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第三部 41話 盗賊狩り

ー/ー



「盗賊狩りだぁ!?」
 ……俺たちのことである。
 
 すでに『E級冒険者』になって十日ほどが経った。
 俺とソフィアは王都近隣の山を荒らし回っていた。
 
 ナタリーからは『D級冒険者』になるまで帰ってくるなと言われたのだ。
 ほんと、アッシュの頃に一発くらい引っ叩いてやればよかった。

 すぐに山の魔物を狩りつくし、次は盗賊へと目を付けたのだ。
 いくつかの盗賊団を潰した後、俺たちは『盗賊狩り』と呼ばれていた。

「ちくしょう!」

 盗賊団の一人が曲刀を振るった。
 俺は正確に見切って半身下がる。

 掌を腹に置いて、魔弾を放った。
 十分に威力は抑えたが、それでも相手は呻きながら蹲る。
 その脇を素早く走り抜けながら奥へと向かった。そのまま盗賊のリーダーを探す。

 ちらりと目を向ければ、ソフィアの方も盗賊団を圧倒している。
 この世界では魔力やスキル、使い魔の有無で個人の能力に大きな差が出る。

 だからこそ、適切にそれらの才能を運用するために『三組織』があるのだ。
 これらを持たない相手と、仮にも王立学院出身の俺たちでは勝負にならなかった。

「お前ら! 一体何の恨みがあるんだ!?」
 奥から大柄な男が走って来た。リーダーだろう。

「盗賊なんだから仕方ないでしょう?」
「ああ、自業自得だろう? 捕まる覚悟もないのか?」
 俺たちは努めて冷たく言い放った。

「……略奪中なら覚悟もあるさ。こっちも稼業としてやってるんだ」
 盗賊のリーダーは納得できない様子で声を低くした。
 
「でも、今の時期は襲撃もしていない! 俺たちは最低限の略奪に抑えてる。殺しもなしだ!
 お前らが誰かは知らないが、王国とは持ちつ持たれつでやってきた!」

 知っていた。今までの盗賊団とは違う。
 こいつらは程度を弁えた盗賊団であり、上手く社会と折り合いをつけた集団だ。
 調べた限り、義賊に近いこともやっている。
 
「これじゃあ、ただの奇襲じゃないか!」
 盗賊団は夕食中だった。料理が湯気を上げている。

 盗賊の子供が不思議そうに俺を見上げた。目が合う。
 母親がその身を庇う。きっと俺を睨みつけた。

 どう見ても俺たちの方が悪かった。
 旧世界で言えば「犯罪者だから殴っても良いよね?」と言うようなものだ。

「うるさいな……仕方ないだろうが」

 俺の視線に盗賊のリーダーは肩を竦ませた。
 命の危険を感じたのかも知れない。

 もちろんそんなつもりはない。
 俺たちが気にしているのは別のことだ。

 俺は心の底から叫んだ。
 襲撃の理由など一つしかない。

「そうさ、仕方ないじゃないか!
 ――効率が良いんだよッ!」

 王国は治安が良いこともあり、盗賊自体が少ない。
 加えて王都周辺ともなれば、捕縛すれば組合のランクが良く上がるのだ。

 盗賊団がまとめて首を傾げた。
 言ってる俺も筋が通ってなさ過ぎて泣ける。

「……もう家に帰りたいのよ! 山の野宿は大変なの」
 ソフィアが両手で顔を覆った。俺たちの格好は盗賊よりもボロボロだった。

「もう魔物は一匹残らず狩りつくしてしまったのよ! 他にランクを上げる術がないの……」
「悪いようにはしないので、捕まってください。恩に着ますから……」

「……何でお前らの方が必死なんだ?」
 リーダーの優しい声が心に沁みた。



「あの、くれぐれも穏便な処置を……」
 王都に戻り、俺が頭を下げるとナタリーアリスが腹を抱えて笑った。

「ひー、面白い! 確かに王都周辺は魔物も多くない。
 どうやってランクを上げるかなと思ってたんだけどね。あはは」
 ナタリーが堪え切れずにまた笑う。

 俺とソフィアは怒りで震えていた。
 いつか復讐しようと寒空の下で既に誓い合っている。

「くっくっく……盗賊団にお願いするなんて前代未聞だね」
「……んー、義賊で良かった、のかな?」
 アリスも笑って、加奈が首を傾げた。

 ん? ちょっと待て加奈。それはやめてほしい。
 それだと俺たちが義賊に助けられたことになるじゃないか。



 結局、ナタリーの口添えということで『盗賊団を更生させた』ことになった。
 俺たちはお礼を告げて丁重に盗賊団を見送った。

 そうして俺たちは一週間ほどで『D級冒険者』まで上がっていた。
 いや、上げられたと言って良いだろう。

