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第三部 44話 『緑竜』

ー/ー



 翌日の早朝に王城を発った。

 晴天だった昨日とは大違いの曇り空だった。
 雨は降らないだろうが、不吉な空に見えた。

 昨日、通った道を引き返して最短距離で王都を目指す。
 リーダーであるナタリーはそう結論づけた。

「どのルートも安全である保障なんてこれっぽっちもない。
 でも、少なくとも昨日はいなかった。迷う可能性も低い」
 というのがナタリーの判断だった。

 竜の居場所が分からない以上、結局は運でしかない。
 ならば単純に来た道を戻るのが一番安全だろうと。

 全員、異論はなかった。



『ハーフエルフの森』に入ると、警戒しながら慎重に進むことにした。
 というより、急いで走り抜けるわけにはいかなかった。

 護衛対象の三人が俺たちの速度には付いてこれないだろう。
 だからせめて慎重にゆっくりと進むしかなかったのだ。

「……嫌な感じね」
「ああ、そうだな」

 ソフィアが呟いた。同感だった。
 昨日は何度も遭遇した魔物の群れと一度も会わなかった。



 数時間は歩いただろうか。
 ちょうど街道へ出るまでの中間地点ほどだった。
 そろそろ一度休憩を挟もうかという頃、声が響いた。

「キース! 上から何か来る!」
 その声は俺の頭にだけ響いた。エルが叫んでいる。
 
「……上だ!」
 上空を見上げて、俺も叫ぶ。
 
 緑色の巨大な竜が空中で俺たちへと口を開けていた。
 口の中が赤く光っている。おい、嘘だろう?
 
「!? ソフィアちゃん! 盾!」
「……っ!」
 ナタリーが大急ぎで叫ぶ。
 
 すぐにバチバチ、バチバチ、バチバチ、と。
 聞いたことがないような大きさの錬金音が連続で続く。
 
「正面だけお願い!」
「他は防ぐから間に合わせてッ」
 アリスと加奈が続ける。
 
 神鋼の盾が編み上げられてゆく。
 竜の口がさらに赤い光を増してゆく。
 
 ソフィアがリックで巨大な盾を作り上げるのと、炎のブレスが放たれるのは同時だった。
 
「風よ、吹き飛ばせ」
「障壁よ、防げ」
「……ぴ」

 アリスが、俺が、ピノが、全力で防御を固める。
 熱風が頬を叩く。だが、どうにか防げている。

「?」
 辺り一面を赤い炎に囲まれた中、ナタリーの声が聞こえた気がした。
 一瞬だけ振り返り、言葉を失った。

「口が赤く光る。放射角度は広くない。溜めの時間は長い。属性は炎。実行中は移動不可。飛行しながら実行可能。あと何回実行できる? 竜の能力は魔力を使う。魔物の魔力量は体積と関係がある。先ほど見た竜の体積は……」
 
 ナタリーは目を瞑ってぶつぶつと呟いている。
 自分にできることはないと割り切って、すでに分析を開始していたのだ。
 
 やがて、熱風が収まった。
 一帯の木々が焼き払われている。

 生きているものの、全員が肩で息をしていた。
 特にソフィアの消耗が激しい。
 
「まあ、そうなるわよね」
「あはは……」
 アリスと加奈が乾いた声を出した。

 そこに、ずしん、と。
 大きな音を立ててS級モンスター『緑竜』が降り立った。
 
「んー、これは時間稼ぎだね」
「どれくらい必要かな?」
 アリスと加奈が言ってナタリーを見た。

「二分」
 ナタリーが即答した。

「ブレスは最大であと二回。一回は確実に撃ってくる。
 だけど、この二分間はブレスも撃てないはず。つーか、五分間は撃てないでしょ。どう考えても冷却が必要なのは間違いない。二分あれば立ち直せる」
 ナタリーが付け加える。

 一発目を防げたのは大きいよ、と。
 膝を突いたソフィアに軽く触れた。

「きっつー……」
「大丈夫かな?」
 
 アリスが一歩前に出る。
 まさか一人で時間を稼ぐ、という意味なのか?

