ログインしてみると、ハヤトとエナコはレベリングをしていて、昨日よりもひとつレベルを上げていた。ニ十分後、ほぼ同時にサーラちゃんとサクさんがログインし、最後のレベリングがおこなわれた。
ハヤト レベル三十二
エナコ レベル三十
サーラ レベル二十八
サク レベル二十八
これが、最終決戦に挑むみんなのレベルだ。
落ち着いて挑めるようにと、夕食や入浴を済ませてから再度ログインすることになった。
ここで私は、絵美ちゃんのお母さんに会ったことについての説明をした。
「ハヤトはその立花君って人のところにいるんですかぁ。そうですかぁ」
「何よ、その言い方」
「日奈子さんにもそんな男の子の知り合いがいるんですねぇ。どの程度の関係なんですか?」
「ズバッと聞くわね。だったらズバッと言うわ。もう終わった関係よ」
「えー、そうなんですか?」
「盛大にやらかしちゃったの。だからもういいの! そんな話はいいから、さっさと休憩に行ってきなさい」
「あたしはいいです。サンドウィッチを食べながらやってたし、休憩取ったときにシャワーしましたから。今のうちに杖の強化に行ってきます。この時間ならデンチュウさんがログインしてると思うんで」
馬車に乗ってやってきた強化屋の店内には、案の定五人の先客が並んでおり、彼女はその最後尾に並んだ。
「時間かかりそうだね」
「でも、この強化は必須ですから」
「お待ち!」
威勢よく一番先頭のプレイヤーに武器を渡したデンチュウさんがエナコに気がつき手を上げた。
「エナコ」
「こんちは」
「並んでる人には悪いが予約客優先なんだ。彼女の強化を先にやらせてもらうぞ」
ちょっと不満そうな顔をする人の前をエナコは進んでいった。
「いやー、申し訳ないです。強化は一回だけなのですぐ終わります」
腰低く挨拶しながらデンチュウさんの前に立ったエナコは、素材を取り出しテーブルに置いた。
「これでお願いします」
「やっぱり手に入らなかったのか」
「幻魔獣の心玉ですか?」
デンチュウさんは口元を歪ませた微妙な表情で頷いた。
「レベリングとクエストが優先だったんで。可能な限り探したんですけど、出現率が低いのもあって無理でしたぁ。だから【劫魔獣の心玉】でお願いします」
乾いた笑いを返すエナコだけど、やっぱり手に入れたかった。【幻魔獣の心玉】は希少品で、バザーでも滅多に見ないし、あっても高額で出品されていて手が出せない。たとえ買えるお金があっても、ひとりをちょっと強くするよりも、仲間全員の装備を整えるほうが効果的なのは誰でもわかる。
「こっちでも幻魔獣の心玉を使った強化が『★1』になった場合と同じくらいにはなりますから」
「ちっ、運のねぇ奴だな」
デンチュウさんは後ろを向いて強化錬金の祭壇に杖を置く。足元の描かれているいくつかの魔術陣に強化に使う素材を配置し、「やるぜ!」と気合を込めてから強化錬金術を開始した。
呪文をブツブツと唱えるような演出の向こうでは、いくつものミニゲームがおこなわれている。強化のレベルによってその数は違うけど、運要素はひとつだけで、それ以外は的確な操作、動体視力、反射神経を駆使したモノらしい。すべての総合点によって『★4』・『★3』・『★2』・『★1』そして『失敗』の五種類の強化結果が出る。
魔術陣の素材が消えて杖に強い光が灯っていく。いよいよクライマックスだ。一段と強い光が放たれたエナコの杖の強化結果は……。
「エナコ、わりぃ」
デンチュウさんの謝罪に反して強化の結果は『★3』だった。
「何を謝ってるんです。『★3』ですよ。凄いじゃないですか!」
「やっぱりやるからには『★4』を目指さにゃ。それも大事な決戦だっていうんだからよ」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
杖を受け取り成功度に見合った代金の支払いが完了したエナコは、杖の詳細を見て叫んだ。
「デンチュウさん、なんで?!」
「お得意さんへのサービスだ」
このやり取りを聞いて私も杖の詳細を見てみると、この強化は【幻魔獣の心玉】を使った結果だった。これが彼の微妙な表情の理由だったのだろう。
「気持ちだけもらっておく、なんて言っておいて恥ずかしい。めっちゃ凄いのもらっちゃってる」
「その代わり、劫魔獣の心玉はもらっておくからよ。そんなに差はねぇよ」
「素材の価値で三倍くらいは違いますから」
「いいんだよ。後ろに並んでいる奴らからちょっとずつ回収するから」
「いや、それは……あはははは」
エナコの背中に視線が突き刺さってるよ。
「そんなに気になるなら結果で決めようぜ。エナコが推してる『主人公』の呪いが解けたらチャラ、失敗したら差額を払うってのはどうだ?」
「無利子でお願いします」
「いいぜ」
ここでもプレイヤー同士の熱い心を繋ぐ物語があった。サーラちゃんといい、サクさんといい、損得だけではない人の繋がりってのは良いモノだ。
丁寧にお礼を伝えたエナコは、強化屋を出たあとに「ラッキー!」と軽い言葉で喜んでいた。熱い心が繋がったんだよね?