第三部 42話 一休み
ー/ー 翌日。
今後の予定について話があると言われて、俺たちは呼び出された。
「ここまでは簡単。二人ならすぐに到達すると思っていたよ」
「ッ!」
組合の窓口でナタリーは鷹揚に頷いた。
俺たち二人の肩がぴくりと動く。
危ない。反射的に右からナタリーに殴り掛かろうとしてしまった。
おそらくソフィアは左から蹴りつけようとでもしたのだろう。
山ごもりで鍛えられた連携が発揮されそうだった。
駄目だ、そんなことをしてはいけない……今はまだ。
「でも『D級冒険者』から『C級冒険者』になるのは簡単じゃない。
そこで、手っ取り早く上げるために私たち『A級冒険者』の依頼に協力してもらう」
「ナタリーとアリスの依頼を手伝う?」
「それでランクが上がるの?」
ナタリーの言葉に俺たちが声を上げる。
すると今度はアリスと加奈が答えた。
「ええ、パーティとして達成できればランクを上げやすい」
「もっとも、ランクが遠すぎる依頼は受けられないけどね」
なるほど。
このためにランクを急いで上げたかったのか。
「そう。依頼を受けられる範囲は二等級差まで。
これで私たち全員でB級相当の依頼が受けられる」
「そのランクの依頼をいくつか達成できれば『C級冒険者』になれるだろうね」
「本当はA級相当の依頼を受けられれば一回でも『C級冒険者』には上がりそうだけど」
ナタリー、アリス、加奈が順に話す。
「依頼の当ては付けてあるから、二人は数日の間は休んでて。
王都からそんなに離れるつもりはないけど、依頼を達成するまでは戻れないからそのつもりでね」
休みと言われて、俺は自宅へと帰った。
クロス男爵の屋敷である。
「あの、兄さん?」
自分の部屋へと向かおうとすると、ティアナが声を掛けてきた。
自然な動作で俺の頭からエルを奪う。いつものことだ。
楽しそうに戯れながらも、心配そうな顔を俺に向けた。
「どうしたんだ?」
「なんて言うか……大丈夫です?」
ティアナは言いづらそうに訊いて来た。
「はは、何だよ。大丈夫って。大丈夫に決まってるだろ。
一体どうしたんだ? 突然……」
俺は笑いながら訊き返す。心配されるような覚えはない。
「うーん、どうしたって言われると難しいんだけど。
昨日、久しぶりに帰って来てから少しだけ気になったから」
「何がだ? いつも通りだろ?」
ティアナが表情を曇らせたので、俺は明るく笑い返した。
「えーと、大丈夫かなって――情緒」
「情緒!?」
想定外の言葉に俺が大きな声を出してしまう。
ティアナは言葉を選ぶように一言ずつ口にする。
「うん。だってですよ?
昨日、ボロボロで家に帰ってきたじゃないですか?」
「ああ、そうだな」
「その後、すぐに部屋に籠ったじゃないですか?」
「まあ、そうだったかも知れない」
ティアナがエルの手で遊んでいる。俺が触ったら叩く癖に。
少しだけ間を空けて、ティアナは続けた。妙に優しい。
「……その時、叫んだ言葉を覚えてます?」
「い、いや?」
「覚えてろ! お前にも人間やめさせてやる! です」
「……覚えがないなぁ」
俺は目を泳がせた。しまった、ついナタリーへの本音が。
「そうですか。家族で夕飯を食べた時は?」
「うーん、疲れてたから記憶が曖昧で」
「美味しい! なんて美味しいんだ! 久しぶりの『料理』だ! です」
「ははは、疲れてたんだなぁ」
今度は声が裏返る。いや、事実しか言ってないんだがな?
「そうですか。ちなみに泣いてましたよ?
