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第百四十七話

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 レイジーに戦災孤児たちが休む場所を教えてもらい、警戒心を抱かせないようたった一人で出向くエヴァ。ノックをしつつ、襖を開けると。
 見知らぬエヴァを見つめ、何かの恐怖におびえる子供たち。六割ほどは怖がり、四割ほどは未知への好奇心交じりかエヴァの豊満な体を見て興味津々の子供たち。そんな子供たちを憐れみながら、少しでも警戒心を解いてもらうよう自分の安全性を示す――はずだったが。
「大丈夫だよ、私は君たちに害を与える存在じゃあないから――」
 どれほど説得を試みようと、誰も信じようとしない。彼女から距離を取るばかり。そんな中。
「――隙有りィッ!!」
 木刀を手に、エヴァに飛び掛かる子供が一人。その頭上から振り下ろされる刃に対し、達人と思えるほどのミリ単位で回避し、広々とした家屋の中に転がり込む。
 戦災孤児たちが寝泊まりしているこの家屋は、いわば剣道場。試合をする場に入り込んだエヴァは、咄嗟に回避した瞬間、靴を脱ぎ捨てたことを正解だと認識した。マナーで言うならば最悪の行為だが。
「こんな聖域に土足で入り込むなんて……禁忌とされるくらいのマナー違反しそうだったよ全く……歴代の武人たちに呪われそう」
「……何でここに来たんだよ、アンタ」
「――私は、君たちを傷つけるような……悪い奴じゃあない。それを分かってほしくってさ」
 その場でネックスプリングをし、宙で一回転しつつ音もなく着地。
 多少動きづらい服装ではあったが、それでも尚忍者顔負けの身のこなしを見せるエヴァに、周りから賞賛の拍手がまばらに起こる。
「――君、名前は何て言うの?」
「名乗ってほしいなら、そっちが先に名乗るべきだろ」
 年の割に、世界の全てを憎んでいるような釣り目が、エヴァをただ睨みつけている。刺すような視線が、心すら貫くような。
「……ごめんね、私はエヴァ・クリストフ。英雄学園武器科二年一組所属の……ちょっと武器が好きな変人、かな」
 律儀に自己紹介をしたエヴァであったが、そんなほんの一瞬の油断を狙ってか、顔面に迫るのは木刀による高速の突き。
 常人や、ある程度の剣道有段者であったとしても、あらゆる常識を疑うほどに正確無比かつ超高速の一撃であった。
 しかし、エヴァはその一撃を無刀取りによって難なく掴み、眉間すれすれで攻撃を制止する。
「!! ――ぁアアィアッ!!」
 先ほど失敗していた上段飛び回し蹴り。しかも先ほどよりも高く、殺意の高いもの。障害となっていた周りの子供たちがいない影響もあり、何不自由のない一撃を放つことが出来たのだ。
 子供が放ったものと侮るなかれ、重さやダメージが常軌を逸していたのだ。さながら、今相対しているのは空手の有段者であると錯覚するほど。
 片腕でしっかりとガードすると、そのガードされた衝撃をばねに、宙で身をひねりながらもう一発、脳天に叩き込まんと振り下ろす胴回し蹴り。
(掌底かボディブローによるカウンターをがら空きの胴体に……が本来の定石だろうけど……それじゃあ駄目だよね)
 そう自覚した彼女は、回し蹴りを掴み、自身の後方に背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 何とか宙で身を捻って受け身を取る子供であったが、正拳突きを繰り出す前に、子供の拳を掌でしっかりと掴み取り、喉元ぎりぎりに当てる、手刀による突き。
 それで、手練れ同士の勝負は決したのだった。
「――私ね、伊達に『教会』の支部を潰すお手伝いをしてないの。ある程度の未熟者なら……私は生身であったとしても制圧できる。分かった? 礼儀知らずのちびっ子ちゃん」
 圧倒的な実力(ちから)の差を感じ取った子供は、その場にへたり込む。大人げない、と思われるであろうが、相手はあらゆる武術の有段者を容易に上回る、強靭な膂力を有していた。ゆえに、ある程度格上としての力を行使することで、撥ねっかえり上等な反骨心が収まる。それ以外に選択肢はなかったのだ。
「……ンで、アタシをどうするつもりだよ」
「違うの、君の名前を知りたいな、って思ってさ。それに……ここにお邪魔させてもらっている以上、ちょっとは君たちと仲良くなりたい。似た者同士、だと思うし」
 先ほどまで、戦士としての真剣な表情を見せていたエヴァであったが、へたり込む子供の目線に合わせるように、気を使いながら子供の手を包み込むように取って座り込む。正当防衛をしただけで、敵ではないことをじっくりと認知させるように。
「――教えて、君の名前」
