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第四部 3話 一飯

ー/ー



「いただきまーす!」
「いただきます」

 姉の方が元気よく叫ぶと、弟は礼儀正しく手を合わせる。
 だが、よほど腹が減っていたのだろう、二人とも良い食べっぷりである。

 仕方ないので、俺は二人に食べ物を与えることにした。
 今は露店で大量の食糧を買って、時計塔公園の広場で車座に陣取っている。

 ティアナはと言うと「元気ですねぇ」なんて笑っている。
 まあ、元は孤児院出身だ。見慣れているのかもしれない。

 いや、本当に良い食べっぷりだな。
 俺とティアナの分も考えて、四人分を買ったんだが残る気がしない。

「よく食べるな?」
「ははは、当然だろ? タダ飯だぞ?」

 姉が理解できないという顔で笑いやがった。
 ぶん殴ってやろうか? 当然グーだ。こっちはタダじゃねーんだよ。

「……すみません。もうずいぶんと食べていなかったもので」
「そうみたいだな。何か事情があるのか?
 見たところ、王都の生まれじゃないようだが……」

 弟の言葉に訊き返した。
 二人の服装は王都のものではないように見える。
 もっとも、粗末というわけでもないのだが……。

「あ、詮索したいわけではないぞ? 答えたくなければ別に……」
「あはは、そんな大したことじゃないよ。私たちは連合から流れてきたんだ。
 だけど途中で路銀が尽きてね。王都で仕事を探そうにも限界だったから」

 俺は少し気を使うが、少女は快活に笑って見せた。
 そうか、連合か。確かに最近は妙な動きが目立つ。

「……限界だったから?」
「お人好しをカモにした」

 俺の言葉に少女は口元を悪戯っぽく歪めて見せる。
 すかさず「おい」と言った俺に全員が笑った。

「私はフレア。こっちは弟のジークだ」
「俺はキースだ。で、こっちは妹のティアナ」

 フレアと俺が自己紹介する。
 同時にジークとティアナが礼儀正しく頭を下げる。

「似てねえな」
「似てないね」

 俺とフレアが互いを指差して言う。
 いや、確かに人のことは言えないが、フレアとジークは似ていない。

 フレアは赤茶の髪に金目。俺と同い年くらいか?
 対するジークは黒髪黒目だった。こちらは十歳程度だろう。

 もっとも、二人とも種族は人間のようだが。
 しかし、そんなことよりも……。

「ジークは礼儀正しい」
「ティアナは良い子」

 俺とフレアが続ける。そして互いに目を泳がせた。
 きっと反論はなかったのだろう。

 俺も反論はない。
 俺は悪い子……いや、良い子ではない。



 しばらく俺たちはゆっくりと過ごした。
 ジークとティアナはエルと一緒に遊んでいる。

 初対面のジークに対しても、エルは楽しそうに相手していた。
 ……お前、何で未だ俺にだけ当たりキツイんだ?

