第三部 43話 王女様
ー/ー「集まったね。パーティとして依頼はすでに受けたよ」
俺たちを見回しながらナタリーが言った。
早朝の四番街。王都の入口近くだった。
旅支度をして集まるように、ということだった。
「受けた依頼はB級。そこまで難しくはないと思う」
そう言って、ナタリーは依頼書を全員に配った。
そこには、このように書いてあった。
――『ハーフエルフの小国』に向かった集団が帰ってこないので安否を確認してほしい。
「救出依頼?」
「ええ。何かしらの調査に向かったみたい」
ソフィアの疑問に答えて、ナタリーは続ける。
「捜索の難易度が高いからB級の依頼になっているけど、そこはあたしとピノに任せてくれれば良い。二人には前衛を任せるよ」
「なるほど」
ナタリーの言葉に頷いた。
確かに、依頼全体の難易度は高いだろう。
だが、俺たちの得意分野を考えれば問題はなかった。
そもそも『ハーフエルフの森』でランクを上げたこともあるのだ。
俺たちにとって、戦闘の難易度もそこまで高くはない。
『ハーフエルフの小国』はすでに廃墟。
大半は『ハーフエルフの新国』へと移住したと聞く。
もう二十年近く前になるのか。
あの『大魔法』が都市に放たれてから、衰退の一途を辿った。
俺たちは注意深く『ハーフエルフの森』を移動する。
しかし、地理に明るいこともあって、昼過ぎには『ハーフエルフの小国』に到着した。
「ここが『ハーフエルフの小国』か」
森を抜けると、俺は思わず声を漏らした。
木々を大きく切り抜いたような空間に、美しい都市と綺麗な湖が並んでいた。
だが、人の姿は見当たらなかった。すでに廃墟なのだろう。
同時に、思うところがあった。
ここで兄さんは『レン・クーガー』になったのだ。
「キース? 行くよ?」
ナタリーの声に視線を戻して歩き始めた。
湖を迂回して都市へと入った。
門はすでに機能しておらず、中に入ることは簡単だった。
「これは酷いね」
アリスが思わず顔をしかめる。
流石に遺体などは王国で回収している。
だが、さぞや美しかったであろう街並みは魔物の住処になっていた。
俺たちは声を上げながら、都市を探していった。
いくつかの区画があるようで、しらみつぶしに調査していく。
「……何? この区画」
「本当だ。どうしてこの区画だけ建物一つ残っていないんだ?」
ソフィアが首を傾げたので、俺も応じる。
まるでこの区画を丸ごと吹き飛ばしたかのようだった。
「ひょっとしたら、ここが『大魔法』の対象だったのかも」
「あ、それは有り得るね」
ナタリーの言葉に加奈が頷いた。確かにそうかもしれない。
「ぴ!」
その時、単独で調査をしていたピノが戻って鳴いた。
ナタリーの肩に乗ると、羽で一方を示した。
――それは王城だった。
王都ほど大きいわけではないが、立派な王城だった。
流石に正門が破られているわけでもなく、他と比べれば綺麗なものだった。
同じように声を掛けながら捜索を開始した。
城の階段を上り、慎重に声を掛けてゆく。
最後に王族の私室らしき部屋までやってくる。
いるとすればここしかない。俺たちは声を掛けて回った。
すると――
「誰かいませんか!? 助けに来ました!」
「助け!? 救助に来てくれたのですか?」
――返事があった。
出てきたのは一人の老婆と二人の侍女だった。
全員がハーフエルフである。
「救援に来ました。状況を教えていただけますか?」
自己紹介をした後、ナタリーが言葉遣いを正して告げる。
老婆が語り始めた。
どうやら『ハーフエルフの小国』に用があったらしい。
護衛を十人ほど雇ってここまでやって来た。
だが、いざ帰ろうとすると、強力な魔物が現れて護衛を殺してしまった。
仲間も二人失って、生き残ったのは自分たち三人だけ。
「分かりました。護衛は私たちが引き継ぎます。
強力な魔物について、教えてください」
「……竜、でした」
俺たちは内心で焦っていた。表情には出さないようにしていたが。
亜人型の魔物ならともかく、純粋な竜種であれば『S級モンスター』である。
本当だとすれば、護衛が全滅したのも頷ける。
組合の基準で言えば『S級冒険者』一人、あるいは『A級冒険者』五人で討伐する対象だ。
「危険を冒してまで、ここに来たのはどうして?」
「ソフィアちゃん」
ナタリーが窘めるような声を出した。余計な詮索はするな、と。
「いえ、良いのです。多くの犠牲を出してしまった」
老婆が苦し気に顔を歪めた。
二人の侍女に背中を支えられ、さらに続ける。
命を懸けてもらう以上、知る権利があるでしょうと。
「王女様の手がかりを探しに来たのです」
「王女様、ですか?」
「ですが血筋は途絶えたと聞きましたが……?」
老婆の言葉にアリスと加奈が続けて訊いた。
「いいえ。ごく一部の人間しか知りませんが……。
この『ハーフエルフの小国』の王女様がどこかにいらっしゃるのです」
なるほどな。
その王女を特定する手がかりを探してここまで来たと。
で、想定外の魔物が出て帰れなくなったわけだ。
ナタリーはしばらく顎に手を当てて考えていたが、やがて口を開いた。
「お婆さん、ひとまずは王都への帰還を第一に考えます」
「はい。もちろんです。それに、手がかりになりそうなものはすでに集めました。
どの程度役に立つかは分かりませんが……」
「良かった。組合に依頼を出してもらえれば調査を引き継げると思います」
「ありがとうございます」
ナタリーと老婆が方針を固めていく。
「もうすぐ日が暮れる。今日の夜はこのまま王城で明かしましょう。
明日は竜と戦うことになるかもしれない」
