第三部 50話 再会
ー/ー 城塞都市は周囲を高い防壁で囲んでいた。
出入りは管理されているが、王国側から入るのは難しくなかった。
王国と帝国の間には険しい山脈が通っていて、山越えができる地点は限られている。
その一つに設置されているのが、この城塞都市『ネルソン』だった。
帝国は軍事大国だが、王国との間には山脈が、連合との間には『エルフの森』があった。
もしも自然の防壁がなければ王国も連合も帝国に吸収されていたことだろう。
もっとも、今は帝国の軍事力も衰えたと聞いているが。
「組合が経営している酒場がある。まずはそこに行こうか」
真っ先に宿を取ると、荷物を置いて、ナタリーはそう言った。
様子を窺いながら、都市を歩いてゆく。
都市の内部は活気があり、住人の豪気な声が飛び交っていた。
山脈から採れる鉱物で成り立っているとは聞いている。
なるほど。
元の世界で言えば、炭鉱の町ってところか。
俺たちは酒場へと足を踏み入れた。
陽気な声が届いてくるが、治安が悪いわけではないようだ。
見れば、組合の窓口も兼ねているらしい。
採算を取るためだろう、地方では珍しくない。
「ちょっと待っててね」
ナタリーアリスが窓口へと歩いて行った。
「え! どういうこと!?」
「依頼が多くて困ってるって話じゃないの?」
ナタリーとアリスが窓口の受付に食って掛かっていた。
「どうしたんだよ?」
俺とソフィアが慌てて走り寄った。
「魔物討伐の依頼がないって言うのよ」
「大本は組合長からの要請だったはず」
ナタリーアリスがさらに詰め寄った。
「で、ですから……つい先日、全ての討伐依頼を取り下げられたんですよぉ。
わ、私は詳しい話を知らなくて……」
「じゃあ、知ってる人を連れてきて」
ナタリーがさらにぐい、と顔を近づける。
受付の女の子がすす、と顔を後ろに遠ざける。
「そ、それが……今日は都市の会議でいないんです。
明日になれば戻る予定なんですが……」
ナタリーが俺たちへと振り向いた。
考え込むように一瞬だけ目を閉じる。
「じゃあ、待たせてもらいましょうか。あたしとアリスはここで待つわ。
予定より早く戻ってくるかも知れないし、情報収集自体は悪くない」
「? 俺たちは?」
ナタリーの言葉に俺が訊いた。
「宿に戻っていて。明日の昼にでも来てくれれば良いよ。
それから、改めてこの都市の事情を聞きましょう」
そして「せめてピノを護衛に付ける」と言った。
そうして、俺とソフィアは宿に戻ったのだった。
翌日の朝。
暇を持て余した俺たちは酒場へと向かった。
俺たちは酒場に入って呟いた。
「こいつら、舐めてるのか?」
「刺し……、潰し……、殴っちゃダメかしら?」
「…………」
俺が青筋を浮かべながら、床を蹴りつける。
ソフィアが配慮に配慮を重ねた。しかし、多分ダメだ。
ピノに至っては無言だった。
だが無理もないだろう。
ナタリーアリスが酒場で酔い潰れていたのだ。
……確かにまだ約束の時間じゃないけどさぁ。
どんな飲み方をしたのか。
人が山のように積み重なっていて、その中に紛れている。
――俺は妹の育て方を間違えたのだろうか?
俺は組合の窓口へと歩いてゆく。
ナタリーアリスを指さして、昨日とは別の受付の女の子に声を掛ける。
「すみません。あそこの『A級冒険者』二人を連れて行っても良いですか?」
「え! 『A級冒険者』なんですか?」
そりゃそうだ。
しかし、女の子の驚きは別にあったらしい。
「ちょうど、もう一人『A級冒険者』が来ているんですよ」
「?」
俺たち以外にも救援でやって来た冒険者がいるのか?
