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第三部 12話 急襲

ー/ー



「ごめん、勝てなかった……」
 演習場の脇で俺はグレイとセシルに頭を下げる。

 二対二と一対一の組み合わせだ。
 どちらかの勝敗が決まった時点で全体の勝敗は決まる。

「はは! あれは仕方ないだろ! 
 正直、こっちも負ける直前だったぞ?」
「……大分押されてた」
 二人は仕方ないと笑ってくれた。

「ちょっと良い?」
「え……? え!?」
 すぐ横から声が掛けられた。

 俺は見事に二度見する。
 いつの間にか、ソフィアがすぐ隣に来ていた。
 
「い、良いけど……」
 俺が歯切れ悪く答える。

 言い終わるより早く、腕を引かれていった。
 咄嗟に仲間を振り返る。二人は和やかに手を振っていた。

 違う。そうじゃない。
 挨拶がしたいのではなく、助けてほしいんだ。



 あれよあれよという間に俺は王都の中心、時計塔公園にまで連れて来られた。
 実技演習の後は解散になることが多いのだ。
 学院に程近い公園の端に二人で腰掛ける。

「えっと、用件は?」
 口を開こうとしないソフィアを促した。

「……いくつか質問をさせて」
「いいけど」
 そして、ソフィアはぽつりぽつりと訊き始めた。

「どこで剣を習ったの?」
「独学だよ」
「……出身は?」
「王都の孤児院だ」
「魔術はいつ頃から?」
「数年前。魔力があると分かってからだな」
「家族構成は?」
「今の家族は両親に妹が一人」

 俺にしてみればクイズに答えている気分である。
 本音を言えば、間違えているのではないかと気が気でない。

 ここまで答えると、ソフィアは一度大きく息を吸った。
 数秒間だけ目を瞑ると、絞り出すように次の質問を口にした。

「ぁ……アッシュ・クレフという名前に聞き覚えは?」

 懸命に感情を抑えて、俺は首を横に振った。

「いや、知らない名前だ」

 ソフィアが、目に見えて落胆する。
 俺がアッシュの血縁者だと思ったのか。

 考えてみれば、息子がいてもおかしくはない。
 流石に年齢的にも種族的にも合わないと思っているだろうが。

「そう……変なことを聞いたわね」
「いや、別に良いけど……」

 少しの間、沈黙する。
 恐らく、お互いに妙な罪悪感があったのだろう。

「ソフィア・ターナー様ですね?」
 その隙を突くように、声が掛けられた。

「……ええ、そうよ?」
 見れば、ハーフエルフの男性が立っていた。

 正面から声を掛けて来たところを見るに、仲間がいるのかもしれない。
 反射的に周囲へと目を向ける。ぱっと見ただけでは判断ができない。

「我らと一緒に来て頂きたい」
「? どこまで?」
 行く気もない癖に白々しい。この辺りは相変わらずだ。

「我らの国まで」
「はぁ……まだ諦めていないの?」
 我らの国? ソフィアは理解しているみたいだけど……。

 ソフィアは立ち上がると、相手を真っ直ぐに見据えて言った。

「あのね。良く覚えておきなさい。
 ろくに相手の意志も確認せずに連れ出すことを拉致って言うのよ」

 俺は目を剥いた。
 それを知っていて俺をここまで連れ出したのか?

「また説得に来ます」
 ハーフエルフの男はそう言って、後ろに下がっていった。

 ソフィアも後を追うつもりはないようだ。
 大事にしたくはないのかも知れない。

「帰るわ」

 ソフィアがつまらなそうに顔を背けて去って行く。
 俺は目を剥いたまま、ソフィアの後ろ姿を見送った。

「ごめんよ……」
 リックの申し訳なさそうな謝罪が耳に残った。



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「ごめん、勝てなかった……」
 演習場の脇で俺はグレイとセシルに頭を下げる。
 二対二と一対一の組み合わせだ。
 どちらかの勝敗が決まった時点で全体の勝敗は決まる。
「はは! あれは仕方ないだろ! 
 正直、こっちも負ける直前だったぞ?」
「……大分押されてた」
 二人は仕方ないと笑ってくれた。
「ちょっと良い?」
「え……? え!?」
 すぐ横から声が掛けられた。
 俺は見事に二度見する。
 いつの間にか、ソフィアがすぐ隣に来ていた。
「い、良いけど……」
 俺が歯切れ悪く答える。
 言い終わるより早く、腕を引かれていった。
 咄嗟に仲間を振り返る。二人は和やかに手を振っていた。
 違う。そうじゃない。
 挨拶がしたいのではなく、助けてほしいんだ。
 あれよあれよという間に俺は王都の中心、時計塔公園にまで連れて来られた。
 実技演習の後は解散になることが多いのだ。
 学院に程近い公園の端に二人で腰掛ける。
「えっと、用件は?」
 口を開こうとしないソフィアを促した。
「……いくつか質問をさせて」
「いいけど」
 そして、ソフィアはぽつりぽつりと訊き始めた。
「どこで剣を習ったの?」
「独学だよ」
「……出身は?」
「王都の孤児院だ」
「魔術はいつ頃から?」
「数年前。魔力があると分かってからだな」
「家族構成は?」
「今の家族は両親に妹が一人」
 俺にしてみればクイズに答えている気分である。
 本音を言えば、間違えているのではないかと気が気でない。
 ここまで答えると、ソフィアは一度大きく息を吸った。
 数秒間だけ目を瞑ると、絞り出すように次の質問を口にした。
「ぁ……アッシュ・クレフという名前に聞き覚えは?」
 懸命に感情を抑えて、俺は首を横に振った。
「いや、知らない名前だ」
 ソフィアが、目に見えて落胆する。
 俺がアッシュの血縁者だと思ったのか。
 考えてみれば、息子がいてもおかしくはない。
 流石に年齢的にも種族的にも合わないと思っているだろうが。
「そう……変なことを聞いたわね」
「いや、別に良いけど……」
 少しの間、沈黙する。
 恐らく、お互いに妙な罪悪感があったのだろう。
「ソフィア・ターナー様ですね?」
 その隙を突くように、声が掛けられた。
「……ええ、そうよ?」
 見れば、ハーフエルフの男性が立っていた。
 正面から声を掛けて来たところを見るに、仲間がいるのかもしれない。
 反射的に周囲へと目を向ける。ぱっと見ただけでは判断ができない。
「我らと一緒に来て頂きたい」
「? どこまで?」
 行く気もない癖に白々しい。この辺りは相変わらずだ。
「我らの国まで」
「はぁ……まだ諦めていないの?」
 我らの国? ソフィアは理解しているみたいだけど……。
 ソフィアは立ち上がると、相手を真っ直ぐに見据えて言った。
「あのね。良く覚えておきなさい。
 ろくに相手の意志も確認せずに連れ出すことを拉致って言うのよ」
 俺は目を剥いた。
 それを知っていて俺をここまで連れ出したのか?
「また説得に来ます」
 ハーフエルフの男はそう言って、後ろに下がっていった。
 ソフィアも後を追うつもりはないようだ。
 大事にしたくはないのかも知れない。
「帰るわ」
 ソフィアがつまらなそうに顔を背けて去って行く。
 俺は目を剥いたまま、ソフィアの後ろ姿を見送った。
「ごめんよ……」
 リックの申し訳なさそうな謝罪が耳に残った。