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第百四十九話

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 一通りのスパルタな修業が終わり、風呂で汗を流し眠りにつく子供たち。女風呂の方ではまた胸についての話題で持ちきりだったが、頭目をイジった瞬間子供たちに拳骨が飛ぶ。そのため、布団で眠りにつく女子たちの大体は、頭にたんこぶを作った状態で寝ているのだ。ちなみに男子のほぼはレイジーではなくエヴァの胸に興味津々であったため、彼らもまたレイジーによるフルパワーの拳骨の刑に処されていた。
 そんな平和な寝顔を確認してから、レイジーはエヴァと共に、明かりの少ないしのびの里内を歩き回る。
 明かりは、家屋に提げてある数々の提灯と星々の明かりのみ。そのため、都会では味わうことのできない、自然の明かりのみで照らされた場であった。そんな中で、二人きり久々の再会を喜んでいたのだった。
「――今日は、忍者たち……もとい、御庭番衆を育て上げるための修行に付き合ってくれてありがとう。本当は、スパルタコースなんてやるつもりなかったんだけどね」
「英雄学園に所属していた昔から、地雷は変わってないようで安心した。レイジーの胸、小ぶりで可愛いと思うんだけどなあ」
「デカけりゃあいいってもんでもない、それを分かってない馬鹿共が多すぎるんだよね」
 実際、ベッド上での攻防は、レイジーの方が強かった。エヴァが成す術なく組み敷かれ、『満足』させられることが六割。残りの四割はエヴァの攻めによって『満足』していたのだが。お互い両刀扱えるのは、実に便利なものである。そこに胸の大きさなど関係ないのだ。
「……ずっと行方不明だったことに関しては、素直にこっちの事情。まだ……詳しいことは話せないけど……本当にごめん」
「ううん、もういいんだよ。『教会』に入って支部長やっているのも……きっと何か皆のための事情があるんだよね。今言いたくないなら――私は何も聞かない。いつか、話してくれる時を待つだけだよ」
 いつも一歩引く優しさ。学園在籍時から同じ寮で過ごしてきたパートナーとして、何度も感じてきたエヴァの長所の一つである。
「……いや、ここいらで話したい。話しておきたい。私のためにも……エヴァや今回山梨にやってきた、二人の一年次の女の子(ガールズ)たちのためにも」
 月夜に照らされながら訪れたのは、しのびの里から程離れた展望台。里の様子が一望できる、レイジーの気持ちを整理するうえでお気に入りの場所である。あるものは一台のベンチのみ。二人だけが座れる、秘密の場所であるのだ。
 徐々に、レイジーの表情が分かり始める。その表情は、今までにないほど暗く淀んでいた。これから口にする言葉で、下手したらエヴァを傷つけてしまうかもしれない。そんな心配が、そのまま表れていたのだ。
 二人がベンチに座ると、うなだれながらぽつぽつと言葉を紡ぎだした。
「……私が『教会』に入って、崩壊工作を目論んだ理由は……『エヴァがもう武器を作らなくてもいいように』……それが大きな理由なんだ」
「――どういう、事?」
「ある意味……『英雄たちが身を粉にして戦わなくてもいいように、血を流さなくてもいいように』、って願いと一緒かもしれない。私がこのカルト宗教団体を改革して……今すぐに、なんて驕りはないけど……そう遠くない未来、『争わない未来』を望んだんだ。今も……その考えは変わってない」
 言うならば、エヴァのアイデンティティを否定するような考え。同じ異名を背負った人間だからこそ、その重責は尋常でないものであることは理解している。それが親から継承したものだとはいえ。レイジーはその重荷を背負い続けたからこそ、他者の重荷の紐を善意で解こうとしていたのだ。
