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第三部 37話 墓

ー/ー



 俺たちは固唾を飲んで、結果を見守った。

「うーん……まあ、い、良いでしょう」
 担任の先生は渋い顔で頷いた。初老の男性で、種族は人間だ。
 
「よし! 言質取ったぞ!」
「……卒業認定を言質と言った奴は初めてだ」
 グレイの叫びに先生は目を見開いた。

「これで組合に迷惑を掛けなくて済んだ……」
「ああ、同感だ。かといってこれ以上譲歩したら学院の沽券に関わるんだよ」
 俺の言葉にそう返してから「何度目の卒業試験追試だったかな?」と続けた。

「……お姉ちゃんに怒られなくて済む」
「それは良かった。魔術師団副団長殿にくれぐれもよろしく」
 三組織が運営する教育機関の教師は、その副団長の妹へと皮肉げに笑い掛けた。

 俺たち三人は安堵も喜びも吹き消され、多大な迷惑を掛けた担任を見た。
 ……この一年で随分とやつれた気がする。

 俺は組合でナタリーアリス、ソフィアとチームを組む。
 グレイは騎士団への内定が決まっていた。
 セシルはセシリーの後を追って魔術師団へと入る。

 学院側としてもこの実績を消したくはなかったらしい。
 不正はなかったが、おかげで多くの機会をもらえたと思う。



 数日後、俺たちは卒業式を迎えた。
 ……間違いではない。数日後である。

 入学式と同じように講堂で話を聞いた。
 その場で解散のようなものだった。

 外にでてみれば、いつの間にか曇天になっていた。
 空気も読まずに一雨降りそうに見えた。

「良く卒業できたものだな」
「ああ。正直、無理かと思ったぞ」
「……今朝も卒業できなかった夢を見た」
 俺が呟くと、グレイとセシルが応じた。夢に見るほど怖かったらしい。

 結局、俺たちは王都に残る。
 これからもすぐに会うだろうから、湿っぽい感じにはならなかった。

「……驚いた」
「ん?」
 呆然とした声に振り返る。ソフィアが立っていた。

「……卒業できなかった人は来たら駄目だと思うわよ?」
「違うだろ! 卒業できたんだよ! そっちを驚いてくれ!」
「卒業できたことを驚いてほしいの?」
 エルの言葉に痛いところを突かれて、思わず黙る。

「そう、卒業できたのね。雪でも降るのかしら?」
「……」
 そう言って、厚い曇り空を見上げた。もうやめてくれよ。

「まあ、良いわ。卒業できたのなら付いてきて。
 来てほしいところがあるの。もう用もないでしょう?」
「ないけどさ」
 俺はグレイとセシルを見た。二人とも別に気にしてもいないようだ。

