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第三部 54話 一回目

ー/ー



「ほう」

 俺たちはエリーナを囲むように移動する。
 いざとなれば、互いのフォローに入るつもりだ。

 まずはミアが踏み込んだ。
 地面に対してスキルを使用した独自の移動法。

 まるで地面を滑るようにエリーナへと肉薄した。
 エリーナが右手の本を向ける。

 地面からミアへと白い五本の長槍が襲い掛かった。
 ミアは横に跳んで避ける。

 ……白い?
 地面から魔法を使う場合、その構成物質の影響を強く受ける。
 例えば俺がここで同じことをすれば、茶色に近い色になるだろう。

「くそ」

 俺もミアの援護に踏み込んだ。
 見れば、ソフィアも同時に動いている。

 エリーナの背中へと斬りかかった。
 左右から連携して、俺が首を、ソフィアは胴を、横に切り払う。

「!?」

 その瞬間――白い槍が俺たちへと飛んできた。
 もちろんエリーナは触ってもいない。

 俺たちの一撃が弾かれる。
 ガキン、という重い音。

 ――重い?
 ――いや、それよりもどうして触れもせずに動いた?

 俺たち三人は一歩下がる。
 エリーナの周囲を五本の白い槍が浮いていた。

「……気を付けて」
 ソフィアが呟いた。

「この槍はリックでも切れなかった」
 さらに続けた。

 俺たちがエリーナを囲んで様子を窺っている。
 元々の目的は時間稼ぎだ。これで問題はない。

 ……最後に逃げられれば。

「神鋼か。一体どうやって加工しているのか気になるな」
 対して、エリーナは納得したように呟いた。

 確かにリックでも切れないものはある。
 リックの切れ味は錬金術の技量によるのだ。
 つまり、無造作に作り出したこの槍の素材が良いということになる。

 おそらく、地中の金属から合金でも作成したのだろう。
 あの一瞬でそこまでできるものなのか。

「では、こちらから」
 そう言って、エリーナはミアへと踏み込んだ。

 させるか、と俺とソフィアが応じようとする。
 そこに槍が二本ずつ飛んで来た。

「ぐ……」
 俺とソフィアはその対応で手一杯になる。

 左右から宙に浮いた白い槍が突き払いを繰り返す。
 鍔ぜり合うが、前に踏み出す余裕がない。

「?」
 じじじ、という音。

 そうか。磁力で操ってるのか。
 魔法というのは本質的には何でもありだ。

『命令』に必要な『魔力』さえ用意できれば良い。
 周囲に磁場を作ることも不可能ではない。

 なら、いったん離れて……。
 そこまで考えて、首を横に振る。

 エリーナはミアから離れないだろう。
 俺たちが離れたら、ミア一人で『エリーナ・コルト』と五本の槍を同時に相手取ることになる。

「あはは、これはきっついっすねぇ」
「昔から嘘つきにはお仕置きと相場が決まってる」

 防戦一方だが、ミアはどうにか耐えていた。
 しかし、時間の問題だろう。

 そこに――警報が響いた。

 やっと来た。
 俺は内心でほっと息を漏らす。

 待ちに待った撤退の合図である。
 後は俺たちが逃げれば良い。簡単だとは思わないが。

「? 何かの合図かな?」
「さあ? お昼休みじゃないっすか?」

 ミアはそう言って、エリーナと合わせるように踏み込んだ。
 エリーナの右手が発する青白い炎を避けながら、その右手首を掴む。

「よっ」

 相変わらずの軽い掛け声。
 背負い投げのようにエリーナを投げた。

 スキル『斥力』も使用して、エリーナが飛んで行く。
 磁場から抜けたのだろう、五本の槍が地面に落ちる。

「急ぐっす!」

 ミアの言葉に応じて、俺たちは背中を向けて走り出した。
