そう、あれは1年前のこと。
「お、お兄い……」
ベッドには小柄な体で横たわり、気怠そうな表情でこちらを眺めている妹がいる。
俺はそんな妹に対し、「無理すんな。きついだろうし、大人しく寝てろ」と、少しうつむき小声で呟く。
妹は「うん、分った……」と素直に軽く頷き、だからか栗色の髪の毛が少し揺らめく。
ほどなくし、再びその瞼を閉じ、スースーと寝息を立てる妹。
一見すると、妹の寝顔は安らかに見える。
が、その顔を確かに赤みを帯びていた。
「くそっ!」
俺はその様子を見て、思わず怒りの一言を吐いてしまう。
「そう、怒るな」と俺の隣で静かに佇んでいた男が呟く。
「はあ? 無理だろっ! 俺のたった一人の可愛い妹ですよ?」
その男は「すまん、そうだな」とバツが悪そうに俺に向かって頭を下げる。
「あ、いや。こちらこそカッとなってすいません。ゲンさんが悪いわけじゃないのに」
ゲンさんは「まあ、お前はまだ若いし、そのエネルギーは別に回せばいいさ」と、腕組みし俺に対し微笑んでくれた。
男の名は【山内 源】。
とある組合の長で、今年三十路になる恰幅のいい黒髭が目立つ人だ。
「ま、見て分る通り、例の病だな」
ゲンさんは自身のアゴヒゲをいじりながら、家の窓から見える白い雲を眺めながら大きなため息をつく。
「くそっ! コイツが何をしたってんだよっ!」
俺の怒りに対し、ゲンさんは「何もしてないさ。ただ、運が悪かっただけだ」と俺の肩を軽くポンと叩き、なだめる。
その雰囲気の悪さからか、しばらくは妹の部屋からはカチコチと壁時計の音が静かに鳴り響いていた。
「まあ、奴らが来たからだろうな」
ゲンさんのその一言が俺の脳裏に静かに響く。
そう、例にもれず「春になると奴らが来る」。
お陰でこの村では、妹を合わせ、これで8人目の発症者だ。
「くそっ! なんて無力なんだ俺はっ!」
そんな俺の怒りの言葉を制すように、ゲンさんは「どうにかしたいなら、どうだ、お前も俺達の組合に入らないか?」と、俺を真剣な顔で見つめる。
対して俺は「えっ⁉ あ、そ、そうか!」と、ゲンさんの差し出した手を強く握りしめる。
そう、このゲンさんのこの一言が俺の人生を大きく変えてしまうのだ。