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第三部 2話 キース

ー/ー



 行商人に連れ出されて、外を歩く。
 どうやら外は王都の一番街だった。

「ここで話しましょうかぁ」
「……」

 俺達はすぐ近くの小さな店に入った。
 店の奥は個室になっているようで、外からは見えない位置だった。

「では、最初に」
 行商人は俺へと顔を近づけて、囁いた。
 
「本当に、アッシュさんですか?」
 いかにも自信がなさそうに首を傾げて見せる。

「……ええ、そうですよ」
「ああ! 良かった!
 もしも違ったら頭のおかしくなった人だった!」
 わっはっはと大きな口を開けて笑う。

 笑いごとではないと顔をしかめる。
 だが、席を立つわけにもいかない。

 詳しい情報を聞かなくてはならない。

「さて、本題ですねぇ」
「まず、今の俺は誰ですか?」
 行商人は黒い顎鬚を軽く触って答える。

「キース・クロス。クロス男爵の養子です」
「キース……」
 自分の名前を呟く。

 下級貴族の養子ということか。
 道理で妹と種族が違うわけだ。

「それから『アッシュ・クレフ』が死んでから十年が過ぎています」
「なんだと!?」
 確かに行商人が老けて見えるとは思ったが、それほどとは……。

「じゃあ、あれからどうなりました?」
「……静かなものです。鬼も連合も表立っては動いていません」
「他の皆は無事?」
「ああ、大丈夫ですよ。誰も失っていません。
『ナタリー・クレフ』と『アリス・カナ・バケット』は組合で暴れています。
『ブラウン・バケット』は未だに現役ですね。
『ソフィア・ターナー』はこれから王立学院に入学します。
『セシリー・ルイス』『ミア・クラーク』『ニナ・ローズ』も健在です」
「そうか」
 俺は全身の力が抜けるのを感じた。

「さて、アッシュさん――いや、キースさん。
 今回はお願い、というより注意点があります」
「?」
「その『キース・クロス』という人はまだ生きています」
「! アリスと加奈みたいなものですか?」
「ええ。ですが『アリス・バケット』が無条件で受け入れたのに対して、彼は一つ条件を出しました」
「? 条件?」
「はい。体を返すこと。
 それがオリジナルの『キース・クロス』が出した条件です」
「なるほど。当然の条件ですね」
 体を貸すのは良いが、終わったら返せと。

「はい。なので、キースさん。
 あなたには生き残ってもらわなくてはならない。
 そして、安全な場所で体を返してもらう」



「あの家のことも教えてもらえますか?」
「そうですね。先ほど話した通り、クロス男爵家です。
 詳細はこの資料にあるので渡しておきますよ」
 そう言って行商人は準備万端とばかりに資料を手渡した。

「あとは先程の女の子。
 あの子は『ティアナ・クロス』と言います」
「義理の妹になりますか?」
「ええ。間柄としてはそうなります。ただし、ティアナさんも養子です。
 あなたたち二人は魔力があったので孤児院から引き取られました」
「なるほど……」
 ニナさんと同じ孤児院だろうか。

「ティアナさんのことも資料にあるので、目を通してください」
「はい」
 そこまで話すと、行商人は目を泳がせ始めた。

「? どうしました?」
「いえね? キースさんが来るのが予定より遅かったと言いますか。
 ギリギリになってしまったと言いますか?」
「何か予定があるんですか?」

 行商人は申し訳なさそうに目を逸らしながら――

 キースさんには、明日から王立学院に入学してもらいます。

 ――滅茶苦茶なスケジュールを口にしやがった。



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 行商人に連れ出されて、外を歩く。
 どうやら外は王都の一番街だった。
「ここで話しましょうかぁ」
「……」
 俺達はすぐ近くの小さな店に入った。
 店の奥は個室になっているようで、外からは見えない位置だった。
「では、最初に」
 行商人は俺へと顔を近づけて、囁いた。
「本当に、アッシュさんですか?」
 いかにも自信がなさそうに首を傾げて見せる。
「……ええ、そうですよ」
「ああ! 良かった!
 もしも違ったら頭のおかしくなった人だった!」
 わっはっはと大きな口を開けて笑う。
 笑いごとではないと顔をしかめる。
 だが、席を立つわけにもいかない。
 詳しい情報を聞かなくてはならない。
「さて、本題ですねぇ」
「まず、今の俺は誰ですか?」
 行商人は黒い顎鬚を軽く触って答える。
「キース・クロス。クロス男爵の養子です」
「キース……」
 自分の名前を呟く。
 下級貴族の養子ということか。
 道理で妹と種族が違うわけだ。
「それから『アッシュ・クレフ』が死んでから十年が過ぎています」
「なんだと!?」
 確かに行商人が老けて見えるとは思ったが、それほどとは……。
「じゃあ、あれからどうなりました?」
「……静かなものです。鬼も連合も表立っては動いていません」
「他の皆は無事?」
「ああ、大丈夫ですよ。誰も失っていません。
『ナタリー・クレフ』と『アリス・カナ・バケット』は組合で暴れています。
『ブラウン・バケット』は未だに現役ですね。
『ソフィア・ターナー』はこれから王立学院に入学します。
『セシリー・ルイス』『ミア・クラーク』『ニナ・ローズ』も健在です」
「そうか」
 俺は全身の力が抜けるのを感じた。
「さて、アッシュさん――いや、キースさん。
 今回はお願い、というより注意点があります」
「?」
「その『キース・クロス』という人はまだ生きています」
「! アリスと加奈みたいなものですか?」
「ええ。ですが『アリス・バケット』が無条件で受け入れたのに対して、彼は一つ条件を出しました」
「? 条件?」
「はい。体を返すこと。
 それがオリジナルの『キース・クロス』が出した条件です」
「なるほど。当然の条件ですね」
 体を貸すのは良いが、終わったら返せと。
「はい。なので、キースさん。
 あなたには生き残ってもらわなくてはならない。
 そして、安全な場所で体を返してもらう」
「あの家のことも教えてもらえますか?」
「そうですね。先ほど話した通り、クロス男爵家です。
 詳細はこの資料にあるので渡しておきますよ」
 そう言って行商人は準備万端とばかりに資料を手渡した。
「あとは先程の女の子。
 あの子は『ティアナ・クロス』と言います」
「義理の妹になりますか?」
「ええ。間柄としてはそうなります。ただし、ティアナさんも養子です。
 あなたたち二人は魔力があったので孤児院から引き取られました」
「なるほど……」
 ニナさんと同じ孤児院だろうか。
「ティアナさんのことも資料にあるので、目を通してください」
「はい」
 そこまで話すと、行商人は目を泳がせ始めた。
「? どうしました?」
「いえね? キースさんが来るのが予定より遅かったと言いますか。
 ギリギリになってしまったと言いますか?」
「何か予定があるんですか?」
 行商人は申し訳なさそうに目を逸らしながら――
 キースさんには、明日から王立学院に入学してもらいます。
 ――滅茶苦茶なスケジュールを口にしやがった。