「……(あおい)。苗字は……忘れた。パパもママも……きっと死んだから」



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 レイジーに戦災孤児たちが休む場所を教えてもらい、警戒心を抱かせないようたった一人で出向くエヴァ。ノックをしつつ、襖を開けると。
 見知らぬエヴァを見つめ、何かの恐怖におびえる子供たち。六割ほどは怖がり、四割ほどは未知への好奇心交じりかエヴァの豊満な体を見て興味津々の子供たち。そんな子供たちを憐れみながら、少しでも警戒心を解いてもらうよう自分の安全性を示す――はずだったが。
「大丈夫だよ、私は君たちに害を与える存在じゃあないから――」
 どれほど説得を試みようと、誰も信じようとしない。彼女から距離を取るばかり。そんな中。
「――隙有りィッ!!」
 木刀を手に、エヴァに飛び掛かる子供が一人。その頭上から振り下ろされる刃に対し、達人と思えるほどのミリ単位で回避し、広々とした家屋の中に転がり込む。
 戦災孤児たちが寝泊まりしているこの家屋は、いわば剣道場。試合をする場に入り込んだエヴァは、咄嗟に回避した瞬間、靴を脱ぎ捨てたことを正解だと認識した。マナーで言うならば最悪の行為だが。
「こんな聖域に土足で入り込むなんて……禁忌とされるくらいのマナー違反しそうだったよ全く……歴代の武人たちに呪われそう」
「……何でここに来たんだよ、アンタ」
「――私は、君たちを傷つけるような……悪い奴じゃあない。それを分かってほしくってさ」
 その場でネックスプリングをし、宙で一回転しつつ音もなく着地。
 多少動きづらい服装ではあったが、それでも尚忍者顔負けの身のこなしを見せるエヴァに、周りから賞賛の拍手がまばらに起こる。
「――君、名前は何て言うの?」
「名乗ってほしいなら、そっちが先に名乗るべきだろ」
 年の割に、世界の全てを憎んでいるような釣り目が、エヴァをただ睨みつけている。刺すような視線が、心すら貫くような。
「……ごめんね、私はエヴァ・クリストフ。英雄学園武器科二年一組所属の……ちょっと武器が好きな変人、かな」
 律儀に自己紹介をしたエヴァであったが、そんなほんの一瞬の油断を狙ってか、顔面に迫るのは木刀による高速の突き。
 常人や、ある程度の剣道有段者であったとしても、あらゆる常識を疑うほどに正確無比かつ超高速の一撃であった。
 しかし、エヴァはその一撃を無刀取りによって難なく掴み、眉間すれすれで攻撃を制止する。
「!! ――ぁアアィアッ!!」
 先ほど失敗していた上段飛び回し蹴り。しかも先ほどよりも高く、殺意の高いもの。障害となっていた周りの子供たちがいない影響もあり、何不自由のない一撃を放つことが出来たのだ。
 子供が放ったものと侮るなかれ、重さやダメージが常軌を逸していたのだ。さながら、今相対しているのは空手の有段者であると錯覚するほど。
 片腕でしっかりとガードすると、そのガードされた衝撃をばねに、宙で身をひねりながらもう一発、脳天に叩き込まんと振り下ろす胴回し蹴り。
(掌底かボディブローによるカウンターをがら空きの胴体に……が本来の定石だろうけど……それじゃあ駄目だよね)
 そう自覚した彼女は、回し蹴りを掴み、自身の後方に背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 何とか宙で身を捻って受け身を取る子供であったが、正拳突きを繰り出す前に、子供の拳を掌でしっかりと掴み取り、喉元ぎりぎりに当てる、手刀による突き。
 それで、手練れ同士の勝負は決したのだった。
「――私ね、伊達に『教会』の支部を潰すお手伝いをしてないの。ある程度の未熟者なら……私は生身であったとしても制圧できる。分かった? 礼儀知らずのちびっ子ちゃん」
 圧倒的な|実力《ちから》の差を感じ取った子供は、その場にへたり込む。大人げない、と思われるであろうが、相手はあらゆる武術の有段者を容易に上回る、強靭な膂力を有していた。ゆえに、ある程度格上としての力を行使することで、撥ねっかえり上等な反骨心が収まる。それ以外に選択肢はなかったのだ。
「……ンで、アタシをどうするつもりだよ」
「違うの、君の名前を知りたいな、って思ってさ。それに……ここにお邪魔させてもらっている以上、ちょっとは君たちと仲良くなりたい。似た者同士、だと思うし」
 先ほどまで、戦士としての真剣な表情を見せていたエヴァであったが、へたり込む子供の目線に合わせるように、気を使いながら子供の手を包み込むように取って座り込む。正当防衛をしただけで、敵ではないことをじっくりと認知させるように。
「――教えて、君の名前」
「……|葵《あおい》。苗字は……忘れた。パパもママも……きっと死んだから」