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第三部 23話 忘れ形見

ー/ー



「……何のつもりです?」
 俺は行商人を問い詰めていた。ちなみに元自宅の裏である。

「い、いやぁ、伝言を『聞いた』んですよぉ。
 わざわざ追いかけて来たんです。あんまりじゃないですかぁ」
「? 伝言?」
 涙目に少し苛立ちながらも訊き返す。

「ええ。なんでも『忘れ物も取ってきなさい』だそうで?」
「ッ!」
 自分で言って、行商人は首を傾げた。

「他に何か言ってましたか?」
「えっと『森に行けば分かる』だとか何とか……」
 行商人が自信なさげに首を傾げる。

 だが、恐らくは正しい。心当たりがある。
 確かに言っていたのだ。『受け取り損ねている』と。



 言われた通り、俺は森へと入ることにした。
 だが、一体どこへ向かえば良いのか。

 目的地を定めないで歩いていると、鍛錬で使っていた広場に出た。
 
「……む」
 昔と変わらない広場をやけに懐かしく感じる。

 気まぐれに腰のナイフを抜いた。
 順手で払う。逆手で返す。そのまま三度突いた。

 アッシュの頃よりも少しばかり遅いが、これから速くなる余地はあるだろう。
 ぱちぱち、という拍手で振り返る。

「すごいすごい!」
 見れば、ナタリーが広場の入口に立っていた。

「ナタリー、さん」
「ソフィアちゃんから聞いてはいたけれど、速いんだね」
 俺が返事に困っていると、ナタリーは気にした風もなく広場の中心まで歩いてきた。

「!?」
 そのまま――こてん、と草の上に寝転んだ。

「この村だと、あたしは昼寝が日課なの」
 そのまま「ふぁあ」と欠伸をするとすやすやと眠りについた。

「……本当に寝た?」
 思わず呟きながら、この広場がナタリーのお気に入りだったと思い出す。

 苦笑して一歩近づいた。
 久しぶりに寝顔を見てやろうと思ったのだ。

「ん?」
 とん、と足に何かが纏わりついた。

 ――狐?

 足元に狐がいた。まだ小さい。子狐と言って良いだろう。
 子狐はすぐに離れて、森の中へと去って行く。

「今のは……? あれ、霧?」
 いつの間にか広場は濃霧に包まれていた。

 周囲を見回す。突然の霧だ。あまりにも不自然だった。
 やがて、広場の一角から物音が聞こえてくる。ナイフを構えた。

「……嘘だろう?」
 現れた人物に声を漏らした。

 全身を黒く塗りつぶしたようなハーフエルフだった。
 確かに死んだはずの『レン・クーガー』だった。
 
「むにゃ……あれ? キース? どうしたの?」
 不意にナタリーの声が聞こえた。
 
「!?」
 その瞬間、『レン・クーガー』と濃霧は跡形もなく消え去った。
 
 足元にはまだ子狐がいた。俺は反射的にその首根っこを掴んだ。
 甲高い鳴き声が響いた。恨みがましい雰囲気があった。
 
「あれ、何その子? 可愛いねぇ」
 ナタリーの暢気な声を聞きながら、俺は子狐を改めて見る。

 ――お前がやったのか?

 子狐はがむしゃらに暴れていた。



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「……何のつもりです?」
 俺は行商人を問い詰めていた。ちなみに元自宅の裏である。
「い、いやぁ、伝言を『聞いた』んですよぉ。
 わざわざ追いかけて来たんです。あんまりじゃないですかぁ」
「? 伝言?」
 涙目に少し苛立ちながらも訊き返す。
「ええ。なんでも『忘れ物も取ってきなさい』だそうで?」
「ッ!」
 自分で言って、行商人は首を傾げた。
「他に何か言ってましたか?」
「えっと『森に行けば分かる』だとか何とか……」
 行商人が自信なさげに首を傾げる。
 だが、恐らくは正しい。心当たりがある。
 確かに言っていたのだ。『受け取り損ねている』と。
 言われた通り、俺は森へと入ることにした。
 だが、一体どこへ向かえば良いのか。
 目的地を定めないで歩いていると、鍛錬で使っていた広場に出た。
「……む」
 昔と変わらない広場をやけに懐かしく感じる。
 気まぐれに腰のナイフを抜いた。
 順手で払う。逆手で返す。そのまま三度突いた。
 アッシュの頃よりも少しばかり遅いが、これから速くなる余地はあるだろう。
 ぱちぱち、という拍手で振り返る。
「すごいすごい!」
 見れば、ナタリーが広場の入口に立っていた。
「ナタリー、さん」
「ソフィアちゃんから聞いてはいたけれど、速いんだね」
 俺が返事に困っていると、ナタリーは気にした風もなく広場の中心まで歩いてきた。
「!?」
 そのまま――こてん、と草の上に寝転んだ。
「この村だと、あたしは昼寝が日課なの」
 そのまま「ふぁあ」と欠伸をするとすやすやと眠りについた。
「……本当に寝た?」
 思わず呟きながら、この広場がナタリーのお気に入りだったと思い出す。
 苦笑して一歩近づいた。
 久しぶりに寝顔を見てやろうと思ったのだ。
「ん?」
 とん、と足に何かが纏わりついた。
 ――狐?
 足元に狐がいた。まだ小さい。子狐と言って良いだろう。
 子狐はすぐに離れて、森の中へと去って行く。
「今のは……? あれ、霧?」
 いつの間にか広場は濃霧に包まれていた。
 周囲を見回す。突然の霧だ。あまりにも不自然だった。
 やがて、広場の一角から物音が聞こえてくる。ナイフを構えた。
「……嘘だろう?」
 現れた人物に声を漏らした。
 全身を黒く塗りつぶしたようなハーフエルフだった。
 確かに死んだはずの『レン・クーガー』だった。
「むにゃ……あれ? キース? どうしたの?」
 不意にナタリーの声が聞こえた。
「!?」
 その瞬間、『レン・クーガー』と濃霧は跡形もなく消え去った。
 足元にはまだ子狐がいた。俺は反射的にその首根っこを掴んだ。
 甲高い鳴き声が響いた。恨みがましい雰囲気があった。
「あれ、何その子? 可愛いねぇ」
 ナタリーの暢気な声を聞きながら、俺は子狐を改めて見る。
 ――お前がやったのか?
 子狐はがむしゃらに暴れていた。