第三部 48話 茶色
ー/ー さらに翌日。
ナタリーアリス主催で『B級冒険者』祝いのパーティを開いてくれた。
場所はブラウン邸。大きな吹き抜けの部屋を贅沢に使っていた。
参加者は俺たちパーティメンバーに加えて、グレイとセシル。
後は俺の家からティアナ。成り行きでブラウン団長が参加していた。
別に堅苦しいものではなく、服装も自由。
ただ適当に騒ぐのみを目的としていた。
当初の予定は『C級冒険者』だ。
何故か目標を越えた俺たちは予定通り、数日中には王都を発つ。
北西へと向かう予定だった。
そこで魔物討伐の援護をするのだ。
「えー、今日はお集まり頂きありがとうございます!」
「これからキースとソフィアの『B級冒険者』昇格のお祝いをします!」
ナタリーとアリスが楽しそうに騒いでいる。
この辺りは昔から全然変わらない。
途端に不満の声が上がる。
主役である俺たちからだった。
「なあ? これ大丈夫なのか!?」
「そうよ! 私たち、組合長に目を付けられてない?」
俺たちは組合長の『ヤケクソ』で昇格されたのだった。
「……それでは! お手元のグラスを持ってください!」
「……今日は楽しんで行ってくださいね!」
二人が目を逸らす。おい、主役を見ろ!
「かんぱーい!」
「なあ!?」「ねえ!?」
「楽しそうで何よりだな」
「……いつもこの調子なんですか?」
グレイとティアナが近づいて来た。
すでにセシルは食事に夢中で、ソフィアが心配そうに眺めている。
ナタリーアリスはブラウン団長を交えて笑っていた。
「きっついぞ?」
俺が感情を込めて言ってやる。
二人が笑ったので、続けることにした。
「代わるか?」
俺の真顔に二人が黙った。
「えっと、学院はどうだ?」
「そ、そうですね……」
慌ててグレイが話題を変える。ティアナが急いで乗った。
ティアナは俺が入学してから一年後に王立学院へと入学していた。
今年は三年生のはずだ。
優秀らしいとは聞いている。
「えーと、兄さんたちのイメージが強力すぎるみたいですね」
「はは、何だ。俺たちと比べられて困ってるのか?」
俺が口を挟むと、ティアナがちらりと俺を睨んだ。
「ええ。『座学で平均点』を褒められて『実技で三位』をがっかりされました」
俺とグレイが自然な動作で目を逸らした。
この辺りの連携は手慣れたものである。
しばらく経ってから、俺はバルコニーに出た。
王都の外が見えるような造りになっている。
今はほとんど真っ暗だが、夜風が心地よかった。
「やあ」
「!」
後ろから聞き慣れた声がした。
見れば『魔術師団長』ブラウン・バケットが立っていた。
「わ、私は席を外すわっ」
エルが悲鳴を上げるように逃げて行った。
そう言えば、以前魔物扱いされていたな。余程怖かったらしい。
見れば、ティアナに抱かれて震えているようだ。
「ははは、随分と嫌われてしまったかな」
「こんばんは。王立学院で、一度だけ講義を受けました」
ブラウン団長が微笑む。
まるで変わらない薄茶色の瞳が俺を見た。
「そうだったかな?」
「絶対に覚えているじゃないですか」
明らかに惚けたブラウン団長に、つい応じてしまう。
ブラウン団長は視線を外した後、戻した。
「本当に一度だけ?」
まるで射貫くような視線に、体が強張った。
一度どころではない。
アッシュ・クレフの頃は毎日のように鍛えられたのだ。
「……もちろん」
「そうか。一度だけか……なるほど」
今のやり取りで、一体どれだけの情報が茶色の瞳には映ったのだろうか。
しかし、ブラウン団長は何も追求せず、ただ続けたのだった。
「では『キース・クロス』に訊こう。
私に何か伝えたいことはないか?」
そう言ってブラウン団長は肩をすくめて見せた。
俺はまじまじと見返してしまう。
――まさか、このためにエルを遠ざけたのか?
――二人きりになる瞬間を作るために。何年も前から準備を?
