第三部 62話 開幕
ー/ー 予定通り、翌日は一日移動に使った。
そのまま街道の近くで野営するが、王都からの人影はない。
こちらが送った伝令が伝わっているということだろう。
いつも通りに商人が往来していたら面倒なことになったはずだ。
王都からの伝令が返ってこないことは気になったが、ナタリーが言うには「森を抜けた時にすれ違ったんだと思う」とのことだった。どちらにせよ、このまま関所まで逃げ込むだけだ。
「……今更だけど『エリーナ・コルト』の強さって組合で言えばどれくらいなんだろうな?」
簡単な夕食を取りながら、軽い調子で聞いてみた。
だが、隣のソフィアも首を傾げている。二人でナタリーを見る。
「うーん? どうだろうね、師匠?」
「んん?」
しかしナタリーでも判断が難しいらしく、ミアを見た。
ミアは森で補充した肉を食べていたが、一度手を止める。
「そうっすねぇ……。前提として正しく評価はできないっすね。
組合のランクは『S級』までしかないから。その上で言えば『S級』なのは間違いない」
ミアはそう言って、さらに続けた。
俺とソフィアを交互に見る。
「つまり、本来は『A級』五人以上。言っちゃ悪いっすけど、キースとソフィアで倒せる相手じゃないっす」
「……そりゃそうだ」
「……大丈夫。そこまで馬鹿じゃないわ」
遠慮がちなミアの言葉に俺とソフィアが応じた。
ミアは「はっはっは」と豪快に笑うとさらに続ける。
今度は全員を見渡した。
「……だけど、当然『S級』にも上下があるっす」
確かに。十段階に満たない評価基準でしかないのだ。
全員に順位が付いていれば分かりやすいが、組合としては競っているわけでもない。
「ここにいる五人を合わせれば『S級』の上位には届くっすね。
『A級』の上位が三人と、ほぼ『A級』が二人、という見立てっす」
全員が頷いた。
王都で『緑竜』を倒せたのもちょうど説明が付く計算だ。
しかし、ミアは大きく溜息を吐いた。
皮肉げに口元を歪めて続ける。
「問題は『エリーナ・コルト』が『S級』の上位どころではないこと。
あたしの見立てだと最上位の『スキルマスター』ラルフ・コーネルに匹敵している。
いや、ひょっとしたら全盛期を過ぎた今のラルフさんよりも上かも知れない」
……そりゃそうか。魔術師団の最高戦力と同等なんだ。
組合の最高戦力と同等と考えるべきだろう。
「完璧に有利な条件を整えた上で、この五人全員で戦えば五分ってところ。あたしの計算はそんな感じっす。
何が原因だったのかは分からないけど『エリーナ・コルト』は全力を出し切ってはいなかったはず」
そこまで言って、ミアはにっと笑った。
「結論を出すとすれば……『ラルフ級』っすね!」
「…………」
その言葉の説得力に、全員が憂鬱そうに俯いた。
ここにいる全員、ラルフさんの出鱈目さは良く知っていたのだろう。
……あの人、マジであらゆるスキルの上位互換を持ってるかもしれないからなぁ。
――おそらくは全員が思っていた。
――もう『化物級』で良いよ、と。
ラルフさんが「風評被害だなぁ」と呟いた気がした。
一夜明けて、早朝。
ナタリーは目を擦りながらずるずると歩いて来た。
「おはよ」
「すぴー」
……ずるずるとアリスを引き摺って歩いて来たのだ。
生活能力なさすぎないか、と思わず心配してしまう。
今日中に関所を抜ける必要があるので、出発はいつもより早い。
流石に俺やソフィアも少し眠気があった。ミアは慣れた様子だったが。
「さて、ここから目的の関所までは一直線に街道を進むだけよ」
「……簡単に言ってくれるなぁ」
「あはは。難しく言ってほしいの?」
「う」
「やめて」
「すぴぃ……」
俺の軽口にナタリーが応じる。
俺が言葉に詰まり、ソフィアは暗い目で顔を背け、アリスが悪夢に魘されるような様子でいやいやと首を左右に振った。
「ま、簡単な方が良さそうっすね」
「でしょ?」
ミアの言葉にナタリーが応じる。俺の失言だったらしい。
ナタリーが胸を張って宣言する。
「夢も希望もない。絶望しかないんだから目を逸らさないと。
どれだけ救いがない状態でも、諦めた方がマシなんて言っちゃダメなんだよっ!」
「言ってるっす」
そして、本隊が関所へと向かって出発した。
夕方には到着する計算だ……上手くいけば。
ここからはピノだけが上空から偵察を行い、他のメンバーは隊列の後を離れて進む。
この陣形はナタリーの案だ。もしも『エリーナ・コルト』が意表を突いて正面から現れた場合、ピノが関所まで先行することになっている。
今まではナタリーの護衛で離れられなかったが、ここまで来ればその手が取れる。
そうすれば、後は『エリーナ・コルト』を前後から挟めば良い。
だが、隊列の背後から襲われた場合、逃げる背中を狙い放題なのだ。
加えて、俺たち五人を分散させると各個撃破されると言っていた。
「……!」
結果的にその考えは当たっていたのだろう。
昼を少し過ぎた頃。エリーナが姿を見せた。
例の砲弾のような移動によって、殿を務める俺たちのさらに後ろに着地したのだ。
互いの間合いの少し外。
すでに赤い本を構えていた。
「……やあ」
今までと同じように気軽に声を掛けてくるが、温かさは感じなかった。
エリーナは獰猛な笑みを浮かべる。
「約束通り、殺しに来たぞ」