 エヴァとレイジー、それぞれ両親を亡くしている。さらに、それは両親の作った武器によって殺された。人間の欲の恐ろしさを、昔から重々理解している。
「……いつだって、周りはエヴァを見ている訳じゃあない。エヴァやご両親の作った武器を見ていたし、欲していた。そのせいで、多くの小競り合いが生まれた。権利を自分のほしいままにしたい、欲の権化のような存在がわんさといた。私は……そんな欲の塊のようなクソのせいで、エヴァ達英雄の軍勢が傷つく姿を見たくないんだ」
 だからこそ、内側から壊す。それがレイジーの考えであった。傷つくなら、自分だけでいい。これ以上、エヴァや彼女にまつわる人物が傷つく姿を見たくない。今まで勤勉に生きてきたからこそ、皆にある程度『怠惰』な生き方を提示しようとしていたのだ。
「――もう、休んでもいいじゃあないか。もう傷つかなくてもいいじゃあないか。勤勉なことは、人間である以上素晴らしい美徳だと思うが……それは同時に、自分を顧みない行動だ。エヴァや身の回りに覚えがないとは……言わせないよ」
 レイジーもまた、渋谷で起こった英雄学園の生徒と『教会』からの裏切り者二名、それらと神奈川支部のひと悶着、そして二週間ほど前の合同演習会で起こった、謀反に似た戦い。その生中継を目の当たりにしている。それぞれ中心にいた存在は、間違いなく最も勤勉かつ最も自分を顧みない存在。
 誰よりも傷つき続ける純朴な少女。そんな彼女に肩入れしているエヴァもまた、等しく自分の身を犠牲にしていたのだ。フォルニカと会いたくないのにも拘らず、礼安を窮地から救うために渋谷に馳せ参じ、合同演習会でも中心メンバーの一人としてリタイアするまで戦い続けた。
 『怠惰』を司る支部長こそ、レイジー。しかし他の支部長と比べ、何ら強制力も被害も与えてないため、何も言えない。あろうことか、『怠惰』を背負う存在であるのに、衆生救済を掲げる――最も『勤勉』な存在であったのだ。



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 一通りのスパルタな修業が終わり、風呂で汗を流し眠りにつく子供たち。女風呂の方ではまた胸についての話題で持ちきりだったが、頭目をイジった瞬間子供たちに拳骨が飛ぶ。そのため、布団で眠りにつく女子たちの大体は、頭にたんこぶを作った状態で寝ているのだ。ちなみに男子のほぼはレイジーではなくエヴァの胸に興味津々であったため、彼らもまたレイジーによるフルパワーの拳骨の刑に処されていた。
 そんな平和な寝顔を確認してから、レイジーはエヴァと共に、明かりの少ないしのびの里内を歩き回る。
 明かりは、家屋に提げてある数々の提灯と星々の明かりのみ。そのため、都会では味わうことのできない、自然の明かりのみで照らされた場であった。そんな中で、二人きり久々の再会を喜んでいたのだった。
「――今日は、忍者たち……もとい、御庭番衆を育て上げるための修行に付き合ってくれてありがとう。本当は、スパルタコースなんてやるつもりなかったんだけどね」
「英雄学園に所属していた昔から、地雷は変わってないようで安心した。レイジーの胸、小ぶりで可愛いと思うんだけどなあ」
「デカけりゃあいいってもんでもない、それを分かってない馬鹿共が多すぎるんだよね」
 実際、ベッド上での攻防は、レイジーの方が強かった。エヴァが成す術なく組み敷かれ、『満足』させられることが六割。残りの四割はエヴァの攻めによって『満足』していたのだが。お互い両刀扱えるのは、実に便利なものである。そこに胸の大きさなど関係ないのだ。
「……ずっと行方不明だったことに関しては、素直にこっちの事情。まだ……詳しいことは話せないけど……本当にごめん」
