表示設定
表示設定
目次 目次




第三部 47話 B級冒険者

ー/ー



 ソフィアがリックを鎖に変えて衝撃を殺して着地する。
 ほとんど同時に、ごん、と『緑竜』の首が落ちてきた。

「倒し、た?」
 地面に降り立って俺が呟くと、全員がへなへなと座り込んだ。

「死んだと思った」
「こ、怖かった……」
 今更になってアリスと加奈が情けないことを言い出す。

「何言ってるんだ、ブレス直前に突っ込んでいきやがって」
「しょ、しょうがないじゃない! 至近距離じゃなきゃ意味ないって」
「あはは、アリスは行っちゃえって笑ってたけどね」

 俺の言葉にアリスと加奈が応じた。
 アリスが「加奈ぁ」と泣き言を口にする。

「ほら、撤収!」
 俺たちの様子を眺めて、ナタリーがぱんぱん、と手を叩いた。

「最低限の『緑竜』討伐の証拠だけ集めたら、すぐに移動するよ。
 すぐに魔物の群れが集まってきてもおかしくないんだから」

 そう言うナタリーも腰が抜けているのだった。



「……それにしても、どうして『緑竜』がこんなところに現れたんだろうな?」
「うん。あたしもそれが気になってた。
 王都のすぐ近くに『S級モンスター』がいてたまるかって話よ」
 移動しながら俺が口を開くと、ナタリーが応じた。
 
「……ひょっとしたらこの『ハーフエルフの森』の逸話に関係があるのかもしれません」

 答えは出ないと思っていたのだが、予想外の返事があった。
 護衛対象の一人、この事件の発端とも言える老婆が口を開いていた。

「? この森の逸話ですか?」
「ええ。『ハーフエルフの森』は凶悪な魔物がいて、その魔物を封じるために『ハーフエルフの王族』の一人がその森を領地としたと」
「なるほど。その凶悪な魔物が『緑竜』で『ハーフエルフの小国』が滅びたせいで復活したと考えれば筋は通りますね」
 ナタリーが考え込むように目を伏せた。

 俺たちはその日の夜には何とか王都に辿り付くことができた。
 護衛してきた三人を無事に帰して、組合に報告へ行くと自宅に着いたのは深夜だった。



 翌日。ピノが俺の部屋までやってきて、組合まで呼び出した。
 疲労が限界に達していたので、出来れば遠慮したかったがそうもいかないだろう。

 行ってみれば、すぐに二階へと案内された。
 こんこん、とノックをした後、扉を開く。

 時間通りだが、すでに俺以外のメンバーは揃っていた。
 ナタリーとアリスが革張りの椅子に腰かけ、ソフィアはその後ろで立っている。

「! お待たせしました」

 ソフィアの隣に並びながら、声を掛けた。
 対面の席に座っているのは、俺の知る顔だった。

「よぉ、初めましてだな」

 随分と高齢のはずだが、昔と変わらない子供のような姿で口元を歪めて見せた。
 強いて言えば、少しだけ疲れている気がした。

 考えてみれば今の上司にあたるのか。
『組合長』ギルバート・アンドリューが俺へと軽く手を上げた。

「はい。キース・クロスと言います」
 俺は緊張しながらも、出来るだけ冷静な声を出す。

「ひとまず『緑竜』の討伐については裏が取れた。災難だったな」
 組合長は椅子に深く腰掛けながら、もう一度笑った。さらに続ける。

「だが、それだけで済ませるわけにもいかない」
「? 何か問題が?」
 ナタリーが首を傾げて見せる。

「おう。計算が合わねぇ。『S級』は『A級』が五つ分の計算なんだよ。
 まぁ『悪戯娘』と『ダブル』は良い。お前らは『A級』でも上位だろ」

 いまいち話の流れは見えない。
 だが、俺たちは黙って聞くしかない。

 組合長はさらに続ける。

「お前らで『A級』が二人半分。おまけで三人分としても良い。
 だけどな『A級』が二人分足りねえんだよ……!」

 何となく言いたいことが分かって来た気がする。
 なんだか昔『赤鬼』を討伐した時に近いような。

「で、残りのパーティメンバーは『D級』の新人が二人だ」
 俺たちはばつが悪そうに顔をそらした。

「悪いな? 八つ当たりなのは分かってるんだ。褒めるべきなんだろうな」
 組合長は珍しく冷静さを欠いているようだった。

「でもよ、朝起きたら『緑竜』がすぐ隣の森にいました。
 だけど総合ランク『B級』のパーティが討伐済みですって報告される身にもなれ!」
 
 組合長が肩で息をする。
 確かに八つ当たりだろう。だが申し訳ないのも事実だった。

「今朝、ここの支部長が泣きついて来たよ。
 こいつらのランクをどうしましょうってな!?」

 そりゃそうだ。
 俺がその立場だったら困る。

「俺も泣きつきたいくらいだ。本来なら『C級冒険者』に上がるのも早すぎる……。
 でも、このまま上げなかったら『組合』の信用にも関わるんだよ」
 組合長はこめかみに青筋を浮かべている。

 一夜明けて大騒ぎになったのだろう。考えてみれば当然である。
 今はその対応に追われているということか。

「こうなりゃヤケクソだ! 組合長の権限を使ってやる。
 今からお前ら二人とも『B級冒険者』だ! こき使ってやるから覚悟しろッ!」
 
 これからお前らの後始末だッ、と全員が部屋を叩き出される。
 そうして俺たちは異例の速度で『B級冒険者』になった。

 ナタリーアリスいわく『ヤケクソB級冒険者』である。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第三部 48話 茶色


