第三部 25話 契約
ー/ー 幻覚と記憶操作?
待て。それでは前提が変わるのではないか?
『俺の記憶』がすでに操作された後かも知れないということか――?
言われてみればアッシュの記憶に不足はあった。
心当たりはいくつかある。
「正確に言うなら『五感の操作』ね。
私の場合はそれが過去の記憶に対しても行えるのよ」
エルと名乗った子狐は続ける。
今感じているものだけではなく、過去に感じたものも操作できるのだと。
「もっとも、操作できるのは五感までね。
思ったことや気付いたこと、考えたことは操作できない」
いや、それでも十分以上に有用だろうな。
例えば何かを見て思ったことがあったとする。
その後で何を見たかを忘れたら、思ったことも訂正するはずだ。
「なるほどな……それで、どうしてそんなことを教えるんだ?」
「なんだ。全く頭が動かない訳ではないのね?」
やかましい。学院の成績が少し悪い程度だ。
ソフィアが「少し?」と首を傾げた気がした。気にするな、幻覚だ。
「君達が王都から来ていることは知っている。
私を王都に連れて行って。ここにいても何も出来ないわ」
「それで手の内を見せていると」
「役に立たないとは思わない。少しでもナタリーの近くにいたいのよ。
……アッシュが死んだ時、何もできなかったから」
「っ……ナタリーに直接言えば良いじゃないか」
内心の動揺を抑えて答える。
「アッシュの望みだったのよ」
「そうか。ナタリーを影ながら見守ってくれってところか?」
「……」
返事はなかった。
「……返事は?」
逆に求められる始末だ。
「分かった。連れて行く」
「契約成立ね」
断る権利なんてあるはずがない……元アッシュの俺に。
「今こうして話せているのは……俺の聴覚を操作しているということか?」
「ええ、そうよ。条件は『操作する相手』か『操作する対象』に触れること」
基本的には相手に触れる必要がある。
でも、今触れているものを誤認させることはできる。
「例えば……」
そう言って、エルは俺から離れる。
そのまま姿を一瞬歪ませると、ナタリーの姿へと変わっていた。
「こうして、自分の姿を変えて見せることはできるわ。
狐の鳴き声を人間の言葉に変えて聞かせることもね」
「おぉ……」
「もっとも、君以外とは話すつもりはないから基本的には触って話すようにしましょう。
私の声を変えると君以外にも聞こえてしまうのよ」
見た目は完全にナタリーだった。
声もナタリーを真似たようだ。
「ちなみに……さっきの幻はどうやったんだ?」
「? 森の中での話? 一体何を見たの? 君が恐れるものを見せたんだけど。
ふふ、よほど恐いのね? もう一度見せようか?」
「やめろ……」
藪蛇だったらしい。
「そういうことなら、お前の位置はここだなぁ」
言って、俺は子狐に戻ったエルを頭の上に乗せた。
「……私は良いけど」
煮え切らない幻聴がした。
「恥ずかしくないの?」
「うるさい」
……独り言が多くなりそうだった。
待て。それでは前提が変わるのではないか?
『俺の記憶』がすでに操作された後かも知れないということか――?
言われてみればアッシュの記憶に不足はあった。
心当たりはいくつかある。
「正確に言うなら『五感の操作』ね。
私の場合はそれが過去の記憶に対しても行えるのよ」
エルと名乗った子狐は続ける。
今感じているものだけではなく、過去に感じたものも操作できるのだと。
「もっとも、操作できるのは五感までね。
思ったことや気付いたこと、考えたことは操作できない」
いや、それでも十分以上に有用だろうな。
例えば何かを見て思ったことがあったとする。
その後で何を見たかを忘れたら、思ったことも訂正するはずだ。
「なるほどな……それで、どうしてそんなことを教えるんだ?」
「なんだ。全く頭が動かない訳ではないのね?」
やかましい。学院の成績が少し悪い程度だ。
ソフィアが「少し?」と首を傾げた気がした。気にするな、幻覚だ。
「君達が王都から来ていることは知っている。
私を王都に連れて行って。ここにいても何も出来ないわ」
「それで手の内を見せていると」
「役に立たないとは思わない。少しでもナタリーの近くにいたいのよ。
……アッシュが死んだ時、何もできなかったから」
「っ……ナタリーに直接言えば良いじゃないか」
内心の動揺を抑えて答える。
「アッシュの望みだったのよ」
「そうか。ナタリーを影ながら見守ってくれってところか?」
「……」
返事はなかった。
「……返事は?」
逆に求められる始末だ。
「分かった。連れて行く」
「契約成立ね」
断る権利なんてあるはずがない……元アッシュの俺に。
「今こうして話せているのは……俺の聴覚を操作しているということか?」
「ええ、そうよ。条件は『操作する相手』か『操作する対象』に触れること」
基本的には相手に触れる必要がある。
でも、今触れているものを誤認させることはできる。
「例えば……」
そう言って、エルは俺から離れる。
そのまま姿を一瞬歪ませると、ナタリーの姿へと変わっていた。
「こうして、自分の姿を変えて見せることはできるわ。
狐の鳴き声を人間の言葉に変えて聞かせることもね」
「おぉ……」
「もっとも、君以外とは話すつもりはないから基本的には触って話すようにしましょう。
私の声を変えると君以外にも聞こえてしまうのよ」
見た目は完全にナタリーだった。
声もナタリーを真似たようだ。
「ちなみに……さっきの幻はどうやったんだ?」
「? 森の中での話? 一体何を見たの? 君が恐れるものを見せたんだけど。
ふふ、よほど恐いのね? もう一度見せようか?」
「やめろ……」
藪蛇だったらしい。
「そういうことなら、お前の位置はここだなぁ」
言って、俺は子狐に戻ったエルを頭の上に乗せた。
「……私は良いけど」
煮え切らない幻聴がした。
「恥ずかしくないの?」
「うるさい」
……独り言が多くなりそうだった。
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