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第三部 29話 ありきたりな星空

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 翌日の昼にはグレイの両親がやってきた。
 グレイによく似た父親と元気そうな母親だった。

 二人とも事情を聞くと、しきりに頭を下げる。
 俺の方が逆に恐縮してしまうほどだった。

 すでに『駆猿』の死体は回収済みだ。依頼は達成となった。
 ……報酬として、村長はしっかりと謝った。いや、謝らされた。

「本当にすみませんでした。お詫びにはなりませんが、今日は食材を持参しました。この村の方にも迷惑をお掛けしましたから、ぜひ召し上がってください」
 そう言って、グレイの父親は荷台一杯の食材を村長に見せた。

 村の有力者なのだろう。村人の喜ぶことが分かっている。
 今日は宴会ということになりそうだ。

「やったー!」
 大きな声に目を向ける。

 村の子供かと思えば、セシルだった。
 目を輝かせて、満面の笑みを浮かべている。

 普段からその表情だったら、さぞやモテることだろう。ニコニコとご機嫌である。広場の隅にちょこんと腰掛けた。御馳走を楽しみにする子供にしか見えない。

 よほど楽しみなんだなぁ。
 微笑まし――いや、準備を手伝えよ。



 夕方には村を挙げてのどんちゃん騒ぎになっていた。

 村長とグレイの父親は何やら相談しているらしい。
 ナタリーアリスは村の子供に武勇伝を語っているが、誰も信じていない。
 
 セシルやグレイの帰省祝いも兼ねているみたいだな。
 村としても良い発散の機会なのだろう。隣村との交流にもなる。

 はてと首を捻る。
 俺、口実にされてないか?

 ふと、頭上に意識を向けた。そこにはエルが乗っている。
 少しずつ重さにも慣れてきて、もう違和感はない。

 エルが身を乗り出して、村の様子に見入っていた。
 何か思うところがあるのだろう。俺は声を掛けずにグレイの方へと歩いた。

 グレイは村の広場で民家の一つに寄りかかっていた。
 俺を見つけて、軽く手を上げて振って見せる。

 グレイの隣で同じように寄りかかる。何気なく空を見上げた。
 気分か、場所か、あるいはこの喧噪が原因か。ありきたりな星空は懐かしかった。

「……今回の件は借りだな」
 グレイが小さく呟いた。思わず苦笑する。律儀なものだ。

「はは、随分と立派じゃないか? 返してくれるんだな?」
「ん? もちろん返すぞ? ルッツを庇ってくれたのは大きな借りだ」
 真剣な言葉が返ってきた。思わず目を瞬いた。

「じゃあ、そうだな……。
 いつか俺が変わったら、変わった後の俺と仲良くしてやってくれ」

 俺は『キース・クロス』の学生時代を奪ってしまったのだろう。
 せめてこの友人を残してやりたかった。

「分かった」
 グレイは首を傾げながら、何も理解しないまま、約束してくれた。

 この友人はそういうところがあった。理解より先に行動する瞬間があるのだ。
 その度に俺は親近感を抱く。どこか似ていると思っていた。

「そ、それにしても、突然の来客だったのか?」
 気恥ずかしさから話題を変えた。

 グレイの話を聞いた限り、重要な来客だったはずだ。
 少なくとも男爵家の養子よりも優先する必要があったことになる。

「ああ、なんでも『ハーフエルフの新国』からの使者だとさ。
 王様の使いで来たんだ。流石に追い出すわけにもいかないだろ?」
「? なんで『ハーフエルフの新国』が出てくるんだ?
 グレイはハーフドワーフだろう? 無関係どころか対極じゃないか」
「ははは、確かにな。
 よくわからんが、俺の家系が『ハーフドワーフの王族』なんだとさ」
「!? お前、王族なのか!?」
「知らん。ハーフドワーフはそんなの気にしないから意味ないしな?」
「なるほど……」
 とりあえず頷いたが、何か嫌な感じだ。

『ハーフエルフの新国』という単語のせいだろう。
 名前をよく聞くが、良い印象はない。

「なんでも、そこの森を越えた先に『エルフの森』? が繋がっているんだと。
 で、『ハーフエルフの新国』はその森が領地だとか言ってたけど」
「へえ。意外とこの村から近いのか。
 まあ『エルフの森』って言うくらいだから森自体が広いんだろうけどさ」
 俺は呟いてから、何気なく思うことがあった。

 もしも『エルフの森』で何かあったのなら『駆猿』が森から追いやられて、反対側の人里まで出てきてしまうことも有り得るのではないだろうか?

 俺が思考を進めるより早く、広場が騒がしくなった。
 見れば、ソフィアとセシルの二人が騒いでいるようだ。

「セシル、食べ過ぎよ!」
「んー!」
 ソフィアの声が響いた。セシルが否定的な声を漏らす。

 セシルが凄まじい勢いで御馳走を平らげながら走り回っていた。
 ソフィアがそれを止めようとしているようだ。羽交い絞めにしようとしている。

「もうやめなさい! 死ぬわよ!?」
 ……一体どれだけ食べたらそうなるんだ?