「分かった」
 俺はソフィアに付いて行った。



「? 王都から出るのか?」
 検問を抜けようとするソフィアに声を掛けた。

「ええ、別に良いでしょ」
 俺は軽く頷いて、検問を抜けた。

 流石に二人とも貴族。ましてや一方は公爵家だ。
 検問は事実上の顔パスだった。

「?」
 しばらく歩くと、いつか見かけた演習場の近くへとやってきた。
 さらに小道に入って、整備された小高い丘を登って行った。

「ここよ」
 ソフィアの声に周囲を見回した。
 
 小まめに手入れされた芝生が円形に広がっている。
 大きい広場だが、俺たちの他には誰もいない。

 ――広場の奥に、墓碑があった。

「……騎士団の慰霊碑よ」
 ソフィアが歩み寄って告げた。俺は数歩後ろに続いた。

 覗き込むと、見慣れた名前が目についた。
『アッシュ・クレフ』と、書いてあった。

 ……そうか。
 村に墓はあったが、ここにも名前を刻んでくれたんだな。

「……これを見せたかったのか?」
 俺が訊ねると、ソフィアは首を横に振った。

「いいえ。ここが良かったのよ」
「?」
 俺は首を傾げる。ソフィアは獰猛に笑って続けた。

「あんたとは結局五勝五敗かしら? 白黒はっきりさせたい性質なのよ。
 狙い通り、人目もないわ。降り始める前に始めましょう? ……雪が」
 
 ソフィアは勝手に言うと、リックを構えた。
 俺は思わず笑みを浮かべた。あまりにも『らしかった』のだ。

「……雨だろ」

 溜息交じりに俺が言うと、ソフィアは軽く首をすくめて見せる。
 俺は腰のナイフを抜いて、逆手に構えた。



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 俺たちは固唾を飲んで、結果を見守った。
「うーん……まあ、い、良いでしょう」
 担任の先生は渋い顔で頷いた。初老の男性で、種族は人間だ。
「よし! 言質取ったぞ!」
「……卒業認定を言質と言った奴は初めてだ」
 グレイの叫びに先生は目を見開いた。
「これで組合に迷惑を掛けなくて済んだ……」
「ああ、同感だ。かといってこれ以上譲歩したら学院の沽券に関わるんだよ」
 俺の言葉にそう返してから「何度目の卒業試験追試だったかな?」と続けた。
「……お姉ちゃんに怒られなくて済む」
「それは良かった。魔術師団副団長殿にくれぐれもよろしく」
 三組織が運営する教育機関の教師は、その副団長の妹へと皮肉げに笑い掛けた。
 俺たち三人は安堵も喜びも吹き消され、多大な迷惑を掛けた担任を見た。
 ……この一年で随分とやつれた気がする。
 俺は組合でナタリーアリス、ソフィアとチームを組む。
 グレイは騎士団への内定が決まっていた。
 セシルはセシリーの後を追って魔術師団へと入る。
 学院側としてもこの実績を消したくはなかったらしい。
 不正はなかったが、おかげで多くの機会をもらえたと思う。
 数日後、俺たちは卒業式を迎えた。
 ……間違いではない。数日後である。
 入学式と同じように講堂で話を聞いた。
 その場で解散のようなものだった。
 外にでてみれば、いつの間にか曇天になっていた。
 空気も読まずに一雨降りそうに見えた。
「良く卒業できたものだな」
「ああ。正直、無理かと思ったぞ」
「……今朝も卒業できなかった夢を見た」
 俺が呟くと、グレイとセシルが応じた。夢に見るほど怖かったらしい。
 結局、俺たちは王都に残る。
 これからもすぐに会うだろうから、湿っぽい感じにはならなかった。
「……驚いた」
「ん?」
 呆然とした声に振り返る。ソフィアが立っていた。
「……卒業できなかった人は来たら駄目だと思うわよ?」
「違うだろ! 卒業できたんだよ! そっちを驚いてくれ!」
「卒業できたことを驚いてほしいの?」
 エルの言葉に痛いところを突かれて、思わず黙る。
「そう、卒業できたのね。雪でも降るのかしら?」
「……」
 そう言って、厚い曇り空を見上げた。もうやめてくれよ。
「まあ、良いわ。卒業できたのなら付いてきて。
 来てほしいところがあるの。もう用もないでしょう?」
「ないけどさ」
 俺はグレイとセシルを見た。二人とも別に気にしてもいないようだ。
「分かった」
 俺はソフィアに付いて行った。
「? 王都から出るのか?」
 検問を抜けようとするソフィアに声を掛けた。
「ええ、別に良いでしょ」
 俺は軽く頷いて、検問を抜けた。
 流石に二人とも貴族。ましてや一方は公爵家だ。
 検問は事実上の顔パスだった。
「?」
 しばらく歩くと、いつか見かけた演習場の近くへとやってきた。
 さらに小道に入って、整備された小高い丘を登って行った。
「ここよ」
 ソフィアの声に周囲を見回した。
 小まめに手入れされた芝生が円形に広がっている。
 大きい広場だが、俺たちの他には誰もいない。
 ――広場の奥に、墓碑があった。
「……騎士団の慰霊碑よ」
 ソフィアが歩み寄って告げた。俺は数歩後ろに続いた。
 覗き込むと、見慣れた名前が目についた。
『アッシュ・クレフ』と、書いてあった。
 ……そうか。
 村に墓はあったが、ここにも名前を刻んでくれたんだな。
「……これを見せたかったのか?」
 俺が訊ねると、ソフィアは首を横に振った。
「いいえ。ここが良かったのよ」
「?」
 俺は首を傾げる。ソフィアは獰猛に笑って続けた。
「あんたとは結局五勝五敗かしら? 白黒はっきりさせたい性質なのよ。
 狙い通り、人目もないわ。降り始める前に始めましょう? ……雪が」
 ソフィアは勝手に言うと、リックを構えた。
 俺は思わず笑みを浮かべた。あまりにも『らしかった』のだ。
「……雨だろ」
 溜息交じりに俺が言うと、ソフィアは軽く首をすくめて見せる。
 俺は腰のナイフを抜いて、逆手に構えた。