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第三部 58話 頭上の視界

ー/ー



 じり、とエリーナから一歩下がる。
 エリーナが同時に一歩詰める。先ほど言った通り、逃がすつもりはないらしい。

「……対象は『エリーナ・コルト』だけど、今回はある程度私に任せてもらえる?
 このままだと多分、私たちは死ぬわ」

 エルが提案をしてくる。
『青い幻』の対象を臨機応変に変更してくれるということだろう。
 迷わず頷いて、小剣を両手で構えた。

「……っ」

 無造作にエリーナが踏み込んだ。
 右手の赤い本を振りかぶる。

「この」

 予想していた俺は小剣を『青い幻』に合わせる。
 低く腰を落としたエリーナの顔をカウンターの要領で斬り付けた。

 その瞬間、エリーナの体がふわりと浮いた。
 見覚えがある。アリスの風と同じだ。俺の小剣が空振った。

「避けて!」
「……!」

 エルの言葉に急いで前へと転がった。
 すぐに熱が届いてきた。地面が焼けるような嫌な音。

 家を焼き切った炎の魔法か。
 あんなものを食らったら即死だぞ。

「まだよ!」

 振り返るより早くエルが再度叫ぶ。
 その場で左に大きく跳び退いた。

 俺がいた場所に氷の剣や槍が突き刺さる。
 ソフィアが言っていた氷の魔法だ。

「しゃがんで!」

 急いで言われた通りにした。
 エリーナに背を向けたまま、その場に腰を落とす。

 俺の頭の上を何かが通り過ぎて行った。
 距離を稼ぐために前へと跳んで、ようやく後ろを振り返る。

「……よく避ける」
「……勘が良いんだ」

 エリーナがどこか楽し気に呟き、俺の軽口に笑みを深くした。
 見れば、エリーナの両隣には白い剣が浮いている。

 ――俺の頭を掠めたのはあれか。

 先ほどしゃがんだ時の様子を冷静に考えた後、ぞっとした。
 エルの言葉がなければ今頃は胴体が真っ二つになっていただろう。

「……少しだけ負担が大きいけど」

 エルが遠慮がちな声を出した。
 エリーナには聞こえていないはずだ。

「私の視界を幻覚として見せる。君の視界の上にもう一つ視界ができるわ。
 本当は訓練すべきだけど……そうも言ってられない。
 混乱しないように気を付けて。口で言っていたら間に合わないわ」

 なるほど。文字通り背中に目があるようなものか。
 元の世界で言えば、画面分割のような感覚になるかもしれない。

「……準備ができたら頷いて」

 エルが早口で言った。
 もう一度攻められる前に始めたいのだろう。

 ……やるしかない。
 小さく頷いた。

「……ぅ」

 軽い眩暈を感じた後。
 俺は上下それぞれの視界で『エリーナ・コルト』を見ていた。

 下にあるのはいつもの俺の視界だろう。
 上に見えるのはエルのものだ。確かに俺の頭上から見ている景色だった。

 二人のエリーナが違和感を覚えたように首を傾げていた。



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 じり、とエリーナから一歩下がる。
 エリーナが同時に一歩詰める。先ほど言った通り、逃がすつもりはないらしい。
「……対象は『エリーナ・コルト』だけど、今回はある程度私に任せてもらえる?
 このままだと多分、私たちは死ぬわ」
 エルが提案をしてくる。
『青い幻』の対象を臨機応変に変更してくれるということだろう。
 迷わず頷いて、小剣を両手で構えた。
「……っ」
 無造作にエリーナが踏み込んだ。
 右手の赤い本を振りかぶる。
「この」
 予想していた俺は小剣を『青い幻』に合わせる。
 低く腰を落としたエリーナの顔をカウンターの要領で斬り付けた。
 その瞬間、エリーナの体がふわりと浮いた。
 見覚えがある。アリスの風と同じだ。俺の小剣が空振った。
「避けて!」
「……!」
 エルの言葉に急いで前へと転がった。
 すぐに熱が届いてきた。地面が焼けるような嫌な音。
 家を焼き切った炎の魔法か。
 あんなものを食らったら即死だぞ。
「まだよ!」
 振り返るより早くエルが再度叫ぶ。
 その場で左に大きく跳び退いた。
 俺がいた場所に氷の剣や槍が突き刺さる。
 ソフィアが言っていた氷の魔法だ。
「しゃがんで!」
 急いで言われた通りにした。
 エリーナに背を向けたまま、その場に腰を落とす。
 俺の頭の上を何かが通り過ぎて行った。
 距離を稼ぐために前へと跳んで、ようやく後ろを振り返る。
「……よく避ける」
「……勘が良いんだ」
 エリーナがどこか楽し気に呟き、俺の軽口に笑みを深くした。
 見れば、エリーナの両隣には白い剣が浮いている。
 ――俺の頭を掠めたのはあれか。
 先ほどしゃがんだ時の様子を冷静に考えた後、ぞっとした。
 エルの言葉がなければ今頃は胴体が真っ二つになっていただろう。
「……少しだけ負担が大きいけど」
 エルが遠慮がちな声を出した。
 エリーナには聞こえていないはずだ。
「私の視界を幻覚として見せる。君の視界の上にもう一つ視界ができるわ。
 本当は訓練すべきだけど……そうも言ってられない。
 混乱しないように気を付けて。口で言っていたら間に合わないわ」
 なるほど。文字通り背中に目があるようなものか。
 元の世界で言えば、画面分割のような感覚になるかもしれない。
「……準備ができたら頷いて」
 エルが早口で言った。
 もう一度攻められる前に始めたいのだろう。
 ……やるしかない。
 小さく頷いた。
「……ぅ」
 軽い眩暈を感じた後。
 俺は上下それぞれの視界で『エリーナ・コルト』を見ていた。
 下にあるのはいつもの俺の視界だろう。
 上に見えるのはエルのものだ。確かに俺の頭上から見ている景色だった。
 二人のエリーナが違和感を覚えたように首を傾げていた。