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第三部 19話 夏休み

ー/ー



 教室の黒板には『実技演習の結果』と大きく書かれていた。

 ソフィアのチームが一位。
 堂々の全勝だった。

 俺達を含めた三チームが同着二位。
 それぞれソフィアチーム以外に一敗した形だ。

 俺達はつい先日に一敗している。
 速攻でセシルへの遠距離攻撃が通ったのだ。

「はい。じゃあ、授業はここまで」
 担任がそう言うと、教室は急に騒がしくなった。

「……あまりハメを外し過ぎないように」
 わざとらしく呟くように大きな声を出す。

 その視線は俺、グレイ、セシルの順で動いた気がした。
 ……きっと気のせいだろう。

 前期が終わったのだ。
 王立学院の夏休みである。

 ちらり、と。教室の反対側へと目を向ける。
 ソフィアは窓の外を眺めていた。

 あれからソフィアとはまともに話せていない。
 お互いに合わせる顔がないのだろう。

「おい!」
 後ろから声を掛けられる。

「なんだ?」
 見れば、グレイとセシルが歩いてくる。

「成績はどうだった?」
「……」
 グレイが神妙な顔で訊いた。セシルはすでに半泣きである。
 成績表もちゃんと返って来たのだ。

「俺は自分が何も分かってないことが良く分かった」
 返事を待たずにグレイが続ける。

「俺はこのままだとマズイことが分かったぞ」
 俺が答える。内心は焦りまくっている。

「……私は何も分かってない。一体何が起こっているの?」
 セシルの言葉に、全員が気まずそうに目を逸らした。
 
「そ、そうだ! キースに話があって来たんだよ」
「? 話?」
 あからさまな話題転換だったが、あえて乗っかった。
 
「そう。俺達は自分の村に帰省するんだ。
 良かったら一緒に来ないか? どうせ王都にいても暇だろう?」
 グレイの言葉にセシルが何度も頷いた。

「ああ、なるほど。家族が良いって言えば行こうかな」
「そりゃ良かった。出発は三日後だ。夏休みの半分くらい使うかな」
 学院の夏休みは二か月近くある。一か月程度の予定ということか。



「いいんじゃないですか? 学生らしくて」
 ティアナに報告すると、どこか面白くなさそうに言った。

「……ありがたく行ってくるけどさ。何が不満なんだよ?」
「だって、一人で遊びに行くんじゃないですか?」
「そりゃあ、学生だし。付き合いもあるさ」
「へぇ。成績はどうでした?」
「……」
 急所を突かれて言葉が出ない。

「ふふ、分かりました。
 ただし、兄さんの体に傷は付けないで下さいね?」
 大人しく頷いて、俺は頭を小さく下げた。

 すでに力関係は決定しているようだった。



 出発の朝。
 俺は待ち合わせ場所に荷物を引き摺ずるようにやって来た。

「? グレイもセシルもまだか?」
 周囲を見回すが、俺以外に人影はない。

 すぐ隣には乗合馬車が止まっている。
 まだ出発まで時間はある。すぐに来るだろう。

「仕方ない。中で待たせてもらおうかな……」
 せめて荷物だけでも置いておきたい。

 御者に事情だけ話す。

「あー、はいはい。良いですよー。
 ただ、他のお客さんもいるんで気を付けてくださいねー」
「はい。ありがとうございます」
 妙なイントネーションで話す御者にお礼を言って、馬車に乗り込んだ。

「え?」
「あ?」
 俺の声と重なる女の子の声。

 馬車には『ソフィア・ターナー』が乗っていた。
 それどころか――

「なになに? どうしたの? ソフィアちゃん?」
「すぴー」

 ――あまりにも見慣れた顔ぶれがあった。
『ナタリー・クレフ』『アリス・カナ・バケット』の二人だった。

「……ぴ?」
 ソフィアの頭の上で青い小鳥が首を傾げた。



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 教室の黒板には『実技演習の結果』と大きく書かれていた。
 ソフィアのチームが一位。
 堂々の全勝だった。
 俺達を含めた三チームが同着二位。
 それぞれソフィアチーム以外に一敗した形だ。
 俺達はつい先日に一敗している。
 速攻でセシルへの遠距離攻撃が通ったのだ。
「はい。じゃあ、授業はここまで」
 担任がそう言うと、教室は急に騒がしくなった。
「……あまりハメを外し過ぎないように」
 わざとらしく呟くように大きな声を出す。
 その視線は俺、グレイ、セシルの順で動いた気がした。
 ……きっと気のせいだろう。
 前期が終わったのだ。
 王立学院の夏休みである。
 ちらり、と。教室の反対側へと目を向ける。
 ソフィアは窓の外を眺めていた。
 あれからソフィアとはまともに話せていない。
 お互いに合わせる顔がないのだろう。
「おい!」
 後ろから声を掛けられる。
「なんだ?」
 見れば、グレイとセシルが歩いてくる。
「成績はどうだった?」
「……」
 グレイが神妙な顔で訊いた。セシルはすでに半泣きである。
 成績表もちゃんと返って来たのだ。
「俺は自分が何も分かってないことが良く分かった」
 返事を待たずにグレイが続ける。
「俺はこのままだとマズイことが分かったぞ」
 俺が答える。内心は焦りまくっている。
「……私は何も分かってない。一体何が起こっているの?」
 セシルの言葉に、全員が気まずそうに目を逸らした。
「そ、そうだ! キースに話があって来たんだよ」
「? 話?」
 あからさまな話題転換だったが、あえて乗っかった。
「そう。俺達は自分の村に帰省するんだ。
 良かったら一緒に来ないか? どうせ王都にいても暇だろう?」
 グレイの言葉にセシルが何度も頷いた。
「ああ、なるほど。家族が良いって言えば行こうかな」
「そりゃ良かった。出発は三日後だ。夏休みの半分くらい使うかな」
 学院の夏休みは二か月近くある。一か月程度の予定ということか。
「いいんじゃないですか? 学生らしくて」
 ティアナに報告すると、どこか面白くなさそうに言った。
「……ありがたく行ってくるけどさ。何が不満なんだよ?」
「だって、一人で遊びに行くんじゃないですか?」
「そりゃあ、学生だし。付き合いもあるさ」
「へぇ。成績はどうでした?」
「……」
 急所を突かれて言葉が出ない。
「ふふ、分かりました。
 ただし、兄さんの体に傷は付けないで下さいね?」
 大人しく頷いて、俺は頭を小さく下げた。
 すでに力関係は決定しているようだった。
 出発の朝。
 俺は待ち合わせ場所に荷物を引き摺ずるようにやって来た。
「? グレイもセシルもまだか?」
 周囲を見回すが、俺以外に人影はない。
 すぐ隣には乗合馬車が止まっている。
 まだ出発まで時間はある。すぐに来るだろう。
「仕方ない。中で待たせてもらおうかな……」
 せめて荷物だけでも置いておきたい。
 御者に事情だけ話す。
「あー、はいはい。良いですよー。
 ただ、他のお客さんもいるんで気を付けてくださいねー」
「はい。ありがとうございます」
 妙なイントネーションで話す御者にお礼を言って、馬車に乗り込んだ。
「え?」
「あ?」
 俺の声と重なる女の子の声。
 馬車には『ソフィア・ターナー』が乗っていた。
 それどころか――
「なになに? どうしたの? ソフィアちゃん?」
「すぴー」
 ――あまりにも見慣れた顔ぶれがあった。
『ナタリー・クレフ』『アリス・カナ・バケット』の二人だった。
「……ぴ?」
 ソフィアの頭の上で青い小鳥が首を傾げた。