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第百三十七話

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 開口一番、礼安の台詞は。
『エヴァちゃん……私補習になっちゃったぁ……』
「え!? マジですか!?」

 遡ること一週間前かつ、茨城支部との一件からおおよそ二週間後。七月に差し掛かったため、夏休み前の中間テストの時期となっていた。
 毎年、そのテストで赤点を取ると、夏休みの頭一週間を使って補習授業が行われる。どれほど実技が秀でていようと、頭脳が伴っていなくては英雄としては三流。だからこそ、どの学年でも毎回血眼になって勉学に励む者が多い。詰め込みは一切推奨していないが、計画性の無い生徒ほどその傾向が見られるらしい。
 このテストをきっかけに、クラスが上がるか下がるか。それがかかっている生徒も少なからず存在するため、血眼になるのも頷ける。
「えーん……勉強は自信ないよぉ……」
「大丈夫ですわ、礼安。貴女日頃授業で積極的にノートを取ったり、手を挙げたりしているじゃあないですの」
 テスト前、最後の勉強時間中。礼安が熱で溶けるかのようにへたれていた。それを何とかして宥める院であったが、礼安のその不安は数分後見事に的中してしまう。
 テスト中。礼安は酷く焦ったのだ。今まで全身全霊を込め勉強に励んだはずなのに、まるで頭から学んだことが全てすり抜けていくような感覚。渡されたテスト用紙に書かれていることが、あまり理解できなかったのだ。
(私……ここの勉強やった記憶ないなあ……?)
 それでも尚、自分の知識を総動員してテストという強大な敵に立ち向かうのだった。
 通常の高校と違い、英雄学園の赤点ラインは六十点未満。大学と同じ基準で採点するからこそ、より質の高い生徒が生き残るのだ。
 それが、現文と古文や数学に英語、物理や生物、日本史と世界史や保健体育に音楽。そういった一般教科のほかに、英雄学園ならではの科目である『英雄学/武器学』。各々が存在する学科によって変わるものの、合計十一科目、各教科百点満点の、総計最大点数千百点。
 英雄学とは、基本的に英雄としての心構えや現在の法律、特に英雄が関わる法律や規定に関する問題を問われる。ある意味、現代社会の科目に近い。法律面の問題も問われるため、政治経済とも言えるだろう。
 だが、礼安の点数は軒並み五十点ほど。英雄学に関しては百点満点であったが、悲しいことに英雄学以外の全教科が赤点ラインを下回っている。問答無用の補習確定であった。
 そんな礼安の点数に、保護者兼最大の理解者である院と信一郎は頭を抱えたそう。

 以上、礼安の回想終了。
『――って訳なんだぁ、ごめんねエヴァちゃん……』
「いえいえ、私だって武器学と英語以外はやる気ないですし!」
 エヴァの最高点は武器学と英語の百点満点。武器学は当然、英語に関しては両親がアメリカ人だからこそ。しかしそれ以外は赤点ラインを下回ることこそしないものの、非常に低水準な六十五点びた止まり。無論それ以上を狙うことも余裕ではあったが、手を抜けるポイントは徹底的に手を抜く、エヴァはそんな賢い女であるのだ。
「せっかくのお休みでしたが……仕方ないです! お勉強してきてくださいね、礼安さん!」
『本当にごめんねエヴァちゃん…………そう言えば……やっぱり何でもない、楽しんできてね!』
 終始礼安が謝ってばかりで電話が切れた。何か言いかけていたような気もするが、そんなこと気にならないほどに落ち込みながら、この日のために選び抜いた服と下着をキャリーバッグに纏め始めた。
 慰安旅行。それは七泊八日、山梨県でのバカンスであった。主導は学園長である信一郎。元々は礼安、院、信一郎のみ、家族水入らずの計画であったが、二日ほど前に補習の連絡を聞いた信一郎が何を思い立ったか、透とエヴァを誘ったのだ。
 男子勢二人も誘ったのだが、二人は「女の子たちだけでごゆっくり」とやんわり断ったらしい。実際二人は先着の予定があり、みっちり修行に励むらしかった。



