表示設定
表示設定
目次 目次




第三部 64話 撤退

ー/ー



 そして、エリーナが一歩前に出る。
 逆に俺たちは軽く後ずさる。

「とにかく、態勢を一度整え――」
「ミア!」
「危ない!」

 ミアが言い切るより先にエリーナが踏み込んだ。
 急いで障壁を幾重にも張った。同時にソフィアが壁を錬金しようとする。

 同時に飛び込んだ白い剣に俺の障壁は全て砕かれる。
 しかしソフィアの壁が何とか間に合って、エリーナの突撃を止める。
 
 ……速い。
 エルの『青い幻』がなければ反応すらできないだろう。

 さらにエリーナは壁を迂回するようにその場で回転した。
 そのまま赤い本を振るう。

「ミア!」
「しゃがんで!」

 反応速度に優れた俺とソフィアが一斉に叫ぶ。
 ミアがほとんど反射的に腰を落とす。

「……っ」
 
 その頭上を青白い炎が通り抜けていった。
 冷や汗を流すミアを尻目に、エリーナは赤い本を戻すように払った。

 まるで大きなうちわで扇がれたかのように。
 一際強い突風が走った。

「ぐ……!」

 ミアが上空へと弾き飛ばされた。
 そこに左手を伸ばしてエリーナが狙いを定める。

 ――させるか。

 俺はそこに踏み込んで接近戦を仕掛ける。
 右の小剣と左のナイフによる猛攻。

 小剣を真横に払い、同時に逆手のナイフを斬り上げる。
 ナイフを順手に握り直して斬り返す。

 流れに逆らわず小剣を袈裟に斬り下ろす。
 さらにナイフを喉目掛けて突き出した。

 今度は小剣で下段を払う。同時に再度喉を突く。
 さらに間合いの差を狙って、首を掠めるように小剣を返した。

 ――くそ、化物どころじゃないだろう。

 だが、エリーナは左手を下げない。
 氷剣が出来上がっていく。

 最低限の動きで俺の全力を回避してゆく。
 半歩下がり、軽く身を引いて避ける。

 さらにもう一歩下がって、軽く右にずれた。
 喉への刺突は風の魔法で逸らす。

 下段の払いは綺麗に跳んで、二度目の刺突は首を傾ける。
 最後の一撃は作った氷剣の一振りがついでに防いで見せた。

 そしてミアへと氷剣を放つ。
 ソフィアがフォローに向かった気配があった。

 ……そして俺は頬を引きつらせる。
 エリーナが俺へと向き直ったからだ。

 エリーナの白い剣が二振り同時に襲ってくる。
 一方を小剣で弾くと、俺はエリーナへと踏み込んだ。

 姿勢を低くすることでもう一方の白い剣を避けてナイフを払う。
 エリーナは軽く身を引いて避けると、氷剣を作り出す。

 俺の首と心臓、さらに両足めがけて飛んできた。
 首への一撃を小剣で弾くと、心臓の方はナイフを返して叩き落す。
 両足へ向かったものは魔弾で相殺して何とかしのぐ。

 ……手を止めたら駄目だ。

 防戦一方になったら勝ち目がない。
 つーか、今守りに入ったら死ぬだろ。

 俺は恐怖を押して踏み込んだ。
 エリーナの脳天目掛けて小剣を振り下ろす。

 戻って来た白い剣が受ける。
 もう一振りの白い剣はしゃがんで避けた。同時にナイフで斬り付ける。
 
「……う」

 エリーナはその刃を左手で『掴んだ』。
 ナイフを赤い血が伝う。その掌から白い湯気が上がっている。
 この程度の傷なら『治癒魔法』で治るということか。

 ――やばい。

 俺の鼻先にエリーナが赤い本を突き付ける。
 例の炎が来る! 間に合わない!?

「……諦めが悪い」

 詰んだと思った瞬間。エリーナが溜息と一緒に後ろへと跳んだ。
 エリーナが立っていた場所を高速で『石ころ』が飛んで行った。
 
「無事っすか?」

『小惑星』ミア・クラークが前線に復帰する。全身に細かい傷を作りながらも五体満足だった。
 その周囲を二つ名の由来となった神鋼の原石が公転している。

「無事じゃない。多分さっきの光景を夢に見る」

 鼻先に赤い本があったのだ。
 あと一秒ミアが遅れていれば、俺の顔は丸焦げだ。

「……元気そうで良かったっす」

 駄目だ。
 会話が噛み合っていない。

「――撤退!」

 そこでナタリーが叫んだ。
 ひとまず十分に時間が稼げたということだろう。

 関所へと向かわなければならない。
 この人から逃げながら。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第三部 65話 三回目


