第三部 26話 A級
ー/ー 夕方になると、グレイが村にやって来た。
迎えに行くなり、すぐに頭を下げられた。
「昨日は本当にすまねえ! いつもは来客なんてない癖に」
「別に良いよ。ん? その子は?」
「あぁ、弟だよ。せっかくだから連れて来た。明日には親も来るぞ」
グレイの弟は恐縮した様子でぺこりと頭を下げた。
「ははは、わざわざそこまでしなくてもいいだろ」
よほど礼儀正しい家なんだな、と笑う。グレイがまじまじと俺を見た。
「……お前、自分が貴族だって覚えてるか?」
「あ」
下級とは言え、貴族を家に泊めずに野宿させたら大変だぁ……。
言われるまで全く気付かなかった。
「まぁいいや。そういう奴なのはもう知ってるしな。
で、俺からも質問だが、その頭の狐はどうした?」
「えーと、ペットだ」
何度目かの苦しい言い訳をした。
エルがぺしぺしと二度、俺の頭を叩く。
痛くはないが意思表示が強い。
「……昨日まではいなかったよな?」
「今日会ったんだ。お互いに意気投合してな」
エルの右前足が頭をぺしぺし叩き、左前足は頬をぺちぺちと殴り始めた。
「…………よく捕まえたな?」
「いや、こいつの方から寄って来たぞ?」
後ろ両足と尻尾も加わった。
――どうやって叩いてるんだ?
――少数部族の打楽器みたいに叩かれてるんだが。
「………………どうして逃げないんだろうな?」
「俺に懐いてるんだろ。痛ぇッ」
ついにがしがしと噛み付いた。
「……………………すまん。頑張ってみたが、そうは見えない」
四本の足と尻尾に叩かれながら首筋に噛み付かれた俺を、不思議そうにグレイは見つめていた。
「誰がペットよ」
グレイの言葉に頷くようにエルが言った。
ひとまずナタリーの元へと向かう。
今日はグレイ達を泊めてもらうことになるだろう。
ま、泊まる場所なんていくらでもあるけどな。
元村民なんだ。実情は良く知っている。
「で、セシルの故郷はどうだ?」
「……悪いな。正直、自分の村と何も変わらん。
王都の一番街と二番街の方がよっぽど別の町だろ」
全く同感だったので苦笑してしまう。
軽い雑談をすると、すぐに元自宅までやって来た。
俺が「ここだ」と言うと「お前の家じゃねーだろ」と切り返された。
もう少しデリケートに扱ってほしい。
「ルッツ。少しだけ時間を潰してくれ」
名前を呼ばれたグレイの弟は素直に頷いて、村の奥へと走って行った。
「……セシルは?」
「もう来ているはずだよ、多分」
「多分? 呼んだんだろ?」
「呼んだよ。だから来ているはずなんだ」
グレイが首を傾げた。気持ちは分かるぞ。
「ああもう! 起きていれば来てるはずなんだよ!」
「まだ寝てるのか!? ……もう夕方だぞ!?」
ナタリーに事情を話すと笑って宿を準備してくれた。
今日は一緒にこの村で過ごすことになりそうだ。
しばらく経つとセシルが合流する。
当然、俺はもう一度少数部族の打楽器になった。
問題はその後だった。
バタバタと騒がしい足音が響く。
「ナタリー! ナタリーはいるか!?」
まだ若い村長が家へと飛び込んで来た。
「んー、どうしたの?」
ナタリーが欠伸混じりに答えた。
「ぴ」
ピノが窘めるようにその額を突く。
「お前、今は冒険者組合員って聞いたけど本当か?」
「うん。そうだよ?」
赤くなった額を押さえながら、真面目に対応を始めた。
「A級だってバカげた噂が出てるけど、C級くらいはあるか?」
「し、失礼ね!? 本当にA級よ! ちなみにそこのアリスもA級だからね」
「そうか、世も末だな。でも良かった! この場で依頼をさせてくれ!」
「ん? 別に良いけど、一体何が……世も末って言った?」
「実は村の外れにモンスターが出たらしい。