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 開口一番、礼安の台詞は。
『エヴァちゃん……私補習になっちゃったぁ……』
「え!? マジですか!?」
 遡ること一週間前かつ、茨城支部との一件からおおよそ二週間後。七月に差し掛かったため、夏休み前の中間テストの時期となっていた。
 毎年、そのテストで赤点を取ると、夏休みの頭一週間を使って補習授業が行われる。どれほど実技が秀でていようと、頭脳が伴っていなくては英雄としては三流。だからこそ、どの学年でも毎回血眼になって勉学に励む者が多い。詰め込みは一切推奨していないが、計画性の無い生徒ほどその傾向が見られるらしい。
 このテストをきっかけに、クラスが上がるか下がるか。それがかかっている生徒も少なからず存在するため、血眼になるのも頷ける。
「えーん……勉強は自信ないよぉ……」
「大丈夫ですわ、礼安。貴女日頃授業で積極的にノートを取ったり、手を挙げたりしているじゃあないですの」
 テスト前、最後の勉強時間中。礼安が熱で溶けるかのようにへたれていた。それを何とかして宥める院であったが、礼安のその不安は数分後見事に的中してしまう。
 テスト中。礼安は酷く焦ったのだ。今まで全身全霊を込め勉強に励んだはずなのに、まるで頭から学んだことが全てすり抜けていくような感覚。渡されたテスト用紙に書かれていることが、あまり理解できなかったのだ。
(私……ここの勉強やった記憶ないなあ……?)
 それでも尚、自分の知識を総動員してテストという強大な敵に立ち向かうのだった。
 通常の高校と違い、英雄学園の赤点ラインは六十点未満。大学と同じ基準で採点するからこそ、より質の高い生徒が生き残るのだ。
 それが、現文と古文や数学に英語、物理や生物、日本史と世界史や保健体育に音楽。そういった一般教科のほかに、英雄学園ならではの科目である『英雄学/武器学』。各々が存在する学科によって変わるものの、合計十一科目、各教科百点満点の、総計最大点数千百点。
 英雄学とは、基本的に英雄としての心構えや現在の法律、特に英雄が関わる法律や規定に関する問題を問われる。ある意味、現代社会の科目に近い。法律面の問題も問われるため、政治経済とも言えるだろう。
 だが、礼安の点数は軒並み五十点ほど。英雄学に関しては百点満点であったが、悲しいことに英雄学以外の全教科が赤点ラインを下回っている。問答無用の補習確定であった。
 そんな礼安の点数に、保護者兼最大の理解者である院と信一郎は頭を抱えたそう。
 以上、礼安の回想終了。
『――って訳なんだぁ、ごめんねエヴァちゃん……』
「いえいえ、私だって武器学と英語以外はやる気ないですし!」
 エヴァの最高点は武器学と英語の百点満点。武器学は当然、英語に関しては両親がアメリカ人だからこそ。しかしそれ以外は赤点ラインを下回ることこそしないものの、非常に低水準な六十五点びた止まり。無論それ以上を狙うことも余裕ではあったが、手を抜けるポイントは徹底的に手を抜く、エヴァはそんな賢い女であるのだ。
「せっかくのお休みでしたが……仕方ないです! お勉強してきてくださいね、礼安さん!」
『本当にごめんねエヴァちゃん…………そう言えば……やっぱり何でもない、楽しんできてね!』
 終始礼安が謝ってばかりで電話が切れた。何か言いかけていたような気もするが、そんなこと気にならないほどに落ち込みながら、この日のために選び抜いた服と下着をキャリーバッグに纏め始めた。
 慰安旅行。それは七泊八日、山梨県でのバカンスであった。主導は学園長である信一郎。元々は礼安、院、信一郎のみ、家族水入らずの計画であったが、二日ほど前に補習の連絡を聞いた信一郎が何を思い立ったか、透とエヴァを誘ったのだ。
 男子勢二人も誘ったのだが、二人は「女の子たちだけでごゆっくり」とやんわり断ったらしい。実際二人は先着の予定があり、みっちり修行に励むらしかった。