第三部 4話 売り言葉と買い言葉
ー/ー 家族と少しだけ話をした後、自分のクラスの教室を見つけた。
どうやら第三クラスと呼ばれているらしい。
「……ぁ」
入ろうと中を覗いて、固まってしまう。
部屋の隅にソフィアがいたのだ。同じクラスということらしい。
何がまずいって、俺がアッシュだったとばれる可能性がある。
そちらも考慮しなければならない。
手近な席に座ってしばらく待つと教師が入って来た。
ユーリと名乗った男性教師は慣れた様子で挨拶を済ませると、酷いことを言った。
「はい。じゃあ、軽く自己紹介して。
後でチームを組んだりするからね」
「……」
頭を抱える。
『キース・クロス』の自己紹介かぁ。
俺が聞きたいくらいなんだよなぁ?
しかし、すぐに順番が来てしまう。
単純に席順だったらしい。適当に席を選んだことが悔やまれた。
俺は席を立つと、我ながら挙動不審に口を開く。
「キース・クロスです。魔法が使えます……多分。
反射神経も良い……はず、なのでチームの実技演習では役に立てるかも知れません。
あと、妹の名前は『ティアナ・クロス』と言います」
半ばパニックに陥りながら、俺はどうにか自己紹介を終わらせた。
控えめな拍手が聞こえてくる。してくれるだけ優しいと思う。
誰かが「なんで妹の名前?」と呟いた。他に話せることがなかったんだよ。
心に傷を負った俺が応急処置を済ませて立ち直ると、ソフィアの番が来た。
ソフィアは自然体のままで立ち上がる。
そのまま気負った様子もなく、口を開いた。
「ソフィア・ターナーと言います。ご存じの通り、ターナー公爵家です。
ここでは同級生なので、気軽に話してください。スキル『錬金術』を使います」
俺の時とは違い、大きな拍手が鳴った。
先代のターナー公爵は人望もあったし、良い印象が強いのだろう。
ソフィアお嬢様の周囲を配慮した言葉を、俺は嬉しく思ってしまう。
昔は同級生に襲い掛かったこともあるというのに。
「?」
「……」
ふと、ソフィアと目が合ってしまう。
一瞬だけ不機嫌そうに俺を睨むと、やはり視線を逸らした。
その日は顔合わせだけが目的だったようで、全員の自己紹介が終わると解散になった。
帰ったらすぐに行商人から渡された資料を読もうと決めて、俺は教室を出ようとする。
「ちょっと良い?」
「ん?」
返事をするよりも早く、俺の腕が引かれた。
そのまま近くの誰もいない教室へと引き摺り込まれる。
目を向けると、ソフィアが俺の前で腕を組んでいる。
見た限り、その表情は不機嫌そうだった。
「えーと、ソフィア……さん?」
「ソフィアで良いわ」
探り探りで口を開いた俺をぴしゃりとソフィアが遮る。
「……こういうことは、初めに言った方が良いと思うから言うわ」
「う、うん」
「その笑いを止めて。
さっきの諦めるような笑い方も嫌いだし、今の怯えるような笑い方も嫌いだわ」
予想外の言葉に驚いた。そんなに変な笑い方をしていただろうか。
「初日から喧嘩を売るのは良くないと思うよ、お嬢様?」
「うるさい、リック」
窘めるようなリックの声にソフィアが応じる。
良かった。
関係は悪くないようだ。
「今も笑ってる。さっきと同じ、手に入らないものを諦めるような笑顔だわ」
「……」
思わず自分の頬に手を当てる。確かに笑っていた。
「私が無茶を言ってるのは分かってる。だからこれはお願いよ」
「お願い?」
その言葉は、俺自身が思うよりも腹が立ったのだろう。
気が付いたら、口を開いてしまっていた。
「もう少し、人間らしく笑って」
「……なら、君の笑顔は人間らしいのか?」
俺は『ソフィア・ターナー』の好戦的な笑みを知っていた。
次の瞬間、俺達は同時に驚いた顔をする。
あまりにもお互いの本質に近いやり取りだったからだろう。
「……そう」
俺の質問をどのように受け取ったのか。ソフィアは小さく呟いた。
そのまま背を向けると、俺を置いて部屋から出て行った。
俺も呼び止めることはしなかった。
「くそ」
誰もいない教室で呟いた。
学生生活も簡単とはいかない気がした。
どうやら第三クラスと呼ばれているらしい。
「……ぁ」
入ろうと中を覗いて、固まってしまう。
部屋の隅にソフィアがいたのだ。同じクラスということらしい。
何がまずいって、俺がアッシュだったとばれる可能性がある。
そちらも考慮しなければならない。
手近な席に座ってしばらく待つと教師が入って来た。
ユーリと名乗った男性教師は慣れた様子で挨拶を済ませると、酷いことを言った。
「はい。じゃあ、軽く自己紹介して。
後でチームを組んだりするからね」
「……」
頭を抱える。
『キース・クロス』の自己紹介かぁ。
俺が聞きたいくらいなんだよなぁ?