それがどうやら普通のモンスターじゃなさそうなんだ」
その言葉で全員の意識が切り替わった。
ナタリーだけが釈然としない様子で首を傾げている。
「どんなモンスター?」
今まで黙っていたアリスが口を挟んだ。
「見た目は猿だ。大きさは人と同じくらい。森の動物を痛めつけていたと聞いた」
「……速さは?」
「あ、ああ。そうだった。
聞いた話によると、目にも止まらない速さで跳び回っていたって」
「A級モンスター『駆猿』ね」
「A級!?」
「森の奥にいたんでしょうね。何故か気が立っているみたいだけど。
本来は温厚な性格で人前に姿は現さない。ただし――恐ろしく速い」
アリスの説明に息を飲んだ。
A級と言えば昔の『赤鬼』と同じだ。
「なるほど……村長さん。依頼は?」
「とにかく追い払ってくれれば良い。村に怪我人を出したくないんだ」
ナタリーが頷いた。
「報酬はどうすれば良い?」
「んー、お金は良いや」
「それは助かる」
村長の質問に軽く答える。ナタリーも立派になったものだ。
「あ、そうだ。代わりに一つ」
「?」
ナタリーがにこりと笑った。
「この件を解決したら謝って。
さっきの失礼な発言を心の底から謝罪して」
ナタリーはナタリーだった。
ナタリーとアリス主導で捜索隊が組まれることになった。
とは言え『駆猿』と戦えるような村人なんているはずもない。
要は捜索隊とは俺達のことだった。まぁ、良いんだけどさ。
「おい! キース!」
ナタリーの依頼で広場に集まっていると、グレイが血相を変えて走って来た。
「どうした?」
「ルッツがいない」
「なんだと!? まさかあのまま村から出たのか?」
グレイの弟が村の奥に向かったのを思い出す。村を出ればすぐ先は森だ。
すぐにナタリーへ連絡すると、作戦に組み込んでくれた。
どうやら初めから森の避難活動もする予定だったらしい。
「私と一緒に行くのはキースとソフィアちゃん」
こちらは戦闘を担当するらしい。ピノが先導して『駆猿』に戦闘を仕掛けて追い払う。
戦闘に向いた俺とソフィア。そしてピノと連携するためにナタリーが付く。
「アリスはグレイとセシルちゃんを連れて行って」
こちらは避難誘導。森に声を掛けて回り、逃げ遅れた人を避難させる。
弟を探す意味もあってグレイ。さらにセシルの治癒術も役立つかも知れない。対応力のあるアリスが付いた。
そうして、俺達は日が傾き始めた森に足を踏み入れた。
グレイの弟がまだ見つかっていない以上、延期はできなかった。
迎えに行くなり、すぐに頭を下げられた。
「昨日は本当にすまねえ! いつもは来客なんてない癖に」
「別に良いよ。ん? その子は?」
「あぁ、弟だよ。せっかくだから連れて来た。明日には親も来るぞ」
グレイの弟は恐縮した様子でぺこりと頭を下げた。
「ははは、わざわざそこまでしなくてもいいだろ」
よほど礼儀正しい家なんだな、と笑う。グレイがまじまじと俺を見た。
「……お前、自分が貴族だって覚えてるか?」
「あ」
下級とは言え、貴族を家に泊めずに野宿させたら大変だぁ……。
言われるまで全く気付かなかった。
「まぁいいや。そういう奴なのはもう知ってるしな。
で、俺からも質問だが、その頭の狐はどうした?」
「えーと、ペットだ」
何度目かの苦しい言い訳をした。
エルがぺしぺしと二度、俺の頭を叩く。
痛くはないが意思表示が強い。
「……昨日まではいなかったよな?」
「今日会ったんだ。お互いに意気投合してな」
エルの右前足が頭をぺしぺし叩き、左前足は頬をぺちぺちと殴り始めた。
「…………よく捕まえたな?」
「いや、こいつの方から寄って来たぞ?」
後ろ両足と尻尾も加わった。
――どうやって叩いてるんだ?
