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第三部 70話 犬は犬、猿は猿

ー/ー



 ナタリーの言葉に恐怖を感じて、俺はそっとテントから離れた。
 中からは楽しそうな声が届いてくる……今は放っておこう。

 別に根拠があるわけでもない。ただの気にしすぎかも知れない。
 ……俺たちが行くとは限らないじゃないか。

 気を取り直して、俺は周囲を歩くことにした。
 二人のように引きこもっているわけにもいくまい。

「……結構な数がいるな」
「それでも全部じゃないと思うわ」

 俺の声にエルが応じた。
 帝国を迎え撃つのだから無理もないが、周囲は野営の人で溢れていた。

 しかしエルの言うことも一理ある。全員がここに集まっているはずはない。
 ここは監視目的の関所であり、砦の類ではないのだ。
 恐らく近くに分散しているのだろう。もちろん、ここが主力だとは思うが。

 後で改めて部隊を再編するはずだ。
 きっと帝国も同じようなことをしていると思う。

「ちょっと! やめるっすよぉ!」
「団長!?」
「……お姉ちゃん、どうしたの?」

 しばらく歩くと、聞き覚えのある声がした。しかも三つ連続である。
 嫌な予感を覚えながらも、俺はそちらへと足を向けた。



 しばらく走ると、問題の集団が見えてきた。
 まず、中心にいるのはミア。両手を左右に広げている。いや、抑えている。
 良く抑えていると言って良いだろう。軽く尊敬できる状態だった。

 左に見えるのは騎士団長『ニナ・ローズ』。
 その騎士団長を羽交い絞めにしているのがグレイだ。
 そうか、騎士団員だもんな。駆り出されたのか。

 反対の右側に見えているのは魔術師団副団長『セシリー・ルイス』。
 その副団長の左腕を全力で引っ張っているのはセシルだった。
 なるほど。そうなると、魔術師団も来ているよな。姉と一緒にいてもおかしくない。

 要するにニナとセシリーの睨み合いを三人掛かりで止めているのだ。
 ……お前ら、いつまで仲悪いんだよ。

「……ミア。どうしたんだ?」

 俺は恐る恐る声を掛ける。ややこしい状況だ。
 キースとしては二人の争いを見かけた、というところである。
 二人とはほとんど初対面のはずなのだ。

「キース! 良いところに!」
「お? 来てたのか!」
「……久しぶり」

 ミアとグレイとセシルがこちらに気が付いて声を掛けてくれる。
 そんなに期待されても何もできないぞ? アッシュの頃に証明済みだ。

「実は、この二人は異常なくらいに反りが合わないっす」
「……そうなのか」

 俺は二人の様子を見た。
 元々知っていたわけだが……まあ、見れば分かるな。

「騎士団長様は……」
「はいはい、セシリー! どうどう!」

 セシリーがミアの脇から顔を覗かせる。昔と同じにこやかな笑みである。
 口を開いた瞬間、ミアが視界を塞ぐように体を動かした。

「何でしょうか? 私は……」
「ほらほら! ニナも! 落ち着いて!」

 ニナが応じようとした瞬間、ミアが声を張り上げて遮った。こちらも笑みを浮かべていたが……。
 驚いた。セシリーとニナが変わらないこともだが、ミアの技量が素晴らしい。

