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第百三十八話

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 集合場所は、英雄学園と本州を繋ぐ連絡橋。複数ある中で、最も東京に近い(エントランス)であった。集合予定である朝八時から三十分ほど早く来たのだが、それよりも先に学園長が待ちぼうけていた。実に浮かれた格好で。
 海が一切無い場所に向かうはずなのに、格好は実にハワイ色を感じられるほどに、ハイビスカスが前面に描かれたTシャツ着用。膝が丁度隠れるほどの短めのパンツをはき、靴はなんとビーチサンダル。鼻緒の部分の擦れなど一切気にしない、ストロングスタイルであった。
 普段、かっちりとしたスーツ姿であり、飄々としていながらも厳格なパブリックイメージがあるため、脳内認識の乖離が激しかったのだ。
「やあやあ、エヴァくん! 五十歳ながら、ちょっとはしゃいでみたよ!」
「――ちょっとどころではないですが、楽しそうで何よりですね……」
 かくいうエヴァの格好は、肌が程よく見える緩めかつ純白の半袖に、内側には涼しげな青のベアトップ。元々長い足をさらに長く見せるよう、口が広めのデニムをはき、全体的に青色で統一しているため、意識している『人物』は分かりやすい。さらに本人にその気はないのだが、どこか海外モデルのような、紺色のフレームのサングラスを額に付けていた。
「――私が言えたことではないけれど……だいぶ『意識』しているねぇ、青春だねぇ」
「今からでも礼安さん呼べませんか!? ねえお義父さん!!」
「こら誰がお義父さんだ!? まあ別に私は同性結婚だろうと当人が幸せなら許すけど!!」
 あまりにも礼安が好きすぎるあまり、感情が暴走しエヴァがボケに回る緊急事態。そんな事態をどうにかする人物は、今この場にいないいつもの面子以外居ない。
「しっかり学園の規定通り、我が娘だろうときっちり補習を受けてもらうんだ……べっべべべえヴェヴェ別に我が愛娘、礼安のくぁわいい姿を一眼レフやスマホのカメラに収められないからって……私は……べそかかないから……べそ……かかないからぁぁぁ」
「おもいっっっきり泣いているじゃあないですか、しかも大号泣」
 決まりを作ったのは自分であるにも拘らず、大人げない大号泣。エヴァにとって礼安がいない事実は、確かにこれほど辛く悲しい事実ではあるのだが。それでもこれほど感情を暴走させるには至らない。
 彼のその一言が逆鱗を乾布摩擦したのか、実の父親の後頭部をフルパワーかつフルスイングで拳骨する、もう一人の愛娘。他でもない、院であった。
「ああそうですか、私ごとき真来院では力不足と言いたいのですねこのお父様(アホ)は!!」
「ンな訳ないでしょうに、二人を平等に愛しているとも私は! 礼安と院両方で写真や動画ファイル1テラバイトを埋め尽くす予定だったからね! 片方がいないのなら、片方で1テラバイト埋め尽くすのもやぶさかではないよ!! もし動画とかが嫌なら音声ファイルで我慢するから!!」
「それはそれでこっ恥ずかしいので止めてくださいまし!! でもその心意義ありがとうございますわ、お世辞だろうと何だろうと、そこん所は本っっっっっっ当親の鏡ですわ!!」
 そんなボケとツッコミ、珍しく両刀を扱える院のコーディネートは、お嬢様らしからぬスタイリッシュさであった。
 「きちんと」感のある、薄手の淡い水色ジャケットに、カジュアルな水色のショートパンツ。インナーは礼安の現物を借り、ほぼ一点物のカジュアルな半袖のTシャツ。礼安の『ある』部分の分、少々オーバーサイズ気味となっているものの、それはそれで味のある合わせとなっている。
 いわゆる、セットアップコーディネート。そして意識している人物も実に分かりやすい。一卵性ではないものの、双子に近い姉妹ゆえか、それ以外の関係を見据えるものか。それは院本人のみぞ知る。
「……院さん、すっごい分かりやすいですね??」
「エヴァ先輩も非常に分かりやすいですわ。人のことは一切言えませんの。でも……同じ相手を想っているからか、まるで仲良しコーディネートですね」
「おうコラ、俺を忘れんなよ」
 院の頭を軽く小突きながら現れたのは、今回の慰安旅行、最後の参加者たる透であった。
