レイジー・アルゴノーツは、エヴァ同様アメリカの出である。金髪のエヴァに対し、世界的にも珍しい金青色のロングヘアー。エヴァが礼安に彼女を少し重ねるのも、どこか頷ける寒色であった。
体格としては、全体的に豊満なエヴァと正反対に、華奢な体をしている。しかし全身しなやかな筋肉を持ち、純粋なスポーツマン体形。彼女の体形で一番近いのは透である。それもこれも、元々少々有名なスイマーであったため。
そして、そんな彼女は、もう一人の『武器の匠』である。しかし、今のエヴァとは異なり『創る』のではなく『使う』ことに特化した存在。創る者がいれば、それを扱う者が当然ながら存在するように。今や『武器の匠』は、エヴァにのみ許された異名である。
創り出して戦う、そんな凛々しい彼女たちは、自分たちで『戦乙女タッグ』として名乗っていた。ダブル・シンほどではないにしても、相当の強さを誇る存在であったのだ。
まず、武器科の生徒同士であったため、そんな存在が英雄科の生徒を上回るほどの実力を有していた時点で、常軌を逸している。ある意味、二人が今後の武器科を支える大黒柱のような存在となっていた。丙良たちと合わせ、両科黄金期と称されていたのだ。
そして、二人は付き合っていた。二人ともレズビアンであり、受けも攻めも両方こなせたため、不健全に誰彼構わずつまみ食いするのではなく、いたって健全に決まった相手と夜を過ごす。ゆえに、エヴァはレイジーの弱点を知っているし、逆もまた然りである。学生生活のうち、夜はほぼ毎日お互いの体を求めあった。
互いが互いを想い合う、実に良好な関係性であった。体の相性も良く、夜の生活もしっかりと満たされていたのだ。
しかし、そんな中で、唐突な『行方不明』の知らせ。というより、その行方不明となったきっかけを見つけた第一発見者こそ、エヴァであったのだ。
いつもの起床時のように、一糸纏わぬ姿で目覚めたら、隣にレイジーがいなかった。最初はトイレか、と考えたら。寮のどこにもいなかったのだ。学園都市内のどこかへ出かけたわけでもなく、まるで最初からいなかったかのように忽然と消えたのだ。本人の荷物は、実に最低限なものしか持ち出されておらず、思い出の写真たちも九割九分現存。
テーブルの上に立った一枚だけの置手紙があり、そこには「ごめんね」とだけ残されていた。訳も分からず、学園長に聞いても「分からない」の一点張り。
そこから、あらゆる情報を手繰り寄せるのと、自己葛藤の日々が始まったのだ。
「――しばらく見ない間に、本当の美人になったね。私を忘れて『くれて』、新たな恋を知ったかな」
「……忘れられるわけが、無いでしょ……レイジー」
言い方は少々俗っぽいが、今の二人は元カレと元カノのようなもの。しかし、別れは唐突なものであり、いわゆる自然消滅。だからこそ、エヴァの方が納得いってなかったのだ。
「……何で、急に英雄学園からいなくなったの? 私に……何かしらの非があったの? あったら直す、頑張って直すから」
「今は……まだ詳しいことを語れない。でも――エヴァのせいじゃあないよ。全て……私が望んだことだったんだ」
昇降機の窓ガラスから、グレープ全体を見下ろすレイジーの表情は、悲哀に満ちていた。まるで、レイジー自身に非があると言いたげな、悲しげな瞳であったのだ。
「――質問ばかりでごめん。なんで……英雄たちの敵である『教会』に属しているの」
「その理由は……さっきと同じく、学園を離れた要因と一緒だから……」
「今はまだ話すタイミングじゃあない、ってこと」
「……ごめんね。君が大好きだから……君に被害が及ぶだなんて未来が……たまらなく許せなかったんだ」
何も語らない、しかし目の前で正体を明かしたレイジーの態度に、エヴァは昇降機内の手すりに腰掛けるようにして、ただ暗く俯いた。
「――――とりあえず、貴女が本物のレイジーだって信じる。もし偽物だったら、私はここで死んでる。それに変な文言を並べながら、私を教会に入信させようとしてくる。でも……今この場にいる貴女は違う。醸し出す雰囲気まで、偽物にはコピーできないし」
「……ごめんね、エヴァ。でもいつか……君に全てを伝えたい。私の裏切った真意と、全ての訳を」
そうして昇降機が昇りついた先は、山梨の観光名所の一つ。その奥まった業務員用通路へ出たのだ。そして、その瞬間にエヴァは目を疑った。
正直、グレープ自体を目の当たりにした時から、エヴァはまるで空想の世界を目の当たりにしているようだったが、今なおそんな夢の世界に浸っているようであった。
「御屋形様、お帰りのようで」
エヴァの眼前には、片膝をつき首を垂れる、黒装束の忍者数名。それぞれが、一切装甲を着用していない生身の人間でありながら、並の英雄以上の風格と、強さを有する恵まれた体格を誇っていたのだ。
「――ごめんね、少々遅くなったよ皆……いや、こう言うべきかな」
かつてエヴァに見せたような、柔らかな笑みを浮かべながら、皆に首を挙げるよう指示をする。大衆がよく行うようなごっこ遊びなどではない、そこにあるのは――明確な主従関係であった。
「私の右腕たる『御庭番衆』、ってね」