第十二話:スター

ー/ー



「行くのだ、勇者諸君。君達にこの世界の命運はかかっている……のかもね」

 そんなリンライの言葉に背中を押され、勇者達は円形競技場から去った。ヴァンと並んでアリシアが歩く。

「きゃはははははは、良かったじゃない。雑魚にも関わらず、勇者になれて」

「うん、みんなが笑って暮らせる世界を作るっていう目標に、ちょっと近づけたよ」

 ヴァンがピースし、アリシアはやれやれといった表情を作った。

「さっさとその服に着替えたら? あんたの服って泣けちゃうくらいにみすぼらしいから」

 ヴァンは路地裏で着替え、市街地で待っていたアリシアと合流した。

「これ、説明書もついてた」

 ヴァンが自らの服を見る。

「真っ黒な長ズボンと長袖のシャツは、黒狼の皮から作られてるらしい。そして足の膝からつま先にかけての脚当て、手の甲から肘にかけての腕当て、へその上から肩甲骨の少し下にかけての胸当ての全ては、硬いけどあんまり重さのない軽硬銀っていう素材から作られてるんだって」

 アリシアはヴァンを眺めた。

"さっきまでの田舎っぽさは消えたわね。こいつ、まぁまぁ顔が整ってて、背も175cmくらいありそうだから、こうして見ると多少はモテそうね"

「今まで着てた服、売ればどれくらいになるかなぁ?」

 ヴァンがさっきまで着ていたボロボロの服を眺める。

"前言撤回。こいつに不愉快な口がある以上、モテることはなさそうね"

「だれが、そんな穴あき買うっていうのよ。捨てなさい」

「いや、捨てるのはもったいな……」

 アリシアが指パッチンした瞬間、ヴァンの持つ服が炭になった。

「あら、消えちゃったわね、きゃはははははははは」

 ヴァンは肩を落とした。

「さて、さっさとご飯を食べましょう」

 アリシアの提案に対して、ヴァンは首を横に振る。

「駄目だ。俺達にはやることがある」

「やること?」

「宿屋へのお金の支払いだよ」

"あー、そういえば無賃で泊まったお金を支払わないといけないんだっけ"

 アリシアは嫌なことを思い出した。

「でも、お金ないわよ」

「お金がないなら稼げばいい。勇者としてミッションを受けられるのは明日からだから、今日はバイトをして稼ごう」

 ヴァンはずんずんと進んでいき、"急募:接客、キッチン、各一名"と書かれている看板の前に立った。

「ちょうどいいのがあった」

「あたし、やらないわよ」

「アリシアもやらないといけない」

 ヴァンに手首をつかまれて、店に入れられたアリシア。

"めんどくさい、逃げましょうか? でも、やってみたら案外楽しかったりして"

 そう思ったアリシアは興味半分でバイトをする。

「助かったよ、従業員が急遽二人病気になっちゃって困ってたんだ」

 汗をハンカチで拭く店主。アリシアはホールで接客、ヴァンはキッチンで料理をする。

「あんた達、注文なんにすんの?」

 アリシアは眼鏡をかけた2人組の男性に、そう尋ねた。

「僕は蛍貝のペペロンチーノにタバスコたくさんかけて、鷹の爪は抜いてください」

「俺は、十首ニワトリの卵を使ったオムライスでお願いします。できればケチャップで星のイラストを描いてくれたら嬉しいな。僕、名前がスターっていうから、星がトレードマークなんです!!!!」

 "こいつ、何言ってんの? それに、メモ取るのもめんどくさいなぁ"

 そんなことを思ったアリシアはキッチンに行き、言葉を発する。

「A定食二つ」

「あいよ」

 そうして出来上がったA定食(サバの味噌煮定食)を先ほどの男達の前に出した。

「あ……あの、これ違う……」

 先ほど星のイラストを描いてとかほざいていたスターという名の男がそう告げた。アリシアはケチャップを取り、そのサバの味噌煮に"だまってくえ☆"と書いた。その異様な光景に気が付いた店主がその場に向かい、頭を下げた。

「申し訳ございません。なにやらうちの店員が、失礼をしているようで」

 だが、スターは首を横に振る。

「いえいえ、これ、食べさせていただきます!!!!」

 スターが満面の笑みだったため、店主はそれ以上言及しなかったが、アリシアのそんな接客は半日続いた。そのバイト代で昨夜の宿代を返すことができ、さらに追加で一泊できたアリシア達だった。



 これは余談だが、その日からしばらくアリシアとヴァンが働いた料理店に男性の客が増え、とある少女の高圧的で不愉快な接客を求めた。みな鼻息荒く、何かを期待しているかのような表情だった。

