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第三部 82話 幻と奇跡

ー/ー



 青鬼は悪びれた様子もなく、皮肉げに笑っている。
 その様子は見慣れたものだったはず。

「……?」

 だというのに青鬼の姿に違和感を覚える。
 黒い短刀? 以前はなかったはずだ。妙に気になった。

「へえ、よく私の前に顔を出せたわね。
 先生を手に掛けたことを忘れるほど優しくないわよ」

 ソフィアが低い声を出す。
 ちらと見れば、眼光鋭く青鬼を睨みつけている。

 一際強くその魂が真赤に輝くのが見えた。
 それはきっと本来の姿だった……鬼は殺せるから。

「ああ、お久しぶりです。お嬢様?」
「…………」

 青鬼の軽口に応じる真似はせずにリックを双剣に錬金した。
 すぐに『神鋼糸』を使わないのは、俺と同じく疲労が強いからだろう。

 俺も小剣とナイフを抜く。すると応じるように青鬼も長刀を抜いた。
 脇差と短刀は抜かず、両手で長刀を正面に構える。

「いやぁ、血の気が多いな……話が早くて助かるよ」
 小さく笑うと青鬼は踏み込んだ。

 そのまま俺へと斬りかかる。低い位置からの斬り上げ。
 小剣で受け流す。すかさずソフィアが青鬼の右側から双剣を払う。
 
 青鬼が消えた。

「後ろよ」

 エルの言葉ですぐに前へと跳んだ。
 本来なら視覚を共有したいが、今のコンディションでは自殺行為だろう。

 すぐ隣を長刀が過ぎていく嫌な感覚。
 ソフィアが青鬼へと踏み込む。今度は青鬼が戻った。

 青鬼は背後からソフィアを斬り付ける。
 俺は障壁を三枚張って長刀を防ぐ。

 さらに右の小剣を一閃すると、ナイフを心臓目掛けて突き出す。
 青鬼は防がれたと分かった瞬間、振り返る。

 小回りの利く体格を活かして、小剣とナイフのどちらも長刀で弾く。
 じゃらじゃらという音。ソフィアの鎖が青鬼を包囲しようと迫った。

「は」
「!?」

 青鬼は楽しそうに笑うと、長刀を俺へと『投げた』。
 驚いた俺は咄嗟に長刀を避ける。

 鎖が青鬼に触れるより早く青鬼が消えた。
 すぐ後ろの足音に背筋が凍る。

 ――コイツ、投げた刀を掴んだ!?
 ――まずい。避けられるか……?

「上段の斬り下ろし!」
「……ッ」

 エルの焦った声。
 その言葉に従って、前へと転がった。

「キース!」
 ソフィアの焦った声。

 見上げれば、青鬼が戻っていた。
 上段の斬り下ろしがそのまま迫る。

 ――ちくしょう。
 ――鎖の包囲をやり過ごすためか。

 ソフィアが咄嗟に盾を張った。
 俺の目の前でキン、という金属がぶつかる音。

 ――助かった。
 ――青鬼の能力の幅が広がった気がする。

 すぐに立ち上がると、リックの盾を迂回するように青鬼の背後へと回り込む。
 青鬼はソフィアへと踏み込んで長刀を袈裟に下ろす。

 ソフィアが長剣を錬金し直して防ぐ。
 すぐに青鬼へと刃を返す。

 青鬼の舌打ち。
 苦し紛れか、無造作に左手で脇差を抜いた。

 そのまま脇差を払う――すぐ隣の女の子へと。
 それはきっとただの牽制だった。こういうことも出来るぞ、と。

 ソフィアは盾を錬金し直すだけで良い。
 それどころかソフィアの長剣の方が早い。

 青鬼としては、反応だけ見てスキルで逃げる魂胆だろう。
 当然、ソフィアもそれくらいは分かってるはずだ。

 頭痛が激しくなってきた。あまり長くは持たない。
 おそらくナタリー達は合流しようとする。それまで耐えるしかない。

 できれば先手を打ちたい。
 どこに移動するか予想できれば……。

 やはりソフィアは青鬼の動きを無視してその首を斬り付けた。
 女の子へとその凶刃が届くより先に青鬼の首へと刃が迫り――

「……え?」

 思わず声が漏れた。
 あまりにも予想外の光景だったのだ。

 ――いや、それは『青い幻』だった。

 現実で『ソフィア・ターナー』は女の子を庇っていた。
 それも盾を張るのでもなく、ただ女の子を抱くように。
 青鬼の凶刃に背中を向けている……まるでいつかの(教育係)のようだった。

