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第三部 13話 ティアナ

ー/ー



 自室で俺は勉強を進めていた。
 ぶっちゃけ、授業の内容はさっぱり分からなかった。

「こんなの、分かるもんか?」
「……兄さん?」
「え? あ、はい。どうぞ」
 俺の泣き言に返事をするようなタイミングで扉がノックされた。

 すぐに扉が開いて、ティアナが部屋に入ってくる。
 勝手に俺のベッドへと腰掛ける。珍しいことだった。

「勉強?」
「ああ、頑張って付いて行かないと……」
「兄さんが必死に勉強するなんてね。そんなに学院の授業って難しいの?」
「う。最近は手を抜いていたからなぁ。困ってるんだよ」
 具体的には十年ほど手を抜いて来た。

 そう言えば、元々キースの成績は良かったような?
 逆に運動は不得意だったような? 
 何だろう、魂が体力馬鹿と言われているような?

「ねぇ、少しお話をしよう?」
「ん?」
 ティアナの親し気な声に振り向いた。

「っ!」
 口調に反して、真剣なティアナの瞳に思わず怯んだ。

「貴方は誰ですか?」

 畳みかけるように核心を突いた。
 それが本題だったのだろう。今更気が付いた。

「両親は付き合いが短いから分からないでしょう。
 でも、私や孤児院の人間は騙せません」
 貴方は『キース・クロス』じゃない、と続けた。

「……」
「しばらく貴方のことを見ていました」
 咄嗟に俺が返事を出来ずにいると、ティアナは続ける。

「どこの誰かは分からない。目的も分からない。
 でも、不思議なことに悪意がないことは分かりました」
「……いや、そこだけ分かるのもおかしいじゃないか」
「ふふ――悪意があるなら、随分とへたくそですね。
 勉強は苦手ですか? あと、お人好しだと言われませんか?」
「……はぁ」
 質問には答えずに溜息を吐いた。

 勉強は苦手だよ。
 昔からお人好しだと言われっぱなしだ。

「俺が誰かという質問には答えられない」
「そうですか……」
 ティアナの残念そうな声。

「必ず、返します」
「え?」
 これくらいなら言っても良いだろう。

「少しだけこの体を貸して下さい。やるべきことがあるんです。
 全て終わったら、必ず返しますから」

 頭を深く下げる。
 しばらく待つと「そういうことか……」と呟く声が聞こえた。

「兄さんが決めたんですね? 昔からそうなんだから……!
 でも、約束はしましたよ。必ず返してくださいね」

 ティアナは苦笑混じりに微笑んだ。
 ようやくこの少女と、俺は正しく関係を結ぶことが出来たのだと思う。



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 自室で俺は勉強を進めていた。
 ぶっちゃけ、授業の内容はさっぱり分からなかった。
「こんなの、分かるもんか?」
「……兄さん?」
「え? あ、はい。どうぞ」
 俺の泣き言に返事をするようなタイミングで扉がノックされた。
 すぐに扉が開いて、ティアナが部屋に入ってくる。
 勝手に俺のベッドへと腰掛ける。珍しいことだった。
「勉強?」
「ああ、頑張って付いて行かないと……」
「兄さんが必死に勉強するなんてね。そんなに学院の授業って難しいの?」
「う。最近は手を抜いていたからなぁ。困ってるんだよ」
 具体的には十年ほど手を抜いて来た。
 そう言えば、元々キースの成績は良かったような?
 逆に運動は不得意だったような? 
 何だろう、魂が体力馬鹿と言われているような?
「ねぇ、少しお話をしよう?」
「ん?」
 ティアナの親し気な声に振り向いた。
「っ!」
 口調に反して、真剣なティアナの瞳に思わず怯んだ。
「貴方は誰ですか?」
 畳みかけるように核心を突いた。
 それが本題だったのだろう。今更気が付いた。
「両親は付き合いが短いから分からないでしょう。
 でも、私や孤児院の人間は騙せません」
 貴方は『キース・クロス』じゃない、と続けた。
「……」
「しばらく貴方のことを見ていました」
 咄嗟に俺が返事を出来ずにいると、ティアナは続ける。
「どこの誰かは分からない。目的も分からない。
 でも、不思議なことに悪意がないことは分かりました」
「……いや、そこだけ分かるのもおかしいじゃないか」
「ふふ――悪意があるなら、随分とへたくそですね。
 勉強は苦手ですか? あと、お人好しだと言われませんか?」
「……はぁ」
 質問には答えずに溜息を吐いた。
 勉強は苦手だよ。
 昔からお人好しだと言われっぱなしだ。
「俺が誰かという質問には答えられない」
「そうですか……」
 ティアナの残念そうな声。
「必ず、返します」
「え?」
 これくらいなら言っても良いだろう。
「少しだけこの体を貸して下さい。やるべきことがあるんです。
 全て終わったら、必ず返しますから」
 頭を深く下げる。
 しばらく待つと「そういうことか……」と呟く声が聞こえた。
「兄さんが決めたんですね? 昔からそうなんだから……!
 でも、約束はしましたよ。必ず返してくださいね」
 ティアナは苦笑混じりに微笑んだ。
 ようやくこの少女と、俺は正しく関係を結ぶことが出来たのだと思う。