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瑠菜の過去

ー/ー



 瑠菜が退院する前日、いつも通り持ってきた本を読んでいる瑠菜の病室の戸が開いた。

 「わりぃ、瑠菜。」
 「お兄!」

 瑠菜のベッドには階段のようなものが取り付けられ、一人でもベッドを下りられるようになっていた。
ケイが不便だからということでやってくれた。
とはいえ、長距離は片足で進めないため車いすを使っている。
車いすの時は看護師さんか、楓李やこはくが押してくれる。
瑠菜は進むことすらできなかったのだ。

 「おっと。」
 「お兄、なんで来なかったの?ひどい!」

 倒れるように自分に飛びついてきた瑠菜を支えながら雪紀は少し笑う。

 「あれ?来るなって言わなかったか?」
 「いじわる……」
 「ふっ、悪かったって。やっとできたんだ。」
 「何が?」
 「足。」
 「きもっ。」

 瑠菜のその反応を見て元気になったなぁと雪紀は思った。

 瑠菜自身、雪紀にこの界隈へ入れられてからこうやってゆっくりする時間はあまりなかった。
毎日、学校、仕事、学校、仕事で、忙しすぎたのだ。
ほかの同級生とは違う世界を生きていると思っていいほど大変な毎日。
部活?クラブ?きっと瑠菜の大変さはそういうことをやっている人よりもすごい。
表すなら、掛け持ちを五、六個くらいやっている人と同じくらいだ。

 そんな瑠菜が、大量に休みをもらい、お見舞いに来たみんなとゆっくり話せたのはすごく幸せなことだと思った。
そう思うと、自然と元気も出てきた。

 「自分の足のように動かせて、本物の足のような見た目のほうがいいだろ?明日、俺について来てくれるか?」
 「……本当に、私のためなんだ……。」

 瑠菜は雪紀に聞こえるか、聞こえないかの声で言った。
ケイにも言われていたが八割くらいは信じられない自分がいた。

裏切るという問題じゃなく、最初から自分には無関心なのではないかと思った。
毎日待っていても来ないため特にその不安は増していた。
どこかの女の人と遊んでいるだけなのではないかと考えたりもした。
瑠菜には雪紀がそうしないという確証がなかったのだ。

 そして、瑠菜は退院した直後、もちろん車いすで雪紀と一緒にある場所へと向かった。雪紀の言葉足らずな性格のおかげで、瑠菜はどこへ行くのかも知らされずに雪紀の手を借りながら不安とともに車いすに乗った。

 「ここは?」

 瑠菜が最初に見たのは何の変哲のないマンションだった。
 雪紀に車いすを押されながら、中にはいていくと真っ白い壁紙の一室が見えた。
 部屋の中にはいかにも研究室らしい器具や薬が並んでいる。

 「きれーい!」

 瑠菜は薬を見てすぐに触ろうとした。
 見たことのない色の液体はとてもきれいだった。
ほかにも棚の中にどす黒い液体も並んでいるが瑠菜の目には入らないらしく、指をさしては「キレイ」と言ってはしゃいでいる。

 「ちょっと、触らないで!」

 近くにあった小瓶へと手を伸ばした瑠菜を止めたのは女の人の声だった。
 声のした方向を見ると、白衣を着た眼鏡をかけている女の人が立っていた。
髪型が特徴的で、二つのお団子なのだが耳より下で結んでいて、瑠菜は少し吹き出してしまいそうになった。

 「オチビじゃん。ハカセはどうした?」
 「オチビじゃないです!師匠なら奥の部屋で頼まれたものの準備をして……」
 「終わったよお!あとは、ケーキでも見ながら遊びましょお!あー、イコちゃん来たら教え……」

 大声で入ってきたのは同じく白衣を着た髪の短い女性だった。
声から女だとわかるが、そばかすの多いその姿は男と言われても違和感はないだろう。

 「あ、連絡はしたんだが……」

 雪紀がそう言ったことが追い打ちをかけたのか、固まっていたその女性は顔を真っ赤にしてさっきのお団子少女の後ろへと隠れた。

(え?ケーキを見て遊ぶって何?)