だとすれば、何か手がかりになるかも知れない。
「へえ、どこに行けば会えますか?」
「え? どこって……」
「?」
「そこにいますよ?」
受付の女の子が指をさす。
ナタリーアリスのいる酔っ払いの山である。
「『小惑星』ミア・クラークさんです」
ナタリーの下敷きになっている顔を見て、俺は頭を抱えそうになった。
あの『一山いくら』とでも言いそうな酔っ払いの中に『A級冒険者』が三人いるのかぁ。
もう『組合』も駄目かもしれん。
「ピノ」
「ぴ」
「わ!」「きゃっ」
びしゃ、と。
ナタリーアリスの顔にピノの魔法で冷水を浴びせる。
そして事情聴取を始めたのだが、聞く価値もなかった。
『暇だったから飲んで寝てた』だけである。
まあ、こいつらのことだから、情報収集はしていたのだろうが。
「なるほど。本題はこっちだ。二人とも『小惑星』と会ったのか?」
「協力関係になったとか?」
俺たちが未だ眠るミアを指で示す。
ナタリーアリスがそちらを見た。
「師匠!?」
「ミアじゃない! どうしてここに!?」
ナタリーとアリスが驚いた声を上げた。
「一緒に飲んでたんだよ、バカ」
「こっちが聞きたいのよ、バカ」
俺とソフィアが聞こえないほどの小声で呟いた。
ナタリーがミアへと歩いてゆく。
懐かしそうにその体を揺すった。
「師匠! 師匠!」
ナタリーはミアに懐いていたからな。
やがてミアは薄っすらと目を開けた。
「ナ、ナタリー?」
「うん! 久しぶり、師匠!」
「ああ、ちょうどよかったっす……! 助かった……!」
ミアは出会いを喜ぶように微笑んで続ける。
「どうか――ピノで二日酔いの回復を」
少しだけ自責の念が軽くなった。
ナタリーがこうなったのは、きっとこいつのせいだ。
嫌がるピノに俺とソフィアが頼み込んで、全員の酔いが解消された。
そうして、ようやく真面目な話を始められるようになる。
個室を借りて、話し合いを始めた。
俺たちメンバーにミアを混ぜた形だ。
ミアは背恰好はそのままに、経験を重ねたという印象だった。
人間としては年齢も高いはずだが、老けたという感じはなかった。
まずはナタリーが俺たちの事情を説明する。
俺たち新人をパーティに加えたこと。
急いでランクを上げたこと。
この都市から魔物討伐の救援要請を受けてやって来たこと。
ナタリーが順を追って要点を話してゆく。
十分前とは別人にしか見えない。
「なるほど。おおまかには理解したっす。
あたしは事情を知っていると言って良いっすけど……」
「? 師匠?」
言葉を濁したミアにナタリーが首を傾げた。
ミアは俺とソフィアをちらりと見た。
「まずは付いてきてほしいっす。
一度、魔物退治といきましょう」
出入りは管理されているが、王国側から入るのは難しくなかった。
王国と帝国の間には険しい山脈が通っていて、山越えができる地点は限られている。
その一つに設置されているのが、この城塞都市『ネルソン』だった。
帝国は軍事大国だが、王国との間には山脈が、連合との間には『エルフの森』があった。
もしも自然の防壁がなければ王国も連合も帝国に吸収されていたことだろう。
もっとも、今は帝国の軍事力も衰えたと聞いているが。
「組合が経営している酒場がある。まずはそこに行こうか」
真っ先に宿を取ると、荷物を置いて、ナタリーはそう言った。
様子を窺いながら、都市を歩いてゆく。
都市の内部は活気があり、住人の豪気な声が飛び交っていた。
山脈から採れる鉱物で成り立っているとは聞いている。
なるほど。
元の世界で言えば、炭鉱の町ってところか。
俺たちは酒場へと足を踏み入れた。
陽気な声が届いてくるが、治安が悪いわけではないようだ。
見れば、組合の窓口も兼ねているらしい。
採算を取るためだろう、地方では珍しくない。
「ちょっと待っててね」
ナタリーアリスが窓口へと歩いて行った。
「え! どういうこと!?」
「依頼が多くて困ってるって話じゃないの?」
ナタリーとアリスが窓口の受付に食って掛かっていた。
「どうしたんだよ?」
俺とソフィアが慌てて走り寄った。
「魔物討伐の依頼がないって言うのよ」
「大本は組合長からの要請だったはず」
ナタリーアリスがさらに詰め寄った。
「で、ですから……つい先日、全ての討伐依頼を取り下げられたんですよぉ。
わ、私は詳しい話を知らなくて……」
「じゃあ、知ってる人を連れてきて」
ナタリーがさらにぐい、と顔を近づける。
受付の女の子がすす、と顔を後ろに遠ざける。
「そ、それが……今日は都市の会議でいないんです。
明日になれば戻る予定なんですが……」
ナタリーが俺たちへと振り向いた。
考え込むように一瞬だけ目を閉じる。
「じゃあ、待たせてもらいましょうか。あたしとアリスはここで待つわ。
予定より早く戻ってくるかも知れないし、情報収集自体は悪くない」
「? 俺たちは?」
ナタリーの言葉に俺が訊いた。
「宿に戻っていて。明日の昼にでも来てくれれば良いよ。
それから、改めてこの都市の事情を聞きましょう」
そして「せめてピノを護衛に付ける」と言った。
そうして、俺とソフィアは宿に戻ったのだった。
翌日の朝。
暇を持て余した俺たちは酒場へと向かった。
俺たちは酒場に入って呟いた。
「こいつら、舐めてるのか?」
「刺し……、潰し……、殴っちゃダメかしら?」
「…………」
俺が青筋を浮かべながら、床を蹴りつける。
ソフィアが配慮に配慮を重ねた。しかし、多分ダメだ。
ピノに至っては無言だった。
だが無理もないだろう。
ナタリーアリスが酒場で酔い潰れていたのだ。
……確かにまだ約束の時間じゃないけどさぁ。
どんな飲み方をしたのか。
人が山のように積み重なっていて、その中に紛れている。
――俺は妹の育て方を間違えたのだろうか?