 後ろから帝国の英雄が追ってくる。



 すぐに城塞都市の門が見えてきた。王国側の門である。
 とにかくあそこを越えるというのがナタリーの計画だった。

 問題はすぐ後ろから迫る音である。
 足音と呼ぶにはあまりにも物騒で凶悪な音が聞こえてくる。

「振り向いたら駄目っす!」

 その通りだ。
 ミアの言う通り、振り返ったら間に合わない。

「逃がすわけがないだろう?」
 そして、とうとう捕まった。

 声がした左を見れば、一緒に走るソフィアの首へとエリーナが手を伸ばしている。

 まずい。フォローが間に合わな――
 
「ぴ!」
 瞬間、風がエリーナを後ろへと吹き飛ばした。

 ――青い小鳥の声がした。

 いつの間にかピノが合流していたらしい。
 相変わらず、美味しいところを持っていく。

「……やってくれるな」
 だが、すぐに追ってくるだろう。

 それでも、門までたどり着いた。
 遠くに撤退中の王国軍が見える。あそこまで行けば良いのだ。

「なるほど」

 同時にナタリーの考えも理解した。
 他のメンバーも同じらしい。顔が引きつっている。

 ……いかれてやがる。



 そして、エリーナが俺たちに追いついた。
 俺たちを追いかけようと開け放した門に飛び込む。

「!?」
 エリーナの驚いた顔。

 無理もないだろう。
 目の前には『ダブル』アリス・カナ・バケット。

 両手をエリーナへと向けている。
 ()()()()()()()()だ。

「「――吹き飛ばせ」」

 一節四句の風魔法を二つ。
 同時に発動して見せた。

 暴風と呼ぶのも生易しいほどの空気の圧力が生じる。
 そして――全員が吹き飛んだ。

 エリーナは門の前から城塞都市の内部へと。
 俺たちは王国軍の方へと。

 まるで自爆のような方法で、俺たちは撤退戦の初戦を乗り切ったのだった。



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次のエピソードへ進む 第三部 55話 計算以上


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「ほう」
 俺たちはエリーナを囲むように移動する。
 いざとなれば、互いのフォローに入るつもりだ。
 まずはミアが踏み込んだ。
 地面に対してスキルを使用した独自の移動法。
 まるで地面を滑るようにエリーナへと肉薄した。
 エリーナが右手の本を向ける。
 地面からミアへと白い五本の長槍が襲い掛かった。
 ミアは横に跳んで避ける。
 ……白い?
 地面から魔法を使う場合、その構成物質の影響を強く受ける。
 例えば俺がここで同じことをすれば、茶色に近い色になるだろう。
「くそ」
 俺もミアの援護に踏み込んだ。
 見れば、ソフィアも同時に動いている。
 エリーナの背中へと斬りかかった。
 左右から連携して、俺が首を、ソフィアは胴を、横に切り払う。
「!?」
 その瞬間――白い槍が俺たちへと飛んできた。
 もちろんエリーナは触ってもいない。
 俺たちの一撃が弾かれる。
 ガキン、という重い音。
 ――重い?
 ――いや、それよりもどうして触れもせずに動いた?
 俺たち三人は一歩下がる。
 エリーナの周囲を五本の白い槍が浮いていた。
「……気を付けて」
 ソフィアが呟いた。
「この槍はリックでも切れなかった」
 さらに続けた。
 俺たちがエリーナを囲んで様子を窺っている。
 元々の目的は時間稼ぎだ。これで問題はない。
 ……最後に逃げられれば。
「神鋼か。一体どうやって加工しているのか気になるな」
 対して、エリーナは納得したように呟いた。
 確かにリックでも切れないものはある。
 リックの切れ味は錬金術の技量によるのだ。