 瑠菜はそう思いながら雪紀に目配せをした。

 「あー、あいつはハカセ。で、あのお団子頭がイコ。俺の後輩だが、お前よりは先輩だな。」
 「私なんて、たまたまそこら辺を歩いてただけで。成り上がりで、そ、そちらの方のほうが、……」
 「何言ってるんですか!師匠は天才です。」
 「ダメよ、私なんか。だって、る、瑠菜様でしょう?」
 「あ、はい。一応。」

 ハカセの声が小さすぎて、瑠菜は自分の声が大きく感じた。

(さっき出てきたときは元気だったのに。)

 瑠菜は彼女に対しては、弱弱しく、自信のない人だと思った。

 「ご、ごめんね。……ちょっと待っててね。」
 「はい……」

 瑠菜は雪紀のほうをもう一度見たが、何も言わずに彼女のあたふたとした後姿を見るばかりで、瑠菜の方など本当に気にしていない様子だった。





 「あのっ。」

 帰る直前、瑠菜が車へ入った時にその声は聞こえてきた。
 見ると、先ほどまで弱弱しく消え入りそうな声を発していたハカセという女性だった。

 ハカセは入り口と車までの三メートルくらいの距離を息を切らして走ってきた。
雪紀のもとへとたどり着くと、何かを言おうと声にならない言葉を発した。

 瑠菜がその話を聞こうと近づくと雪紀が車のドアを閉めてしまった。

 「あっぶないなぁ。」

 閉められた瞬間に瑠菜は椅子の上で倒れてしまい、外の様子を見ることも聞くこともできなくなってしまった。

 五分、いやもっと経っていただろうか。
 瑠菜は雪紀のスマホで動画を見ていたためどれくらいかはわからなかったが相当長い時間二人は話をしていたということはわかる。

もちろん、車の中の音が外に聞こえにくいのと同様、外の音が中に聞こえてくることもないため、瑠菜が二人の会話の内容を聞くことはできなかった。

 「待ったか?」
 「うん。」
 「だよな、遅くなった。」
 「何話してたの?」

 瑠菜が聞いても雪紀は何も言わなかった。
 しかし、瑠菜は雪紀が何を言おうと話の内容の予想はついていた。

 「お兄が唯一長く付き合えた、婚約までした彼女さんのこと?」
 「なんで知ってんだ?」
 「きぃ姉から聞いた。事故で死んだんだって?」
 「あいつ……」
 「なんで死んだの?」
 「事故だって、自分でも言ってただろ?」
 「お兄の仲間が事故で死ぬとは思えない。逆に、お兄が何の関係のない人を巻き込むとは思えない。」

 瑠菜は言い切った。
瑠菜は瑠菜なりにいろいろな人から雪紀の情報を得ていた。
しかし、みんな同じことを口をそろえて言うだけ。
一見すれば、現実味のある話にも思えたが、瑠菜にはどうしてもみんなが何かを隠していて、それをばれないために口裏を合わせているようにしか思えなかった。

 「言える時が来たら言う。」
 「……お兄。話は変わるんだけどさ。」
 「ん?」

 瑠菜はそのままの格好でスマホの画面を見せた。

 「これって何?」

 雪紀はその画面を見た瞬間瑠菜からスマホを奪い取った。

 「家、ついたぞ。」
 「ねぇ、さっきの男の人かっこよかった。誰?」
 「知らねーよ。」
 「あー、あの服着てない女の人しか雪紀は見てないのかぁ。」
 「うるせー。小学生がこんなもん見てんじゃねぇよ。」
 「なんで?履歴欄のやつ見てただけだよ?」

 雪紀はいつも大人っぽくなんでもこなす瑠菜に対して、やはりこいつも子供だと思った。

 「何やってんのか分かってんのか?」

 雪紀の質問に瑠菜はにっこりと少し不気味にも思えるような表情で返す。
雪紀も瑠菜の意図を理解した上で手を差し伸べた。

 玄関のドアを開けると、こはくやあき、楓李が立っていた。

 「おかえり!遅かったね。あ、瑠菜ちゃん大丈夫?」
 「あし……ある!」
 「幽霊じゃないんだから。お兄からのプレゼント。いいでしょう?」

 三人の驚いた顔を見て、瑠菜は自慢げに言った。
 雪紀の手を借りてゆっくりと歩いていた瑠菜はこはくの手を借りて歩き出した。
慣れていないことからふらふらとして楓李に倒れこんでしまう。

