◇ ◇ ◇
「その程度で喧嘩するなよ~。お姉ちゃんはもういっぱい持ってるんだから、それはさくらに貸してやればいいんじゃないのか?」
「……お父さんはやっぱさくらの方が可愛いし大事なんだもんね! あたしと違ってさ!」
娘たちの言い争いを何気なく止めた大島に、あやめがヒステリックに喚く。
「あたしの入学式は無視したけど、さくらのは仕事休んでも行ったじゃん! どーせあたしのことなんか要らない子だと思ってるんでしょ!」
あやめの可愛らしい文房具をさくらが欲しがっただけだったのだが、握り締めて離さなかったペンにも妹にも見向きもせず父親に敵意を剥き出しにして来る娘。
あれからもう三年が経ち、姉妹は六年生と四年生になっていた。
今まで大島に対してもさくらに対しても、特に思うことなどなさそうで平静に見えていたあやめ。
しかし、心の中ではずっと苦しみ続けていたのかもしれない。
「……それは。お前には本当に悪かったと思ってる。だから、お父さん卒業式はぜった──」
「要らない! そんな、しょうがなく来てもらったって嬉しくなんかないもん。お母さんだけでいい!」
最後まで言わせず全身で父を拒絶しているあやめに、大島はもう掛ける言葉など持たなかった。
「お姉ちゃん、ごめん。これいい、返すから……」
「あんたにやるよ、そんなもの! 欲しかったんでしょ!」
姉に押し付けられたペンをおずおずと差し出すさくらに言い捨てて、身を翻し自室へ向かうあやめ。
後悔先立たず。
先人の言うことに間違いはない、と頭の片隅で考えながら、大島は身体が固まったかのようにただ動けないままだった。