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第四部 2話 きゅるる

ー/ー



 ティアナと二人で王都を歩いていく。
 共同墓地はいくつかあるが、ここは三番街の外れだ。

 一番街まで戻るには時計塔公園を抜ける必要がある。
 三番街の大通りまで出ると、急に人通りが増した。

「うわぁ……」
「兄さん、いい加減慣れないと?」

 俺のうめき声にティアナが応じる。だが慣れるのは難しい。
 通行人の多くが俺を見ていたのだ。

 噂が一人歩きしているのだろう。
 俺は無視して歩き出す。

「あれ?」
「……あ」

 そこで、小さな男の子が近くの脇道から飛び出してきた。
 ティアナとぶつかりそうになって、お互いに目を丸くする。

「助けて! お姉ちゃんが急に倒れて……!」
「!」

 男の子はティアナに縋りつき、大通りで声を張り上げた。
 俺はすぐに脇道へと飛び込む。

 地面に倒れ込む少女の姿が見えた。
 すぐに駆け寄って、しゃがみ込む。

「おい! 大丈夫か!?」
「…………」
 
 軽く体を揺すって、仰向けに体を動かす。
 見た限り外傷はないが、病気だろうか?

「……やっと捕まえた、お人好しだっ」
「ん? なんて?」

 答えが返ってくるより先に俺の左手首ががしっと掴まれた。
 ……ぎりぎりという凄まじい力だった。

 なんだ!? まさかこんな大通りで仕掛けて――

「お腹すいた」
 少女の腹がきゅるると鳴った。

 ――こなかった。

「そうか。栄養のあるものでも食べると良いよ。
 怪我とかじゃなくてよかった。それじゃ……」

 俺は踵を返そうとする。
 しかし、少女は俺の腕を放さない。

「…………」
「…………」

 腕を強めに引く。力はちっとも緩まない。
 囚人の手枷の方がまだ外れそうだ。

「あの、帰れないんだけど?」
「うん、帰さないよ?」

 赤みがかった茶色の長髪を編んで小さくまとめている。
 意思の強そうな金瞳はまっすぐに俺を見据えていた。

「…………」
「お腹すいた」

 もう一度、少女の腹がきゅるると鳴った。
 随分と都合良く鳴る腹だな。

 さらに強く腕を引く。少女もさらに俺の腕を引いた。
 さっきまで倒れていたとは思えない強さである。

 それに加えて、きゅるる……という、まるで脅すような音が俺の気力を奪う。
 見捨てたら野垂れ死にしてやるぞ、と。

「……分かった。とりあえず、付いて来てくれ」
「よし、私の目に狂いはなかった!」

 やっぱりお人好しだっ、じゃねーよ。



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 ティアナと二人で王都を歩いていく。
 共同墓地はいくつかあるが、ここは三番街の外れだ。
 一番街まで戻るには時計塔公園を抜ける必要がある。
 三番街の大通りまで出ると、急に人通りが増した。
「うわぁ……」
「兄さん、いい加減慣れないと?」
 俺のうめき声にティアナが応じる。だが慣れるのは難しい。
 通行人の多くが俺を見ていたのだ。
 噂が一人歩きしているのだろう。
 俺は無視して歩き出す。
「あれ?」
「……あ」
 そこで、小さな男の子が近くの脇道から飛び出してきた。
 ティアナとぶつかりそうになって、お互いに目を丸くする。
「助けて! お姉ちゃんが急に倒れて……!」
「!」
 男の子はティアナに縋りつき、大通りで声を張り上げた。
 俺はすぐに脇道へと飛び込む。
 地面に倒れ込む少女の姿が見えた。
 すぐに駆け寄って、しゃがみ込む。
「おい! 大丈夫か!?」
「…………」
 軽く体を揺すって、仰向けに体を動かす。
 見た限り外傷はないが、病気だろうか?
「……やっと捕まえた、お人好しだっ」
「ん? なんて?」
 答えが返ってくるより先に俺の左手首ががしっと掴まれた。
 ……ぎりぎりという凄まじい力だった。
 なんだ!? まさかこんな大通りで仕掛けて――
「お腹すいた」
 少女の腹がきゅるると鳴った。
 ――こなかった。
「そうか。栄養のあるものでも食べると良いよ。
 怪我とかじゃなくてよかった。それじゃ……」
 俺は踵を返そうとする。
 しかし、少女は俺の腕を放さない。
「…………」
「…………」
 腕を強めに引く。力はちっとも緩まない。
 囚人の手枷の方がまだ外れそうだ。
「あの、帰れないんだけど?」
「うん、帰さないよ?」
 赤みがかった茶色の長髪を編んで小さくまとめている。
 意思の強そうな金瞳はまっすぐに俺を見据えていた。
「…………」
「お腹すいた」
 もう一度、少女の腹がきゅるると鳴った。
 随分と都合良く鳴る腹だな。
 さらに強く腕を引く。少女もさらに俺の腕を引いた。
 さっきまで倒れていたとは思えない強さである。
 それに加えて、きゅるる……という、まるで脅すような音が俺の気力を奪う。
 見捨てたら野垂れ死にしてやるぞ、と。
「……分かった。とりあえず、付いて来てくれ」
「よし、私の目に狂いはなかった!」
 やっぱりお人好しだっ、じゃねーよ。