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第三部 59話 最後の言葉

ー/ー



 よし、やろう。
 味方の援護が来るまで生き延びる。

 小剣を右手に握り直す。さらに左手でナイフを抜いた。
 小剣だけでは捌ききれない。

 正面のエリーナを小剣で斬り払う。
 同時に左のナイフを斬り上げて白い剣を弾く。
 
「……!」

 右からもう一方の白い剣が迫る様子が『見えた』。
 動きは止めずに前へと転がる。エリーナの脇を抜けた形だ。

 お互いに振り向いていない。
 振り向いているのはエルだけだ。

 俺はエリーナの背中へと魔弾をいくつも放った。
 エリーナと俺が同時に振り返る。

「……!?」

 エリーナの驚いた顔。
 だが、風の魔法が魔弾をいなす。

 ――そこに障壁を張った。

「何?」

 跳ね返って来た魔弾にエリーナが目を見張る。
 この動きはまだ見せていないはずだ。

 ちらりとエリーナが振り返り、白い剣の一つが魔弾の迎撃に向かう。
 一瞬にも満たないその隙に踏み込んだ。

 頭上のエルが左右の視界をくれる。
 もう一方の白い剣が右から迫っていた。

 ――足を止めたら意味がない。

 俺はエリーナの左側の足元へと飛び込んだ。そのまま小剣を横に払う。
 まるでエリーナの周りを飛び回っているようだった。

 ――くそ。

 それでも手応えはなかった。
 軽く剣筋を逸らされる感覚は風の魔法だった。

 俺は飛び込んだ勢いそのままに左の肩から地面に着地する。
 そのまま一回転して振り返る。まだ動いていないのはすでに『見えている』。

「……なるほど。反射速度を強化しているが、もともと優れていたわけだ。
 それに加えて『魔力特性』か。これでは帝国と王国の間に差が開くのも仕方ないな」
「どうも。昔から勘が良いんだ」

 わざとらしく会釈をして見せる。
 エリーナがやはり楽しそうに笑った。



 今度はエリーナが先に踏み込んだ。
 同時に二本の白い剣が飛んでくる。

 正面からエリーナが赤い本を払う。
 白い剣は退路を断つように一本。

 もう一本は……?

「真上よ!」

 エルが上を見る。
 頭上の一本が俺の顔目掛けて飛んでくる。

 俺は横に軽く跳んで避ける……そこにエリーナの炎が迫ってきた。
 エルの方の視界には後ろにあった白い剣の薙ぎ払いも見えている。
 
 くそ。大人げないにも程がある。
 格下相手に三対一のようなものじゃないか。

 俺は腰を落として背後からの剣を避け――
 
「……ほう」
 エリーナが興味深そうな声を上げた。

 ――左手でナイフを握ったまま、エリーナの右手の手首を掴んだ。

 だが、それは一瞬だった。
 エリーナはそのまま体を一回転させる。

 まるで一本背負いだな、なんて無駄な思考をした。
 だが、そんなもので済むわけがなかったのだ。

「……な」
 
 気が付けば俺は森の上空へと投げ飛ばされていた。
 風の魔法を交えた体術……!