 普段のパンクロッカーじみた格好から打って変わって、黒無地のホルターネックキャミソールにシンプルな群青のスラックス。弟妹達の集合写真入りのロケットペンダントを首にかけた、実にシンプルなものである。しかし、その群青のスラックスには、礼安を思わせる王冠デザインのチェーンがさりげなくつけられていた。
「わあ、すっごいですね! 海外のモデルさんみたいに美人さんですよ、透さん!」
「――それ、日本育ちの純アメリカ人であるエヴァ先輩が言うかよ??」
 なんとも仲睦まじい様子ではしゃぐ一行であったが、その場の全員が意識している相手がいないことに、三者一様に酷く落胆。こうなるきっかけを間接的に招いた、そして最も浮かれている格好の信一郎を、人生の仇敵を見つけたかのように、恨めしそうに睨みつける。
「だ、だって礼安が赤点取っちゃったんだもん……私も一教科くらいならごまかしてみようかな……どうしようかな……とか思っていたんだけどさあ……学園長権限で赤回避できるかなーとか考えたけど止めたもん!! だって学園長だもん!! 不正はあっちゃあいけないもん!!」
「オウだろうなあそんなクソ不正したら最後だからな、俺ら問答無用でそのクソ依怙贔屓(えこひいき)発言諸々世の中に大々的に告発してやるからな、あとあることないこと尾ひれつけてやるからな? アンタがとんでもない破壊を目論むサイボーグだとかなんだとかってな」
「学園長に味方ゼロ!?」
 学生と学園長が繰り広げるやり取りではない、それほどにふざけたやり取りをしている中で、信一郎たちの元に一台の、漆黒のリムジンが颯爽と登場する。運転手は、他でもない学園長の敏腕秘書たる明石である。
「随分楽しそうですね、学園長」
 しかしその表情は実に不満げ。本来なら休日であるところを、いつもの三倍の値段で休日出勤している事情があるゆえ、文句は言わないものの顔に全て出ていた。
 ちなみに普段の彼女の給与は、ひと月当たり『一本(100万)』は確定している。そこからある程度緊急給与も追加で出るなどするが、この一週間だけで『三本』は確定している。念を押すが、アブナイ仕事をしているわけではない。
「ごめんね明石君、休日なのに……」
「まず学園長普通車免許持ってないので仕方ないじゃあないですか。普段よりもお給与増額してもらってますし、何も言いませんよ。山梨で私も、ある程度『羽を伸ばせれば』いいんです」
「ははは、勿論だとも。日頃お世話になっているし、好きなだけ豪遊してくれ! というわけで、皆リムジンに乗り込んで! さっさと出発しよう!」
 信一郎をはじめとして、四人が一斉にリムジンに乗り込む。学生三人組は来賓と言わんばかりに後部座席に乗り込む。
 車内は実に広々としており、創作作品で富豪がよくふんぞり返っているような、超高級リムジン。レンタルものではなく、学園長が所有している内の一台である。
 冷房ががっつりと効いており、東京の夏場の熱さなどなんのその。車内には高級ドリンクも常備しており、富豪の夏休みそのものである。さらに、向かってきた際の速度からして、山梨まで一直線で走らせたとしてもそこまで時間はかからないだろう。法定速度を順守したとしても。
 しかし、学園長だけはすぐにリムジンには乗り込まず、どこかに電話をかけていた。車内自体が完全防音設備を十全に整えたカスタムであるため、会話の内容は何一つ聞こえない。表情からしても、先ほどまでのふざけた話題を話しているわけではなさそうだった。その話をしている格好とは、とても思えないほどのアロハだが。
 最後に溌溂な笑顔を電話の向こう側に存在する相手に向けると、信一郎は助手席に乗り込む。
「さあ、バカンス前の予定も無事済んだ、休み間の引継ぎ作業も行ったし! ここからは完全オフだぞー! 皆、大いに楽しんでくれたまえ!」
 信一郎が号令をかけると、明石は呆れたように笑いながら車を発進させる。後部座席の三人は、備え付けられた冷蔵庫内から未成年でも飲めるスパークリングドリンクを開け、エンジョイするギアを上げた。
 羨ましそうに後部座席を横目に見る明石に、こっそり耳打ちする信一郎。
(確か明石君、お酒滅茶苦茶に好きだったね? 山梨に着いたら、多種多様な一升瓶物でも何でも、私名義でツケにしておいていいから、好きに頼むといいよ)
(――ありがとうございます、信一郎さん)
 目的地である山梨県は、昨今巷を悪い意味で賑わせている『教会』の中でも活発に活動していない、俗に言う穏健派に分類される。というよりは、穏健派でいないといけない理由が存在する。