「……ソフィア!?」
「あれ? 私、何やってるんだろう?」

 ソフィアの呆然とした声。
 まるで寝ぼけたみたいに目を丸くしていた。

「……は」

 青鬼が一瞬だけ動きを止めて、笑う。
 致命的な隙を目の前に、青鬼は脇差を捨てる。

 そして代わりに黒い短刀を逆手に抜く。
 そのまま――ソフィアの背中に突き立てた。

「お前っ!?」

 目の前がちかちかとして、我を失いながら青鬼に飛び掛かる。
 しかし、青鬼はスキルで移動した。すぐに後を追おうとする。

「うっ……」

 くそ、頭痛が酷い。
 頭に血が上ったからか、一瞬立ち眩みのように足が止まってしまう。

 僅かに出遅れた俺を尻目に、青鬼はさらに後ろへと跳んだ。
 しかし、そこで遠くから喧噪が聞こえた。ナタリー達が向かっているのだろう。

「……今度こそもらったぞ」
 青鬼はにやりと笑った。

 ――今度こそ? もらった?
 ――何を言ってる!?

 そして、青鬼はソフィアを刺した短刀を自分の胸に押し当てた。
 ? 一体何を……?

「ぐ……」

 疑問の声を出すよりも早く、青鬼は短刀で自分の心臓を突き刺した。
 すぐに口の端からから血を零す。

 そして最期は笑みを浮かべ、青鬼は倒れ込んだ。
 すぐに動かなくなる。すでに事切れているのだろう……おそらくは即死。

「これはどういう……」

 何が何やら分からない。
 それでも後ろを振り返る。

 背中から胸まで貫かれ、ソフィアが大量の血を流していた。
 膝を突いて女の子を抱えていたが、力尽きて体が傾く。

 俺はせめてその体を抱きとめた。
 それは――あまりにも冷たく、軽かった。



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 青鬼は悪びれた様子もなく、皮肉げに笑っている。
 その様子は見慣れたものだったはず。
「……?」
 だというのに青鬼の姿に違和感を覚える。
 黒い短刀? 以前はなかったはずだ。妙に気になった。
「へえ、よく私の前に顔を出せたわね。
 先生を手に掛けたことを忘れるほど優しくないわよ」
 ソフィアが低い声を出す。
 ちらと見れば、眼光鋭く青鬼を睨みつけている。
 一際強くその魂が真赤に輝くのが見えた。
 それはきっと本来の姿だった……鬼は殺せるから。
「ああ、お久しぶりです。お嬢様?」
「…………」
 青鬼の軽口に応じる真似はせずにリックを双剣に錬金した。
 すぐに『神鋼糸』を使わないのは、俺と同じく疲労が強いからだろう。
 俺も小剣とナイフを抜く。すると応じるように青鬼も長刀を抜いた。
 脇差と短刀は抜かず、両手で長刀を正面に構える。
「いやぁ、血の気が多いな……話が早くて助かるよ」
 小さく笑うと青鬼は踏み込んだ。
 そのまま俺へと斬りかかる。低い位置からの斬り上げ。
 小剣で受け流す。すかさずソフィアが青鬼の右側から双剣を払う。
 青鬼が消えた。
「後ろよ」
 エルの言葉ですぐに前へと跳んだ。
 本来なら視覚を共有したいが、今のコンディションでは自殺行為だろう。
 すぐ隣を長刀が過ぎていく嫌な感覚。
 ソフィアが青鬼へと踏み込む。今度は青鬼が戻った。
 青鬼は背後からソフィアを斬り付ける。
 俺は障壁を三枚張って長刀を防ぐ。
 さらに右の小剣を一閃すると、ナイフを心臓目掛けて突き出す。
 青鬼は防がれたと分かった瞬間、振り返る。
 小回りの利く体格を活かして、小剣とナイフのどちらも長刀で弾く。
 じゃらじゃらという音。ソフィアの鎖が青鬼を包囲しようと迫った。
「は」
「!?」
 青鬼は楽しそうに笑うと、長刀を俺へと『投げた』。
