かった。ありがとう」

 フレアも頭を下げた。
 ナタリーが笑って頷く。

 その様子を見届けると、俺とティアナは帰ることにした。
 長くなったが、もともとは墓参りの帰りだったんだ。

 部屋の扉を閉める。
 途端に声が聞こえてきた。

「嘘でしょ!? 腕を掴んだだけで奢った!?」
「いや、顔を見た瞬間に分かったよ。カモだって」
「あの、恩人なのでそれくらいで……」

 三人の声が届いて来た。
 失敗したかもしれない。

 ……ナタリーの悪友が増えた恐れがある。



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「ナタリー! 起きろ!」
「……ん?」
 俺が大きな声を出すと、ナタリーがもそもそと起き上がった。
 ベッドに座り込んで目を擦っている。
「あれ? キース? 駄目だよ、勝手に入ったら。
 ……せめてノックくらいはしないと」
「…………」
 ――ノックしたんだよ!
 ――それでも返事がなかったんだよ!
 そう言いたいのをぐっと堪える。
 急にやって来たのは俺だ。
「それからピノ! 勝手に扉を開けたら駄目でしょ!
 ちゃんとあたしを起こして!」
「ぴっ! ぴいい!?」
 ――起こしたんだよ!
 ――それでも起きなかったんだよ!
 きっとそう言っているのだろう。
 ピノは地団太を踏みながら『地獄に落ちろ』とジェスチャ―していた。
「それで? どうしたの? いきなり来るなんて珍しいじゃない」
「……ああ、実は紹介したい人がいて」
 怒りを抑えながら、俺はフレアとジークを示した。
 ティアナとはすでに何度も顔を合わせている。
「?」
「この二人はフレアとジーク。ちょっと縁があって知り合った。
 泊まるところもないみたいで、ナタリーを紹介しようかなと」
 俺がそう言うと、ナタリーはすっと目を細めた。
 二人の全体像に軽く目を通した後、フレアの瞳を正面から見据える。
 その真っ直ぐな眼差しを受けて、フレアの体が強張った。
 数秒ほど続けると、ナタリーは頷いた。
「あたしはナタリー。泊まるところがないって?」
「フレアよ。恥ずかしながら……」
 ナタリーの言葉にフレアが苦笑する。
「あはは。それでキースを捕まえたと」
「……仰る通りです」
 ジークがばつが悪そうに応じる。
 まあ、パーティメンバーが利用されたことになる。
 あまり良い気分ではないだろう。
「うん、賢いね! 人を見る目がある」
「あれ!? そういう流れじゃなくね!?」
 俺の言葉にナタリーが大きく笑った。
 その様子に俺は少しだけ安心する。
 ――良かった。思ったよりも元気そうだ。
 ――ソフィアが青鬼に狙われたことを気にしていたから心配だったんだ。
「……分かった。良いよ、泊めてあげる」
「やったー! タダ宿だ!」
 ナタリーの言葉にフレアが手を上げて喜んだ……言い草よ。
 ティアナがジークに「良かったですね」と微笑む。
「ただし、アリスが帰ってくるまでね」
 ナタリーが続ける。そう言えば姿が見えない。
「今はいないのか?」
「そ。あれでも魔術師としては一流だからね。
 魔術師団から呼び出しがあったのよ」
 ナタリーの言葉に頷いた。
『あれでも』というのは他人のことは言えないがな?
「あと二、三日は戻ってこないはず。
 二人部屋だからね。それまでは泊まっていて良いよ」
「ありがとうございます」
 ジークが頭を下げる。
 ナタリーは「いいよいいよ」と笑って見せる。
「ただし、その間にどうにか生活できるようになりなさい。
 ひょっとしたら仕事を紹介するくらいはできるかも知れない」
「……分かった。ありがとう」
 フレアも頭を下げた。
 ナタリーが笑って頷く。
 その様子を見届けると、俺とティアナは帰ることにした。
 長くなったが、もともとは墓参りの帰りだったんだ。
 部屋の扉を閉める。
 途端に声が聞こえてきた。
「嘘でしょ!? 腕を掴んだだけで奢った!?」
「いや、顔を見た瞬間に分かったよ。カモだって」
「あの、恩人なのでそれくらいで……」
 三人の声が届いて来た。
 失敗したかもしれない。
 ……ナタリーの悪友が増えた恐れがある。