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第三部 46話 赤と黒

ー/ー



「あ、キース」
「二分経ったんだね」
 アリスと加奈が安心したような声を出した。

「何をすれば良い?」
 ひとまず指示を仰いだ。

「そうだなぁ……守ってくれれば良い」
「とりあえず、私たちの護衛だけお願いするかな」
 二人とも意見は一致しているようだった。

「了解」

 答えると同時に踏み込む。
 小剣で『緑竜』の氷槍を弾いた。

 アリスの周囲に障壁をいくつも配置する。
 俺はその中を跳ね回ってアリスへの攻撃を全て弾いてゆく。

 その間にアリスが魔術の雨を『緑竜』へと浴びせる。
 しばらく続けていたが、やがて二人は呟いた。

「……硬い」
「あの鱗がろくに突破できないね」
 加奈の言う通り『緑竜』の鱗は硬く、ほとんどダメージは通っていなかった。

「準備を始めますか」
「分かった」
 アリスの言葉に加奈が応じる。

「炎よ――」
 頷いて、加奈が続けた。

 一節一句じゃない?

 俺は首を傾げた。一節一句の命令でなければ、時間と集中力が必要だ。
 この状態で長時間足を止めるのは自殺行為だろう。

『緑竜』も理解しているのか。
 突風が起こって、俺たちを吹き飛ばそうとする。

 俺は咄嗟に障壁を張って凌ぐ。
 しかしアリスにも突風は向かっていく。

「風よ、吹き飛ばせ」
 途端にアリスが突風を相殺させた。

 その様子に胸をなでおろす。
 だが、おかしい。

 さっきの『命令』はどこへ行った?

「――灼熱を超えた黒炎よ」
 加奈が『続けた』。

『緑竜』は攻撃の手を緩めない。
 俺が跳ね回って、出来る限りの攻撃を相殺してゆく。

 しかし全方位の全てを弾くことはできない。
 それをアリスが防いでいた。

「大地よ、防げ」
 迫った炎をアリスが防ぐ。

『緑竜』は不思議そうに足元の俺たちを眺めていた。
 なぜ倒れないのだろうか、という感じだ。

 しかし、尾で攻撃もできないでいる。
 先ほどの転倒を警戒しているらしい。

「一条の光となって敵を貫け――」
 そして、やはり加奈は『続ける』。

 間違いない。
 こいつら、個別に魔術を扱えるのか!?