 「んじゃ、俺はシャワー浴びるから。気を付けるんだぞ?」
 「はーい!」
 「うん。わかった。」
 「ねぇ、なんか片足だけ地に足がついてないみたい。」
 「ついてないからな、実際に。」

 楓李はそういいながらも、こはくの握っている瑠菜の手とは逆側の手を取って、ソファに瑠菜を座らせる。
瑠菜もニコニコと満足そうに笑っている。





 「へぇ、初めて聞きました。」
 「話してなかったからね。」

 缶コーヒーを飲みながら瑠菜はサクラにそう言った。

 「瑠菜姉、すごい。」
 「すごい!」

 クゥと、リィも瑠菜に明るくそう言った。
 スゥだけが瑠菜の膝の上でお菓子を食べている。
 サクラは瑠菜の弟子。クゥ、リィ、スゥは瑠菜が引き取った3つ子だ。
 全員、瑠菜を尊敬しているからこそ、一緒にいたくて、瑠菜のお手伝いをしてくれている子たちだ。

 「お前の性格には相当振り回されたな。」
 「そんなことないですぅだ!」

 楓李が言うと、瑠菜は口をとがらせて言い返した。

 「アハハ、でもすごいよね。最初は手伝いないと歩けなかったのに、こんなに歩けるようになるなんて。」
 「まさか、走れるようになるとは思ってなかったな。」

 あきと、楓李に言われて瑠菜は胸を張ってもっと褒めるようにアピールした。

(本当に変わんねーな。)
(変わんないなぁ。昔と。)