 そうだ。
 一度吹き飛ばされているじゃないか。

 エリーナが頭上の俺へと狙いを定める。
 二本の白い剣と氷の刃がこちらを向いた。

「格闘ができないと思われるのは心外だな?」

 エリーナが呟き、一斉にそれらが放たれる。
 いくつかを魔弾で応じて撃ち落とした。だが、数が違いすぎる。

「この!」

 障壁と両手で致命傷を避けるものの、氷剣が俺の全身に細かな傷をつけていく。
 最後に白い剣が迫るのを見て――悪あがきをした。

 足元に障壁を張る。
 そのまま強く蹴りつけて、一太刀分だけ生き延びた。

 すぐに白い剣が斬り返す。
 二度は通じないだろう。

「……ちくしょう。何もない」

 何かないかと探しながら、何もないと分かっていた。
 やがて最後に浮かんだのは『先生のようにならないで』だった。
 
 そして後悔した。
 どんな意味だとしても、最期の言葉にしたくなかった。



 ……聞き慣れた音をいくつも聞いた。
 
 ――じゃらじゃら、とうるさい鎖が鳴る音。
 ――バチ、という錬金音。
 ――ガキン、と金属が弾かれる音。
 
 鎖を使用した高速移動。
 元教え子は神鋼の盾で全て防いで見せた。

 そのまま鎖で俺を捕まえると、勢いを殺しながら着地した。
 俺を後ろに放ると、油断なく『エリーナ・コルト』と向き直る。

「……バカじゃないの?
 団体行動中は勝手な真似はするなって学院で習ったでしょう?」
「ごめん。意外かも知れないけど、実はあまり成績が良くなくて」

 憎まれ口を叩きながら『ソフィア・ターナー』が援護にやってきてくれた。
 ……俺が覚えているわけないだろ、とは続けられなかった。

 きっと声が震えてしまう。



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 よし、やろう。
 味方の援護が来るまで生き延びる。
 小剣を右手に握り直す。さらに左手でナイフを抜いた。
 小剣だけでは捌ききれない。
 正面のエリーナを小剣で斬り払う。
 同時に左のナイフを斬り上げて白い剣を弾く。
「……!」
 右からもう一方の白い剣が迫る様子が『見えた』。
 動きは止めずに前へと転がる。エリーナの脇を抜けた形だ。
 お互いに振り向いていない。
 振り向いているのはエルだけだ。
 俺はエリーナの背中へと魔弾をいくつも放った。
 エリーナと俺が同時に振り返る。
「……!?」
 エリーナの驚いた顔。
 だが、風の魔法が魔弾をいなす。
 ――そこに障壁を張った。
「何?」
 跳ね返って来た魔弾にエリーナが目を見張る。
 この動きはまだ見せていないはずだ。
 ちらりとエリーナが振り返り、白い剣の一つが魔弾の迎撃に向かう。
 一瞬にも満たないその隙に踏み込んだ。
 頭上のエルが左右の視界をくれる。
 もう一方の白い剣が右から迫っていた。
 ――足を止めたら意味がない。
 俺はエリーナの左側の足元へと飛び込んだ。そのまま小剣を横に払う。
 まるでエリーナの周りを飛び回っているようだった。
 ――くそ。
 それでも手応えはなかった。
 軽く剣筋を逸らされる感覚は風の魔法だった。
 俺は飛び込んだ勢いそのままに左の肩から地面に着地する。
 そのまま一回転して振り返る。まだ動いていないのはすでに『見えている』。
「……なるほど。反射速度を強化しているが、もともと優れていたわけだ。
 それに加えて『魔力特性』か。これでは帝国と王国の間に差が開くのも仕方ないな」
「どうも。昔から勘が良いんだ」
 わざとらしく会釈をして見せる。
 エリーナがやはり楽しそうに笑った。
 今度はエリーナが先に踏み込んだ。
 同時に二本の白い剣が飛んでくる。
 正面からエリーナが赤い本を払う。
 白い剣は退路を断つように一本。
 もう一本は……?
「真上よ!」
 エルが上を見る。
 頭上の一本が俺の顔目掛けて飛んでくる。
 俺は横に軽く跳んで避ける……そこにエリーナの炎が迫ってきた。
 エルの方の視界には後ろにあった白い剣の薙ぎ払いも見えている。
 くそ。大人げないにも程がある。
 格下相手に三対一のようなものじゃないか。
 俺は腰を落として背後からの剣を避け――
「……ほう」
 エリーナが興味深そうな声を上げた。
 ――左手でナイフを握ったまま、エリーナの右手の手首を掴んだ。
 だが、それは一瞬だった。
 エリーナはそのまま体を一回転させる。
 まるで一本背負いだな、なんて無駄な思考をした。
 だが、そんなもので済むわけがなかったのだ。
「……な」
 気が付けば俺は森の上空へと投げ飛ばされていた。
 風の魔法を交えた体術……!
 そうだ。
 一度吹き飛ばされているじゃないか。
 エリーナが頭上の俺へと狙いを定める。
 二本の白い剣と氷の刃がこちらを向いた。
「格闘ができないと思われるのは心外だな?」
 エリーナが呟き、一斉にそれらが放たれる。
 いくつかを魔弾で応じて撃ち落とした。だが、数が違いすぎる。
「この!」
 障壁と両手で致命傷を避けるものの、氷剣が俺の全身に細かな傷をつけていく。
 最後に白い剣が迫るのを見て――悪あがきをした。
 足元に障壁を張る。
 そのまま強く蹴りつけて、一太刀分だけ生き延びた。
 すぐに白い剣が斬り返す。
 二度は通じないだろう。
「……ちくしょう。何もない」
 何かないかと探しながら、何もないと分かっていた。
 やがて最後に浮かんだのは『先生のようにならないで』だった。
 そして後悔した。
 どんな意味だとしても、最期の言葉にしたくなかった。
 ……聞き慣れた音をいくつも聞いた。
 ――じゃらじゃら、とうるさい鎖が鳴る音。
 ――バチ、という錬金音。
 ――ガキン、と金属が弾かれる音。
 鎖を使用した高速移動。
 元教え子は神鋼の盾で全て防いで見せた。
 そのまま鎖で俺を捕まえると、勢いを殺しながら着地した。
 俺を後ろに放ると、油断なく『エリーナ・コルト』と向き直る。
「……バカじゃないの?
 団体行動中は勝手な真似はするなって学院で習ったでしょう?」
「ごめん。意外かも知れないけど、実はあまり成績が良くなくて」
 憎まれ口を叩きながら『ソフィア・ターナー』が援護にやってきてくれた。
 ……俺が覚えているわけないだろ、とは続けられなかった。
 きっと声が震えてしまう。