 確かにアリスが動いている間、加奈は動いていない。
 確かにアリスが何をしていても、加奈が集中することは可能だろう。

 だが、そのためには一体どれほどの人格の制御が必要なのか。
 考えるだけで気が遠くなりそうだ。

 魔力の制御を正確に分割し、肉体の制御を瞬時に切り替える。
 それを寸分の狂いもなしに繰り返す。少しでも失敗すれば魔力が暴走する。

 もしも『多重人格の技術』などというものがあるとすれば、これは神業と言って良いだろう。

「――来た!」
 ナタリーが叫んだ。

 目を向ければ『緑竜』が口を開いていた。
 ブレスだ。あれをまともに食らえば全滅だろう。

「アリス!?」

 そこにアリスは踏み込んだ。
 俺の声も聞かずにブレスを放とうとする『緑竜』へと突っ込んでいく。

「あぁもう!?」
 俺は叫んで後を追う。

 障壁を足場にして、走るアリスの周囲を跳び回る。
『緑竜』が迎え撃とうといくつものスキルを放った。

「くそ! ブレス中も使えるのかよ!」

 俺は毒づきながらなんとか全てを弾く。
 流石にブレス中は手数も減るようだ。

 そしてアリスは『緑竜』の足元へとたどり着く。
 すでに『緑竜』の口は赤く染まっていた。

 さらに地面から槍がいくつも飛び出す。
 しかしアリスは速度を落とさない。

「風よ、吹き飛ばせ」

 ふわり、とアリスが自身の体を浮かせる。
 地面から伸びた槍が空を切る。

「どうにでもなれだ、畜生!」
 俺が障壁を足場に後を追う。
 
『緑竜』が眼下のアリスを睨みつける。
 同時にアリスを狙っていくつもの氷剣が飛んできた。
 
 俺は障壁の足場をいくつも使い、その周りを跳ね回る。
 空中で小剣と魔弾を駆使して全てを弾き飛ばす。
 
「もう一回!
 風よ、吹き飛ばせ」
 
 もう一度、アリスが風で自身を吹き飛ばす。俺が追う。
 俺たちの位置は『緑竜』の目の前だ。いや、口の前と言うべきか。

 同じ高さまで上がって来たアリスを『緑竜』がぎろりと睨む。
 伝わってくる熱気に、俺の表情が思わず引き攣った。

 また『緑竜』がスキルを使用しようと――
 
「ぴっ」

 いつからそこにいたのか。
 ピノが目の前から『緑竜』へ向けて強烈な光を放った。

 ――青い小鳥が『悪戯』をした。
 
「!?」
 目が眩んで『緑竜』は驚いたような呻き声を出した。

「やっちゃえ」
 その隙を逃すことなく、アリスは両手を伸ばす。

 そして、加奈へと意識を切り替えた。

「――焼き払え」
 加奈の言葉に合わせて『緑竜』の顔が黒い炎の束に包まれた。

 至近距離から撃たれた『一節四句』の火属性魔法。
 単純な威力で言えば『S級冒険者』としても十分通用するだろう。
 
「入った! ……え?」
 俺は大きく頷いた。しかしすぐに驚きの質が変わる。
 
 黒い光が収まると『緑竜』は確かに顔全体を黒く焦がしていた。
 目は潰れ、口内から煙を吐き出している。

 それでも――口の中は赤く光ったままだった。

 ――ピノ。

 しかし落ち着いたナタリーの声を聞いた気がした。
 まるで予定通りのようだった。

「ぴ!」

 いつの間にか『緑竜』の顎の下に潜り込んだピノが鳴いた。
 風の魔法を受けて『緑竜』の顎がぐん、と跳ね上げられた。

 強力な炎が『ハーフエルフの森』の上空へと放たれる。
 黒い炎が眼球も口の中までも焼き尽くしたのに対して、赤い炎は天に向かって空振った。

「ソフィアちゃん、行って!」
 ナタリーの声。逆にピノはナタリーの元へと帰ってゆく。

 俺は疲れ切ったアリスを抱えると、ゆっくりと地面へ下りてゆく。
 入れ替わるように、俺が作った足場を使って、ソフィアが登って行った。

 いつの間にか、魔物の群れは全滅している。

 両目を失い、顔を焼かれ、ブレスで体力を消耗した『緑竜』がふらふらと体を揺すっていた。
 俺の障壁を強く踏んで、ソフィアがそこに飛び掛かる。

「……ああ、確かに」

 思わず頷いた。良く知っている。
 あの鱗を突破するにはこれしかないだろう。

 バチ、という大きな音。 
 神鋼の大剣が『緑竜』の首を落とした。



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「あ、キース」
「二分経ったんだね」
 アリスと加奈が安心したような声を出した。
「何をすれば良い?」
 ひとまず指示を仰いだ。
「そうだなぁ……守ってくれれば良い」
「とりあえず、私たちの護衛だけお願いするかな」
 二人とも意見は一致しているようだった。
「了解」
 答えると同時に踏み込む。
 小剣で『緑竜』の氷槍を弾いた。
 アリスの周囲に障壁をいくつも配置する。
 俺はその中を跳ね回ってアリスへの攻撃を全て弾いてゆく。
 その間にアリスが魔術の雨を『緑竜』へと浴びせる。
 しばらく続けていたが、やがて二人は呟いた。
「……硬い」
「あの鱗がろくに突破できないね」
 加奈の言う通り『緑竜』の鱗は硬く、ほとんどダメージは通っていなかった。
「準備を始めますか」
「分かった」
 アリスの言葉に加奈が応じる。
「炎よ――」
 頷いて、加奈が続けた。