 この調子で俺は自分の元実家で一か月程度を過ごしたのだった。



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 翌日の昼にはグレイの両親がやってきた。
 グレイによく似た父親と元気そうな母親だった。
 二人とも事情を聞くと、しきりに頭を下げる。
 俺の方が逆に恐縮してしまうほどだった。
 すでに『駆猿』の死体は回収済みだ。依頼は達成となった。
 ……報酬として、村長はしっかりと謝った。いや、謝らされた。
「本当にすみませんでした。お詫びにはなりませんが、今日は食材を持参しました。この村の方にも迷惑をお掛けしましたから、ぜひ召し上がってください」
 そう言って、グレイの父親は荷台一杯の食材を村長に見せた。
 村の有力者なのだろう。村人の喜ぶことが分かっている。
 今日は宴会ということになりそうだ。
「やったー!」
 大きな声に目を向ける。
 村の子供かと思えば、セシルだった。
 目を輝かせて、満面の笑みを浮かべている。
 普段からその表情だったら、さぞやモテることだろう。ニコニコとご機嫌である。広場の隅にちょこんと腰掛けた。御馳走を楽しみにする子供にしか見えない。
 よほど楽しみなんだなぁ。
 微笑まし――いや、準備を手伝えよ。
 夕方には村を挙げてのどんちゃん騒ぎになっていた。
 村長とグレイの父親は何やら相談しているらしい。
 ナタリーアリスは村の子供に武勇伝を語っているが、誰も信じていない。
 セシルやグレイの帰省祝いも兼ねているみたいだな。
 村としても良い発散の機会なのだろう。隣村との交流にもなる。
 はてと首を捻る。
 俺、口実にされてないか?
 ふと、頭上に意識を向けた。そこにはエルが乗っている。
 少しずつ重さにも慣れてきて、もう違和感はない。
 エルが身を乗り出して、村の様子に見入っていた。
 何か思うところがあるのだろう。俺は声を掛けずにグレイの方へと歩いた。
 グレイは村の広場で民家の一つに寄りかかっていた。
 俺を見つけて、軽く手を上げて振って見せる。
 グレイの隣で同じように寄りかかる。何気なく空を見上げた。
 気分か、場所か、あるいはこの喧噪が原因か。ありきたりな星空は懐かしかった。
「……今回の件は借りだな」
 グレイが小さく呟いた。思わず苦笑する。律儀なものだ。
「はは、随分と立派じゃないか? 返してくれるんだな?」
「ん? もちろん返すぞ? ルッツを庇ってくれたのは大きな借りだ」
 真剣な言葉が返ってきた。思わず目を瞬いた。
「じゃあ、そうだな……。
 いつか俺が変わったら、変わった後の俺と仲良くしてやってくれ」
 俺は『キース・クロス』の学生時代を奪ってしまったのだろう。
 せめてこの友人を残してやりたかった。
「分かった」
 グレイは首を傾げながら、何も理解しないまま、約束してくれた。
 この友人はそういうところがあった。理解より先に行動する瞬間があるのだ。
 その度に俺は親近感を抱く。どこか似ていると思っていた。
「そ、それにしても、突然の来客だったのか?」
 気恥ずかしさから話題を変えた。
 グレイの話を聞いた限り、重要な来客だったはずだ。
 少なくとも男爵家の養子よりも優先する必要があったことになる。
「ああ、なんでも『ハーフエルフの新国』からの使者だとさ。
 王様の使いで来たんだ。流石に追い出すわけにもいかないだろ?」
「? なんで『ハーフエルフの新国』が出てくるんだ?
 グレイはハーフドワーフだろう? 無関係どころか対極じゃないか」
「ははは、確かにな。
 よくわからんが、俺の家系が『ハーフドワーフの王族』なんだとさ」
「!? お前、王族なのか!?」
「知らん。ハーフドワーフはそんなの気にしないから意味ないしな?」
「なるほど……」
 とりあえず頷いたが、何か嫌な感じだ。
『ハーフエルフの新国』という単語のせいだろう。
 名前をよく聞くが、良い印象はない。
「なんでも、そこの森を越えた先に『エルフの森』? が繋がっているんだと。
 で、『ハーフエルフの新国』はその森が領地だとか言ってたけど」
「へえ。意外とこの村から近いのか。
 まあ『エルフの森』って言うくらいだから森自体が広いんだろうけどさ」
 俺は呟いてから、何気なく思うことがあった。
 もしも『エルフの森』で何かあったのなら『駆猿』が森から追いやられて、反対側の人里まで出てきてしまうことも有り得るのではないだろうか?
 俺が思考を進めるより早く、広場が騒がしくなった。
 見れば、ソフィアとセシルの二人が騒いでいるようだ。
「セシル、食べ過ぎよ!」
「んー!」
 ソフィアの声が響いた。セシルが否定的な声を漏らす。
 セシルが凄まじい勢いで御馳走を平らげながら走り回っていた。
 ソフィアがそれを止めようとしているようだ。羽交い絞めにしようとしている。
「もうやめなさい! 死ぬわよ!?」
 ……一体どれだけ食べたらそうなるんだ?
 この調子で俺は自分の元実家で一か月程度を過ごしたのだった。