 驚いた俺は咄嗟に長刀を避ける。
 鎖が青鬼に触れるより早く青鬼が消えた。
 すぐ後ろの足音に背筋が凍る。
 ――コイツ、投げた刀を掴んだ!?
 ――まずい。避けられるか……?
「上段の斬り下ろし!」
「……ッ」
 エルの焦った声。
 その言葉に従って、前へと転がった。
「キース!」
 ソフィアの焦った声。
 見上げれば、青鬼が戻っていた。
 上段の斬り下ろしがそのまま迫る。
 ――ちくしょう。
 ――鎖の包囲をやり過ごすためか。
 ソフィアが咄嗟に盾を張った。
 俺の目の前でキン、という金属がぶつかる音。
 ――助かった。
 ――青鬼の能力の幅が広がった気がする。
 すぐに立ち上がると、リックの盾を迂回するように青鬼の背後へと回り込む。
 青鬼はソフィアへと踏み込んで長刀を袈裟に下ろす。
 ソフィアが長剣を錬金し直して防ぐ。
 すぐに青鬼へと刃を返す。
 青鬼の舌打ち。
 苦し紛れか、無造作に左手で脇差を抜いた。
 そのまま脇差を払う――すぐ隣の女の子へと。
 それはきっとただの牽制だった。こういうことも出来るぞ、と。
 ソフィアは盾を錬金し直すだけで良い。
 それどころかソフィアの長剣の方が早い。
 青鬼としては、反応だけ見てスキルで逃げる魂胆だろう。
 当然、ソフィアもそれくらいは分かってるはずだ。
 頭痛が激しくなってきた。あまり長くは持たない。
 おそらくナタリー達は合流しようとする。それまで耐えるしかない。
 できれば先手を打ちたい。
 どこに移動するか予想できれば……。
 やはりソフィアは青鬼の動きを無視してその首を斬り付けた。
 女の子へとその凶刃が届くより先に青鬼の首へと刃が迫り――
「……え?」
 思わず声が漏れた。
 あまりにも予想外の光景だったのだ。
 ――いや、それは『青い幻』だった。
 現実で『ソフィア・ターナー』は女の子を庇っていた。
 それも盾を張るのでもなく、ただ女の子を抱くように。
 青鬼の凶刃に背中を向けている……まるでいつかの|俺《教育係》のようだった。
「……ソフィア!?」
「あれ? 私、何やってるんだろう?」
 ソフィアの呆然とした声。
 まるで寝ぼけたみたいに目を丸くしていた。
「……は」
 青鬼が一瞬だけ動きを止めて、笑う。
 致命的な隙を目の前に、青鬼は脇差を捨てる。
 そして代わりに黒い短刀を逆手に抜く。
 そのまま――ソフィアの背中に突き立てた。
「お前っ!?」
 目の前がちかちかとして、我を失いながら青鬼に飛び掛かる。
 しかし、青鬼はスキルで移動した。すぐに後を追おうとする。
「うっ……」
 くそ、頭痛が酷い。
 頭に血が上ったからか、一瞬立ち眩みのように足が止まってしまう。
 僅かに出遅れた俺を尻目に、青鬼はさらに後ろへと跳んだ。
 しかし、そこで遠くから喧噪が聞こえた。ナタリー達が向かっているのだろう。
「……今度こそもらったぞ」
 青鬼はにやりと笑った。
 ――今度こそ? もらった?
 ――何を言ってる!?
 そして、青鬼はソフィアを刺した短刀を自分の胸に押し当てた。
 ? 一体何を……?
「ぐ……」
 疑問の声を出すよりも早く、青鬼は短刀で自分の心臓を突き刺した。
 すぐに口の端からから血を零す。
 そして最期は笑みを浮かべ、青鬼は倒れ込んだ。
 すぐに動かなくなる。すでに事切れているのだろう……おそらくは即死。
「これはどういう……」
 何が何やら分からない。
 それでも後ろを振り返る。
 背中から胸まで貫かれ、ソフィアが大量の血を流していた。
 膝を突いて女の子を抱えていたが、力尽きて体が傾く。
 俺はせめてその体を抱きとめた。
 それは――あまりにも冷たく、軽かった。