◇ ◇ ◇
「さくら、小学校の入学式はお父さんも行くからな」
二年後の春。
今度こそ、と早目に申し出て休みも確保し、大島は意気揚々と次女のさくらに告げる。
「えー、ほんと!? やったぁ!」
無邪気に喜ぶ娘に目を細めた大島は、調子に乗って言葉を継いだ。
「お姉ちゃんの時はサボっちゃったから。今度こそちゃんとしないと──」
「……お父さん、お仕事忙しいからじゃなかったの?」
長女のあやめの絞り出すような声に、大島はようやく己の失敗を悟る。
少なくとも
本人の前で口にすべきではなかった。改めて考えてみれば自明だが、時間は戻せない。
当時、妻のみどりが「お父さんは変だから。家族のために一生懸命働いてくれてるのよ」とフォローしてくれていたことも知っていたのに。
「……何?」
席を外していた妻が戻って来て、漂う緊迫感に戸惑った様子で部屋を見回す。
強張ったあやめの顔に気づいたみどりにそっと肩を抱かれ、娘は母に抱き着くと声を上げて泣き出した。
「あーちゃん、どうしたの? 向こうでお母さんとお話しようね」
あやめの後頭部を優しく何度も撫でながら妻が促す。
そのまま連れ立ってリビングルームを出て行く二人の背中を、大島は目で追うしかできなかった。
何の責任もないさくらまでが、父と二人残されたこの部屋で痛みを堪えるような表情を浮かべている。
結局、その日は夫婦がそれぞれ娘を宥めるのに尽力することに費やして終わった。