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第三部 51話 裏事情

ー/ー



「ここっすよ」
「炭鉱……?」

 ミアに連れられてやって来たのは近くの炭鉱だった。
 迷わずに先へと進んでいく様子に困惑しながら、俺たちはミアの後を追った。

 いくつかの分岐を抜けた後、一際大きな広場に出る。
 本来は発掘が進められているはずの空間は、無人だった。
 薄い明かりだけが周囲を照らしている。

「誰もいない……?」
「そうっす。でも、まずは魔物退治から」

 ミアが呟くと同時、広場の出入口から魔物が殺到した。
 まずはこいつらを倒せと言うことか?

「何よ! 魔物はいるじゃない!」
 ナタリーが叫んだ。まったくもって同感だった。



 俺たちは背中合わせに魔物を迎え撃つ。
 獣型の魔物が多いようだが、そこまで強いとは感じない。

「っ!」

 いくつかの魔物を斬り捨てた後、ミアへと目を向ける。
 ちらりと盗み見た、戦い方に驚いた。昔とは異なる戦い方だったのだ。

 昔は高所まで運んで落とす手法を多用していた。
 確かにこのような狭い場所では使えない方法だろう。

 獅子のような見た目の魔物がミアへと飛び掛かる。
 ミアは左足を軸に、回転するように下がった。

「よっ」
 軽い掛け声。

 ミアは魔物の前足を掴むと、地面に叩きつけた。
 地面にひびが入るほどの轟音が鳴る。

「な……」

 おそらくは『引力』『斥力』も利用して、相手を投げ飛ばしたんだ。
 遠心力を加えて威力を上げているということになるのか。

 前の世界で見た、合気道に近い動きだった。
 確かに、ミアのスキルとは相性が良いだろう。

「ほっ」
 またしても軽快な声。

 今度は熊系の魔物を背中から壁に吹き飛ばす。
 さらに『引力』で突っ込んだ。魔物の喉に両足で蹴りを入れる。

「はっ」
 楽しそうに声を弾ませる。

 そのまま踏みつけて高く跳び上がる。
 空中で一回転。そのまま踵を脳天に叩き込んだ。

 魔物は膝を突いたまま、起き上がらなかった。



 よそ見ばかりもしていられない。
 俺は斜めに設置した障壁を右足で踏んで、時計の針のように回転する。

 天地逆転したタイミングで竜人型の魔物の首を掻き切った。
 さらに障壁を設置すると、今度は地面に向かって跳ぶ。

 蛇人型の魔物の首を掴んだ。
 両足で腕を挟み、動きを止める。

 至近距離から魔弾剣を掌から放つ。
 魔物の首から魔力の剣が生えた。

 事切れた魔物の腹を蹴りつける。
 自身の使い魔に声を掛けた。

「エル」
「はいはい。軌道計算ね?」

 前々から考えていた方法を試すことにした。『青い幻』が一度消える。
 俺は障壁を蹴りつけて、高く跳び上がりながら地面の魔物を俯瞰した。
 
「行くわよ」
 頷く。次に現れた『青い幻』は障壁と魔弾を描いていた。

 いつも回避で使用している予測の『可視化』を攻撃で使用する考えだ。
 一度『障壁』で弾いた後、敵に命中する『魔弾』を予測して『可視化』する。

「ふ――」
 
 多めに魔力を消費する。
『魔弾剣』を五十。『障壁』も五十。
 
『青い幻』に従って『障壁』と『魔弾剣』を設定した。
 一体につき二本ずつ。狙うのは首と心臓だ。

 二十五体の魔物へと魔弾の雨が飛び回る。
 出鱈目に撃ったようにしか見えない魔弾に、魔物たちが右往左往していた。

 だが、一体目の首と心臓に『魔弾剣』が突き刺さった。最初の魔物が倒れる。
 それからはすぐだった。僅かな断末魔を上げて、魔物が次々に倒れていく。

「五十発中三十発が命中」

 エルの声が聞こえた。
 魔弾の雨が止んだ後、撃ち漏らしたのは五体だった。

「……命中率が悪いわね。改善が必要だわ」
 不満そうな声が聞こえる。お気に召さないようだった。



「なるほど。ナタリーとアリスは当然、新人二人も戦力で良いっすね」

 魔物を掃討した後、ミアは満足そうに頷いた。
 全員、綺麗な別の広場に移動した後だった。

 ――ひょっとして、実力を見られていたのか?

 でも、考えてみれば当然か。
 一応は『B級冒険者』の肩書があるものの、新人に違いはない。
 チームを組むのなら、実力を知る権利はあるだろう。

「これなら巻き込めるっす。ここなら聞かれる心配もなし」
 ミアが嫌な台詞を続けた。

「?」
 俺たち全員が首を傾げる。

 ミアは楽しそうに微笑んで――

「数日中に帝国が攻めてくるっす」
「!?」

 ――綺麗にぶっこんできた。

「すでに都市の上層部には話を通してあるっす。
 ただ、あたしの予想だと、十中八九で城塞都市は落ちる」
「嘘でしょう? 城塞都市は帝国との膠着状態を何十年も続けてきたのよ?」

 アリスが食って掛かる。
 確かに、あの城壁が破られる瞬間は想像ができない。

「あたしはここ数年間、帝国に潜入してたんす」
「だからって……」
「『エリーナ・コルト』が投入される」
「……有り得ない。あの人は新政権には加担しないはず」

 急にアリスが顔を青くした。見れば、他のメンバーの顔も青い。
 誰だ? 『エリーナ・コルト』?

