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第三部 24話 使い魔『白狐』

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 捕まえた子狐はいったん村まで連れて来た。
 ナタリーは驚いていたが、何かあるのは間違いなかった。

「あまりおいしくないよ?」
 ……驚きの方向は少しずれていた気もするが。



 誰も使っていない小屋に連れて来て一対一の状態を作った。
 子狐はきゃんきゃんと喧しく騒いでいたが、逃げられないと分かると大人しくなった。

 今更ながら子狐が白い体をしていることに気が付いた。
 艶のある滑らかな体毛に、しなやかで小さな体。

 今はお行儀よく床に座って俺を睨んでいた。
 明らかに睨んでるだろ、これ。

「アッシュ・クレフの残したもの、ねぇ」
 呟いた瞬間、子狐がぴくりと反応した。

「ん? どうした?」
 恐る恐るといった様子で前足を伸ばす。

 思わず掌を差し出した。
 どうしても『お手』の感覚があったのだ。

「アッシュ・クレフを知っているの?」
 思わず周囲を見回す。誰もいない。

 いや、そもそもこれは耳で聞いている感じがしない。
 まるで頭に直接響いているような。

「お前か……?」
「他にありえないじゃない」
 俺に前足を預けたまま、ぷいと横を向く。

「お前、一体何なんだ?」
 俺が声を漏らすと、子狐ははっきりと答えた。

「アッシュ・クレフの使い魔よ」

「嘘だろ? オ――あいつに使い魔はいなかったはずだ」
「……そう見せていたのよ」
「何のために?」
「ナタリーを守るためよ」
 そう言って子狐は俺を強く睨みつけた。

 他にも聞きたいことは山ほどあるが、置いておく。
 キースとして踏み込める範囲には限りがあるはずだ。

「じゃあ、さっきのは使い魔としての能力か……」
「……」
 話題を変えて、先ほどの『レン・クーガー』を思い出す。

 要は狐に化かされたということなのだろう。
 問題は――。

「どうしてあんな真似をしたんだ?」
 突然俺に幻覚を見せる理由はないはずだ。

「は?」
「え?」

 子狐は動きを止めて、目を真ん丸に見開いた。
 さらに口を大きく開けた後、何度か目を瞬いた。

「それは君がナタリーを襲おうとしたからでしょ!?」
「なっ……襲うわけないだろうが!」
「嘘でしょ? ナイフを握って、寝ているナタリーに近づいたじゃない」
「……」
 ま、まぁ、構図はそう見えなくもない。
 それで大急ぎで助けに入ったと言うわけか。

「ばっかじゃないの!? どう常識的に考えてもナイフは仕舞う」
「……」
 軽く泣きそうになる。子狐に常識で言い負かされたのだ。

 だが子狐も正体を現した理由の馬鹿馬鹿しさに落ち込んでいた。
 これ見よがしに溜息を吐いて見せる。ナタリーを助けるために命がけだったのだろう。

「……エルよ」
 やがて子狐は憮然とした様子で呟いた。
 それがこの白い狐の名前だと気づくより早く、子狐は続けたのだった。

「能力は幻覚や記憶の操作」



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 捕まえた子狐はいったん村まで連れて来た。
 ナタリーは驚いていたが、何かあるのは間違いなかった。
「あまりおいしくないよ?」
 ……驚きの方向は少しずれていた気もするが。
 誰も使っていない小屋に連れて来て一対一の状態を作った。
 子狐はきゃんきゃんと喧しく騒いでいたが、逃げられないと分かると大人しくなった。
 今更ながら子狐が白い体をしていることに気が付いた。
 艶のある滑らかな体毛に、しなやかで小さな体。
 今はお行儀よく床に座って俺を睨んでいた。
 明らかに睨んでるだろ、これ。
「アッシュ・クレフの残したもの、ねぇ」
 呟いた瞬間、子狐がぴくりと反応した。
「ん? どうした?」
 恐る恐るといった様子で前足を伸ばす。
 思わず掌を差し出した。
 どうしても『お手』の感覚があったのだ。
「アッシュ・クレフを知っているの?」
 思わず周囲を見回す。誰もいない。
 いや、そもそもこれは耳で聞いている感じがしない。
 まるで頭に直接響いているような。
「お前か……?」
「他にありえないじゃない」
 俺に前足を預けたまま、ぷいと横を向く。
「お前、一体何なんだ?」
 俺が声を漏らすと、子狐ははっきりと答えた。
「アッシュ・クレフの使い魔よ」
「嘘だろ? オ――あいつに使い魔はいなかったはずだ」
「……そう見せていたのよ」
「何のために?」
「ナタリーを守るためよ」
 そう言って子狐は俺を強く睨みつけた。
 他にも聞きたいことは山ほどあるが、置いておく。
 キースとして踏み込める範囲には限りがあるはずだ。
「じゃあ、さっきのは使い魔としての能力か……」
「……」
 話題を変えて、先ほどの『レン・クーガー』を思い出す。
 要は狐に化かされたということなのだろう。
 問題は――。
「どうしてあんな真似をしたんだ?」
 突然俺に幻覚を見せる理由はないはずだ。
「は?」
「え?」
 子狐は動きを止めて、目を真ん丸に見開いた。
 さらに口を大きく開けた後、何度か目を瞬いた。
「それは君がナタリーを襲おうとしたからでしょ!?」
「なっ……襲うわけないだろうが!」
「嘘でしょ? ナイフを握って、寝ているナタリーに近づいたじゃない」
「……」
 ま、まぁ、構図はそう見えなくもない。
 それで大急ぎで助けに入ったと言うわけか。
「ばっかじゃないの!? どう常識的に考えてもナイフは仕舞う」
「……」
 軽く泣きそうになる。子狐に常識で言い負かされたのだ。
 だが子狐も正体を現した理由の馬鹿馬鹿しさに落ち込んでいた。
 これ見よがしに溜息を吐いて見せる。ナタリーを助けるために命がけだったのだろう。
「……エルよ」
 やがて子狐は憮然とした様子で呟いた。
 それがこの白い狐の名前だと気づくより早く、子狐は続けたのだった。
「能力は幻覚や記憶の操作」