表示設定
表示設定
目次 目次




第三部 69話 過剰な伏線に対する特定地域固有の表現

ー/ー



 俺たちには関所近くのテントが与えられた。
 俺は女性陣の大きなテントへと近づいた。

「ナタリー? いるか?」
「いるよぉ」

 返事を受けて、俺はテントの中へと入る。
 ……覚悟はしていたが、一層ひどいな。

「…………」

 ああ。
 ミアとソフィアがいないから尚更、か。

 残ったナタリーとアリスはその中で――

「だらだらー」
「ごろごろー」

 ――ただひたすらにだらけていた。

 絶対に口で言う意味ねぇだろ。
 いや、言葉通りの状態なんだがな。

 アリスの魔法を最大限活用して、狭いテントに収まる程度のベッドすら作成している。さらにピノの生活系の魔法とソフィアの錬金術まで駆使して、快適な空間を作り上げていた。

 一応、男の俺には隣に一人用のテントを用意してもらった。
 昨日はそこで一晩を過ごしたのだが、気になる点が一つ。

 女性陣用の大きなテントに来るたび、生活レベルが劇的に改善されていくのだ。
 今回はベッドの上に立派なクッションが出来ていた。
 ジェルのような素材を大きな革で包み、肌触りの布で覆っているようだ。

 ……何ならこの世界のちょっとした発明まであるクオリティだった。
 その気になれば一財産を築いてもおかしくない気がする。

 隣にはサイドテーブルのような木製の台もある。
 おい、キャスターみたいなものが付いてるんだが? 移動できるのかよ。
 きっと、その部品一つで特許が取れるだろうな。

「はぁ……ナタリー?」
「何?」

 ナタリーが首を傾げて見せた。
 ベッドに寝転がって足をぶらぶらさせている。

 何の疑問も感じていない顔である。
 いや、疑問を持てよ! 最前線だぞ!? 自宅じゃねーよっ!

「人はここまで堕落するのね……」
「…………」

 エルが呆然と呟いた。流石に返す言葉もない。
 ちなみにエルはエリーナの電流こそ浴びたものの、大きな怪我はなかった。

「ナタリー、これからどうするんだ?」

 俺は思い切って聞いてみた。
 逃げ切ったものの、これで終わりとはいかないだろう。
 帝国軍が攻めてくるはずなのだ。組合員として動く必要がある。

 ましてや俺たちは実質『A級パーティ』と見なされているだろう。
 戦力に数えられているはずだ。

「…………え? どうするって?」
「明らかに惚けてるだろ」
「…………ん? 今なんて?」
「聞こえないフリをするな!?」

 駄目だ。完全に現実逃避してる。
 安心のあまり緩み切った状態だろう。

 ナタリーとアリスはあからさまに顔を背けて見せる。
 はっきり言うしかないということか。

「だから! 帝国軍が攻めてくるんだよ!
 いくら『エリーナ・コルト』から逃げきっても終わりじゃないんだ」

 その言葉は劇的だった。
 ナタリーアリスは冷や汗を流しながら目を逸らしている。

 こいつら『エリーナ・コルト』という単語だけで震えてやがる。
 昨日、あれだけ堂々と対峙していたのが嘘みたいだ。

「はぁ……分かってるわよ」
「今は休んでるだけじゃん」
 
 しかし、恐怖が収まると、二人は明るく笑って見せた。
 ……まあ、休息は必要だから良いけど。休息の範疇であれば、な。
 
「帝国軍が攻めてきたらちゃんと働くわよ」
「とは言え、ナタリーは情報収集だし、私は後衛だけどね」

 二人は安心しきったように微笑んだ。
 ……確かに、本来の二人の役割はそうだけどさ。
 
「これからは後方支援に徹していれば良いんでしょ?」
「そうそう! 組合長もゆっくり休めって言ってたし」
 
 ……確かに言っていたな。
 あの組合長が優しい声で「今は休んで良いぞ」って……ん?

「当然じゃない。あたしたちはここまで逃げてきたんだよ。
 これからしばらくは休んでも良いはずよ」
「だよねぇ! もっともこれだけ王国の戦力が揃ってるんだから。
 私たちはお役御免かもね……いやぁ、残念だなぁ」

 んん? 組合長が優しい?
 ……「今は」? おや?

「加えて少数精鋭での奇襲まで提案したんだよ。
 仕事は果たした。もう十分でしょ。あとは適任者に任せれば良いよ」
「て……適任者と言うと?」

 得意げなナタリーに加奈が青ざめた様子で訊いた。
 気持ちは分かる。俺も内心は同じ表情だ。

「んー、そうだなぁ……。前提としてメンバーは『最低でもA級レベル』かな。
 それから『城塞都市からここまでの地理に詳しいこと』でしょ。
 次に『最高戦力であるエリーナ・コルトと戦えること』かな。
 あとは場所とタイミングが重要だから『情報収集が得意であること』だね」
「…………」
「…………」

 ナタリーがすらすらと答えてゆく。
 俺と加奈が沈黙を重ねる。……あ、あれ?