「知ってるか?」
「……はぁ」
 隣のソフィアに訊くと、露骨な溜息が返ってきた。

「だから座学をもっと……」
「う」
 
 そうか。そのレベルで有名人なのか。
 だが、知らない以上は訊くしかない。
 
「旧帝国軍人『エリーナ・コルト』。対人魔法の第一人者よ。
 パパのライバルなんて呼ばれることも多い」

 アリスの言葉を聞いた瞬間、俺も遅れて顔が青くなる。
『ブラウン・バケット』のライバル? 勝てる気がしなかった。

「『ブラウン・バケット』が王国の遠距離兵器なら『エリーナ・コルト』は帝国の近距離兵器っすかねぇ」

 こういう拠点の奇襲なら無敵っす、と言う。
 それは、単体で『要塞都市』を落とせるということか?

「……落とせる」

 アリスが断言した。
 それはきっと魔術師団長『ブラウン・バケット』を知っているからだった。



「で、実はすでに王都へ撤退の準備中。
 すでに状況は魔物討伐どころじゃないんすよ」
「なるほど。だからこの炭鉱も人がいないのね?」
 話を戻したミアにナタリーが頷いた。

「そう。あたしが情報を持って来たのは三日前。
 今、段階的に避難しているところっす。もちろん情報統制した上で」
「王都からの応援は?」
「ちょうど今頃伝わったくらいでしょうね」
「……逃げきれない」

