礼安たちが、テストの『謎』に頭を悩ませていた中、一行は山梨県に到達。高速道路を利用していたため、かなりの速度で辿り着くことが出来た。東京から中央自動車道を通り、おおよそ一時間半。しかしリムジンのスピードは凄まじく、予定よりも二十分ほど巻いた。まるで幼子の頃に立ち返ったように、広々とした後部座席でトランプをしていたら一瞬である。
「見てごらん絢爛豪華ガールズ、山梨県は上野原市に差し掛かったよ」
山梨県は、関東地方の中でもとりわけ山に囲まれた地である。南は富士山、西は赤石山脈、北は八ヶ岳、東は奥秩父山地。標高二千から三千メートルを超える山々に囲まれている。そのため、中央部は盆地型に窪んでおり、夏場の暑さは相当である。
さらに、複数のフルーツ生産量が日本一。葡萄、桃、
李の三品目がこの山梨県から多く産出されているのだ。礼安は肉に関わる話題でないため、一切興味を持たないだろうが、四人のうら若き乙女は甘いもの――ひいてはスイーツに目がない。そして弱い。
山梨の観光名所は数多く存在する。皆さんご存じ、世界記録を保有するジェットコースターを有する『富士急ハイランド』を皮切りに、詳しいことを述べはしないが、今なお「所有権論争」が起こる『富士山』、そんな富士山のお膝元に点在する『富士五湖』や、明石を始めとした酒飲み大歓喜な『白洲蒸留所』、ちびっ子が喜ぶ忍者特化体験施設、『忍野 しのびの里』など。
有名どころだけでもかなりの数存在する、ハイレベルな観光地である。
ちなみに、今この場にいないものの、この山梨に来たとなったらある人物を甲府市に連れていくと、面白い反応が見られるかもしれない。信長の因子を宿した
信玄が、
信玄ゆかりの地に出向いたら、本人が化けて出てくるかもしれないからだ。
「――つかぬことをお聞きしますが、お父様……今回の慰安旅行、どこに宿泊するのですか?」
そんな院の疑問に、信一郎は微笑んで自身のデバイスを見せる。そこに映されていたのは、知る人ぞ知る名湯が楽しめる、そして各県や各国のリッチマンが足しげく通う、五つ星を超えた六つ星を有する高級旅館、『理想郷』。
「今回はせっかくの慰安旅行、私も疲れを癒したいし……いつもより奮発させてもらったよ」
院はもう慣れてしまったために、それ以上特に語ることはなかったが、透とエヴァは驚愕していた。
何せ、埼玉で礼安たちが仮拠点として宿泊していたあの高級旅館、そこを数日間丸々貸切るために、値段として数億ポンと支払ったらしいが、それは宿泊費用やそこにかかる人件費、光熱費や食材費等が合算されたもの。今三人が目にしている一週間丸々宿泊する金額は、埼玉のおよそ十倍であった。
「一週間丸々、最高級の部屋、『ハイクラススイート』を押さえたんだ! 院、透ちゃん、エヴァちゃんは三人で一つのハイクラススイート、私、明石君それぞれ一部屋ずつのハイクラススイート! 日頃私もうんと疲れているし、これを機に目いっぱい美味しい肉料理を食べまくってやるんだぁ……」
その目は、完全にここ最近の苦労を想起しているもの。
入学前に子供たちが神奈川支部とドンパチした際の後処理、四月から五月頃には埼玉支部とドンパチ、そしてその後処理、そして二週間前の合同演習会での諸々。企画、コネクション、出費、お膳立て。何から何までやりつくした。しかもそこに『イレギュラー対処』も含まれていたなら、抱えるストレスは頭一つ抜ける。
「……そう言えば、あの『カルマ』って名乗っていた奴。アレ何なんだ、学園長。『細かいこと忘れたけれど』、急に表れて喧嘩売るなんてよ」
「そうですわ。『私も大雑把なこと全て忘れましたが』、それが出来るほどの人物なのですか」
「アレはねえ……もはや人間じゃあなくて、常軌を逸した存在だと言っていいね、私と同格だ」
デバイスを戻した信一郎は、それ以上語ることはしなかったものの、あれだけ自分の強さを自負している信一郎が、『同格』と称するほどの存在。しかし、信一郎は『原初の英雄』として爆発的知名度を誇るものの、カルマの名は一切聞かない。
それは、表立って活躍している信一郎とは異なり、あくまで裏方に徹しているから。いつだって黒幕は企画・立案こそすれど、それを自分が責任もって先陣切ってやる、だなんてことはない。どれほど行動力の塊であろうと、敵に暗殺される可能性は付きまとってくる。信一郎のように、あらゆる軍事兵器など意に介さない、強靭な存在ならまだしも。
カルマは、現時点で明確な実体を持たない。何かに寄り添っているか、あるいは取り憑いているか。概念的存在かつ悪意の集合体が、今のカルマである。
「――まあまあ、今日含め一週間は、そんな面倒くさい話なんて忘れてしまうほどにリラックスできるだろうね! 色々企画してきたし、最終的には足腰立たなくなるくらいにヒイヒイ言っちゃうかもよ?」
「おいセクハラじゃあねえか問答無用で訴えるぞ」
「理不尽!?」