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ソフィアがリックを鎖に変えて衝撃を殺して着地する。
 ほとんど同時に、ごん、と『緑竜』の首が落ちてきた。
「倒し、た?」
 地面に降り立って俺が呟くと、全員がへなへなと座り込んだ。
「死んだと思った」
「こ、怖かった……」
 今更になってアリスと加奈が情けないことを言い出す。
「何言ってるんだ、ブレス直前に突っ込んでいきやがって」
「しょ、しょうがないじゃない! 至近距離じゃなきゃ意味ないって」
「あはは、アリスは行っちゃえって笑ってたけどね」
 俺の言葉にアリスと加奈が応じた。
 アリスが「加奈ぁ」と泣き言を口にする。
「ほら、撤収!」
 俺たちの様子を眺めて、ナタリーがぱんぱん、と手を叩いた。
「最低限の『緑竜』討伐の証拠だけ集めたら、すぐに移動するよ。
 すぐに魔物の群れが集まってきてもおかしくないんだから」
 そう言うナタリーも腰が抜けているのだった。
「……それにしても、どうして『緑竜』がこんなところに現れたんだろうな?」
「うん。あたしもそれが気になってた。
 王都のすぐ近くに『S級モンスター』がいてたまるかって話よ」
 移動しながら俺が口を開くと、ナタリーが応じた。
「……ひょっとしたらこの『ハーフエルフの森』の逸話に関係があるのかもしれません」
 答えは出ないと思っていたのだが、予想外の返事があった。
 護衛対象の一人、この事件の発端とも言える老婆が口を開いていた。
「? この森の逸話ですか?」
「ええ。『ハーフエルフの森』は凶悪な魔物がいて、その魔物を封じるために『ハーフエルフの王族』の一人がその森を領地としたと」
「なるほど。その凶悪な魔物が『緑竜』で『ハーフエルフの小国』が滅びたせいで復活したと考えれば筋は通りますね」
 ナタリーが考え込むように目を伏せた。
 俺たちはその日の夜には何とか王都に辿り付くことができた。
 護衛してきた三人を無事に帰して、組合に報告へ行くと自宅に着いたのは深夜だった。
 翌日。ピノが俺の部屋までやってきて、組合まで呼び出した。
 疲労が限界に達していたので、出来れば遠慮したかったがそうもいかないだろう。
 行ってみれば、すぐに二階へと案内された。
 こんこん、とノックをした後、扉を開く。
 時間通りだが、すでに俺以外のメンバーは揃っていた。
 ナタリーとアリスが革張りの椅子に腰かけ、ソフィアはその後ろで立っている。
「! お待たせしました」
 ソフィアの隣に並びながら、声を掛けた。
 対面の席に座っているのは、俺の知る顔だった。
「よぉ、初めましてだな」
 随分と高齢のはずだが、昔と変わらない子供のような姿で口元を歪めて見せた。
 強いて言えば、少しだけ疲れている気がした。
 考えてみれば今の上司にあたるのか。
『組合長』ギルバート・アンドリューが俺へと軽く手を上げた。
「はい。キース・クロスと言います」
 俺は緊張しながらも、出来るだけ冷静な声を出す。
「ひとまず『緑竜』の討伐については裏が取れた。災難だったな」
 組合長は椅子に深く腰掛けながら、もう一度笑った。さらに続ける。
「だが、それだけで済ませるわけにもいかない」
「? 何か問題が?」
 ナタリーが首を傾げて見せる。
「おう。計算が合わねぇ。『S級』は『A級』が五つ分の計算なんだよ。
 まぁ『悪戯娘』と『ダブル』は良い。お前らは『A級』でも上位だろ」
 いまいち話の流れは見えない。
 だが、俺たちは黙って聞くしかない。
 組合長はさらに続ける。
「お前らで『A級』が二人半分。おまけで三人分としても良い。
 だけどな『A級』が二人分足りねえんだよ……!」
 何となく言いたいことが分かって来た気がする。
 なんだか昔『赤鬼』を討伐した時に近いような。
「で、残りのパーティメンバーは『D級』の新人が二人だ」
 俺たちはばつが悪そうに顔をそらした。
「悪いな? 八つ当たりなのは分かってるんだ。褒めるべきなんだろうな」
 組合長は珍しく冷静さを欠いているようだった。
「でもよ、朝起きたら『緑竜』がすぐ隣の森にいました。
 だけど総合ランク『B級』のパーティが討伐済みですって報告される身にもなれ!」
 組合長が肩で息をする。
 確かに八つ当たりだろう。だが申し訳ないのも事実だった。
「今朝、ここの支部長が泣きついて来たよ。
 こいつらのランクをどうしましょうってな!?」
 そりゃそうだ。
 俺がその立場だったら困る。
「俺も泣きつきたいくらいだ。本来なら『C級冒険者』に上がるのも早すぎる……。
 でも、このまま上げなかったら『組合』の信用にも関わるんだよ」
 組合長はこめかみに青筋を浮かべている。
 一夜明けて大騒ぎになったのだろう。考えてみれば当然である。
 今はその対応に追われているということか。
「こうなりゃヤケクソだ! 組合長の権限を使ってやる。
 今からお前ら二人とも『B級冒険者』だ! こき使ってやるから覚悟しろッ!」
 これからお前らの後始末だッ、と全員が部屋を叩き出される。
 そうして俺たちは異例の速度で『B級冒険者』になった。
 ナタリーアリスいわく『ヤケクソB級冒険者』である。