「こんな感じで喧嘩ばかりっす」
「……団長と副団長なのに?」

 ミアが頷いた。
 悪戯っぽく笑うと、さらに続ける。

「騎士団と魔術師団に極秘の協定があるくらいっす」
「そんなものがあるのですか!?」
「……聞いてない!」

 二人が息を合わせて叫んだ。
 まあ、極秘だったということだろう。

 ミアはわざとらしく「しまった」という顔をして、二人に戻るように促した。
 極秘協定の話が効いたのか、二人はしぶしぶと去っていった。

 俺はグレイとセシルに小さく手を振った。
 同じ場所で野営しているんだ。また後で会うだろう。

「……次から任せたっす」
「無茶言うな」

 恐ろしい言葉に、俺はぎょっとミアを見た。



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 ナタリーの言葉に恐怖を感じて、俺はそっとテントから離れた。
 中からは楽しそうな声が届いてくる……今は放っておこう。
 別に根拠があるわけでもない。ただの気にしすぎかも知れない。
 ……俺たちが行くとは限らないじゃないか。
 気を取り直して、俺は周囲を歩くことにした。
 二人のように引きこもっているわけにもいくまい。
「……結構な数がいるな」
「それでも全部じゃないと思うわ」
 俺の声にエルが応じた。
 帝国を迎え撃つのだから無理もないが、周囲は野営の人で溢れていた。
 しかしエルの言うことも一理ある。全員がここに集まっているはずはない。
 ここは監視目的の関所であり、砦の類ではないのだ。
 恐らく近くに分散しているのだろう。もちろん、ここが主力だとは思うが。
 後で改めて部隊を再編するはずだ。
 きっと帝国も同じようなことをしていると思う。
「ちょっと! やめるっすよぉ!」
「団長!?」
「……お姉ちゃん、どうしたの?」
 しばらく歩くと、聞き覚えのある声がした。しかも三つ連続である。
 嫌な予感を覚えながらも、俺はそちらへと足を向けた。
 しばらく走ると、問題の集団が見えてきた。
 まず、中心にいるのはミア。両手を左右に広げている。いや、抑えている。
 良く抑えていると言って良いだろう。軽く尊敬できる状態だった。
 左に見えるのは騎士団長『ニナ・ローズ』。
 その騎士団長を羽交い絞めにしているのがグレイだ。
 そうか、騎士団員だもんな。駆り出されたのか。
 反対の右側に見えているのは魔術師団副団長『セシリー・ルイス』。
 その副団長の左腕を全力で引っ張っているのはセシルだった。
 なるほど。そうなると、魔術師団も来ているよな。姉と一緒にいてもおかしくない。
 要するにニナとセシリーの睨み合いを三人掛かりで止めているのだ。
 ……お前ら、いつまで仲悪いんだよ。
「……ミア。どうしたんだ?」
 俺は恐る恐る声を掛ける。ややこしい状況だ。
 キースとしては二人の争いを見かけた、というところである。
 二人とはほとんど初対面のはずなのだ。
「キース! 良いところに!」
「お? 来てたのか!」
「……久しぶり」
 ミアとグレイとセシルがこちらに気が付いて声を掛けてくれる。
 そんなに期待されても何もできないぞ? アッシュの頃に証明済みだ。
「実は、この二人は異常なくらいに反りが合わないっす」
「……そうなのか」
 俺は二人の様子を見た。
 元々知っていたわけだが……まあ、見れば分かるな。
「騎士団長様は……」
「はいはい、セシリー! どうどう!」
 セシリーがミアの脇から顔を覗かせる。昔と同じにこやかな笑みである。
 口を開いた瞬間、ミアが視界を塞ぐように体を動かした。
「何でしょうか? 私は……」
「ほらほら! ニナも! 落ち着いて!」
 ニナが応じようとした瞬間、ミアが声を張り上げて遮った。こちらも笑みを浮かべていたが……。
 驚いた。セシリーとニナが変わらないこともだが、ミアの技量が素晴らしい。
「こんな感じで喧嘩ばかりっす」
「……団長と副団長なのに?」
 ミアが頷いた。
 悪戯っぽく笑うと、さらに続ける。
「騎士団と魔術師団に極秘の協定があるくらいっす」
「そんなものがあるのですか!?」
「……聞いてない!」
 二人が息を合わせて叫んだ。
 まあ、極秘だったということだろう。
 ミアはわざとらしく「しまった」という顔をして、二人に戻るように促した。
 極秘協定の話が効いたのか、二人はしぶしぶと去っていった。
 俺はグレイとセシルに小さく手を振った。
 同じ場所で野営しているんだ。また後で会うだろう。
「……次から任せたっす」
「無茶言うな」
 恐ろしい言葉に、俺はぎょっとミアを見た。