では、昨日ベッドに入った後は?」
「いやぁ、すぐに寝ちゃったからね? 寝言かも?」
「なるほど。寝言ですか。私が部屋の前を通った時ですからね。確かに寝言かも。
ごめんなさい……ごめんなさい、盗賊さん……もう襲いませんから。です」
「…………」
何も言わない方がマシだろう。
ティアナと二人、まじまじと見つめ合う。
冷や汗を流す俺に、ティアナは心配そうに訊き直した。
「大丈夫ですか? ……情緒」
「だ、大丈夫に決まってるだろ」
俺を心配するティアナと妙に気まずい雰囲気になっていると救いがやって来た。
グレイとセシルの二人が屋敷を訪ねてくれたのだ。
「お、久しぶりだな?」
「今日はお休みだから」
どうやら休日に会って話そうという趣旨らしい。
俺は喜んで一緒に出掛けることにした。
セシルが良い店を知っているということで、案内をしてくれた。
時計塔近くの二番街。歩き慣れている俺たちはすぐに店までやってくる。
「へぇ……」
俺たちの声にセシルが得意げに胸を張った。
雰囲気が良い喫茶店のような店だった。
いつの間にか王都にはこの手の店が増えていた。
食事を取りながら、軽い近況報告をいくつか交える。
二人とも忙しいらしく、今までろくな休みもなく働いていたようだ。
久しぶりの休みなので暇を持て余した、という側面もあるのかもしれない。
まあ、俺も似たようなものだが。
しばらく話を続けていると、グレイが口元を歪めながら切り出した。
言いたいことでもあったのか?
「いや、騎士団も大変なんだよ」
自分の仕事の愚痴を零したいらしい。
「む。魔術師団だって大変」
すぐさまセシルが応じた。こちらも同じか。
「おいおい、組合だって大変だぞ」
最後に俺も負けるものかと言い返した。
俺たちが同じような表情で「やれやれ」と息を吐いた。
一斉に口を開く。
「上司から雑用ばかり押し付けられるんだ!」
「卒業したのにまた勉強してるの、なんで?」
「二人で盗賊団を五つ壊滅させるまで山で野宿だぞ、ちくしょう!?」
グレイ、セシル、俺、と同時に叫んだ。俺だけは絶叫である。
「――ッ!?」
「……なんて?」
すぐさまグレイとセシルがぎょっと俺を見た。
一人だけ大変の度合いが違いすぎたからだろう。
「俺の勝ちだな!」
鼻息荒く俺が声を上げた。二人が絶句している。
不幸自慢は俺の圧勝だった。
せめて精一杯喜んでやったよ。
――情緒?
――もちろん大丈夫に決まってるだろ?
今後の予定について話があると言われて、俺たちは呼び出された。
「ここまでは簡単。二人ならすぐに到達すると思っていたよ」
「ッ!」
組合の窓口でナタリーは鷹揚に頷いた。
俺たち二人の肩がぴくりと動く。
危ない。反射的に右からナタリーに殴り掛かろうとしてしまった。
おそらくソフィアは左から蹴りつけようとでもしたのだろう。
山ごもりで鍛えられた連携が発揮されそうだった。
駄目だ、そんなことをしてはいけない……今はまだ。
「でも『D級冒険者』から『C級冒険者』になるのは簡単じゃない。
そこで、手っ取り早く上げるために私たち『A級冒険者』の依頼に協力してもらう」
「ナタリーとアリスの依頼を手伝う?」
「それでランクが上がるの?」
ナタリーの言葉に俺たちが声を上げる。
すると今度はアリスと加奈が答えた。
「ええ、パーティとして達成できればランクを上げやすい」
「もっとも、ランクが遠すぎる依頼は受けられないけどね」
なるほど。
このためにランクを急いで上げたかったのか。
「そう。依頼を受けられる範囲は二等級差まで。
これで私たち全員でB級相当の依頼が受けられる」
「そのランクの依頼をいくつか達成できれば『C級冒険者』になれるだろうね」
「本当はA級相当の依頼を受けられれば一回でも『C級冒険者』には上がりそうだけど」
ナタリー、アリス、加奈が順に話す。
「依頼の当ては付けてあるから、二人は数日の間は休んでて。
王都からそんなに離れるつもりはないけど、依頼を達成するまでは戻れないからそのつもりでね」
休みと言われて、俺は自宅へと帰った。
クロス男爵の屋敷である。
「あの、兄さん?」
自分の部屋へと向かおうとすると、ティアナが声を掛けてきた。
自然な動作で俺の頭からエルを奪う。いつものことだ。
楽しそうに戯れながらも、心配そうな顔を俺に向けた。
「どうしたんだ?」
「なんて言うか……大丈夫です?」
ティアナは言いづらそうに訊いて来た。
「はは、何だよ。大丈夫って。大丈夫に決まってるだろ。
一体どうしたんだ? 突然……」
俺は笑いながら訊き返す。心配されるような覚えはない。
「うーん、どうしたって言われると難しいんだけど。
昨日、久しぶりに帰って来てから少しだけ気になったから」
「何がだ? いつも通りだろ?」
ティアナが表情を曇らせたので、俺は明るく笑い返した。
「えーと、大丈夫かなって――情緒」
「情緒!?」
想定外の言葉に俺が大きな声を出してしまう。
ティアナは言葉を選ぶように一言ずつ口にする。
「うん。だってですよ?