「いやぁ……提案だけして後方支援だけって言うのは心苦しいけどね。
 まるで『言ったからには責任を持って自分が行け』とでも思われそうで」
「大丈夫よ。あれだけ頑張ったんだもの。
 私たちにこれ以上戦えなんて言うわけないじゃない。まっさかぁ」
「だよね! 流石にあるわけないよねぇ!」
「……あの、それくらいにした方が良いかも」

 けらけらと笑うナタリーとアリスに加奈が冷や汗を流しながら言った。
 日本から転生してきた俺たちは同じことを考えていただろう。

 ……めっちゃフラグ立てるじゃん。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第三部 70話 犬は犬、猿は猿


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 俺たちには関所近くのテントが与えられた。
 俺は女性陣の大きなテントへと近づいた。
「ナタリー? いるか?」
「いるよぉ」
 返事を受けて、俺はテントの中へと入る。
 ……覚悟はしていたが、一層ひどいな。
「…………」
 ああ。
 ミアとソフィアがいないから尚更、か。
 残ったナタリーとアリスはその中で――
「だらだらー」
「ごろごろー」
 ――ただひたすらにだらけていた。
 絶対に口で言う意味ねぇだろ。
 いや、言葉通りの状態なんだがな。
 アリスの魔法を最大限活用して、狭いテントに収まる程度のベッドすら作成している。さらにピノの生活系の魔法とソフィアの錬金術まで駆使して、快適な空間を作り上げていた。
 一応、男の俺には隣に一人用のテントを用意してもらった。
 昨日はそこで一晩を過ごしたのだが、気になる点が一つ。
 女性陣用の大きなテントに来るたび、生活レベルが劇的に改善されていくのだ。
 今回はベッドの上に立派なクッションが出来ていた。
 ジェルのような素材を大きな革で包み、肌触りの布で覆っているようだ。
 ……何ならこの世界のちょっとした発明まであるクオリティだった。
 その気になれば一財産を築いてもおかしくない気がする。
 隣にはサイドテーブルのような木製の台もある。
 おい、キャスターみたいなものが付いてるんだが? 移動できるのかよ。
 きっと、その部品一つで特許が取れるだろうな。
「はぁ……ナタリー?」
「何?」
 ナタリーが首を傾げて見せた。
 ベッドに寝転がって足をぶらぶらさせている。
 何の疑問も感じていない顔である。
 いや、疑問を持てよ! 最前線だぞ!? 自宅じゃねーよっ!
「人はここまで堕落するのね……」
「…………」
 エルが呆然と呟いた。流石に返す言葉もない。
 ちなみにエルはエリーナの電流こそ浴びたものの、大きな怪我はなかった。
「ナタリー、これからどうするんだ?」
 俺は思い切って聞いてみた。
 逃げ切ったものの、これで終わりとはいかないだろう。
 帝国軍が攻めてくるはずなのだ。組合員として動く必要がある。
 ましてや俺たちは実質『A級パーティ』と見なされているだろう。
 戦力に数えられているはずだ。
「…………え? どうするって?」
「明らかに惚けてるだろ」
「…………ん? 今なんて?」
「聞こえないフリをするな!?」
 駄目だ。完全に現実逃避してる。
 安心のあまり緩み切った状態だろう。
 ナタリーとアリスはあからさまに顔を背けて見せる。
 はっきり言うしかないということか。
「だから! 帝国軍が攻めてくるんだよ!
 いくら『エリーナ・コルト』から逃げきっても終わりじゃないんだ」
 その言葉は劇的だった。
 ナタリーアリスは冷や汗を流しながら目を逸らしている。
 こいつら『エリーナ・コルト』という単語だけで震えてやがる。
 昨日、あれだけ堂々と対峙していたのが嘘みたいだ。
「はぁ……分かってるわよ」
「今は休んでるだけじゃん」
 しかし、恐怖が収まると、二人は明るく笑って見せた。
 ……まあ、休息は必要だから良いけど。休息の範疇であれば、な。
「帝国軍が攻めてきたらちゃんと働くわよ」
「とは言え、ナタリーは情報収集だし、私は後衛だけどね」
 二人は安心しきったように微笑んだ。
 ……確かに、本来の二人の役割はそうだけどさ。
「これからは後方支援に徹していれば良いんでしょ?」
「そうそう! 組合長もゆっくり休めって言ってたし」
 ……確かに言っていたな。
 あの組合長が優しい声で「今は休んで良いぞ」って……ん?
「当然じゃない。あたしたちはここまで逃げてきたんだよ。
 これからしばらくは休んでも良いはずよ」
「だよねぇ! もっともこれだけ王国の戦力が揃ってるんだから。
 私たちはお役御免かもね……いやぁ、残念だなぁ」
 んん? 組合長が優しい?
 ……「今は」? おや?
「加えて少数精鋭での奇襲まで提案したんだよ。
 仕事は果たした。もう十分でしょ。あとは適任者に任せれば良いよ」
「て……適任者と言うと?」
 得意げなナタリーに加奈が青ざめた様子で訊いた。
 気持ちは分かる。俺も内心は同じ表情だ。
「んー、そうだなぁ……。前提としてメンバーは『最低でもA級レベル』かな。
 それから『城塞都市からここまでの地理に詳しいこと』でしょ。
 次に『最高戦力であるエリーナ・コルトと戦えること』かな。
 あとは場所とタイミングが重要だから『情報収集が得意であること』だね」
「…………」
「…………」
 ナタリーがすらすらと答えてゆく。
 俺と加奈が沈黙を重ねる。……あ、あれ?
「いやぁ……提案だけして後方支援だけって言うのは心苦しいけどね。
 まるで『言ったからには責任を持って自分が行け』とでも思われそうで」
「大丈夫よ。あれだけ頑張ったんだもの。
 私たちにこれ以上戦えなんて言うわけないじゃない。まっさかぁ」
「だよね! 流石にあるわけないよねぇ!」
「……あの、それくらいにした方が良いかも」
 けらけらと笑うナタリーとアリスに加奈が冷や汗を流しながら言った。
 日本から転生してきた俺たちは同じことを考えていただろう。
 ……めっちゃフラグ立てるじゃん。