 その理由の根幹に存在するのは、山梨県全体に都市伝説として存在する、弱気を助け強きを挫く『忍者』あるいは『義賊』の存在が実しやかに囁かれているため。
 その名も、『義賊伝説』であった。



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 集合場所は、英雄学園と本州を繋ぐ連絡橋。複数ある中で、最も東京に近い|場《エントランス》であった。集合予定である朝八時から三十分ほど早く来たのだが、それよりも先に学園長が待ちぼうけていた。実に浮かれた格好で。
 海が一切無い場所に向かうはずなのに、格好は実にハワイ色を感じられるほどに、ハイビスカスが前面に描かれたTシャツ着用。膝が丁度隠れるほどの短めのパンツをはき、靴はなんとビーチサンダル。鼻緒の部分の擦れなど一切気にしない、ストロングスタイルであった。
 普段、かっちりとしたスーツ姿であり、飄々としていながらも厳格なパブリックイメージがあるため、脳内認識の乖離が激しかったのだ。
「やあやあ、エヴァくん! 五十歳ながら、ちょっとはしゃいでみたよ!」
「――ちょっとどころではないですが、楽しそうで何よりですね……」
 かくいうエヴァの格好は、肌が程よく見える緩めかつ純白の半袖に、内側には涼しげな青のベアトップ。元々長い足をさらに長く見せるよう、口が広めのデニムをはき、全体的に青色で統一しているため、意識している『人物』は分かりやすい。さらに本人にその気はないのだが、どこか海外モデルのような、紺色のフレームのサングラスを額に付けていた。
「――私が言えたことではないけれど……だいぶ『意識』しているねぇ、青春だねぇ」
「今からでも礼安さん呼べませんか!? ねえお義父さん!!」
「こら誰がお義父さんだ!? まあ別に私は同性結婚だろうと当人が幸せなら許すけど!!」
 あまりにも礼安が好きすぎるあまり、感情が暴走しエヴァがボケに回る緊急事態。そんな事態をどうにかする人物は、今この場にいないいつもの面子以外居ない。
「しっかり学園の規定通り、我が娘だろうときっちり補習を受けてもらうんだ……べっべべべえヴェヴェ別に我が愛娘、礼安のくぁわいい姿を一眼レフやスマホのカメラに収められないからって……私は……べそかかないから……べそ……かかないからぁぁぁ」
「おもいっっっきり泣いているじゃあないですか、しかも大号泣」
 決まりを作ったのは自分であるにも拘らず、大人げない大号泣。エヴァにとって礼安がいない事実は、確かにこれほど辛く悲しい事実ではあるのだが。それでもこれほど感情を暴走させるには至らない。
 彼のその一言が逆鱗を乾布摩擦したのか、実の父親の後頭部をフルパワーかつフルスイングで拳骨する、もう一人の愛娘。他でもない、院であった。
「ああそうですか、私ごとき真来院では力不足と言いたいのですねこの|お父様《アホ》は!!」
「ンな訳ないでしょうに、二人を平等に愛しているとも私は! 礼安と院両方で写真や動画ファイル1テラバイトを埋め尽くす予定だったからね! 片方がいないのなら、片方で1テラバイト埋め尽くすのもやぶさかではないよ!! もし動画とかが嫌なら音声ファイルで我慢するから!!」
「それはそれでこっ恥ずかしいので止めてくださいまし!! でもその心意義ありがとうございますわ、お世辞だろうと何だろうと、そこん所は本っっっっっっ当親の鏡ですわ!!」
 そんなボケとツッコミ、珍しく両刀を扱える院のコーディネートは、お嬢様らしからぬスタイリッシュさであった。
 「きちんと」感のある、薄手の淡い水色ジャケットに、カジュアルな水色のショートパンツ。インナーは礼安の現物を借り、ほぼ一点物のカジュアルな半袖のTシャツ。礼安の『ある』部分の分、少々オーバーサイズ気味となっているものの、それはそれで味のある合わせとなっている。
 いわゆる、セットアップコーディネート。そして意識している人物も実に分かりやすい。一卵性ではないものの、双子に近い姉妹ゆえか、それ以外の関係を見据えるものか。それは院本人のみぞ知る。
「……院さん、すっごい分かりやすいですね??」
「エヴァ先輩も非常に分かりやすいですわ。人のことは一切言えませんの。でも……同じ相手を想っているからか、まるで仲良しコーディネートですね」
「おうコラ、俺を忘れんなよ」
 院の頭を軽く小突きながら現れたのは、今回の慰安旅行、最後の参加者たる透であった。