昨日、ボロボロで家に帰ってきたじゃないですか?」
「ああ、そうだな」
「その後、すぐに部屋に籠ったじゃないですか?」
「まあ、そうだったかも知れない」
ティアナがエルの手で遊んでいる。俺が触ったら叩く癖に。
少しだけ間を空けて、ティアナは続けた。妙に優しい。
「……その時、叫んだ言葉を覚えてます?」
「い、いや?」
「覚えてろ! お前にも人間やめさせてやる! です」
「……覚えがないなぁ」
俺は目を泳がせた。しまった、ついナタリーへの本音が。
「そうですか。家族で夕飯を食べた時は?」
「うーん、疲れてたから記憶が曖昧で」
「美味しい! なんて美味しいんだ! 久しぶりの『料理』だ! です」
「ははは、疲れてたんだなぁ」
今度は声が裏返る。いや、事実しか言ってないんだがな?
「そうですか。ちなみに泣いてましたよ?
では、昨日ベッドに入った後は?」
「いやぁ、すぐに寝ちゃったからね? 寝言かも?」
「なるほど。寝言ですか。私が部屋の前を通った時ですからね。確かに寝言かも。
ごめんなさい……ごめんなさい、盗賊さん……もう襲いませんから。です」
「…………」
何も言わない方がマシだろう。
ティアナと二人、まじまじと見つめ合う。
冷や汗を流す俺に、ティアナは心配そうに訊き直した。
「大丈夫ですか? ……情緒」
「だ、大丈夫に決まってるだろ」
俺を心配するティアナと妙に気まずい雰囲気になっていると救いがやって来た。
グレイとセシルの二人が屋敷を訪ねてくれたのだ。
「お、久しぶりだな?」
「今日はお休みだから」
どうやら休日に会って話そうという趣旨らしい。
俺は喜んで一緒に出掛けることにした。
セシルが良い店を知っているということで、案内をしてくれた。
時計塔近くの二番街。歩き慣れている俺たちはすぐに店までやってくる。
「へぇ……」
俺たちの声にセシルが得意げに胸を張った。
雰囲気が良い喫茶店のような店だった。
いつの間にか王都にはこの手の店が増えていた。
食事を取りながら、軽い近況報告をいくつか交える。
二人とも忙しいらしく、今までろくな休みもなく働いていたようだ。
久しぶりの休みなので暇を持て余した、という側面もあるのかもしれない。
まあ、俺も似たようなものだが。
しばらく話を続けていると、グレイが口元を歪めながら切り出した。
言いたいことでもあったのか?
「いや、騎士団も大変なんだよ」
自分の仕事の愚痴を零したいらしい。
「む。魔術師団だって大変」
すぐさまセシルが応じた。こちらも同じか。
「おいおい、組合だって大変だぞ」
最後に俺も負けるものかと言い返した。
俺たちが同じような表情で「やれやれ」と息を吐いた。
一斉に口を開く。
「上司から雑用ばかり押し付けられるんだ!」
「卒業したのにまた勉強してるの、なんで?」
「二人で盗賊団を五つ壊滅させるまで山で野宿だぞ、ちくしょう!?」
グレイ、セシル、俺、と同時に叫んだ。俺だけは絶叫である。
「――ッ!?」
「……なんて?」
すぐさまグレイとセシルがぎょっと俺を見た。
一人だけ大変の度合いが違いすぎたからだろう。
「俺の勝ちだな!」
鼻息荒く俺が声を上げた。二人が絶句している。
不幸自慢は俺の圧勝だった。
せめて精一杯喜んでやったよ。
――情緒?
――もちろん大丈夫に決まってるだろ?
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