 つまり、無造作に作り出したこの槍の素材が良いということになる。
 おそらく、地中の金属から合金でも作成したのだろう。
 あの一瞬でそこまでできるものなのか。
「では、こちらから」
 そう言って、エリーナはミアへと踏み込んだ。
 させるか、と俺とソフィアが応じようとする。
 そこに槍が二本ずつ飛んで来た。
「ぐ……」
 俺とソフィアはその対応で手一杯になる。
 左右から宙に浮いた白い槍が突き払いを繰り返す。
 鍔ぜり合うが、前に踏み出す余裕がない。
「?」
 じじじ、という音。
 そうか。磁力で操ってるのか。
 魔法というのは本質的には何でもありだ。
『命令』に必要な『魔力』さえ用意できれば良い。
 周囲に磁場を作ることも不可能ではない。
 なら、いったん離れて……。
 そこまで考えて、首を横に振る。
 エリーナはミアから離れないだろう。
 俺たちが離れたら、ミア一人で『エリーナ・コルト』と五本の槍を同時に相手取ることになる。
「あはは、これはきっついっすねぇ」
「昔から嘘つきにはお仕置きと相場が決まってる」
 防戦一方だが、ミアはどうにか耐えていた。
 しかし、時間の問題だろう。
 そこに――警報が響いた。
 やっと来た。
 俺は内心でほっと息を漏らす。
 待ちに待った撤退の合図である。
 後は俺たちが逃げれば良い。簡単だとは思わないが。
「? 何かの合図かな?」
「さあ? お昼休みじゃないっすか?」
 ミアはそう言って、エリーナと合わせるように踏み込んだ。
 エリーナの右手が発する青白い炎を避けながら、その右手首を掴む。
「よっ」
 相変わらずの軽い掛け声。
 背負い投げのようにエリーナを投げた。
 スキル『斥力』も使用して、エリーナが飛んで行く。
 磁場から抜けたのだろう、五本の槍が地面に落ちる。
「急ぐっす!」
 ミアの言葉に応じて、俺たちは背中を向けて走り出した。
 後ろから帝国の英雄が追ってくる。
 すぐに城塞都市の門が見えてきた。王国側の門である。
 とにかくあそこを越えるというのがナタリーの計画だった。
 問題はすぐ後ろから迫る音である。
 足音と呼ぶにはあまりにも物騒で凶悪な音が聞こえてくる。
「振り向いたら駄目っす!」
 その通りだ。
 ミアの言う通り、振り返ったら間に合わない。
「逃がすわけがないだろう?」
 そして、とうとう捕まった。
 声がした左を見れば、一緒に走るソフィアの首へとエリーナが手を伸ばしている。
 まずい。フォローが間に合わな――
「ぴ!」
 瞬間、風がエリーナを後ろへと吹き飛ばした。
 ――青い小鳥の声がした。
 いつの間にかピノが合流していたらしい。
 相変わらず、美味しいところを持っていく。
「……やってくれるな」
 だが、すぐに追ってくるだろう。
 それでも、門までたどり着いた。
 遠くに撤退中の王国軍が見える。あそこまで行けば良いのだ。
「なるほど」
 同時にナタリーの考えも理解した。
 他のメンバーも同じらしい。顔が引きつっている。
 ……いかれてやがる。
 そして、エリーナが俺たちに追いついた。
 俺たちを追いかけようと開け放した門に飛び込む。
「!?」
 エリーナの驚いた顔。
 無理もないだろう。
 目の前には『ダブル』アリス・カナ・バケット。
 両手をエリーナへと向けている。
 |ど《・》|ち《・》|ら《・》|も《・》|準《・》|備《・》|済《・》|み《・》だ。
「「――吹き飛ばせ」」
 一節四句の風魔法を二つ。
 同時に発動して見せた。
 暴風と呼ぶのも生易しいほどの空気の圧力が生じる。
 そして――全員が吹き飛んだ。
 エリーナは門の前から城塞都市の内部へと。
 俺たちは王国軍の方へと。
 まるで自爆のような方法で、俺たちは撤退戦の初戦を乗り切ったのだった。