 盗賊に上げてもらったわけではない……はずだ。



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「盗賊狩りだぁ!?」
 ……俺たちのことである。
 すでに『E級冒険者』になって十日ほどが経った。
 俺とソフィアは王都近隣の山を荒らし回っていた。
 ナタリーからは『D級冒険者』になるまで帰ってくるなと言われたのだ。
 ほんと、アッシュの頃に一発くらい引っ叩いてやればよかった。
 すぐに山の魔物を狩りつくし、次は盗賊へと目を付けたのだ。
 いくつかの盗賊団を潰した後、俺たちは『盗賊狩り』と呼ばれていた。
「ちくしょう!」
 盗賊団の一人が曲刀を振るった。
 俺は正確に見切って半身下がる。
 掌を腹に置いて、魔弾を放った。
 十分に威力は抑えたが、それでも相手は呻きながら蹲る。
 その脇を素早く走り抜けながら奥へと向かった。そのまま盗賊のリーダーを探す。
 ちらりと目を向ければ、ソフィアの方も盗賊団を圧倒している。
 この世界では魔力やスキル、使い魔の有無で個人の能力に大きな差が出る。
 だからこそ、適切にそれらの才能を運用するために『三組織』があるのだ。
 これらを持たない相手と、仮にも王立学院出身の俺たちでは勝負にならなかった。
「お前ら! 一体何の恨みがあるんだ!?」
 奥から大柄な男が走って来た。リーダーだろう。
「盗賊なんだから仕方ないでしょう?」
「ああ、自業自得だろう? 捕まる覚悟もないのか?」
 俺たちは努めて冷たく言い放った。
「……略奪中なら覚悟もあるさ。こっちも稼業としてやってるんだ」
 盗賊のリーダーは納得できない様子で声を低くした。
「でも、今の時期は襲撃もしていない! 俺たちは最低限の略奪に抑えてる。殺しもなしだ!
 お前らが誰かは知らないが、王国とは持ちつ持たれつでやってきた!」
 知っていた。今までの盗賊団とは違う。
 こいつらは程度を弁えた盗賊団であり、上手く社会と折り合いをつけた集団だ。
 調べた限り、義賊に近いこともやっている。
「これじゃあ、ただの奇襲じゃないか!」
 盗賊団は夕食中だった。料理が湯気を上げている。
 盗賊の子供が不思議そうに俺を見上げた。目が合う。
 母親がその身を庇う。きっと俺を睨みつけた。
 どう見ても俺たちの方が悪かった。
 旧世界で言えば「犯罪者だから殴っても良いよね?」と言うようなものだ。
「うるさいな……仕方ないだろうが」
 俺の視線に盗賊のリーダーは肩を竦ませた。
 命の危険を感じたのかも知れない。
 もちろんそんなつもりはない。
 俺たちが気にしているのは別のことだ。
 俺は心の底から叫んだ。
 襲撃の理由など一つしかない。
「そうさ、仕方ないじゃないか!
 ――効率が良いんだよッ!」
 王国は治安が良いこともあり、盗賊自体が少ない。
 加えて王都周辺ともなれば、捕縛すれば組合のランクが良く上がるのだ。
 盗賊団がまとめて首を傾げた。
 言ってる俺も筋が通ってなさ過ぎて泣ける。
「……もう家に帰りたいのよ! 山の野宿は大変なの」
 ソフィアが両手で顔を覆った。俺たちの格好は盗賊よりもボロボロだった。
「もう魔物は一匹残らず狩りつくしてしまったのよ! 他にランクを上げる術がないの……」
「悪いようにはしないので、捕まってください。恩に着ますから……」
「……何でお前らの方が必死なんだ?」
 リーダーの優しい声が心に沁みた。
「あの、くれぐれも穏便な処置を……」
 王都に戻り、俺が頭を下げるとナタリーアリスが腹を抱えて笑った。
「ひー、面白い! 確かに王都周辺は魔物も多くない。
 どうやってランクを上げるかなと思ってたんだけどね。あはは」
 ナタリーが堪え切れずにまた笑う。
 俺とソフィアは怒りで震えていた。
 いつか復讐しようと寒空の下で既に誓い合っている。
「くっくっく……盗賊団にお願いするなんて前代未聞だね」
「……んー、義賊で良かった、のかな?」
 アリスも笑って、加奈が首を傾げた。
 ん? ちょっと待て加奈。それはやめてほしい。
 それだと俺たちが義賊に助けられたことになるじゃないか。
 結局、ナタリーの口添えということで『盗賊団を更生させた』ことになった。
 俺たちはお礼を告げて丁重に盗賊団を見送った。
 そうして俺たちは一週間ほどで『D級冒険者』まで上がっていた。
 いや、上げられたと言って良いだろう。
 盗賊に上げてもらったわけではない……はずだ。