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 そして、エリーナが一歩前に出る。
 逆に俺たちは軽く後ずさる。
「とにかく、態勢を一度整え――」
「ミア!」
「危ない!」
 ミアが言い切るより先にエリーナが踏み込んだ。
 急いで障壁を幾重にも張った。同時にソフィアが壁を錬金しようとする。
 同時に飛び込んだ白い剣に俺の障壁は全て砕かれる。
 しかしソフィアの壁が何とか間に合って、エリーナの突撃を止める。
 ……速い。
 エルの『青い幻』がなければ反応すらできないだろう。
 さらにエリーナは壁を迂回するようにその場で回転した。
 そのまま赤い本を振るう。
「ミア!」
「しゃがんで!」
 反応速度に優れた俺とソフィアが一斉に叫ぶ。
 ミアがほとんど反射的に腰を落とす。
「……っ」
 その頭上を青白い炎が通り抜けていった。
 冷や汗を流すミアを尻目に、エリーナは赤い本を戻すように払った。
 まるで大きなうちわで扇がれたかのように。
 一際強い突風が走った。
「ぐ……!」
 ミアが上空へと弾き飛ばされた。
 そこに左手を伸ばしてエリーナが狙いを定める。
 ――させるか。
 俺はそこに踏み込んで接近戦を仕掛ける。
 右の小剣と左のナイフによる猛攻。
 小剣を真横に払い、同時に逆手のナイフを斬り上げる。
 ナイフを順手に握り直して斬り返す。
 流れに逆らわず小剣を袈裟に斬り下ろす。
 さらにナイフを喉目掛けて突き出した。
 今度は小剣で下段を払う。同時に再度喉を突く。
 さらに間合いの差を狙って、首を掠めるように小剣を返した。
 ――くそ、化物どころじゃないだろう。
 だが、エリーナは左手を下げない。
 氷剣が出来上がっていく。
 最低限の動きで俺の全力を回避してゆく。
 半歩下がり、軽く身を引いて避ける。
 さらにもう一歩下がって、軽く右にずれた。
 喉への刺突は風の魔法で逸らす。
 下段の払いは綺麗に跳んで、二度目の刺突は首を傾ける。
 最後の一撃は作った氷剣の一振りがついでに防いで見せた。
 そしてミアへと氷剣を放つ。
 ソフィアがフォローに向かった気配があった。
 ……そして俺は頬を引きつらせる。
 エリーナが俺へと向き直ったからだ。
 エリーナの白い剣が二振り同時に襲ってくる。
 一方を小剣で弾くと、俺はエリーナへと踏み込んだ。
 姿勢を低くすることでもう一方の白い剣を避けてナイフを払う。
 エリーナは軽く身を引いて避けると、氷剣を作り出す。
 俺の首と心臓、さらに両足めがけて飛んできた。
 首への一撃を小剣で弾くと、心臓の方はナイフを返して叩き落す。
 両足へ向かったものは魔弾で相殺して何とかしのぐ。
 ……手を止めたら駄目だ。
 防戦一方になったら勝ち目がない。
 つーか、今守りに入ったら死ぬだろ。
 俺は恐怖を押して踏み込んだ。
 エリーナの脳天目掛けて小剣を振り下ろす。
 戻って来た白い剣が受ける。
 もう一振りの白い剣はしゃがんで避けた。同時にナイフで斬り付ける。
「……う」
 エリーナはその刃を左手で『掴んだ』。
 ナイフを赤い血が伝う。その掌から白い湯気が上がっている。
 この程度の傷なら『治癒魔法』で治るということか。
 ――やばい。
 俺の鼻先にエリーナが赤い本を突き付ける。
 例の炎が来る! 間に合わない!?
「……諦めが悪い」
 詰んだと思った瞬間。エリーナが溜息と一緒に後ろへと跳んだ。
 エリーナが立っていた場所を高速で『石ころ』が飛んで行った。
「無事っすか?」
『小惑星』ミア・クラークが前線に復帰する。全身に細かい傷を作りながらも五体満足だった。
 その周囲を二つ名の由来となった神鋼の原石が公転している。
「無事じゃない。多分さっきの光景を夢に見る」
 鼻先に赤い本があったのだ。
 あと一秒ミアが遅れていれば、俺の顔は丸焦げだ。
「……元気そうで良かったっす」
 駄目だ。
 会話が噛み合っていない。
「――撤退!」
 そこでナタリーが叫んだ。
 ひとまず十分に時間が稼げたということだろう。
 関所へと向かわなければならない。
 この人から逃げながら。