廊下に出ると、加賀見がいた。
数分前に「用があるから」と女子たちからの誘いを断って教室を出て行ったのを見たけどまだ帰っていなかったらしい。
さっさと教室を出て行ったのにどうしたのだろう。
ここ、三階からの眺めは悪くないけどそう楽しいものでもない。
当然だけどこれが用事だとは思えない。桜並木が見えるけど花見を断って一人で見ているというのも少し変な話だ。
「用があるんじゃなかったのか?」
斜め後ろから声をかけると、彼女は猫が物音に反応するような驚き方とともに振り返った。
猫に例えたのは本当に家で飼っている猫に似ているからだ。どことなく雰囲気も似ているかもしれない。そんな彼女は「ない」と平坦に答えた。
「あれ嘘だから」
「嘘?」
「そう。本当は桜が好きじゃないから」
好きじゃないなら何故足を止めてまで眺めていたのだろう。
「さっきまで桜見てたのに?」
「そうだけど……」
訊くと曖昧な一言が返ってきた。
寂しそうにも見えて、本当は参加したいのではないかと思ったけどそれを訊く勇気はなかった。「まあ別にいいや」と軽く返して自分のことを話す。
「俺は騒ぐのがあんまり好きじゃないから不参加」
「よくあるパターンね」
平凡だと言われたような気がした。実際にその通りではあるけどあまり良い気がしない。
ただ、加賀見の不可思議さが気にかかるので意地悪半分に質問を返した。
「加賀見は何で桜が好きじゃないんだ?」
「元々は好きも嫌いもなかったんだけど……」
彼女は周囲を少し気にする素振りを見せた後、理由を話し始めた。