 楓李とあきはそれを見て、ため息をついた。

 「今年は来れたな。」
 「久しぶりだね。」
 「もっと早くに来てもよかったんだけどね。」
 「私たちも来てよかったんですか?」

 サクラは瑠菜を見ながら会ったことないのに、というように訴える。

 「まぁ、こいつだけはあんたたちの存在分かってたから。」
 「え?」

 瑠菜は真っ黒なその石を軽くなでてサクラのほうを見た。

 「冷たいねぇ。あんたの言ったとおりになったよ。こはく。」


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 瑠菜が退院する前日、いつも通り持ってきた本を読んでいる瑠菜の病室の戸が開いた。
 「わりぃ、瑠菜。」
 「お兄!」
 瑠菜のベッドには階段のようなものが取り付けられ、一人でもベッドを下りられるようになっていた。
ケイが不便だからということでやってくれた。
とはいえ、長距離は片足で進めないため車いすを使っている。
車いすの時は看護師さんか、楓李やこはくが押してくれる。
瑠菜は進むことすらできなかったのだ。
 「おっと。」
 「お兄、なんで来なかったの?ひどい!」
 倒れるように自分に飛びついてきた瑠菜を支えながら雪紀は少し笑う。
 「あれ?来るなって言わなかったか?」
 「いじわる……」
 「ふっ、悪かったって。やっとできたんだ。」
 「何が?」
 「足。」
 「きもっ。」
 瑠菜のその反応を見て元気になったなぁと雪紀は思った。
 瑠菜自身、雪紀にこの界隈へ入れられてからこうやってゆっくりする時間はあまりなかった。
毎日、学校、仕事、学校、仕事で、忙しすぎたのだ。
ほかの同級生とは違う世界を生きていると思っていいほど大変な毎日。
部活?クラブ?きっと瑠菜の大変さはそういうことをやっている人よりもすごい。
表すなら、掛け持ちを五、六個くらいやっている人と同じくらいだ。
 そんな瑠菜が、大量に休みをもらい、お見舞いに来たみんなとゆっくり話せたのはすごく幸せなことだと思った。
そう思うと、自然と元気も出てきた。
 「自分の足のように動かせて、本物の足のような見た目のほうがいいだろ?明日、俺について来てくれるか?」
 「……本当に、私のためなんだ……。」
 瑠菜は雪紀に聞こえるか、聞こえないかの声で言った。
ケイにも言われていたが八割くらいは信じられない自分がいた。
裏切るという問題じゃなく、最初から自分には無関心なのではないかと思った。
毎日待っていても来ないため特にその不安は増していた。
どこかの女の人と遊んでいるだけなのではないかと考えたりもした。
瑠菜には雪紀がそうしないという確証がなかったのだ。
 そして、瑠菜は退院した直後、もちろん車いすで雪紀と一緒にある場所へと向かった。雪紀の言葉足らずな性格のおかげで、瑠菜はどこへ行くのかも知らされずに雪紀の手を借りながら不安とともに車いすに乗った。
 「ここは?」
 瑠菜が最初に見たのは何の変哲のないマンションだった。
 雪紀に車いすを押されながら、中にはいていくと真っ白い壁紙の一室が見えた。
 部屋の中にはいかにも研究室らしい器具や薬が並んでいる。
 「きれーい!」
 瑠菜は薬を見てすぐに触ろうとした。
 見たことのない色の液体はとてもきれいだった。
ほかにも棚の中にどす黒い液体も並んでいるが瑠菜の目には入らないらしく、指をさしては「キレイ」と言ってはしゃいでいる。
 「ちょっと、触らないで!」
 近くにあった小瓶へと手を伸ばした瑠菜を止めたのは女の人の声だった。
 声のした方向を見ると、白衣を着た眼鏡をかけている女の人が立っていた。
髪型が特徴的で、二つのお団子なのだが耳より下で結んでいて、瑠菜は少し吹き出してしまいそうになった。
 「オチビじゃん。ハカセはどうした?」
 「オチビじゃないです!師匠なら奥の部屋で頼まれたものの準備をして……」
 「終わったよお!あとは、ケーキでも見ながら遊びましょお!あー、イコちゃん来たら教え……」
 大声で入ってきたのは同じく白衣を着た髪の短い女性だった。
声から女だとわかるが、そばかすの多いその姿は男と言われても違和感はないだろう。
 「あ、連絡はしたんだが……」
 雪紀がそう言ったことが追い打ちをかけたのか、固まっていたその女性は顔を真っ赤にしてさっきのお団子少女の後ろへと隠れた。
(え?ケーキを見て遊ぶって何?)
 瑠菜はそう思いながら雪紀に目配せをした。
 「あー、あいつはハカセ。で、あのお団子頭がイコ。俺の後輩だが、お前よりは先輩だな。」
 「私なんて、たまたまそこら辺を歩いてただけで。成り上がりで、そ、そちらの方のほうが、……」
 「何言ってるんですか!師匠は天才です。」
 「ダメよ、私なんか。だって、る、瑠菜様でしょう?」
 「あ、はい。一応。」
 ハカセの声が小さすぎて、瑠菜は自分の声が大きく感じた。
(さっき出てきたときは元気だったのに。)
 瑠菜は彼女に対しては、弱弱しく、自信のない人だと思った。
 「ご、ごめんね。……ちょっと待っててね。」
 「はい……」
