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【4】①

ー/ー



    ◇  ◇  ◇
 迷った挙句に承諾してしまった、所謂『ダブルデート』。
「あの、瑠璃さんてお呼びしていいですか? 僕のことも彬って呼んでください」
 四人で集まって挨拶を交わしてすぐ。彬に訊かれて、瑠璃は一瞬どう反応すればいいのかわからなかった。
「えーと、彬くん。別にため口でいいから、先輩・後輩ってわけじゃないし。……名前も、別に『さん付け』じゃなくていいよ」
「わかりました、あ、わか、った」
 なんとかそれだけ告げた瑠璃に、彼はまずは丁寧語で返して来て慌てて訂正している。
「コイツ、初対面からしばらくはこんな感じなんだよ。堅苦しいけど性格だから。でもすぐに馴染むよ。彬ってホント真面目でいいヤツだからさ」
 駿太が笑いながら横から言い添えて、自然に彬を庇った。
「そうそう! あたしにもそうだったよね~」
 瑠璃の背中に手を当てながら、薫乃も加勢する。
 この彼が、周りの人間に好かれているのは間違いないようだ。
 瑠璃が好きで信頼している二人の『保証付き』の相手、ということか。
「瑠璃さ、……る、瑠璃ちゃん。何がいい? 僕買って来るよ」
 とりあえず、いったん落ち着いて話そうと入ったカフェ。
 申し出てくれた彬に、瑠璃は手を振って辞退する。
「ありがと。でも私、自分でオーダーしたいの。カスタマイズもりもりだから」
「そ、そうなんだ。じゃあ並びま、並ぼうか」
「うん。……薫乃と駿太くんも?」
 振り向いて友人カップルに確認すると、薫乃はこくりと頷いた。
「俺、席取って来るわ。薫乃、悪いけどいつものコーヒー買っといて。あとで返す」
了解(りょー)! よろしくね」
 座席の方に向かった駿太を見送って、カウンターの列に並ぶ。そこまで混雑はしておらず、席にも余裕はありそうだ。
 ただ四人掛けのテーブル自体が少ないので、先に確保しておくに越したことはないという駿太の判断なのだろう。

 それぞれの飲み物を買って、駿太の待つ席に辿り着いた。
「瑠璃ちゃんのそれ、なんかすっごい呪文みたいなオーダーするんだよな?」
 駿太が瑠璃の前のドリンクを見て、感心したように口にする。以前に偶然、同じチェーンの大学近くの店舗で二人と出くわしたことがあったのだ。
「……呪文、って! 私がなんか怪しいもの飲んでるみたいじゃない」
「本当に呪文みたいだった。僕、頼まれても絶対覚えて注文できません」
 笑いを噛み殺しながらの瑠璃に、彬がぽつりと呟いた。
「瑠璃はあれ、毎回まったく同じじゃないとこが一番スゴイんだよね。決まりきったことならまだわかるけど、色々変えながらあれだけスムーズに言えるってのが」
 薫乃までが驚きを表した口調で、男性陣に同調している。
「でも、店員さんも訊き返したりしてなかったから。ちゃんと復唱してたし。瑠璃ちゃんも店員さんも凄いなと思って見てたよ、僕」
「そりゃあ向こうもプロだもん。私だって、メニューにないもの無理に頼んでるわけじゃないしさ」
 呪文だの凄いのと笑ってはいても、誰からも嘲りは感じない。
 来る前はそれなりに身構えていたことなど、完全に瑠璃の意識のうちから消えていた。


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    ◇  ◇  ◇
 迷った挙句に承諾してしまった、所謂『ダブルデート』。
「あの、瑠璃さんてお呼びしていいですか? 僕のことも彬って呼んでください」
 四人で集まって挨拶を交わしてすぐ。彬に訊かれて、瑠璃は一瞬どう反応すればいいのかわからなかった。
「えーと、彬くん。別にため口でいいから、先輩・後輩ってわけじゃないし。……名前も、別に『さん付け』じゃなくていいよ」
「わかりました、あ、わか、った」
 なんとかそれだけ告げた瑠璃に、彼はまずは丁寧語で返して来て慌てて訂正している。
「コイツ、初対面からしばらくはこんな感じなんだよ。堅苦しいけど性格だから。でもすぐに馴染むよ。彬ってホント真面目でいいヤツだからさ」
 駿太が笑いながら横から言い添えて、自然に彬を庇った。
「そうそう! あたしにもそうだったよね~」
 瑠璃の背中に手を当てながら、薫乃も加勢する。
 この彼が、周りの人間に好かれているのは間違いないようだ。
 瑠璃が好きで信頼している二人の『保証付き』の相手、ということか。
「瑠璃さ、……る、瑠璃ちゃん。何がいい? 僕買って来るよ」
 とりあえず、いったん落ち着いて話そうと入ったカフェ。
 申し出てくれた彬に、瑠璃は手を振って辞退する。
「ありがと。でも私、自分でオーダーしたいの。カスタマイズもりもりだから」
「そ、そうなんだ。じゃあ並びま、並ぼうか」
「うん。……薫乃と駿太くんも?」
 振り向いて友人カップルに確認すると、薫乃はこくりと頷いた。
「俺、席取って来るわ。薫乃、悪いけどいつものコーヒー買っといて。あとで返す」
「|了解《りょー》! よろしくね」
 座席の方に向かった駿太を見送って、カウンターの列に並ぶ。そこまで混雑はしておらず、席にも余裕はありそうだ。
 ただ四人掛けのテーブル自体が少ないので、先に確保しておくに越したことはないという駿太の判断なのだろう。
 それぞれの飲み物を買って、駿太の待つ席に辿り着いた。
「瑠璃ちゃんのそれ、なんかすっごい呪文みたいなオーダーするんだよな?」
 駿太が瑠璃の前のドリンクを見て、感心したように口にする。以前に偶然、同じチェーンの大学近くの店舗で二人と出くわしたことがあったのだ。
「……呪文、って! 私がなんか怪しいもの飲んでるみたいじゃない」
「本当に呪文みたいだった。僕、頼まれても絶対覚えて注文できません」
 笑いを噛み殺しながらの瑠璃に、彬がぽつりと呟いた。
「瑠璃はあれ、毎回まったく同じじゃないとこが一番スゴイんだよね。決まりきったことならまだわかるけど、色々変えながらあれだけスムーズに言えるってのが」
 薫乃までが驚きを表した口調で、男性陣に同調している。
「でも、店員さんも訊き返したりしてなかったから。ちゃんと復唱してたし。瑠璃ちゃんも店員さんも凄いなと思って見てたよ、僕」
「そりゃあ向こうもプロだもん。私だって、メニューにないもの無理に頼んでるわけじゃないしさ」
 呪文だの凄いのと笑ってはいても、誰からも嘲りは感じない。
 来る前はそれなりに身構えていたことなど、完全に瑠璃の意識のうちから消えていた。