 店主は何とも言えないモニョモニョした気持ちになった。


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「行くのだ、勇者諸君。君達にこの世界の命運はかかっている……のかもね」
 そんなリンライの言葉に背中を押され、勇者達は円形競技場から去った。ヴァンと並んでアリシアが歩く。
「きゃはははははは、良かったじゃない。雑魚にも関わらず、勇者になれて」
「うん、みんなが笑って暮らせる世界を作るっていう目標に、ちょっと近づけたよ」
 ヴァンがピースし、アリシアはやれやれといった表情を作った。
「さっさとその服に着替えたら? あんたの服って泣けちゃうくらいにみすぼらしいから」
 ヴァンは路地裏で着替え、市街地で待っていたアリシアと合流した。
「これ、説明書もついてた」
 ヴァンが自らの服を見る。
「真っ黒な長ズボンと長袖のシャツは、黒狼の皮から作られてるらしい。そして足の膝からつま先にかけての脚当て、手の甲から肘にかけての腕当て、へその上から肩甲骨の少し下にかけての胸当ての全ては、硬いけどあんまり重さのない軽硬銀っていう素材から作られてるんだって」
 アリシアはヴァンを眺めた。
"さっきまでの田舎っぽさは消えたわね。こいつ、まぁまぁ顔が整ってて、背も175cmくらいありそうだから、こうして見ると多少はモテそうね"
「今まで着てた服、売ればどれくらいになるかなぁ?」
 ヴァンがさっきまで着ていたボロボロの服を眺める。
"前言撤回。こいつに不愉快な口がある以上、モテることはなさそうね"
「だれが、そんな穴あき買うっていうのよ。捨てなさい」
「いや、捨てるのはもったいな……」
 アリシアが指パッチンした瞬間、ヴァンの持つ服が炭になった。
「あら、消えちゃったわね、きゃはははははははは」
 ヴァンは肩を落とした。
「さて、さっさとご飯を食べましょう」
 アリシアの提案に対して、ヴァンは首を横に振る。
「駄目だ。俺達にはやることがある」
「やること?」
「宿屋へのお金の支払いだよ」
"あー、そういえば無賃で泊まったお金を支払わないといけないんだっけ"
 アリシアは嫌なことを思い出した。
「でも、お金ないわよ」
「お金がないなら稼げばいい。勇者としてミッションを受けられるのは明日からだから、今日はバイトをして稼ごう」
 ヴァンはずんずんと進んでいき、"急募:接客、キッチン、各一名"と書かれている看板の前に立った。
「ちょうどいいのがあった」
「あたし、やらないわよ」
「アリシアもやらないといけない」
 ヴァンに手首をつかまれて、店に入れられたアリシア。
"めんどくさい、逃げましょうか? でも、やってみたら案外楽しかったりして"
 そう思ったアリシアは興味半分でバイトをする。
「助かったよ、従業員が急遽二人病気になっちゃって困ってたんだ」
 汗をハンカチで拭く店主。アリシアはホールで接客、ヴァンはキッチンで料理をする。
「あんた達、注文なんにすんの?」
 アリシアは眼鏡をかけた2人組の男性に、そう尋ねた。
「僕は蛍貝のペペロンチーノにタバスコたくさんかけて、鷹の爪は抜いてください」
「俺は、十首ニワトリの卵を使ったオムライスでお願いします。できればケチャップで星のイラストを描いてくれたら嬉しいな。僕、名前がスターっていうから、星がトレードマークなんです!!!!」
 "こいつ、何言ってんの? それに、メモ取るのもめんどくさいなぁ"
 そんなことを思ったアリシアはキッチンに行き、言葉を発する。
「A定食二つ」
「あいよ」
 そうして出来上がったA定食(サバの味噌煮定食)を先ほどの男達の前に出した。
「あ……あの、これ違う……」
 先ほど星のイラストを描いてとかほざいていたスターという名の男がそう告げた。アリシアはケチャップを取り、そのサバの味噌煮に"だまってくえ☆"と書いた。その異様な光景に気が付いた店主がその場に向かい、頭を下げた。
「申し訳ございません。なにやらうちの店員が、失礼をしているようで」
 だが、スターは首を横に振る。
「いえいえ、これ、食べさせていただきます!!!!」
 スターが満面の笑みだったため、店主はそれ以上言及しなかったが、アリシアのそんな接客は半日続いた。そのバイト代で昨夜の宿代を返すことができ、さらに追加で一泊できたアリシア達だった。
 これは余談だが、その日からしばらくアリシアとヴァンが働いた料理店に男性の客が増え、とある少女の高圧的で不愉快な接客を求めた。みな鼻息荒く、何かを期待しているかのような表情だった。
 店主は何とも言えないモニョモニョした気持ちになった。