 ミアからの情報を聞いて、ナタリーは断言した。
 しかし、ミアは逆に「よくできました」と微笑んだ。

「うん。そのはずだった。間に合わなかったはずなんす。
 この都市の『A級冒険者』はあたしだけだったから」
 
 ミアが真顔で俺たちを見回した。
 ここにいる全員を集めれば、ランクが一つ上がるだろう。
 
「実力が足りなければ、一緒に避難させるつもりだった」
「!」
「でも、十分だった」
 どこか残念そうにミアは言った。

 ――そのために実力を試したのか。

「そこでお願い。あたしと一緒に殿を務めてくれないっすか?」
 それは決死の撤退戦のお誘いだった。



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「ここっすよ」
「炭鉱……?」
 ミアに連れられてやって来たのは近くの炭鉱だった。
 迷わずに先へと進んでいく様子に困惑しながら、俺たちはミアの後を追った。
 いくつかの分岐を抜けた後、一際大きな広場に出る。
 本来は発掘が進められているはずの空間は、無人だった。
 薄い明かりだけが周囲を照らしている。
「誰もいない……?」
「そうっす。でも、まずは魔物退治から」
 ミアが呟くと同時、広場の出入口から魔物が殺到した。
 まずはこいつらを倒せと言うことか?
「何よ! 魔物はいるじゃない!」
 ナタリーが叫んだ。まったくもって同感だった。
 俺たちは背中合わせに魔物を迎え撃つ。
 獣型の魔物が多いようだが、そこまで強いとは感じない。
「っ!」
 いくつかの魔物を斬り捨てた後、ミアへと目を向ける。
 ちらりと盗み見た、戦い方に驚いた。昔とは異なる戦い方だったのだ。
 昔は高所まで運んで落とす手法を多用していた。
 確かにこのような狭い場所では使えない方法だろう。
 獅子のような見た目の魔物がミアへと飛び掛かる。
 ミアは左足を軸に、回転するように下がった。
「よっ」
 軽い掛け声。
 ミアは魔物の前足を掴むと、地面に叩きつけた。
 地面にひびが入るほどの轟音が鳴る。
「な……」
 おそらくは『引力』『斥力』も利用して、相手を投げ飛ばしたんだ。
 遠心力を加えて威力を上げているということになるのか。
 前の世界で見た、合気道に近い動きだった。
 確かに、ミアのスキルとは相性が良いだろう。
「ほっ」
 またしても軽快な声。
 今度は熊系の魔物を背中から壁に吹き飛ばす。
 さらに『引力』で突っ込んだ。魔物の喉に両足で蹴りを入れる。
「はっ」
 楽しそうに声を弾ませる。
 そのまま踏みつけて高く跳び上がる。
 空中で一回転。そのまま踵を脳天に叩き込んだ。
 魔物は膝を突いたまま、起き上がらなかった。
 よそ見ばかりもしていられない。
 俺は斜めに設置した障壁を右足で踏んで、時計の針のように回転する。
 天地逆転したタイミングで竜人型の魔物の首を掻き切った。
 さらに障壁を設置すると、今度は地面に向かって跳ぶ。
 蛇人型の魔物の首を掴んだ。
 両足で腕を挟み、動きを止める。
 至近距離から魔弾剣を掌から放つ。
 魔物の首から魔力の剣が生えた。
 事切れた魔物の腹を蹴りつける。
 自身の使い魔に声を掛けた。
「エル」
「はいはい。軌道計算ね?」
 前々から考えていた方法を試すことにした。『青い幻』が一度消える。
 俺は障壁を蹴りつけて、高く跳び上がりながら地面の魔物を俯瞰した。
「行くわよ」
 頷く。次に現れた『青い幻』は障壁と魔弾を描いていた。
 いつも回避で使用している予測の『可視化』を攻撃で使用する考えだ。
 一度『障壁』で弾いた後、敵に命中する『魔弾』を予測して『可視化』する。
「ふ――」
 多めに魔力を消費する。
『魔弾剣』を五十。『障壁』も五十。
『青い幻』に従って『障壁』と『魔弾剣』を設定した。
 一体につき二本ずつ。狙うのは首と心臓だ。
 二十五体の魔物へと魔弾の雨が飛び回る。
 出鱈目に撃ったようにしか見えない魔弾に、魔物たちが右往左往していた。
 だが、一体目の首と心臓に『魔弾剣』が突き刺さった。最初の魔物が倒れる。
 それからはすぐだった。僅かな断末魔を上げて、魔物が次々に倒れていく。
「五十発中三十発が命中」
 エルの声が聞こえた。
 魔弾の雨が止んだ後、撃ち漏らしたのは五体だった。
「……命中率が悪いわね。改善が必要だわ」
 不満そうな声が聞こえる。お気に召さないようだった。
「なるほど。ナタリーとアリスは当然、新人二人も戦力で良いっすね」
 魔物を掃討した後、ミアは満足そうに頷いた。
 全員、綺麗な別の広場に移動した後だった。
 ――ひょっとして、実力を見られていたのか?
 でも、考えてみれば当然か。
 一応は『B級冒険者』の肩書があるものの、新人に違いはない。
 チームを組むのなら、実力を知る権利はあるだろう。
「これなら巻き込めるっす。ここなら聞かれる心配もなし」
 ミアが嫌な台詞を続けた。
「?」
 俺たち全員が首を傾げる。
 ミアは楽しそうに微笑んで――
「数日中に帝国が攻めてくるっす」
「!?」
 ――綺麗にぶっこんできた。
「すでに都市の上層部には話を通してあるっす。
 ただ、あたしの予想だと、十中八九で城塞都市は落ちる」
「嘘でしょう? 城塞都市は帝国との膠着状態を何十年も続けてきたのよ?」
 アリスが食って掛かる。
 確かに、あの城壁が破られる瞬間は想像ができない。
「あたしはここ数年間、帝国に潜入してたんす」
「だからって……」
「『エリーナ・コルト』が投入される」
「……有り得ない。あの人は新政権には加担しないはず」
 急にアリスが顔を青くした。見れば、他のメンバーの顔も青い。
 誰だ? 『エリーナ・コルト』?
「知ってるか?」
「……はぁ」
 隣のソフィアに訊くと、露骨な溜息が返ってきた。
「だから座学をもっと……」
「う」
 そうか。そのレベルで有名人なのか。
 だが、知らない以上は訊くしかない。
「旧帝国軍人『エリーナ・コルト』。対人魔法の第一人者よ。
 パパのライバルなんて呼ばれることも多い」
 アリスの言葉を聞いた瞬間、俺も遅れて顔が青くなる。
『ブラウン・バケット』のライバル? 勝てる気がしなかった。
「『ブラウン・バケット』が王国の遠距離兵器なら『エリーナ・コルト』は帝国の近距離兵器っすかねぇ」
 こういう拠点の奇襲なら無敵っす、と言う。
 それは、単体で『要塞都市』を落とせるということか?
「……落とせる」
 アリスが断言した。
 それはきっと魔術師団長『ブラウン・バケット』を知っているからだった。
「で、実はすでに王都へ撤退の準備中。
 すでに状況は魔物討伐どころじゃないんすよ」
「なるほど。だからこの炭鉱も人がいないのね?」
 話を戻したミアにナタリーが頷いた。
「そう。あたしが情報を持って来たのは三日前。
 今、段階的に避難しているところっす。もちろん情報統制した上で」
「王都からの応援は?」
「ちょうど今頃伝わったくらいでしょうね」
「……逃げきれない」
 ミアからの情報を聞いて、ナタリーは断言した。
 しかし、ミアは逆に「よくできました」と微笑んだ。
「うん。そのはずだった。間に合わなかったはずなんす。
 この都市の『A級冒険者』はあたしだけだったから」
 ミアが真顔で俺たちを見回した。
 ここにいる全員を集めれば、ランクが一つ上がるだろう。
「実力が足りなければ、一緒に避難させるつもりだった」
「!」
「でも、十分だった」
 どこか残念そうにミアは言った。
 ――そのために実力を試したのか。
「そこでお願い。あたしと一緒に殿を務めてくれないっすか?」
 それは決死の撤退戦のお誘いだった。