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第三部 52話 薄赤色

ー/ー



 三日後の早朝。
 城塞都市宛てに帝国から王国への宣戦布告が伝えられた。

 事前にミアから情報を得て、城塞都市の住民は事前に避難を完了させた。
 ほとんど騙すような形で、何とか避難してもらった状態らしい。

 結局、俺たちは都市の迎撃戦に参加した。
 ミアの頼みを断る奴はいなかったし、組合員としても逃げるわけにはいかない。

 改めて話を聞いてみると、ミアの予想は「勝てるわけないっす」だった。
 しかし、撤退の時間を稼ぐ必要があった。具体的には、最低でも三回は足止めが必要らしい。
 
 城塞都市に常駐している軍は十分な戦力がある。
 そもそも帝国軍と山脈を挟んで睨み合っているのだ。

 本来は互角以上に戦える。
 何十年も追い返してきた。

 問題は一つ。帝国の英雄『エリーナ・コルト』だった。
 彼女一人のためにミアは勝てないと判断し、緩やかな退却を計画しているのだ。



「なあ? その『エリーナ・コルト』ってどういう奴なんだよ?
 この前聞いた限りだと、接近戦が得意な魔術師ということなのか?」

 例の酒場で椅子に深く腰掛けて、俺はソフィアに訊いてみた。
 一通りの説明は受けたのだが、今一つ具体的にイメージできていなかった。

「私もそこまで詳しいわけではないわ。
 でも、その認識で良いはずよ。そうよね?」

 ソフィアがさらに隣のナタリーに訊いた。
 ナタリーが頷いた。

「うん。噂を聞く限り、戦い方はキースに近いかもしれない。
 魔法を使った近接戦闘と考えて良いと思う」

 なるほど。魔法を使った近接戦闘。
 確かに俺の戦い方に近いか。

「……そんなに強いのか?」
「パパが言ってた。アレを目視したなら逃げなさいって。
 見える距離にいる時点で魔術師としては戦略的に負けている」
「近距離で勝てる魔術師はいないってことね……」

 俺の言葉に、今度はアリスが答える。
 ソフィアと二人で苦笑するしかなかった。



「戻ったっすー」

 昼前になると、ミアが軽い調子で合流した。
 今、この酒場に残っているのは俺たちだけである。

 非戦闘員は避難済み。
 戦闘員はすでに前線へと向かっただろう。

『エリーナ・コルト』対策のメンバーは俺たちだけなのだ。
 もっとも、連携の確認も取れていない『B級冒険者』を集めても仕方ないだろう。
 それなら少人数で足止めして、残りは正面の火力を支えてもらった方が良い。

「さて。今日の朝早くに宣戦布告してきた以上、そろそろ仕掛けてくるはず……」
「間違いないね……」
 
 ミアの言葉にナタリーが同意した。
 宣戦布告の直後に先制攻撃してくることを確信しているようだった。
 まあ、そうでもなければ今朝になって突然使者が来る意味もないが。

「奇襲の線は?」
「それは大丈夫っすよ。何十年もやってるんだから。
 城壁の上から周囲の警戒をしてる。発見すれば警報が……」
 その瞬間、警報が響いた。
 
「ほら、来たっすね」
「? 何か様子がおかしくないか?」
 ミアの言う通り、帝国軍の姿を確認しただけにしては騒がしいような?

「ぴ!!」
「どうした?」
 
 ピノが扉を風で乱暴に開けて飛び込んできた。
 すぐさまナタリーの元へと飛んで、何やら意思疎通を始めた。
 
「……え?」
 ナタリーが呆然と呟いた。
 
「どうした?」
 俺が代表して訊く。ピノと意思疎通ができるのはナタリーだけだ。
 
「えっと『エリーナ・コルト』が……突っ込んできたって」
「は?」
 全員が首を傾げた瞬間、まるで砲撃でも受けたような音が響いた。

「場所は!?」
「軍司令部! でも、念のため移動してるから……」
「警戒しておいて良かった。下手したらこの一撃で終わってた」
 
 ミアの質問にナタリーが答えて、全員が走り出した。
 相手の性質を考えて、事前に司令部は移動しておいたのだ。
 アリスの言う通り、対応できていなければ終わりだったろう。