「ううん、もういいんだよ。『教会』に入って支部長やっているのも……きっと何か皆のための事情があるんだよね。今言いたくないなら――私は何も聞かない。いつか、話してくれる時を待つだけだよ」
 いつも一歩引く優しさ。学園在籍時から同じ寮で過ごしてきたパートナーとして、何度も感じてきたエヴァの長所の一つである。
「……いや、ここいらで話したい。話しておきたい。私のためにも……エヴァや今回山梨にやってきた、二人の|一年次の女の子《ガールズ》たちのためにも」
 月夜に照らされながら訪れたのは、しのびの里から程離れた展望台。里の様子が一望できる、レイジーの気持ちを整理するうえでお気に入りの場所である。あるものは一台のベンチのみ。二人だけが座れる、秘密の場所であるのだ。
 徐々に、レイジーの表情が分かり始める。その表情は、今までにないほど暗く淀んでいた。これから口にする言葉で、下手したらエヴァを傷つけてしまうかもしれない。そんな心配が、そのまま表れていたのだ。
 二人がベンチに座ると、うなだれながらぽつぽつと言葉を紡ぎだした。
「……私が『教会』に入って、崩壊工作を目論んだ理由は……『エヴァがもう武器を作らなくてもいいように』……それが大きな理由なんだ」
「――どういう、事?」
「ある意味……『英雄たちが身を粉にして戦わなくてもいいように、血を流さなくてもいいように』、って願いと一緒かもしれない。私がこのカルト宗教団体を改革して……今すぐに、なんて驕りはないけど……そう遠くない未来、『争わない未来』を望んだんだ。今も……その考えは変わってない」
 言うならば、エヴァのアイデンティティを否定するような考え。同じ異名を背負った人間だからこそ、その重責は尋常でないものであることは理解している。それが親から継承したものだとはいえ。レイジーはその重荷を背負い続けたからこそ、他者の重荷の紐を善意で解こうとしていたのだ。
 エヴァとレイジー、それぞれ両親を亡くしている。さらに、それは両親の作った武器によって殺された。人間の欲の恐ろしさを、昔から重々理解している。
「……いつだって、周りはエヴァを見ている訳じゃあない。エヴァやご両親の作った武器を見ていたし、欲していた。そのせいで、多くの小競り合いが生まれた。権利を自分のほしいままにしたい、欲の権化のような存在がわんさといた。私は……そんな欲の塊のようなクソのせいで、エヴァ達英雄の軍勢が傷つく姿を見たくないんだ」
 だからこそ、内側から壊す。それがレイジーの考えであった。傷つくなら、自分だけでいい。これ以上、エヴァや彼女にまつわる人物が傷つく姿を見たくない。今まで勤勉に生きてきたからこそ、皆にある程度『怠惰』な生き方を提示しようとしていたのだ。
「――もう、休んでもいいじゃあないか。もう傷つかなくてもいいじゃあないか。勤勉なことは、人間である以上素晴らしい美徳だと思うが……それは同時に、自分を顧みない行動だ。エヴァや身の回りに覚えがないとは……言わせないよ」
 レイジーもまた、渋谷で起こった英雄学園の生徒と『教会』からの裏切り者二名、それらと神奈川支部のひと悶着、そして二週間ほど前の合同演習会で起こった、謀反に似た戦い。その生中継を目の当たりにしている。それぞれ中心にいた存在は、間違いなく最も勤勉かつ最も自分を顧みない存在。
 誰よりも傷つき続ける純朴な少女。そんな彼女に肩入れしているエヴァもまた、等しく自分の身を犠牲にしていたのだ。フォルニカと会いたくないのにも拘らず、礼安を窮地から救うために渋谷に馳せ参じ、合同演習会でも中心メンバーの一人としてリタイアするまで戦い続けた。
 『怠惰』を司る支部長こそ、レイジー。しかし他の支部長と比べ、何ら強制力も被害も与えてないため、何も言えない。あろうことか、『怠惰』を背負う存在であるのに、衆生救済を掲げる――最も『勤勉』な存在であったのだ。