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第三部 17話 二つの罪悪感

ー/ー



 ソフィアが俺の腕を握っている。
 かれこれ十秒以上は黙ったままだ。

「えっと……血が」
 歯切れ悪くソフィアが呟いた。

 見れば、掴まれた左手の二の腕が浅く裂かれていた。

「……ほんとだ」
 気にするような怪我でもなかったが、ソフィアの様子に足を止める。

「見せてっ……」
 グレイの後ろにいたセシルが駆け寄ってくる。

 セシルは俺の腕を抱えて軽く触ると、一度頷いた。
 血は出てるけど深くない、と息を吐いた。

「これなら治せる」
「治せる?」
 俺の言葉に返事はせず、右手を傷口にかざした。

 柔らかな光が俺の傷口に触れる。
 すぐに痛みが和らいだ。

「セシル、治癒術が使えたのか?」
「うん。学院だと使う機会があまりないけど……」
 驚いている間に俺の傷は塞がってしまった。

 これならあの男を追いかけても何の支障もないだろう。

「ソフィア、後を追うぞ……ソフィア?」
「……どうして?」
 ソフィアが小さく小さく囁いた。

 にもかかわらず、その場の全員がソフィアを振り返る。
 無理もないだろう。その声は泣いているように聞こえた。

「どうして、そんな顔で笑うのよ?」
 呆然と一歩下がる。何かを恐れるようだった。

「どうして誰かを助けてそんな顔をするの!?
 それじゃあ、まるで……ッ!」
 先生と同じじゃない、と悔しそうに歯を鳴らした。

 すぐに表情を切り替えると、俺へと駆け寄って胸倉を掴み上げた。

「助けてくれたことは感謝するわ。ありがとう」

 言葉と態度が違い過ぎるな。
 恫喝されてる気分になるよ。

「でも、前にも言ったわよね? 人間らしく笑って。
 あんたが悪いわけじゃない。でも、その姿だけは耐えられないの」

 いや、本当は恫喝されているんだろうな。
 感謝されてる気分になったよ。

「分かってる。努力はしているつもりだ」
 内心の皮肉は漏らさずに答えた。

 嘘はない。皮肉でも言わなきゃやってられないだけだ。
 きっと、アッシュの最期が関係あるのだろうから。

 ――俺のせいだ。
 ――あの死に方のせいだ。

 ソフィアが俺を突き飛ばす。
 俺は後ろに数歩だけよろめいた。

「……ごめんなさい」
 一度だけ足を止めて俯いた。

「おい!」
 すぐに前を向くと、男が逃げた方へと走り出す。

 俺は後を追い掛ける。
 あっという間に遠くなる背中に思わず感心した。



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 ソフィアが俺の腕を握っている。
 かれこれ十秒以上は黙ったままだ。
「えっと……血が」
 歯切れ悪くソフィアが呟いた。
 見れば、掴まれた左手の二の腕が浅く裂かれていた。
「……ほんとだ」
 気にするような怪我でもなかったが、ソフィアの様子に足を止める。
「見せてっ……」
 グレイの後ろにいたセシルが駆け寄ってくる。
 セシルは俺の腕を抱えて軽く触ると、一度頷いた。
 血は出てるけど深くない、と息を吐いた。
「これなら治せる」
「治せる?」
 俺の言葉に返事はせず、右手を傷口にかざした。
 柔らかな光が俺の傷口に触れる。
 すぐに痛みが和らいだ。
「セシル、治癒術が使えたのか?」
「うん。学院だと使う機会があまりないけど……」
 驚いている間に俺の傷は塞がってしまった。
 これならあの男を追いかけても何の支障もないだろう。
「ソフィア、後を追うぞ……ソフィア?」
「……どうして?」
 ソフィアが小さく小さく囁いた。
 にもかかわらず、その場の全員がソフィアを振り返る。
 無理もないだろう。その声は泣いているように聞こえた。
「どうして、そんな顔で笑うのよ?」
 呆然と一歩下がる。何かを恐れるようだった。
「どうして誰かを助けてそんな顔をするの!?
 それじゃあ、まるで……ッ!」
 先生と同じじゃない、と悔しそうに歯を鳴らした。
 すぐに表情を切り替えると、俺へと駆け寄って胸倉を掴み上げた。
「助けてくれたことは感謝するわ。ありがとう」
 言葉と態度が違い過ぎるな。
 恫喝されてる気分になるよ。
「でも、前にも言ったわよね? 人間らしく笑って。
 あんたが悪いわけじゃない。でも、その姿だけは耐えられないの」
 いや、本当は恫喝されているんだろうな。
 感謝されてる気分になったよ。
「分かってる。努力はしているつもりだ」
 内心の皮肉は漏らさずに答えた。
 嘘はない。皮肉でも言わなきゃやってられないだけだ。
 きっと、アッシュの最期が関係あるのだろうから。
 ――俺のせいだ。
 ――あの死に方のせいだ。
 ソフィアが俺を突き飛ばす。
 俺は後ろに数歩だけよろめいた。
「……ごめんなさい」
 一度だけ足を止めて俯いた。
「おい!」
 すぐに前を向くと、男が逃げた方へと走り出す。
 俺は後を追い掛ける。
 あっという間に遠くなる背中に思わず感心した。