「一人で突っ込んできたってのか!?」
「軍司令部の建物なら近いわ!」
 俺とソフィアが喚きながら、煙を上げる軍司令部を指で示した。



 俺たちが半ば倒壊した軍司令部に辿り付くと、一人のハーフエルフが興味深そうな視線を向けていた。
 まるで少女のような容姿。種族としては珍しい薄い赤色の髪だった。

「なるほどね……。事前にこちらの情報を掴んでいたわけだ。
 私が投入されることも含めて。随分と優秀な諜報員がいるらしい」

 薄く笑いながらも、視線はミアとナタリーを見ていた。
 すでにこちらの役割を分析し始めているのは間違いない。

「で、軍司令部と市民はすでに避難済みか。面白いな。
 王国の強さには多様性がある。武力に偏った帝国は見習うべきだ」

 髪と同じ色の瞳が穏やかに微笑んだ。

薄赤色



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 三日後の早朝。
 城塞都市宛てに帝国から王国への宣戦布告が伝えられた。
 事前にミアから情報を得て、城塞都市の住民は事前に避難を完了させた。
 ほとんど騙すような形で、何とか避難してもらった状態らしい。
 結局、俺たちは都市の迎撃戦に参加した。
 ミアの頼みを断る奴はいなかったし、組合員としても逃げるわけにはいかない。
 改めて話を聞いてみると、ミアの予想は「勝てるわけないっす」だった。
 しかし、撤退の時間を稼ぐ必要があった。具体的には、最低でも三回は足止めが必要らしい。
 城塞都市に常駐している軍は十分な戦力がある。
 そもそも帝国軍と山脈を挟んで睨み合っているのだ。
 本来は互角以上に戦える。
 何十年も追い返してきた。
 問題は一つ。帝国の英雄『エリーナ・コルト』だった。
 彼女一人のためにミアは勝てないと判断し、緩やかな退却を計画しているのだ。
「なあ? その『エリーナ・コルト』ってどういう奴なんだよ?
 この前聞いた限りだと、接近戦が得意な魔術師ということなのか?」
 例の酒場で椅子に深く腰掛けて、俺はソフィアに訊いてみた。
 一通りの説明は受けたのだが、今一つ具体的にイメージできていなかった。
「私もそこまで詳しいわけではないわ。
 でも、その認識で良いはずよ。そうよね?」
 ソフィアがさらに隣のナタリーに訊いた。
 ナタリーが頷いた。
「うん。噂を聞く限り、戦い方はキースに近いかもしれない。
 魔法を使った近接戦闘と考えて良いと思う」
 なるほど。魔法を使った近接戦闘。
 確かに俺の戦い方に近いか。
「……そんなに強いのか?」
「パパが言ってた。アレを目視したなら逃げなさいって。
 見える距離にいる時点で魔術師としては戦略的に負けている」
「近距離で勝てる魔術師はいないってことね……」
 俺の言葉に、今度はアリスが答える。
 ソフィアと二人で苦笑するしかなかった。
「戻ったっすー」
 昼前になると、ミアが軽い調子で合流した。
 今、この酒場に残っているのは俺たちだけである。
 非戦闘員は避難済み。
 戦闘員はすでに前線へと向かっただろう。
『エリーナ・コルト』対策のメンバーは俺たちだけなのだ。
 もっとも、連携の確認も取れていない『B級冒険者』を集めても仕方ないだろう。
 それなら少人数で足止めして、残りは正面の火力を支えてもらった方が良い。
「さて。今日の朝早くに宣戦布告してきた以上、そろそろ仕掛けてくるはず……」
「間違いないね……」
 ミアの言葉にナタリーが同意した。
 宣戦布告の直後に先制攻撃してくることを確信しているようだった。
 まあ、そうでもなければ今朝になって突然使者が来る意味もないが。
「奇襲の線は?」
「それは大丈夫っすよ。何十年もやってるんだから。
 城壁の上から周囲の警戒をしてる。発見すれば警報が……」
 その瞬間、警報が響いた。
「ほら、来たっすね」
「? 何か様子がおかしくないか?」
 ミアの言う通り、帝国軍の姿を確認しただけにしては騒がしいような?
「ぴ!!」
「どうした?」
 ピノが扉を風で乱暴に開けて飛び込んできた。
 すぐさまナタリーの元へと飛んで、何やら意思疎通を始めた。
「……え?」
 ナタリーが呆然と呟いた。
「どうした?」
 俺が代表して訊く。ピノと意思疎通ができるのはナタリーだけだ。
「えっと『エリーナ・コルト』が……突っ込んできたって」
「は?」
 全員が首を傾げた瞬間、まるで砲撃でも受けたような音が響いた。
「場所は!?」
「軍司令部! でも、念のため移動してるから……」
「警戒しておいて良かった。下手したらこの一撃で終わってた」
 ミアの質問にナタリーが答えて、全員が走り出した。
 相手の性質を考えて、事前に司令部は移動しておいたのだ。
 アリスの言う通り、対応できていなければ終わりだったろう。
「一人で突っ込んできたってのか!?」
「軍司令部の建物なら近いわ!」
 俺とソフィアが喚きながら、煙を上げる軍司令部を指で示した。
 俺たちが半ば倒壊した軍司令部に辿り付くと、一人のハーフエルフが興味深そうな視線を向けていた。
 まるで少女のような容姿。種族としては珍しい薄い赤色の髪だった。
「なるほどね……。事前にこちらの情報を掴んでいたわけだ。
 私が投入されることも含めて。随分と優秀な諜報員がいるらしい」
 薄く笑いながらも、視線はミアとナタリーを見ていた。
 すでにこちらの役割を分析し始めているのは間違いない。
「で、軍司令部と市民はすでに避難済みか。面白いな。
 王国の強さには多様性がある。武力に偏った帝国は見習うべきだ」
 髪と同じ色の瞳が穏やかに微笑んだ。