そのまま街道の近くで野営するが、王都からの人影はない。
こちらが送った伝令が伝わっているということだろう。
いつも通りに商人が往来していたら面倒なことになったはずだ。
王都からの伝令が返ってこないことは気になったが、ナタリーが言うには「森を抜けた時にすれ違ったんだと思う」とのことだった。どちらにせよ、このまま関所まで逃げ込むだけだ。
「……今更だけど『エリーナ・コルト』の強さって組合で言えばどれくらいなんだろうな?」
簡単な夕食を取りながら、軽い調子で聞いてみた。
だが、隣のソフィアも首を傾げている。二人でナタリーを見る。
「うーん? どうだろうね、師匠?」
「んん?」
しかしナタリーでも判断が難しいらしく、ミアを見た。
ミアは森で補充した肉を食べていたが、一度手を止める。
「そうっすねぇ……。前提として正しく評価はできないっすね。
組合のランクは『S級』までしかないから。その上で言えば『S級』なのは間違いない」
ミアはそう言って、さらに続けた。
俺とソフィアを交互に見る。
「つまり、本来は『A級』五人以上。言っちゃ悪いっすけど、キースとソフィアで倒せる相手じゃないっす」
「……そりゃそうだ」
「……大丈夫。そこまで馬鹿じゃないわ」
遠慮がちなミアの言葉に俺とソフィアが応じた。
ミアは「はっはっは」と豪快に笑うとさらに続ける。
今度は全員を見渡した。
「……だけど、当然『S級』にも上下があるっす」
確かに。十段階に満たない評価基準でしかないのだ。
全員に順位が付いていれば分かりやすいが、組合としては競っているわけでもない。
「ここにいる五人を合わせれば『S級』の上位には届くっすね。
『A級』の上位が三人と、ほぼ『A級』が二人、という見立てっす」
全員が頷いた。
王都で『緑竜』を倒せたのもちょうど説明が付く計算だ。
しかし、ミアは大きく溜息を吐いた。
皮肉げに口元を歪めて続ける。
「問題は『エリーナ・コルト』が『S級』の上位どころではないこと。
あたしの見立てだと最上位の『スキルマスター』ラルフ・コーネルに匹敵している。
いや、ひょっとしたら全盛期を過ぎた今のラルフさんよりも上かも知れない」
……そりゃそうか。魔術師団の最高戦力と同等なんだ。
組合の最高戦力と同等と考えるべきだろう。
「完璧に有利な条件を整えた上で、この五人全員で戦えば五分ってところ。あたしの計算はそんな感じっす。
何が原因だったのかは分からないけど『エリーナ・コルト』は全力を出し切ってはいなかったはず」
そこまで言って、ミアはにっと笑った。
「結論を出すとすれば……『ラルフ級』っすね!」
「…………」
その言葉の説得力に、全員が憂鬱そうに俯いた。
ここにいる全員、ラルフさんの出鱈目さは良く知っていたのだろう。
……あの人、マジであらゆるスキルの上位互換を持ってるかもしれないからなぁ。
――おそらくは全員が思っていた。
――もう『化物級』で良いよ、と。
ラルフさんが「風評被害だなぁ」と呟いた気がした。
一夜明けて、早朝。
ナタリーは目を擦りながらずるずると歩いて来た。
「おはよ」
「すぴー」
……ずるずるとアリスを引き摺って歩いて来たのだ。
生活能力なさすぎないか、と思わず心配してしまう。
今日中に関所を抜ける必要があるので、出発はいつもより早い。
流石に俺やソフィアも少し眠気があった。ミアは慣れた様子だったが。
「さて、ここから目的の関所までは一直線に街道を進むだけよ」
「……簡単に言ってくれるなぁ」
「あはは。難しく言ってほしいの?」
「う」
「やめて」
「すぴぃ……」
俺の軽口にナタリーが応じる。
俺が言葉に詰まり、ソフィアは暗い目で顔を背け、アリスが悪夢に魘されるような様子でいやいやと首を左右に振った。
「ま、簡単な方が良さそうっすね」
「でしょ?」
ミアの言葉にナタリーが応じる。俺の失言だったらしい。
ナタリーが胸を張って宣言する。
「夢も希望もない。絶望しかないんだから目を逸らさないと。
どれだけ救いがない状態でも、諦めた方がマシなんて言っちゃダメなんだよっ!」
「言ってるっす」
そして、本隊が関所へと向かって出発した。
夕方には到着する計算だ……上手くいけば。
ここからはピノだけが上空から偵察を行い、他のメンバーは隊列の後を離れて進む。
この陣形はナタリーの案だ。もしも『エリーナ・コルト』が意表を突いて正面から現れた場合、ピノが関所まで先行することになっている。
今まではナタリーの護衛で離れられなかったが、ここまで来ればその手が取れる。
そうすれば、後は『エリーナ・コルト』を前後から挟めば良い。
だが、隊列の背後から襲われた場合、逃げる背中を狙い放題なのだ。
加えて、俺たち五人を分散させると各個撃破されると言っていた。
「……!」
結果的にその考えは当たっていたのだろう。
昼を少し過ぎた頃。エリーナが姿を見せた。
例の砲弾のような移動によって、殿を務める俺たちのさらに後ろに着地したのだ。
互いの間合いの少し外。
すでに赤い本を構えていた。
「……やあ」
今までと同じように気軽に声を掛けてくるが、温かさは感じなかった。
エリーナは獰猛な笑みを浮かべる。
「約束通り、殺しに来たぞ」
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