「何度でも繰り返す。君たちの力になりたい」
いつかと変わらずに微笑んだ。
俺は顔を背けずにはいられない。
「ひ――ひとつだけ、気になることが。『創世記』という本を調べてください」
「分かった」
ブラウン団長が背を向ける気配がした。
「アリスは君と同じパーティということになる。任せたからな?」
「……はい」
遠ざかる足音を聞きながら、思わず呟いた。
「頭が上がらないなぁ」
ナタリーアリス主催で『B級冒険者』祝いのパーティを開いてくれた。
場所はブラウン邸。大きな吹き抜けの部屋を贅沢に使っていた。
参加者は俺たちパーティメンバーに加えて、グレイとセシル。
後は俺の家からティアナ。成り行きでブラウン団長が参加していた。
別に堅苦しいものではなく、服装も自由。
ただ適当に騒ぐのみを目的としていた。
当初の予定は『C級冒険者』だ。
何故か目標を越えた俺たちは予定通り、数日中には王都を発つ。
北西へと向かう予定だった。
そこで魔物討伐の援護をするのだ。
「えー、今日はお集まり頂きありがとうございます!」
「これからキースとソフィアの『B級冒険者』昇格のお祝いをします!」
ナタリーとアリスが楽しそうに騒いでいる。
この辺りは昔から全然変わらない。
途端に不満の声が上がる。
主役である俺たちからだった。
「なあ? これ大丈夫なのか!?」
「そうよ! 私たち、組合長に目を付けられてない?」
俺たちは組合長の『ヤケクソ』で昇格されたのだった。
「……それでは! お手元のグラスを持ってください!」
「……今日は楽しんで行ってくださいね!」
二人が目を逸らす。おい、主役を見ろ!
「かんぱーい!」
「なあ!?」「ねえ!?」
「楽しそうで何よりだな」
「……いつもこの調子なんですか?」
グレイとティアナが近づいて来た。
すでにセシルは食事に夢中で、ソフィアが心配そうに眺めている。
ナタリーアリスはブラウン団長を交えて笑っていた。
「きっついぞ?」
俺が感情を込めて言ってやる。
二人が笑ったので、続けることにした。
「代わるか?」
俺の真顔に二人が黙った。
「えっと、学院はどうだ?」
「そ、そうですね……」
慌ててグレイが話題を変える。ティアナが急いで乗った。
ティアナは俺が入学してから一年後に王立学院へと入学していた。
今年は三年生のはずだ。
優秀らしいとは聞いている。
「えーと、兄さんたちのイメージが強力すぎるみたいですね」
「はは、何だ。俺たちと比べられて困ってるのか?」
俺が口を挟むと、ティアナがちらりと俺を睨んだ。
「ええ。『座学で平均点』を褒められて『実技で三位』をがっかりされました」
俺とグレイが自然な動作で目を逸らした。
この辺りの連携は手慣れたものである。
しばらく経ってから、俺はバルコニーに出た。
王都の外が見えるような造りになっている。
今はほとんど真っ暗だが、夜風が心地よかった。
「やあ」
「!」
後ろから聞き慣れた声がした。
見れば『魔術師団長』ブラウン・バケットが立っていた。
「わ、私は席を外すわっ」
エルが悲鳴を上げるように逃げて行った。
そう言えば、以前魔物扱いされていたな。余程怖かったらしい。
見れば、ティアナに抱かれて震えているようだ。
「ははは、随分と嫌われてしまったかな」
「こんばんは。王立学院で、一度だけ講義を受けました」
ブラウン団長が微笑む。
まるで変わらない薄茶色の瞳が俺を見た。
「そうだったかな?」
「絶対に覚えているじゃないですか」
明らかに惚けたブラウン団長に、つい応じてしまう。
ブラウン団長は視線を外した後、戻した。
「本当に一度だけ?」
まるで射貫くような視線に、体が強張った。
一度どころではない。
アッシュ・クレフの頃は毎日のように鍛えられたのだ。
「……もちろん」
「そうか。一度だけか……なるほど」
今のやり取りで、一体どれだけの情報が茶色の瞳には映ったのだろうか。
しかし、ブラウン団長は何も追求せず、ただ続けたのだった。
「では『キース・クロス』に訊こう。
私に何か伝えたいことはないか?」
そう言ってブラウン団長は肩をすくめて見せた。
俺はまじまじと見返してしまう。
――まさか、このためにエルを遠ざけたのか?
――二人きりになる瞬間を作るために。何年も前から準備を?
「何度でも繰り返す。君たちの力になりたい」
いつかと変わらずに微笑んだ。
俺は顔を背けずにはいられない。
「ひ――ひとつだけ、気になることが。『創世記』という本を調べてください」
「分かった」
ブラウン団長が背を向ける気配がした。
「アリスは君と同じパーティということになる。任せたからな?」
「……はい」
遠ざかる足音を聞きながら、思わず呟いた。
「頭が上がらないなぁ」
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