俺たちを見回しながらナタリーが言った。
早朝の四番街。王都の入口近くだった。
旅支度をして集まるように、ということだった。
「受けた依頼はB級。そこまで難しくはないと思う」
そう言って、ナタリーは依頼書を全員に配った。
そこには、このように書いてあった。
――『ハーフエルフの小国』に向かった集団が帰ってこないので安否を確認してほしい。
「救出依頼?」
「ええ。何かしらの調査に向かったみたい」
ソフィアの疑問に答えて、ナタリーは続ける。
「捜索の難易度が高いからB級の依頼になっているけど、そこはあたしとピノに任せてくれれば良い。二人には前衛を任せるよ」
「なるほど」
ナタリーの言葉に頷いた。
確かに、依頼全体の難易度は高いだろう。
だが、俺たちの得意分野を考えれば問題はなかった。
そもそも『ハーフエルフの森』でランクを上げたこともあるのだ。
俺たちにとって、戦闘の難易度もそこまで高くはない。
『ハーフエルフの小国』はすでに廃墟。
大半は『ハーフエルフの新国』へと移住したと聞く。
もう二十年近く前になるのか。
あの『大魔法』が都市に放たれてから、衰退の一途を辿った。
俺たちは注意深く『ハーフエルフの森』を移動する。
しかし、地理に明るいこともあって、昼過ぎには『ハーフエルフの小国』に到着した。
「ここが『ハーフエルフの小国』か」
森を抜けると、俺は思わず声を漏らした。
木々を大きく切り抜いたような空間に、美しい都市と綺麗な湖が並んでいた。
だが、人の姿は見当たらなかった。すでに廃墟なのだろう。
同時に、思うところがあった。
ここで兄さんは『レン・クーガー』になったのだ。
「キース? 行くよ?」
ナタリーの声に視線を戻して歩き始めた。
湖を迂回して都市へと入った。
門はすでに機能しておらず、中に入ることは簡単だった。
「これは酷いね」
アリスが思わず顔をしかめる。
流石に遺体などは王国で回収している。
だが、さぞや美しかったであろう街並みは魔物の住処になっていた。
俺たちは声を上げながら、都市を探していった。
いくつかの区画があるようで、しらみつぶしに調査していく。
「……何? この区画」
「本当だ。どうしてこの区画だけ建物一つ残っていないんだ?」
ソフィアが首を傾げたので、俺も応じる。
まるでこの区画を丸ごと吹き飛ばしたかのようだった。
「ひょっとしたら、ここが『大魔法』の対象だったのかも」
「あ、それは有り得るね」
ナタリーの言葉に加奈が頷いた。確かにそうかもしれない。
「ぴ!」
その時、単独で調査をしていたピノが戻って鳴いた。
ナタリーの肩に乗ると、羽で一方を示した。
――それは王城だった。
王都ほど大きいわけではないが、立派な王城だった。
流石に正門が破られているわけでもなく、他と比べれば綺麗なものだった。
同じように声を掛けながら捜索を開始した。
城の階段を上り、慎重に声を掛けてゆく。
最後に王族の私室らしき部屋までやってくる。
いるとすればここしかない。俺たちは声を掛けて回った。
すると――
「誰かいませんか!? 助けに来ました!」
「助け!? 救助に来てくれたのですか?」
――返事があった。
出てきたのは一人の老婆と二人の侍女だった。
全員がハーフエルフである。
「救援に来ました。状況を教えていただけますか?」
自己紹介をした後、ナタリーが言葉遣いを正して告げる。
老婆が語り始めた。
どうやら『ハーフエルフの小国』に用があったらしい。
護衛を十人ほど雇ってここまでやって来た。
だが、いざ帰ろうとすると、強力な魔物が現れて護衛を殺してしまった。
仲間も二人失って、生き残ったのは自分たち三人だけ。
「分かりました。護衛は私たちが引き継ぎます。
強力な魔物について、教えてください」
「……竜、でした」
俺たちは内心で焦っていた。表情には出さないようにしていたが。
亜人型の魔物ならともかく、純粋な竜種であれば『S級モンスター』である。
本当だとすれば、護衛が全滅したのも頷ける。
組合の基準で言えば『S級冒険者』一人、あるいは『A級冒険者』五人で討伐する対象だ。
「危険を冒してまで、ここに来たのはどうして?」
「ソフィアちゃん」
ナタリーが窘めるような声を出した。余計な詮索はするな、と。
「いえ、良いのです。多くの犠牲を出してしまった」
老婆が苦し気に顔を歪めた。
二人の侍女に背中を支えられ、さらに続ける。
命を懸けてもらう以上、知る権利があるでしょうと。
「王女様の手がかりを探しに来たのです」
「王女様、ですか?」
「ですが血筋は途絶えたと聞きましたが……?」
老婆の言葉にアリスと加奈が続けて訊いた。
「いいえ。ごく一部の人間しか知りませんが……。
この『ハーフエルフの小国』の王女様がどこかにいらっしゃるのです」
なるほどな。
その王女を特定する手がかりを探してここまで来たと。
で、想定外の魔物が出て帰れなくなったわけだ。
ナタリーはしばらく顎に手を当てて考えていたが、やがて口を開いた。
「お婆さん、ひとまずは王都への帰還を第一に考えます」
「はい。もちろんです。それに、手がかりになりそうなものはすでに集めました。
どの程度役に立つかは分かりませんが……」
「良かった。組合に依頼を出してもらえれば調査を引き継げると思います」
「ありがとうございます」
ナタリーと老婆が方針を固めていく。
「もうすぐ日が暮れる。今日の夜はこのまま王城で明かしましょう。
明日は竜と戦うことになるかもしれない」
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