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第三部 30話 お持ち帰り

ー/ー



 王都への戻りは予定よりも遅くなった。
 ナタリーの手伝いで滞在が伸びたり、帰りの馬車で足止めを食らったりしたのだ。俺がクロス家の屋敷に戻ったのは、後期授業の三日前だった。

 王都へ着くなり、大慌てで解散する。
 今頃グレイは寮に。セシルはセシリーの元へと急いでいるだろう。

「兄さん……?」
「う」
 屋敷の扉を開けると、ティアナが腰に手を当てて睨んでくる。
 随分と分かりやすくお怒りだった。

「夏休みの半分だけの旅行じゃないんですか?」
「……予定が伸びてな?」
「なら、手紙くらいは出してはどうですか?」
 あ、これは見逃す気がないな。

 いよいよ俺は諦めてティアナのお説教を受ける覚悟を持った。
 しかし、それより早くティアナ自身が言葉を止めた。

「あれ? その子は?」
 義妹の視線は俺の頭上で固定されていた。

 当然、そこにはエルがいる。
 説明が必要なのは分かっていた。
 
「ああ、グレイ達の村近くで拾った狐のエルだ」
 俺は言いながら、エルをティアナへと手渡した。
 
「無理矢理に連れてきたんですか?」
「違う。付いてきたんだ――がっ」
 エルが器用にティアナの体を駆け上って、俺の額に跳び蹴りを食らわせる。

 ――お前、打ち合わせしただろうが!?

「あら賢い」
 違うだろ。褒めるなよ。

「頼む! 家に置いてもらえるように協力してくれ!」
 俺は何とかしてティアナを説得しようとする。

 まだ子狐なのにはぐれていたと言うと、ティアナは同情するような視線を向けた。
 俺が頭を下げると、ティアナは「仕方ないですね」と苦笑してくれた。

 ティアナが味方に付いてくれれば、要求は通るはずだ。
 ……これはペットを飼う時と、何も違わないのでは?

 ティアナが恐る恐るエルに触れた。エルの方も抵抗はしない。
 こうして、エルは王都のクロス邸までやって来たのだった。

 そうして、王立学院の後期授業が始まる。



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 王都への戻りは予定よりも遅くなった。
 ナタリーの手伝いで滞在が伸びたり、帰りの馬車で足止めを食らったりしたのだ。俺がクロス家の屋敷に戻ったのは、後期授業の三日前だった。
 王都へ着くなり、大慌てで解散する。
 今頃グレイは寮に。セシルはセシリーの元へと急いでいるだろう。
「兄さん……?」
「う」
 屋敷の扉を開けると、ティアナが腰に手を当てて睨んでくる。
 随分と分かりやすくお怒りだった。
「夏休みの半分だけの旅行じゃないんですか?」
「……予定が伸びてな?」
「なら、手紙くらいは出してはどうですか?」
 あ、これは見逃す気がないな。
 いよいよ俺は諦めてティアナのお説教を受ける覚悟を持った。
 しかし、それより早くティアナ自身が言葉を止めた。
「あれ? その子は?」
 義妹の視線は俺の頭上で固定されていた。
 当然、そこにはエルがいる。
 説明が必要なのは分かっていた。
「ああ、グレイ達の村近くで拾った狐のエルだ」
 俺は言いながら、エルをティアナへと手渡した。
「無理矢理に連れてきたんですか?」
「違う。付いてきたんだ――がっ」
 エルが器用にティアナの体を駆け上って、俺の額に跳び蹴りを食らわせる。
 ――お前、打ち合わせしただろうが!?
「あら賢い」
 違うだろ。褒めるなよ。
「頼む! 家に置いてもらえるように協力してくれ!」
 俺は何とかしてティアナを説得しようとする。
 まだ子狐なのにはぐれていたと言うと、ティアナは同情するような視線を向けた。
 俺が頭を下げると、ティアナは「仕方ないですね」と苦笑してくれた。
 ティアナが味方に付いてくれれば、要求は通るはずだ。
 ……これはペットを飼う時と、何も違わないのでは?
 ティアナが恐る恐るエルに触れた。エルの方も抵抗はしない。
 こうして、エルは王都のクロス邸までやって来たのだった。
 そうして、王立学院の後期授業が始まる。