 一節一句じゃない?
 俺は首を傾げた。一節一句の命令でなければ、時間と集中力が必要だ。
 この状態で長時間足を止めるのは自殺行為だろう。
『緑竜』も理解しているのか。
 突風が起こって、俺たちを吹き飛ばそうとする。
 俺は咄嗟に障壁を張って凌ぐ。
 しかしアリスにも突風は向かっていく。
「風よ、吹き飛ばせ」
 途端にアリスが突風を相殺させた。
 その様子に胸をなでおろす。
 だが、おかしい。
 さっきの『命令』はどこへ行った?
「――灼熱を超えた黒炎よ」
 加奈が『続けた』。
『緑竜』は攻撃の手を緩めない。
 俺が跳ね回って、出来る限りの攻撃を相殺してゆく。
 しかし全方位の全てを弾くことはできない。
 それをアリスが防いでいた。
「大地よ、防げ」
 迫った炎をアリスが防ぐ。
『緑竜』は不思議そうに足元の俺たちを眺めていた。
 なぜ倒れないのだろうか、という感じだ。
 しかし、尾で攻撃もできないでいる。
 先ほどの転倒を警戒しているらしい。
「一条の光となって敵を貫け――」
 そして、やはり加奈は『続ける』。
 間違いない。
 こいつら、個別に魔術を扱えるのか!?
 確かにアリスが動いている間、加奈は動いていない。
 確かにアリスが何をしていても、加奈が集中することは可能だろう。
 だが、そのためには一体どれほどの人格の制御が必要なのか。
 考えるだけで気が遠くなりそうだ。
 魔力の制御を正確に分割し、肉体の制御を瞬時に切り替える。
 それを寸分の狂いもなしに繰り返す。少しでも失敗すれば魔力が暴走する。
 もしも『多重人格の技術』などというものがあるとすれば、これは神業と言って良いだろう。
「――来た!」
 ナタリーが叫んだ。
 目を向ければ『緑竜』が口を開いていた。
 ブレスだ。あれをまともに食らえば全滅だろう。
「アリス!?」
 そこにアリスは踏み込んだ。
 俺の声も聞かずにブレスを放とうとする『緑竜』へと突っ込んでいく。
「あぁもう!?」
 俺は叫んで後を追う。
 障壁を足場にして、走るアリスの周囲を跳び回る。
『緑竜』が迎え撃とうといくつものスキルを放った。
「くそ! ブレス中も使えるのかよ!」
 俺は毒づきながらなんとか全てを弾く。
 流石にブレス中は手数も減るようだ。
 そしてアリスは『緑竜』の足元へとたどり着く。
 すでに『緑竜』の口は赤く染まっていた。
 さらに地面から槍がいくつも飛び出す。
 しかしアリスは速度を落とさない。
「風よ、吹き飛ばせ」
 ふわり、とアリスが自身の体を浮かせる。
 地面から伸びた槍が空を切る。
「どうにでもなれだ、畜生!」
 俺が障壁を足場に後を追う。
『緑竜』が眼下のアリスを睨みつける。
 同時にアリスを狙っていくつもの氷剣が飛んできた。
 俺は障壁の足場をいくつも使い、その周りを跳ね回る。
 空中で小剣と魔弾を駆使して全てを弾き飛ばす。
「もう一回!
 風よ、吹き飛ばせ」
 もう一度、アリスが風で自身を吹き飛ばす。俺が追う。
 俺たちの位置は『緑竜』の目の前だ。いや、口の前と言うべきか。
 同じ高さまで上がって来たアリスを『緑竜』がぎろりと睨む。
 伝わってくる熱気に、俺の表情が思わず引き攣った。
 また『緑竜』がスキルを使用しようと――
「ぴっ」
 いつからそこにいたのか。
 ピノが目の前から『緑竜』へ向けて強烈な光を放った。
 ――青い小鳥が『悪戯』をした。
「!?」
 目が眩んで『緑竜』は驚いたような呻き声を出した。
「やっちゃえ」
 その隙を逃すことなく、アリスは両手を伸ばす。
 そして、加奈へと意識を切り替えた。
「――焼き払え」
 加奈の言葉に合わせて『緑竜』の顔が黒い炎の束に包まれた。
 至近距離から撃たれた『一節四句』の火属性魔法。
 単純な威力で言えば『S級冒険者』としても十分通用するだろう。
「入った! ……え?」
 俺は大きく頷いた。しかしすぐに驚きの質が変わる。
 黒い光が収まると『緑竜』は確かに顔全体を黒く焦がしていた。
 目は潰れ、口内から煙を吐き出している。
 それでも――口の中は赤く光ったままだった。
 ――ピノ。
 しかし落ち着いたナタリーの声を聞いた気がした。
 まるで予定通りのようだった。
「ぴ!」
 いつの間にか『緑竜』の顎の下に潜り込んだピノが鳴いた。
 風の魔法を受けて『緑竜』の顎がぐん、と跳ね上げられた。
 強力な炎が『ハーフエルフの森』の上空へと放たれる。
 黒い炎が眼球も口の中までも焼き尽くしたのに対して、赤い炎は天に向かって空振った。
「ソフィアちゃん、行って!」
 ナタリーの声。逆にピノはナタリーの元へと帰ってゆく。
 俺は疲れ切ったアリスを抱えると、ゆっくりと地面へ下りてゆく。
 入れ替わるように、俺が作った足場を使って、ソフィアが登って行った。
 いつの間にか、魔物の群れは全滅している。
 両目を失い、顔を焼かれ、ブレスで体力を消耗した『緑竜』がふらふらと体を揺すっていた。
 俺の障壁を強く踏んで、ソフィアがそこに飛び掛かる。
「……ああ、確かに」
 思わず頷いた。良く知っている。
 あの鱗を突破するにはこれしかないだろう。
 バチ、という大きな音。 
 神鋼の大剣が『緑竜』の首を落とした。