しかし、すぐに順番が来てしまう。
単純に席順だったらしい。適当に席を選んだことが悔やまれた。
俺は席を立つと、我ながら挙動不審に口を開く。
「キース・クロスです。魔法が使えます……多分。
反射神経も良い……はず、なのでチームの実技演習では役に立てるかも知れません。
あと、妹の名前は『ティアナ・クロス』と言います」
半ばパニックに陥りながら、俺はどうにか自己紹介を終わらせた。
控えめな拍手が聞こえてくる。してくれるだけ優しいと思う。
誰かが「なんで妹の名前?」と呟いた。他に話せることがなかったんだよ。
心に傷を負った俺が応急処置を済ませて立ち直ると、ソフィアの番が来た。
ソフィアは自然体のままで立ち上がる。
そのまま気負った様子もなく、口を開いた。
「ソフィア・ターナーと言います。ご存じの通り、ターナー公爵家です。
ここでは同級生なので、気軽に話してください。スキル『錬金術』を使います」
俺の時とは違い、大きな拍手が鳴った。
先代のターナー公爵は人望もあったし、良い印象が強いのだろう。
ソフィアお嬢様の周囲を配慮した言葉を、俺は嬉しく思ってしまう。
昔は同級生に襲い掛かったこともあるというのに。
「?」
「……」
ふと、ソフィアと目が合ってしまう。
一瞬だけ不機嫌そうに俺を睨むと、やはり視線を逸らした。
その日は顔合わせだけが目的だったようで、全員の自己紹介が終わると解散になった。
帰ったらすぐに行商人から渡された資料を読もうと決めて、俺は教室を出ようとする。
「ちょっと良い?」
「ん?」
返事をするよりも早く、俺の腕が引かれた。
そのまま近くの誰もいない教室へと引き摺り込まれる。
目を向けると、ソフィアが俺の前で腕を組んでいる。
見た限り、その表情は不機嫌そうだった。
「えーと、ソフィア……さん?」
「ソフィアで良いわ」
探り探りで口を開いた俺をぴしゃりとソフィアが遮る。
「……こういうことは、初めに言った方が良いと思うから言うわ」
「う、うん」
「その笑いを止めて。
さっきの諦めるような笑い方も嫌いだし、今の怯えるような笑い方も嫌いだわ」
予想外の言葉に驚いた。そんなに変な笑い方をしていただろうか。
「初日から喧嘩を売るのは良くないと思うよ、お嬢様?」
「うるさい、リック」
窘めるようなリックの声にソフィアが応じる。
良かった。
関係は悪くないようだ。
「今も笑ってる。さっきと同じ、手に入らないものを諦めるような笑顔だわ」
「……」
思わず自分の頬に手を当てる。確かに笑っていた。
「私が無茶を言ってるのは分かってる。だからこれはお願いよ」
「お願い?」
その言葉は、俺自身が思うよりも腹が立ったのだろう。
気が付いたら、口を開いてしまっていた。
「もう少し、人間らしく笑って」
「……なら、君の笑顔は人間らしいのか?」
俺は『ソフィア・ターナー』の好戦的な笑みを知っていた。
次の瞬間、俺達は同時に驚いた顔をする。
あまりにもお互いの本質に近いやり取りだったからだろう。
「……そう」
俺の質問をどのように受け取ったのか。ソフィアは小さく呟いた。
そのまま背を向けると、俺を置いて部屋から出て行った。
俺も呼び止めることはしなかった。
「くそ」
誰もいない教室で呟いた。
学生生活も簡単とはいかない気がした。
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