一行はあらゆるマップアプリなど通用しないほどの山間部に、リムジンごと突っ込んでいく。獣道とも思えるほどの道の荒さが、車自体を酷く揺らす。どれほどの高性能なサスペンションすら、仕事を放棄してしまうほどの荒れ地である。
程なくして、ある場所に停車すると、明石は信一郎側のパワーウィンドウを開ける。浮かれたサングラスを少しずらし、信一郎の網膜を認証。すると、無骨な岩肌以外見られなかったはずなのに、光学迷彩によって隠れていた機械的な扉が開き、その先にリムジンをゆっくりと進ませる。
後部座席の三人は怪訝そうに外を見つめるも、扉は静かに締まりリムジン全体が赤外線レーザーで照らされる。あらゆる不純なものを持ち込むことを許さない、強固なセキュリティである。
「――おいおい嘘だろ、山梨にこんな近未来地下施設なんてあんのかよ」
「うん、各県のお偉方が共同で作り上げた、超富裕層のためのオアシス。私も現役時代に、お偉いさんに何度も連れて行ってもらったよ。賄賂とかは全部断ってきたけどね」
「本当ですの?」
「本当さ、じゃあなかったら清廉潔白で売る学園長の仕事なんてやれてないさ」
あれだけお茶らけている普段の立ち居振る舞いから、どこか過去に浸る様子の信一郎。その目の向こう側には、何が映っているのだろうか。
「――まあ、詳しいことは時が来たら話すさ。少なくとも、今はそのときじゃあない、ってだけ。じきに検査も終わるだろうし……いよいよ山梨の地下に広々と存在する、大人のアミューズメントパーク……『グレープ』が見えてくるさ」
検査が終わり、窓の向こう側を見ると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
つい二週間ほど前、学園の地下に広がる、東京二十三区を精巧に作り上げた、広大なジオラマを目の当たりにして、一年次の皆度肝を抜かれただろう。広さはそれよりもほんの少し小規模でありながら、圧倒的金と銀に溢れる、それを十分見続けただけで目が痛くなるほどの絢爛豪華さを保った、数多の大人たちのための娯楽施設と宿泊施設ばかりであったのだ。
通常なら一見さんお断りかつ未成年お断り、いわば十八禁と言える秘匿エリアなのだが、今回は信一郎の付き添いかつ社会科見学の一環として連れられているため、グレープ運営側より不問とされた。ただし、『そういった』エリアに立ち入ることはできない制約がある。少なくとも、理想郷以外の宿泊施設は高級ラブホテルが大半なため、未成年三人はそこには立ち入れないのだ。
「――ちょっと待ってくださいまし、凄まじいほどの酒池肉林じゃあないですか」
「うわー、うわー……あっ、うわー……」
「おいおいおい……『あんな』恰好で屋内とはいえ出歩くかよ……スケベなオトナ帝国スゲェ」
「こらこらガールズ、見ないように覆っている手にあばら家のごとき盛大な隙間が生まれているよ? 君たちスケベだなあ、誰連れ込むかを想像でもしているのかな??」
「「「誰がスケベだ/ですか/ですって!?」」」
信一郎が「そこツッコんで連れ込むことはツッコまないのね」とだけ残すと、見慣れた光景に目を戻す信一郎。
ここまで悉く常識を疑うほどの事態が連続していたが、今回もまた経験していないことの連続なため、自分たち三人の視界に映る情報の塊すら疑ってしまう。未成年が立ち寄ってはいけないカジノ施設や、数多くの酒店、それとラブホテル。金銀の装飾と、そこらじゅうでピンク色のライティングが施されている。目を隠そうとしても隠せない。思春期の性である。
「しっかし……今日もあそこの最高級スイートで、窓全開でヤってるじゃあないか。子供たちに悪影響じゃあないかな?」
「「「……いや、そのままで」」」
電話をかけさせ辞めさせるように伝えようとしたのだが、信一郎を静かに制止する明石。その表情は、同性だからわかりうる何かがあったのだろう、ただ困ったように微笑していたのだ。
先ほどから、表の世界では二次元の世界でしか見たことのない、大人が癒される『性』の世界。そうそう見られないであろうピンク色の世界を、網膜に焼きつけていたのだ。
「もー、結局みんなドスケベじゃあないか。今回はそういう目的でやってきたわけじゃあないんだからね?」
「忙しいからちょっと今話しかけんな激セクハラ学園長」
「またも理不尽!?」