「アリス!?」
「いいから。二人は私たちの護衛。援護は私とピノがする」

 援護に走ろうとした俺をナタリーが引き留める。
 ソフィアと二人で声の主を見る。

「大丈夫。二分経ったら二人のどちらかは攻撃に参加してもらう。
 ――そうね、ソフィアちゃんは優秀な盾があるからキースかな」

 ナタリーは冷静に周囲へと目を配らせながら指示を出してゆく。
 釣られて視線を配って、その意図に気が付いた。

「まずは態勢を整える。あのブレスだけは絶対に食らってはいけない。
 アリスの心配をしている場合じゃないよ、新人?」

 護衛対象は怪我こそないが、恐怖で動けない。
 さらに『緑竜』を援護するように多数の魔物が群がって来た。



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 翌日の早朝に王城を発った。
 晴天だった昨日とは大違いの曇り空だった。
 雨は降らないだろうが、不吉な空に見えた。
 昨日、通った道を引き返して最短距離で王都を目指す。
 リーダーであるナタリーはそう結論づけた。
「どのルートも安全である保障なんてこれっぽっちもない。
 でも、少なくとも昨日はいなかった。迷う可能性も低い」
 というのがナタリーの判断だった。
 竜の居場所が分からない以上、結局は運でしかない。
 ならば単純に来た道を戻るのが一番安全だろうと。
 全員、異論はなかった。
『ハーフエルフの森』に入ると、警戒しながら慎重に進むことにした。
 というより、急いで走り抜けるわけにはいかなかった。
 護衛対象の三人が俺たちの速度には付いてこれないだろう。
 だからせめて慎重にゆっくりと進むしかなかったのだ。
「……嫌な感じね」
「ああ、そうだな」
 ソフィアが呟いた。同感だった。
 昨日は何度も遭遇した魔物の群れと一度も会わなかった。
 数時間は歩いただろうか。
 ちょうど街道へ出るまでの中間地点ほどだった。
 そろそろ一度休憩を挟もうかという頃、声が響いた。
「キース! 上から何か来る!」
 その声は俺の頭にだけ響いた。エルが叫んでいる。
「……上だ!」
 上空を見上げて、俺も叫ぶ。
 緑色の巨大な竜が空中で俺たちへと口を開けていた。
 口の中が赤く光っている。おい、嘘だろう?
「!? ソフィアちゃん! 盾!」
「……っ!」
 ナタリーが大急ぎで叫ぶ。
 すぐにバチバチ、バチバチ、バチバチ、と。
 聞いたことがないような大きさの錬金音が連続で続く。
「正面だけお願い!」
「他は防ぐから間に合わせてッ」
 アリスと加奈が続ける。
 神鋼の盾が編み上げられてゆく。
 竜の口がさらに赤い光を増してゆく。
 ソフィアがリックで巨大な盾を作り上げるのと、炎のブレスが放たれるのは同時だった。
「風よ、吹き飛ばせ」
「障壁よ、防げ」
「……ぴ」
 アリスが、俺が、ピノが、全力で防御を固める。
 熱風が頬を叩く。だが、どうにか防げている。
「?」
 辺り一面を赤い炎に囲まれた中、ナタリーの声が聞こえた気がした。
 一瞬だけ振り返り、言葉を失った。
「口が赤く光る。放射角度は広くない。溜めの時間は長い。属性は炎。実行中は移動不可。飛行しながら実行可能。あと何回実行できる? 竜の能力は魔力を使う。魔物の魔力量は体積と関係がある。先ほど見た竜の体積は……」
 ナタリーは目を瞑ってぶつぶつと呟いている。
 自分にできることはないと割り切って、すでに分析を開始していたのだ。
 やがて、熱風が収まった。
 一帯の木々が焼き払われている。
 生きているものの、全員が肩で息をしていた。
 特にソフィアの消耗が激しい。
「まあ、そうなるわよね」
「あはは……」
 アリスと加奈が乾いた声を出した。
 そこに、ずしん、と。
 大きな音を立ててS級モンスター『緑竜』が降り立った。
「んー、これは時間稼ぎだね」
「どれくらい必要かな?」
 アリスと加奈が言ってナタリーを見た。
「二分」
 ナタリーが即答した。
「ブレスは最大であと二回。一回は確実に撃ってくる。
 だけど、この二分間はブレスも撃てないはず。つーか、五分間は撃てないでしょ。どう考えても冷却が必要なのは間違いない。二分あれば立ち直せる」
 ナタリーが付け加える。
 一発目を防げたのは大きいよ、と。
 膝を突いたソフィアに軽く触れた。
「きっつー……」
「大丈夫かな?」
 アリスが一歩前に出る。
 まさか一人で時間を稼ぐ、という意味なのか?
「アリス!?」
「いいから。二人は私たちの護衛。援護は私とピノがする」
 援護に走ろうとした俺をナタリーが引き留める。
 ソフィアと二人で声の主を見る。
「大丈夫。二分経ったら二人のどちらかは攻撃に参加してもらう。
 ――そうね、ソフィアちゃんは優秀な盾があるからキースかな」
 ナタリーは冷静に周囲へと目を配らせながら指示を出してゆく。
 釣られて視線を配って、その意図に気が付いた。
「まずは態勢を整える。あのブレスだけは絶対に食らってはいけない。
 アリスの心配をしている場合じゃないよ、新人?」
 護衛対象は怪我こそないが、恐怖で動けない。
 さらに『緑竜』を援護するように多数の魔物が群がって来た。