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第三部 66話 王国の英雄

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 かつて、大陸全土で大きな戦争があった。
 大戦と呼ばれるその争いの勝者が『帝国』『連合』『王国』の三国である。
 大戦が収まった頃、それぞれに英雄が生まれていた。

『帝国の英雄』エリーナ・コルト。
 対人魔法の第一人者。魔法格闘術の創始者でもある。

『連合の英雄』アラン・サリンジャー。
 世界一の剣士。単純な近接戦闘では最強だろう。高齢のためすでに亡くなっている。

 そして『王国の英雄』ブラウン・バケット。
 正確無比な魔弾の射手。無名だったにも関わらず、その卓越した魔術で名を馳せた。



『王国の英雄』は関所の屋上からエリーナに腕を伸ばしていた。
 その手前には彼の娘とその仲間がいる。互いを庇うようにこちらへと走ってくる。

「……失礼ですが、助からないと思ってました」
「ははは、私は何とかする気がしていたよ」

 彼の隣で副団長のセシリー・ルイスが驚いた声を上げた。
 だが、無理もない。資料だけを見れば、ただの『B級冒険者』パーティだ。

 偶然『緑竜』を倒しただけ。
 しかし、ブラウン・バケットは『あの兄弟』なら戻ってくる気がしていた。

「だが、詰めが甘いのは相変わらずだな」
「?」

 彼の苦笑にセシリーは首を傾げた。
 それには答えず、彼はエリーナへと視線を戻す。

「さて、研究の発表会といこうじゃないか」

 エリーナが諦め悪く、ナタリーの背中を追おうとする。
 しかし、すでに彼はそこに魔弾を放っている。
 
 念のため、殺傷力の高い剣型の魔弾を多めに撃ってある。
 ここでエリーナが退けば、もう後を追えないからだ。
 
「……何だ?」
「え、突っ込んできた?」
 
 エリーナの予想外の行動に彼らは首を傾げた。
 エリーナは全身に細かい傷を負いながら、足を止めない。
 
「怪我が治ってる!」
「確かか?」
 
 彼は自分の使い魔である風の精霊『ジャック』に訊ねた。
 使い魔は何度も頷いて、全身で驚きを表している。
 
「……驚いた。治癒魔法を完成させたのか」
「!」

 その呟きにセシリーは目を見開いた。
 それは魔術の到達点の一つとまで言われていた。

「……仕方ない。本当なら戦闘では使いたくない技術だが」
「…………っ」

 エリーナと似た言葉を呟いて、ブラウン・バケットは改めて腕を伸ばした。
 その魔力に隣のセシリーが身を強張らせる。

「魔弾よ、描け」

 再度、魔弾が関所の上空に浮かんだ。
 見た目は普段の魔弾と変わらない。

 エリーナは執拗にナタリーを狙う。
 そこに魔弾の雨が迫る。エリーナが鬱陶しそうに弾く。

 すぐに驚いた様子を見せる。
 魔弾が着弾した場所に魔法陣が描かれたからだ。

『エリーナ・コルト』を囲むように、無数の魔法陣が描かれていた。
 忌々しそうにこちらを睨んだのが、彼にも見えた。

「魔弾よ、貫け」

 彼はさらに続ける。
 やがて魔弾は魔法陣に着弾し、次々に起動した。

 風の刃が襲い、地面から槍が飛び出す。
 氷の剣が同時に斬り付け、爆炎が連続で迫った。

「仕組みは簡単だな。魔弾で魔法陣を描くだけだ」
「…………」

 そう言って、彼は肩を竦めて見せた。
 隣でセシリーは考える。

 ――確かに仕組みは簡単だ。
 ――だが、実現することは言うほど簡単ではない。

 ――まず、遠くの魔法陣に当てることが前提。
 ――さらに、魔弾の保有魔力量は時間経過と共に減少する。
 
 魔術は『命令』に『魔力』を過不足なく流す必要がある。
 つまり、魔法陣に着弾する瞬間の魔力量を計算しなければならないのだ。

 魔法の遠隔起動。
 それが『ブラウン・バケット』の専攻分野だった。

 魔法陣を描くための魔法。
『レン・クーガー』の魔法から着想を得た技術である。

 連続する魔法を一通り対処すると、エリーナがもう一度彼を睨んだ。