俺は組合の窓口へと歩いてゆく。
ナタリーアリスを指さして、昨日とは別の受付の女の子に声を掛ける。
「すみません。あそこの『A級冒険者』二人を連れて行っても良いですか?」
「え! 『A級冒険者』なんですか?」
そりゃそうだ。
しかし、女の子の驚きは別にあったらしい。
「ちょうど、もう一人『A級冒険者』が来ているんですよ」
「?」
俺たち以外にも救援でやって来た冒険者がいるのか?
だとすれば、何か手がかりになるかも知れない。
「へえ、どこに行けば会えますか?」
「え? どこって……」
「?」
「そこにいますよ?」
受付の女の子が指をさす。
ナタリーアリスのいる酔っ払いの山である。
「『小惑星』ミア・クラークさんです」
ナタリーの下敷きになっている顔を見て、俺は頭を抱えそうになった。
あの『一山いくら』とでも言いそうな酔っ払いの中に『A級冒険者』が三人いるのかぁ。
もう『組合』も駄目かもしれん。
「ピノ」
「ぴ」
「わ!」「きゃっ」
びしゃ、と。
ナタリーアリスの顔にピノの魔法で冷水を浴びせる。
そして事情聴取を始めたのだが、聞く価値もなかった。
『暇だったから飲んで寝てた』だけである。
まあ、こいつらのことだから、情報収集はしていたのだろうが。
「なるほど。本題はこっちだ。二人とも『小惑星』と会ったのか?」
「協力関係になったとか?」
俺たちが未だ眠るミアを指で示す。
ナタリーアリスがそちらを見た。
「師匠!?」
「ミアじゃない! どうしてここに!?」
ナタリーとアリスが驚いた声を上げた。
「一緒に飲んでたんだよ、バカ」
「こっちが聞きたいのよ、バカ」
俺とソフィアが聞こえないほどの小声で呟いた。
ナタリーがミアへと歩いてゆく。
懐かしそうにその体を揺すった。
「師匠! 師匠!」
ナタリーはミアに懐いていたからな。
やがてミアは薄っすらと目を開けた。
「ナ、ナタリー?」
「うん! 久しぶり、師匠!」
「ああ、ちょうどよかったっす……! 助かった……!」
ミアは出会いを喜ぶように微笑んで続ける。
「どうか――ピノで二日酔いの回復を」
少しだけ自責の念が軽くなった。
ナタリーがこうなったのは、きっとこいつのせいだ。
嫌がるピノに俺とソフィアが頼み込んで、全員の酔いが解消された。
そうして、ようやく真面目な話を始められるようになる。
個室を借りて、話し合いを始めた。
俺たちメンバーにミアを混ぜた形だ。
ミアは背恰好はそのままに、経験を重ねたという印象だった。
人間としては年齢も高いはずだが、老けたという感じはなかった。
まずはナタリーが俺たちの事情を説明する。
俺たち新人をパーティに加えたこと。
急いでランクを上げたこと。
この都市から魔物討伐の救援要請を受けてやって来たこと。
ナタリーが順を追って要点を話してゆく。
十分前とは別人にしか見えない。
「なるほど。おおまかには理解したっす。
あたしは事情を知っていると言って良いっすけど……」
「? 師匠?」
言葉を濁したミアにナタリーが首を傾げた。
ミアは俺とソフィアをちらりと見た。
「まずは付いてきてほしいっす。
一度、魔物退治といきましょう」
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