「事情は分かったけど、騙すような真似は良くないと思うぞ?」
「大丈夫。ちゃんと相手は見ているよ」

 フレアに軽く声を掛ける。
 すぐに楽しそうな声が返ってきた。

 まあ、そうだろうな。
 終わってみれば、こちらの身なりや人柄も考慮した上での暴挙だ。

 悪意はないと思うが、食事だけが狙いではないのかも知れない。
 裏の目的があるとすれば……何だろう。

「ということで、今夜の宿がないんだ」
「まだむしり取るのかよ!?」

 フレアは楽しそうに笑い飛ばす。
 しかし、不意に真剣な顔で頭を下げた。

「心配しなくても大丈夫。
 一宿一飯の恩は必ず返す……誓って損はさせない」

 そう言って、フレアは強気に笑った。
 脇に置いた長剣にそっと触れる。

 俺はこれ見よがしに溜息を吐いて見せた。
 やれやれと首を横に振った。

「一宿の恩はまだ決まってないぞ」
「あれ!? 今ので決まったでしょ!?」

 そういうことは黙ってろ。
 裏の目的があるとすれば……縁だろうな。

剣聖の孫



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「いただきまーす!」
「いただきます」
 姉の方が元気よく叫ぶと、弟は礼儀正しく手を合わせる。
 だが、よほど腹が減っていたのだろう、二人とも良い食べっぷりである。
 仕方ないので、俺は二人に食べ物を与えることにした。
 今は露店で大量の食糧を買って、時計塔公園の広場で車座に陣取っている。
 ティアナはと言うと「元気ですねぇ」なんて笑っている。
 まあ、元は孤児院出身だ。見慣れているのかもしれない。
 いや、本当に良い食べっぷりだな。
 俺とティアナの分も考えて、四人分を買ったんだが残る気がしない。
「よく食べるな?」
「ははは、当然だろ? タダ飯だぞ?」
 姉が理解できないという顔で笑いやがった。
 ぶん殴ってやろうか? 当然グーだ。こっちはタダじゃねーんだよ。
「……すみません。もうずいぶんと食べていなかったもので」
「そうみたいだな。何か事情があるのか?
 見たところ、王都の生まれじゃないようだが……」
 弟の言葉に訊き返した。
 二人の服装は王都のものではないように見える。
 もっとも、粗末というわけでもないのだが……。
「あ、詮索したいわけではないぞ? 答えたくなければ別に……」
「あはは、そんな大したことじゃないよ。私たちは連合から流れてきたんだ。
 だけど途中で路銀が尽きてね。王都で仕事を探そうにも限界だったから」
 俺は少し気を使うが、少女は快活に笑って見せた。
 そうか、連合か。確かに最近は妙な動きが目立つ。
「……限界だったから?」
「お人好しをカモにした」
 俺の言葉に少女は口元を悪戯っぽく歪めて見せる。
 すかさず「おい」と言った俺に全員が笑った。
「私はフレア。こっちは弟のジークだ」
「俺はキースだ。で、こっちは妹のティアナ」
 フレアと俺が自己紹介する。
 同時にジークとティアナが礼儀正しく頭を下げる。
「似てねえな」
「似てないね」
 俺とフレアが互いを指差して言う。
 いや、確かに人のことは言えないが、フレアとジークは似ていない。
 フレアは赤茶の髪に金目。俺と同い年くらいか?
 対するジークは黒髪黒目だった。こちらは十歳程度だろう。
 もっとも、二人とも種族は人間のようだが。
 しかし、そんなことよりも……。
「ジークは礼儀正しい」
「ティアナは良い子」
 俺とフレアが続ける。そして互いに目を泳がせた。
 きっと反論はなかったのだろう。
 俺も反論はない。
 俺は悪い子……いや、良い子ではない。
 しばらく俺たちはゆっくりと過ごした。
 ジークとティアナはエルと一緒に遊んでいる。
 初対面のジークに対しても、エルは楽しそうに相手していた。
 ……お前、何で未だ俺にだけ当たりキツイんだ?
「事情は分かったけど、騙すような真似は良くないと思うぞ?」
「大丈夫。ちゃんと相手は見ているよ」
 フレアに軽く声を掛ける。
 すぐに楽しそうな声が返ってきた。
 まあ、そうだろうな。
 終わってみれば、こちらの身なりや人柄も考慮した上での暴挙だ。
 悪意はないと思うが、食事だけが狙いではないのかも知れない。
 裏の目的があるとすれば……何だろう。
「ということで、今夜の宿がないんだ」
「まだむしり取るのかよ!?」
 フレアは楽しそうに笑い飛ばす。
 しかし、不意に真剣な顔で頭を下げた。
「心配しなくても大丈夫。
 一宿一飯の恩は必ず返す……誓って損はさせない」
 そう言って、フレアは強気に笑った。
 脇に置いた長剣にそっと触れる。
 俺はこれ見よがしに溜息を吐いて見せた。
 やれやれと首を横に振った。
「一宿の恩はまだ決まってないぞ」
「あれ!? 今ので決まったでしょ!?」
 そういうことは黙ってろ。
 裏の目的があるとすれば……縁だろうな。