 普段のパンクロッカーじみた格好から打って変わって、黒無地のホルターネックキャミソールにシンプルな群青のスラックス。弟妹達の集合写真入りのロケットペンダントを首にかけた、実にシンプルなものである。しかし、その群青のスラックスには、礼安を思わせる王冠デザインのチェーンがさりげなくつけられていた。
「わあ、すっごいですね! 海外のモデルさんみたいに美人さんですよ、透さん!」
「――それ、日本育ちの純アメリカ人であるエヴァ先輩が言うかよ??」
 なんとも仲睦まじい様子ではしゃぐ一行であったが、その場の全員が意識している相手がいないことに、三者一様に酷く落胆。こうなるきっかけを間接的に招いた、そして最も浮かれている格好の信一郎を、人生の仇敵を見つけたかのように、恨めしそうに睨みつける。
「だ、だって礼安が赤点取っちゃったんだもん……私も一教科くらいならごまかしてみようかな……どうしようかな……とか思っていたんだけどさあ……学園長権限で赤回避できるかなーとか考えたけど止めたもん!! だって学園長だもん!! 不正はあっちゃあいけないもん!!」
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「学園長に味方ゼロ!?」
 学生と学園長が繰り広げるやり取りではない、それほどにふざけたやり取りをしている中で、信一郎たちの元に一台の、漆黒のリムジンが颯爽と登場する。運転手は、他でもない学園長の敏腕秘書たる明石である。
「随分楽しそうですね、学園長」
 しかしその表情は実に不満げ。本来なら休日であるところを、いつもの三倍の値段で休日出勤している事情があるゆえ、文句は言わないものの顔に全て出ていた。
 ちなみに普段の彼女の給与は、ひと月当たり『|一本《100万》』は確定している。そこからある程度緊急給与も追加で出るなどするが、この一週間だけで『三本』は確定している。念を押すが、アブナイ仕事をしているわけではない。
「ごめんね明石君、休日なのに……」
「まず学園長普通車免許持ってないので仕方ないじゃあないですか。普段よりもお給与増額してもらってますし、何も言いませんよ。山梨で私も、ある程度『羽を伸ばせれば』いいんです」
「ははは、勿論だとも。日頃お世話になっているし、好きなだけ豪遊してくれ! というわけで、皆リムジンに乗り込んで! さっさと出発しよう!」
 信一郎をはじめとして、四人が一斉にリムジンに乗り込む。学生三人組は来賓と言わんばかりに後部座席に乗り込む。
 車内は実に広々としており、創作作品で富豪がよくふんぞり返っているような、超高級リムジン。レンタルものではなく、学園長が所有している内の一台である。
 冷房ががっつりと効いており、東京の夏場の熱さなどなんのその。車内には高級ドリンクも常備しており、富豪の夏休みそのものである。さらに、向かってきた際の速度からして、山梨まで一直線で走らせたとしてもそこまで時間はかからないだろう。法定速度を順守したとしても。
 しかし、学園長だけはすぐにリムジンには乗り込まず、どこかに電話をかけていた。車内自体が完全防音設備を十全に整えたカスタムであるため、会話の内容は何一つ聞こえない。表情からしても、先ほどまでのふざけた話題を話しているわけではなさそうだった。その話をしている格好とは、とても思えないほどのアロハだが。
 最後に溌溂な笑顔を電話の向こう側に存在する相手に向けると、信一郎は助手席に乗り込む。
「さあ、バカンス前の予定も無事済んだ、休み間の引継ぎ作業も行ったし! ここからは完全オフだぞー! 皆、大いに楽しんでくれたまえ!」
 信一郎が号令をかけると、明石は呆れたように笑いながら車を発進させる。後部座席の三人は、備え付けられた冷蔵庫内から未成年でも飲めるスパークリングドリンクを開け、エンジョイするギアを上げた。
 羨ましそうに後部座席を横目に見る明石に、こっそり耳打ちする信一郎。
(確か明石君、お酒滅茶苦茶に好きだったね? 山梨に着いたら、多種多様な一升瓶物でも何でも、私名義でツケにしておいていいから、好きに頼むといいよ)
(――ありがとうございます、信一郎さん)
 目的地である山梨県は、昨今巷を悪い意味で賑わせている『教会』の中でも活発に活動していない、俗に言う穏健派に分類される。というよりは、穏健派でいないといけない理由が存在する。
 その理由の根幹に存在するのは、山梨県全体に都市伝説として存在する、弱気を助け強きを挫く『忍者』あるいは『義賊』の存在が実しやかに囁かれているため。
 その名も、『義賊伝説』であった。