――少数部族の打楽器みたいに叩かれてるんだが。
「………………どうして逃げないんだろうな?」
「俺に懐いてるんだろ。痛ぇッ」
ついにがしがしと噛み付いた。
「……………………すまん。頑張ってみたが、そうは見えない」
四本の足と尻尾に叩かれながら首筋に噛み付かれた俺を、不思議そうにグレイは見つめていた。
「誰がペットよ」
グレイの言葉に頷くようにエルが言った。
ひとまずナタリーの元へと向かう。
今日はグレイ達を泊めてもらうことになるだろう。
ま、泊まる場所なんていくらでもあるけどな。
元村民なんだ。実情は良く知っている。
「で、セシルの故郷はどうだ?」
「……悪いな。正直、自分の村と何も変わらん。
王都の一番街と二番街の方がよっぽど別の町だろ」
全く同感だったので苦笑してしまう。
軽い雑談をすると、すぐに元自宅までやって来た。
俺が「ここだ」と言うと「お前の家じゃねーだろ」と切り返された。
もう少しデリケートに扱ってほしい。
「ルッツ。少しだけ時間を潰してくれ」
名前を呼ばれたグレイの弟は素直に頷いて、村の奥へと走って行った。
「……セシルは?」
「もう来ているはずだよ、多分」
「多分? 呼んだんだろ?」
「呼んだよ。だから来ているはずなんだ」
グレイが首を傾げた。気持ちは分かるぞ。
「ああもう! 起きていれば来てるはずなんだよ!」
「まだ寝てるのか!? ……もう夕方だぞ!?」
ナタリーに事情を話すと笑って宿を準備してくれた。
今日は一緒にこの村で過ごすことになりそうだ。
しばらく経つとセシルが合流する。
当然、俺はもう一度少数部族の打楽器になった。
問題はその後だった。
バタバタと騒がしい足音が響く。
「ナタリー! ナタリーはいるか!?」
まだ若い村長が家へと飛び込んで来た。
「んー、どうしたの?」
ナタリーが欠伸混じりに答えた。
「ぴ」
ピノが窘めるようにその額を突く。
「お前、今は冒険者組合員って聞いたけど本当か?」
「うん。そうだよ?」
赤くなった額を押さえながら、真面目に対応を始めた。
「A級だってバカげた噂が出てるけど、C級くらいはあるか?」
「し、失礼ね!? 本当にA級よ! ちなみにそこのアリスもA級だからね」
「そうか、世も末だな。でも良かった! この場で依頼をさせてくれ!」
「ん? 別に良いけど、一体何が……世も末って言った?」
「実は村の外れにモンスターが出たらしい。
それがどうやら普通のモンスターじゃなさそうなんだ」
その言葉で全員の意識が切り替わった。
ナタリーだけが釈然としない様子で首を傾げている。
「どんなモンスター?」
今まで黙っていたアリスが口を挟んだ。
「見た目は猿だ。大きさは人と同じくらい。森の動物を痛めつけていたと聞いた」
「……速さは?」
「あ、ああ。そうだった。
聞いた話によると、目にも止まらない速さで跳び回っていたって」
「A級モンスター『駆猿』ね」
「A級!?」
「森の奥にいたんでしょうね。何故か気が立っているみたいだけど。
本来は温厚な性格で人前に姿は現さない。ただし――恐ろしく速い」
アリスの説明に息を飲んだ。
A級と言えば昔の『赤鬼』と同じだ。
「なるほど……村長さん。依頼は?」
「とにかく追い払ってくれれば良い。村に怪我人を出したくないんだ」
ナタリーが頷いた。
「報酬はどうすれば良い?」
「んー、お金は良いや」
「それは助かる」
村長の質問に軽く答える。ナタリーも立派になったものだ。
「あ、そうだ。代わりに一つ」
「?」
ナタリーがにこりと笑った。
「この件を解決したら謝って。
さっきの失礼な発言を心の底から謝罪して」
ナタリーはナタリーだった。
ナタリーとアリス主導で捜索隊が組まれることになった。
とは言え『駆猿』と戦えるような村人なんているはずもない。
要は捜索隊とは俺達のことだった。まぁ、良いんだけどさ。
「おい! キース!」
ナタリーの依頼で広場に集まっていると、グレイが血相を変えて走って来た。
「どうした?」
「ルッツがいない」
「なんだと!? まさかあのまま村から出たのか?」
グレイの弟が村の奥に向かったのを思い出す。村を出ればすぐ先は森だ。
すぐにナタリーへ連絡すると、作戦に組み込んでくれた。
どうやら初めから森の避難活動もする予定だったらしい。
「私と一緒に行くのはキースとソフィアちゃん」
こちらは戦闘を担当するらしい。ピノが先導して『駆猿』に戦闘を仕掛けて追い払う。
戦闘に向いた俺とソフィア。そしてピノと連携するためにナタリーが付く。
「アリスはグレイとセシルちゃんを連れて行って」
こちらは避難誘導。森に声を掛けて回り、逃げ遅れた人を避難させる。
弟を探す意味もあってグレイ。さらにセシルの治癒術も役立つかも知れない。対応力のあるアリスが付いた。
そうして、俺達は日が傾き始めた森に足を踏み入れた。
グレイの弟がまだ見つかっていない以上、延期はできなかった。
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