 しかし不機嫌そうに顔を背けると、大きく後ろへと跳んだ。

「やっと諦めたか」
 彼が呟くのと、彼の娘が関所に飛び込んだのは同時だった。



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 かつて、大陸全土で大きな戦争があった。
 大戦と呼ばれるその争いの勝者が『帝国』『連合』『王国』の三国である。
 大戦が収まった頃、それぞれに英雄が生まれていた。
『帝国の英雄』エリーナ・コルト。
 対人魔法の第一人者。魔法格闘術の創始者でもある。
『連合の英雄』アラン・サリンジャー。
 世界一の剣士。単純な近接戦闘では最強だろう。高齢のためすでに亡くなっている。
 そして『王国の英雄』ブラウン・バケット。
 正確無比な魔弾の射手。無名だったにも関わらず、その卓越した魔術で名を馳せた。
『王国の英雄』は関所の屋上からエリーナに腕を伸ばしていた。
 その手前には彼の娘とその仲間がいる。互いを庇うようにこちらへと走ってくる。
「……失礼ですが、助からないと思ってました」
「ははは、私は何とかする気がしていたよ」
 彼の隣で副団長のセシリー・ルイスが驚いた声を上げた。
 だが、無理もない。資料だけを見れば、ただの『B級冒険者』パーティだ。
 偶然『緑竜』を倒しただけ。
 しかし、ブラウン・バケットは『あの兄弟』なら戻ってくる気がしていた。
「だが、詰めが甘いのは相変わらずだな」
「?」
 彼の苦笑にセシリーは首を傾げた。
 それには答えず、彼はエリーナへと視線を戻す。
「さて、研究の発表会といこうじゃないか」
 エリーナが諦め悪く、ナタリーの背中を追おうとする。
 しかし、すでに彼はそこに魔弾を放っている。
 念のため、殺傷力の高い剣型の魔弾を多めに撃ってある。
 ここでエリーナが退けば、もう後を追えないからだ。
「……何だ?」
「え、突っ込んできた?」
 エリーナの予想外の行動に彼らは首を傾げた。
 エリーナは全身に細かい傷を負いながら、足を止めない。
「怪我が治ってる!」
「確かか?」
 彼は自分の使い魔である風の精霊『ジャック』に訊ねた。
 使い魔は何度も頷いて、全身で驚きを表している。
「……驚いた。治癒魔法を完成させたのか」
「!」
 その呟きにセシリーは目を見開いた。
 それは魔術の到達点の一つとまで言われていた。
「……仕方ない。本当なら戦闘では使いたくない技術だが」
「…………っ」
 エリーナと似た言葉を呟いて、ブラウン・バケットは改めて腕を伸ばした。
 その魔力に隣のセシリーが身を強張らせる。
「魔弾よ、描け」
 再度、魔弾が関所の上空に浮かんだ。
 見た目は普段の魔弾と変わらない。
 エリーナは執拗にナタリーを狙う。
 そこに魔弾の雨が迫る。エリーナが鬱陶しそうに弾く。
 すぐに驚いた様子を見せる。
 魔弾が着弾した場所に魔法陣が描かれたからだ。
『エリーナ・コルト』を囲むように、無数の魔法陣が描かれていた。
 忌々しそうにこちらを睨んだのが、彼にも見えた。
「魔弾よ、貫け」
 彼はさらに続ける。
 やがて魔弾は魔法陣に着弾し、次々に起動した。
 風の刃が襲い、地面から槍が飛び出す。
 氷の剣が同時に斬り付け、爆炎が連続で迫った。
「仕組みは簡単だな。魔弾で魔法陣を描くだけだ」
「…………」
 そう言って、彼は肩を竦めて見せた。
 隣でセシリーは考える。
 ――確かに仕組みは簡単だ。
 ――だが、実現することは言うほど簡単ではない。
 ――まず、遠くの魔法陣に当てることが前提。
 ――さらに、魔弾の保有魔力量は時間経過と共に減少する。
 魔術は『命令』に『魔力』を過不足なく流す必要がある。
 つまり、魔法陣に着弾する瞬間の魔力量を計算しなければならないのだ。
 魔法の遠隔起動。
 それが『ブラウン・バケット』の専攻分野だった。
 魔法陣を描くための魔法。
『レン・クーガー』の魔法から着想を得た技術である。
 連続する魔法を一通り対処すると、エリーナがもう一度彼を睨んだ。
 しかし不機嫌そうに顔を背けると、大きく後ろへと跳んだ。
「やっと諦めたか」
 彼が呟くのと、彼の娘が関所に飛び込んだのは同時だった。