 瑠菜は雪紀のほうをもう一度見たが、何も言わずに彼女のあたふたとした後姿を見るばかりで、瑠菜の方など本当に気にしていない様子だった。
 「あのっ。」
 帰る直前、瑠菜が車へ入った時にその声は聞こえてきた。
 見ると、先ほどまで弱弱しく消え入りそうな声を発していたハカセという女性だった。
 ハカセは入り口と車までの三メートルくらいの距離を息を切らして走ってきた。
雪紀のもとへとたどり着くと、何かを言おうと声にならない言葉を発した。
 瑠菜がその話を聞こうと近づくと雪紀が車のドアを閉めてしまった。
 「あっぶないなぁ。」
 閉められた瞬間に瑠菜は椅子の上で倒れてしまい、外の様子を見ることも聞くこともできなくなってしまった。
 五分、いやもっと経っていただろうか。
 瑠菜は雪紀のスマホで動画を見ていたためどれくらいかはわからなかったが相当長い時間二人は話をしていたということはわかる。
もちろん、車の中の音が外に聞こえにくいのと同様、外の音が中に聞こえてくることもないため、瑠菜が二人の会話の内容を聞くことはできなかった。
 「待ったか?」
 「うん。」
 「だよな、遅くなった。」
 「何話してたの?」
 瑠菜が聞いても雪紀は何も言わなかった。
 しかし、瑠菜は雪紀が何を言おうと話の内容の予想はついていた。
 「お兄が唯一長く付き合えた、婚約までした彼女さんのこと?」
 「なんで知ってんだ?」
 「きぃ姉から聞いた。事故で死んだんだって?」
 「あいつ……」
 「なんで死んだの?」
 「事故だって、自分でも言ってただろ?」
 「お兄の仲間が事故で死ぬとは思えない。逆に、お兄が何の関係のない人を巻き込むとは思えない。」
 瑠菜は言い切った。
瑠菜は瑠菜なりにいろいろな人から雪紀の情報を得ていた。
しかし、みんな同じことを口をそろえて言うだけ。
一見すれば、現実味のある話にも思えたが、瑠菜にはどうしてもみんなが何かを隠していて、それをばれないために口裏を合わせているようにしか思えなかった。
 「言える時が来たら言う。」
 「……お兄。話は変わるんだけどさ。」
 「ん?」
 瑠菜はそのままの格好でスマホの画面を見せた。
 「これって何?」
 雪紀はその画面を見た瞬間瑠菜からスマホを奪い取った。
 「家、ついたぞ。」
 「ねぇ、さっきの男の人かっこよかった。誰?」
 「知らねーよ。」
 「あー、あの服着てない女の人しか雪紀は見てないのかぁ。」
 「うるせー。小学生がこんなもん見てんじゃねぇよ。」
 「なんで?履歴欄のやつ見てただけだよ?」
 雪紀はいつも大人っぽくなんでもこなす瑠菜に対して、やはりこいつも子供だと思った。
 「何やってんのか分かってんのか?」
 雪紀の質問に瑠菜はにっこりと少し不気味にも思えるような表情で返す。
雪紀も瑠菜の意図を理解した上で手を差し伸べた。
 玄関のドアを開けると、こはくやあき、楓李が立っていた。
 「おかえり!遅かったね。あ、瑠菜ちゃん大丈夫?」
 「あし……ある!」
 「幽霊じゃないんだから。お兄からのプレゼント。いいでしょう?」
 三人の驚いた顔を見て、瑠菜は自慢げに言った。
 雪紀の手を借りてゆっくりと歩いていた瑠菜はこはくの手を借りて歩き出した。
慣れていないことからふらふらとして楓李に倒れこんでしまう。
 「んじゃ、俺はシャワー浴びるから。気を付けるんだぞ?」
 「はーい!」
 「うん。わかった。」
 「ねぇ、なんか片足だけ地に足がついてないみたい。」
 「ついてないからな、実際に。」
 楓李はそういいながらも、こはくの握っている瑠菜の手とは逆側の手を取って、ソファに瑠菜を座らせる。
瑠菜もニコニコと満足そうに笑っている。
 「へぇ、初めて聞きました。」
 「話してなかったからね。」
 缶コーヒーを飲みながら瑠菜はサクラにそう言った。
 「瑠菜姉、すごい。」
 「すごい!」
 クゥと、リィも瑠菜に明るくそう言った。
 スゥだけが瑠菜の膝の上でお菓子を食べている。
 サクラは瑠菜の弟子。クゥ、リィ、スゥは瑠菜が引き取った3つ子だ。
 全員、瑠菜を尊敬しているからこそ、一緒にいたくて、瑠菜のお手伝いをしてくれている子たちだ。
 「お前の性格には相当振り回されたな。」
 「そんなことないですぅだ!」
 楓李が言うと、瑠菜は口をとがらせて言い返した。
 「アハハ、でもすごいよね。最初は手伝いないと歩けなかったのに、こんなに歩けるようになるなんて。」
 「まさか、走れるようになるとは思ってなかったな。」
 あきと、楓李に言われて瑠菜は胸を張ってもっと褒めるようにアピールした。
(本当に変わんねーな。)
(変わんないなぁ。昔と。)
 楓李とあきはそれを見て、ため息をついた。
 「今年は来れたな。」
 「久しぶりだね。」
 「もっと早くに来てもよかったんだけどね。」
 「私たちも来てよかったんですか?」
 サクラは瑠菜を見ながら会ったことないのに、というように訴える。
 「まぁ、こいつだけはあんたたちの存在分かってたから。」
 「え?」
 瑠菜は真っ黒なその石を軽くなでてサクラのほうを見た。
 「冷たいねぇ。あんたの言ったとおりになったよ。こはく。」